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その55

「姫様ビクビクしすぎです。私がいますから大丈夫ですよ?」


「う、うん。分かってるんだけどね。ううう……、ルー兄様の馬鹿……」


 今日はシアさんと町へ出て来ている。今は適当にふらふらと、シアさんの右腕にしがみついて歩いている状態だ。

 兄様に脅かされてから、実は周りには、そうは見えないだけで、怖い人が一杯いるんじゃないか、という変な脅迫概念に囚われてしまった。


「私は幸せなのでいいのですが、怖がる姫様をこのままにしておくのも……。複雑です」


「うわーん。何か怖いよー……」


「誰かに話しかけられたり、怪しい人物を見かけたら、とりあえず魔法を打ち込みましょう。死んだらそこまで、生き残ったら尋問するか、止めを刺せばいいんです」


 な、なるほど、さすがシアさんだ。


「うん! 分かった!」


 うーん、魔法か。

 いきなり電撃は駄目かな。風の塊をぶつけるくらいにしておいた方がよさそうだ……


「はい、頑張りましょう」


「何を頑張るんだよ!! 物騒なこと話しながら歩いてる奴等がいると思ったら、やっぱりメイドさんか……」


「ひゃあ!!」


 びっくりした!! あ、ラルフさんか、脅かさないでよ、もう!


「早速怪しい人物の登場ですね。さ、姫様。とりあえず撃っておきましょうか」


「え? あ、うん。ラルフさん死なないでね」


「やめて!! シラユキちゃんどうしたんだよ今日は!?」


 怖いのよー! 何だか分からないけど怖いのよー!


 あれ? ラルフさんの隣に見たこと無い女の人が……






「へえ……。この子がラルフの言ってたシラユキちゃん? ルーディンさんの妹の。か、可愛すぎない?」


 だ、誰だろう。見たところ、猫科の獣人かな? 背はメアさんと同じか少し高いくらいか、150ちょっとくらいだろう。結構小柄の可愛らしい人だ。やはり猫族の人はいいね、ショートの赤茶っぽい髪、同じ毛色のネコミミが見える。ネコミミは最高だね。

 武器は、ナイフ、と言うには少し大きめの、変わった形状の剣が二振り両腰に。服の色は黒じゃない、けど、やけに露出が多いね。下はズボンだけど、上は胸しか隠れてないよ。……小さめか、よしよし。お友達になれそうだ。


 ラルフさんは前と変わらず黒を基調とした服装のままだ。ランクアップ祝いに贈った胸当てが綺麗に光って目立っている。

 外套の色だけは青に変わっているね。こっちは兄様と姉様からのお祝いだ、多分どちらもかなりの値段なんじゃないかな? 金額は聞くと後悔しそうなので、聞いていない。


「あれ? 会うの初めてだっけ? 何年もこの町にいて、俺とよくつるんでるんだがな……。おっと、可愛いからってうかつに近づくなよ? そこのメイドさんに殺される」


 私に近付こうとしたネコミミの人を止めるラルフさん。


「むっちゃくちゃ睨まれてるんだけど……。あたし、何かしたっけ? どっかで会った?」


「何かしなくても近づいたらアウトなんだよ。最低でもAランク並の強さらしいから気をつけろよマジで」


「近づいたらアウト!? ああ! 肉片に変えられるって言うアレか! バレンシアさんだっけ? この人が最低でもAランクの怖いメイドさんかー……」


 シアさんの情報が独り歩きして……、あれ? 大体あってるな。素手で熊倒せちゃうメイドさんだしね。


 二人は少しはなれてひそひそと……、大きい声だし全然ひそひそとはしてないか、二人で相談をしている。女の人ならシアさんは何もしないと思うんだけどね。


 このままではシアさんの印象がどんどん悪くなってしまいそうだ。いきなり私からというのはちょっと怖いが、勇気を出して話しかけてみよう。話しかけるだけで勇気がいる私って……


「あの……、えーと、ラルフさん。その人は……?」


 あ、まさか恋人とか? 違うか、つるんでるって言ってたし、冒険者仲間かな。


「ああ、悪い悪い。ほら、自己紹介しろよ」


「え? ちょ、ちょっと! あたしまだ死にたくないよ!!」


 軽く背中を押して自己紹介を勧めるラルフさんだが、ネコミミの人は露骨に怯えた様に前に出てこない。い。一体どんな説明をしたんだろう?


