その60
談話室にみんなが集められた、前回と同じく秘密共有仲間の十人だ。
みんな、やっと聞けるのか、と嬉しそうだ。隠していた訳でもなかったんだけど、やっぱりバレバレだったみたいだね。
兄様が言っていた様に、みんなを安心させるためにしっかりと説明しよう。
でも、言葉にして説明するのって苦手だし、難しいんだよねー
私は今、母様の膝の上に座らせられている。逃げないから大丈夫だって何回も言ったのに……
「使いこなせているように見えていたからな、シラユキが話す気になるまでは聞かないつもりだったんだが……。自分でもよく分からない能力だと?」
「ああ、自分で作り出した物が何なのか分からないみたいだったんだよ。さすがにもう放っておけないな」
うう、危険は無さそうだし大丈夫だと思うんだけどなあ……
あ、自分の能力だからこそ言えるセリフか、みんなには分かる訳無いよね。心配されちゃうかー
「シラユキ、二人とも怒ってないから大丈夫よ? ゆっくりでいいから、落ち着いてあなたの言葉で説明して頂戴?」
「あの雷を防いでる魔法よね? 他にも何かできたの?」
「そういや、前ん時は何も無い所から本出してたよなコイツ」
私の前世の話をした時だね。兄様にちょっと突っ込まれたけど、秘密って言って流しちゃったんだっけ……
「あの時はそれどころじゃなかったから忘れてたわ……。確かその後も、何事も無かったかの様にまたどこかに仕舞ってたわよね。シラユキ、お姉ちゃんに教えて?」
な、何から話せばいいんだろう……。あの本を出したり仕舞ったりのも、能力を使った魔法だね、これから?
ああ、違う、まずは私の能力そのものについてだね。
「ええと、私の能力、と言うか、魔法なんだけどねこれ。うーん……、何て言ったらいいんだろう。魔法を作る魔法、かな?」
一言で表すならこれだ、魔法を作る魔法。
「何だその馬鹿げた力は……。シラユキ、大丈夫なのか? 人が持つような力では無いぞそれは……」
父様凄いな、あっさり理解されてしまった。ありがたいわー
「父さんすげえな……。俺にはさっぱり分からないんだが、魔法を作るって、普通の事だろ? 何が違うんだ?」
「うん、私にも分かんない。お母様は?」
「何となくなら……。でも、考えたくないわ……。ウル、お願い」
母様に強く抱きしめられる。
兄様姉様は分かっていないみたいだが、父様と母様は心配顔だ。そんなに危険な能力だとは思えないんだけどね。
「そんなに危ない能力なのかなこれ。便利すぎるから全く使ってなかったんだけど」
「魔法はイメージを現象に変える技術、だと教えたろう? 魔法を作る魔法、全く新しい現象を作ってしまう能力なんじゃないのか? それは、世界を変えてしまう程の力だ、人が持つには大き過ぎる」
うん?
「現象を作る? 駄目だ、分からん」
私も分かんない。
「物が落ちる、木は燃える、火は水で消える。分かり易く言うと、新しい常識を作ってしまうんじゃないのかしら?」
え?