「だ、大丈夫ですよ? シアさんは、そう簡単に誰かを傷つけるような人じゃありませんから」


「そ、そう? それじゃ、自己紹介ね。……!? ナイフ出してる! どこから!?」


 シアさんはいつの間にかナイフを作り出していた。


「シアさん?」


「冗談です」


 冗談なら早くナイフ仕舞って!!


「え? 自己紹介していいの? 駄目なの? それともあたしって、ここで死ぬの?」


「そうなると連鎖的に俺も死ぬんだが? 助けてシラユキちゃん!!」


 は、話が続かない! 私が頑張るしかないか……


「あはは……、本当に大丈夫ですよ、シアさんは優しい人ですから。ちょっと怖い時もありますけどね」


「照れますね……」


 あ、ホントに照れてる。珍しいものを見たわ。






「あたしは、ナナシ・イェル。名前が無いから名無しね、姓は貰い物。見ての通り冒険者、Cランクだよ。年は、二十四。武器は……、っと、見せないほうがいいか、子供に見せびらかすモンじゃないね」


「名無し、さん?」


 名前が無い? どういう意味だろう?


「捨て子だったんだあたしって。その辺は気、使わなくてもいいよ。あたしも全く気にしてないからさ」


 おっと、深く聞かないほうが良さそうだ。本人全然気にしてないっぽいけど、私が気にしてしまいそう。


 それにしても、二十四か……、全然そうは見えないなー。まだ十代前半でも通じるよ。


「はい、ごめんなさい。あ、ええと、私はシラユキです。シラユキ・リーフエンド、十二歳です。よろしくお願いしますね」


 軽くお辞儀。礼儀作法とかは一切習ってないけど、これくらいはね。


「うわー、リアルお姫様だよ、ちょっと感動。お姫様にお付のメイドさんかー。女の子の夢がここにあるね」


 女の子の夢? そうなのかな……?


 50mの範囲に雷を撒き散らすお姫様と、最低でもAランクの強さのメイドさんが? 

 他の国ではきっとそうなんだろう……。無いわ!


「そっちの、ええと、バレンシアさんは……」


「メイドの事などお気になさらずに」


「はい! 気にしません!!」


 自己紹介拒否!?

 シアさんホントに他種族の人嫌いなんだ……。どうしてなんだろう?



「あ、そうだ。二人とも今お暇ですか? よかったら一緒にケーキでも……」


「お? いつもの店か。奢りなら行くよ」


「いいですよ。ふふ、ラルフさん一回も払った事無いじゃないですか」


 毎回私、と言うか、国持ちだよ。

 ラルフさんとは町中で会うたびに、色々なお話を聞かせてくれたり、お買い物にも付き合ってもらってるからね。これくらいは当然のお返しというものだ。


「何やってんのアンタは!? お、お姫様だよ!? お姫様に集るな! アンタが払いなさいよ!!」


「だって、ケーキとか甘いものばっかりだしなあの店。自分の金で食う気にはならないって」


 男の人ってそんな感じだよね。私も肉料理とかは進んで食べようとは思わないし。


「そういう問題じゃない! な、何で今まで生きていられてるんだろうコイツは……。い、いいのこれ、シラユキ様」


 ナナシさんは普通の人っぽいね、お友達になれそうだ。そのためにはまず……


「呼び捨てでいいですよ。できたらお友達になってくれると嬉しいです。ナナシさんも一緒に行きませんか? お代は持ちますから」


 兄様のこともさん付けだしね。きっとお友達のはずだ。


 うん? 兄様のお友達で、獣人の女の人? 何か覚えが……


「よ、呼び捨ては……。ラルフはちゃん付けだっけ?」


「ああ、お姫様って言ってもまだ子供だしな、それにルードの妹だぜ? 様付けすると逆に怒るぞ」


「その辺りはルーディンさんと同じなんだね。それじゃ、あたしもシラユキちゃん、でお願いしようかな」


「はい! 敬語とかもやめてくださいね! やった! お友達が増えた!!」


 獣人の人のお友達だ! これでモフれる!!! 後でお願いしてみよう。


「うはー、何この可愛さ、ありえないわ……」


「姫様の可愛らしい笑顔が見れたので良しとしますか。消すのはいつでもできますしね。と、失礼」


 シアさんも納得?してくれた様だ。……消す?