「なん、だよそれ……。それじゃ、さっきのあの足場は、空気に乗ることができるっていう常識? 現象を作っちまったってのか?」
なにそれこわい。
「違うよ? 多分全然違う。そんな事はできないよ」
「何?」
「シラユキ?」
「理解したら即否定された! 不安にさせてくれるなよな……」
「理解する前に否定された! 私ってもしかして、この中で一番頭悪いんじゃ……」
姉様は一番年下なんだししょうがないんじゃないかな……
多分メイドさんズも誰も理解してないよ。シアさんは除く。
いくら女神様から貰った能力とは言え、世界の理を創るなんていうのは無理だ。それは多分、女神様にも無理だろう。
「とりあえず、分かる事、分かる範囲で説明しちゃうね。私の能力でできること、できない事を」
「あ、ああ、それがいいだろうな。ユーネにも分かるように説明してやってくれ」
「お父様ひどい!! 私ももっと勉強しなきゃ駄目かな……、お姉ちゃんとしての威厳が……」
私の能力、『魔法を創る能力』。程度の、を付けるか? それっぽく見えそうだ。
この世界の魔法はあくまで現象を起こすだけの物。だけど、前世の私の世界の魔法はそうじゃない。魔法なんていう物がそもそも無かったんだが、それはまず置いておこう、話が進まない。
魔法は何でもできる。空を飛んだり、雷を落としたり、怪我を治したり、死んでしまった人間を生き返らせたりと様々、まさに魔法だね。
人の想像の数だけ魔法はあった。その発想は無かったわ、っていう魔法も色々あるよね。
もちろんその全てができるわけじゃない。そんな事ができてしまったら、それはもうカミサマって奴になってしまう。ちゃんと制限がいくつかあるのだ。
一つは、魔力の消費。大きな効果を出せば出すほど、比例して消費量も増える。
これはこっちの魔法と変わらないね。最大魔力量を超える消費の魔法は使えない。使ったらどうなるんだろう、怖くて試せないね。
二つめ、生き物に関する魔法は作れない。
人間を含め、生き物を作り出す、死んだ生き物を生き返らせる、なんて事は不可能だ。生き物に関係している事だが、怪我を治す程度の事はできる。しかし、手足を追加したり、身長を伸ばしたり……、胸を大きくする、なんていう肉体改造的な事はできない……!!
絶望した!!! ……失礼、取り乱しました。
最後の三つめ。私の想像を超える事はできない。
これが一番大きいね。簡単に言えば、知らない事はできない。当たり前か。逆に言えば、想像できる大抵の事ができてしまう。
一つめ二つめには例外もある。魔力が無くなったら、回復したらいいじゃない?
これは、魔力というものを理解してしまえばできてしまうだろう。謎パワーとしか分かってないのは予想外だったわ……。現状は、いや、今後も無理そうだ。
次に生き物、これは私の常識内での生き物になる、という事。
木だって花だって生きてるんだよ? それなら切り倒せば死ぬんじゃね? という考えで、木材状態の物は作れるのだ。
金属だって作れるよ。シアさんみたいにナイフを作り出すこともできる筈だ。あれ? 金貨を増やせば……? やめよう。
できるというだけで、まだ実際に能力で何かを作り出した事は一度も無い。物を作り出すのは必要性をあまり感じない魔法だね。私の知ってる物しか作れないし、欲しい物も特に無い。
話を戻そうか。
ゲームに出るようなホムンクルスは生き物だよね、作れないと思う。私の常識的に、意思があって、それを表現できる者を作り出す事は無理だろう。
それなら人工知能のように、予め応答パターンを作ればいいんじゃないか? と思ったが、私の想像を超えてしまう、理解できないので無理だ。
私の記憶、ゲームやアニメ、小説などの記憶は保護してもらっている。この記憶があれば、ゲーム内の魔法の再現も可能だろう。大体はこっちの世界の魔法でできてしまうので、あまり役に立ってはいないのが現状なんだけどね……。
回復魔法の再現は能力のみでしかできなさそうだ。役に立ちそうなのはこれくらいしかないんじゃないかな?
「さっき二人の前で使った、ええと、『見えない足場を作る魔法』もね、透明度が高くて、丈夫なガラスを作り出した感じかな? あ! 歩いてる人の足元に設置しておけば……、ふふ、悪戯に使えそうだね?」
今度早速兄様に仕掛けてみよう。
「悪戯に魔法を使うなよ……。やるときは俺も呼べ!」
さすが兄様! でも仕掛けられるのは兄様なんだよ?
「お父様は分かった? 私には、凄いっていうのは何となく分かるんだけど、危険にはとても思えないわ」
だよね? 全然危なくないよね? 何でもできるって言っても、私の常識内での何でも、だしね。
「なるほどな、少し深く考えすぎていたか……。危険には変わり無いが、大丈夫だな」
「ええ、シラユキだもの、絶対大丈夫よ」
「悪戯くらいしか思い浮かばないだろ。大丈夫だ」
これでみんな安心かな? なんか遠まわしに子供だから大丈夫って言われてる気もするが……
いいや、気にしない!
「うん! 大丈夫、危なくないよユー姉様!!」
母様の膝から降り、姉様に抱き付く。
「ふふふ。もう……、急に全員集められるから、焦っちゃって構えすぎてたみたいね。でも、便利そうだけどそれに頼りすぎちゃ駄目よ?」
姉様が私のほっぺをグニグニしながら言う。
「わはっへる。はだはんこひかふかってはいひへ」
分かってる。まだ三個しか使ってないしね。
「三個? っと、ごめんね」
もっとグニって欲しかった……、後で全力で甘えよう。
「雷防ぐのと、見えない足場と、後は何だ? 言え、俺たちに隠して何か使ってやがったなこいつめ」
「最初に話してた、本を出し入れする魔法じゃないの? そうでしょシラユキ」
さすが母様。
「おっと、また忘れてたな。あれはどんな魔法なんだ? 物をどこかへ仕舞っておけるのか?」
「うん。『収納と保存の魔法』だよ。名前の通り、仕舞う魔法と、それをその状態のまま保存しておく魔法。実はこれ、女神様に作ってもらったんだけどね。原理はよく分かんないんだけど、便利そうだよねー」
某未来から来た青いロボットのポケットに近いかな。私の影になった部分から出し入れする事ができる。本を取り出して見せた日より前に一度だけ、暗闇状態で使ったらどうなるかの実験をしたっきり、全く使っていなかった。
ちなみに結果は取り出せたよ。完全な暗闇なんていうものはありえないしね。手のひらをちょっと下に向けて影にすれば、どんな状態でも取り出すことができた。
私の影以上の大きさの物も出し入れする事ができる。実際手の影から本を一気に六冊出す、なんていう事ができたからね。
この魔法も例に漏れず、生き物関係、つまり、生きているものは入れる事ができない。死体ならOKよ。……怖い。
「本を仕舞っておきなさいって、頭に中に使い方を書き込まれた感じかな。それを自分の能力で作ったの」
「め、女神の作った魔法か、なんと言うか……、スケールが大き過ぎて何とも言えんな」
能力の説明より、女神様が作った魔法っていう事を驚かれてしまった……
まあ、神様だし当たり前か。あれ? もしかしてこの魔法、凄いのか?
そういえばあの時はまだ転生前だったなー……。その時に仕舞った本が出せたっていう事は、多分魂的な物に収納されるんだろうか? それはちょっと怖いな……
「さすが私の可愛い妹! 女神様もメロメロだったのねきっと」
「やはりそうか! 女神ですら陥落する愛らしさ、シラユキはこの世界の宝だという事が証明されたな!!」
「ええ、そうね。私たちも鼻が高いわ」
多分違うと思うけど……、もっと褒めて!!
「何かよく分からんが、楽しいな! よっしゃ! 祭りだ! 祭りするぞ!! 今からな!!!」
「よし! やるぞ!! ルー! 手当たり次第誘いに行くぞ!!」
また二人とも、止める間もなく窓から飛び出していってしまった。もうこの流れにも慣れたよ……
「シラユキって天才だし、可愛いし、あんまり必要なさそうね、その能力」
「だよねー。今は子供だからしょうがないけど、大人になれば普通の魔法で充分だよねー」
絶縁シールドだって、雷の魔法を使わなければ必要ないしね……。天才で可愛いから必要無い? しまった! 普通に返事をしてしまったよ。
「ふふふ、でも残念ね? 背を伸ばす事はできないんでしょ? ふっふふふ」
「そうなの! 何でできないのよー!」
肉体改造? の能力をくれればよかったのに!! 女神様の……、うん、女神様は大好きだ、悪口は出てこないね……
「練習するのよ! 開発するのよ!! 完成したら私の胸もお願いよ!!!」
「分かった!! 頑張るよユー姉様!!!」
やっぱり姉様も気にしてたんだね。でも、私から見たら充分大きいんだよ? それ。
「二人でお兄様のを挟んであげるのよ!」
「うん! ……!? ユー姉様のエッチ!!!」
「二人とも可愛いわ……。あ、その時は呼んでね? 三人でしてあげましょ?」
「ええ!? お母様はダーメ! 私たち二人でしてあげましょうねー?」
「しないよ! しないからね!? 二人ともエッチエッチー!!」
まったく、このエロフどもめ……、あ、エロフは褒め言葉だった……
何か他に、ダメージが出そうな言葉を考えなければ……!
チートの部類に入ると思われる能力ですが、シラユキからしてみるとあんまり意味ないですね……。女神様涙目。
次回からまたほのぼの話に、なるといいな……