「バレンシアさんは……」


「メイドさんにしとけ、俺も名前しか教えてもらってない」


「うん……」









 二人ともお店に装備を預け、お店の奥、窓から外が見えるテーブルに案内される、定位置だね。なんで毎回この席は空いてるんだろう……


 席に着いてメニューを開く、シアさんはもちろん私の横に立ったままだ。

 ナナシさんが何か言いたそうにしているが、気にしないでおこう。大丈夫、すぐに慣れるよ……


「好きなもの、好きなだけ頼んでいいですよ。その代わりと言ってはなんですけど、お話を色々と聞かせて欲しいです」


 Cランクの冒険者だ、きっと何か、面白い話の一つ二つある筈。楽しみだー!


「え? この店めっちゃ高いよ? いいの?」


「え?」


「え?」


 なにそれこわい。



「高い、のかな? そうなの? シアさん」


 ケーキ一つが大体5cくらいからだね。500円くらいだ。


「普通だと思いますよ?」


「だよね? どうぞどうぞー」


「お姫様だよ、お姫様がいるよ……。きっと金銭感覚とか違うんだね……」


「ここは俺たちみたいな貧乏冒険者が来る様な店じゃないしなあ……。あの胸当ても幾らしたのか怖くて聞け無いんだよ」


「遠慮なんてしたら逆に失礼だね。思いっきり頼もうか」


 十個二十個とかはさすがに私が怒られそうだけどね。五個くらいまでなら大丈夫だろう、多分。


「太りますよ」


 シアさんの冷たい一言。


「一つにします……」


「もう、シアさんはー……」



 私は苺のタルト、シアさんはオレンジパイ、ラルフさんはコーヒーだけ、ナナシさんは、チョコか苺のショートか悩んでいたので、私が二つとも頼んだ。



「これが格差社会か。ケーキ二つに飲み物一つで15cだよ。私たちが一日働いた分の三分の一くらいだね……」


「ナナシは結構稼いでる方だろ、これくらい普通に払えるんじゃないか?」


「うん、払えるんだけどね、中々そうはいかないもんだよ。稼いだ分使っちゃってる感じだからね、あんまり貯まっていかないんだよねー」


 うーん……? 何やら反応が……?

 あ、丁度いいや、お仕事の報酬の話でもしてもらおうかな。


「冒険者の人にとっては15cって大金なんですか? お仕事一つで結構報酬貰ってそうな感じがするんですけど」


 大体一日50cくらいかな? 大変そうな依頼ならもっと貰ってると思うんだけど。


「大金と言えば大金だよ。あたしたちは家無しだからね、宿代もかかるし、毎日の食事代だってあるからね」


「後は、装備の手入れや修理買い替え、外で必要なモンやら色々買わないといけないしな。あまり無駄遣いは……、やべえ……」



「ごめんなさい……。私、嫌味なことしてましたよね……」


 二人の明るさに忘れてたよ。私はお姫様だから何もしなくても生きていけるんだった……


「いやっ、ちがっ! 別に嫌味とか思ってないって! やばい! 今日はルードいないし、マジでヤバイ!!!」


「き、気にしすぎだってシラユキちゃん! お姫様は嫌味なくらいで丁度いいんだよ!」


「フォローになってないぞそれ!!! この子無茶苦茶自分責めるからやめろって!」


「なんと言うか、聞いてた以上に優しくて繊細な子なんだね。ホントお姫様って感じだよ」


 二人が全然気にしてないのは分かるんだけどね。あー、やっちゃったなー

 私は金額だけ見てたんだ。二人は労働の対価として報酬を貰ってるんだよね。生きていくためのお金を。




「だ、大丈夫です。ごめんなさい、暗い空気にしちゃって」


「よかった……、焦ったー!」


「メイドさんも何も言ってこなかったし、そこまで焦る事も無かったかな? ラルフが大袈裟すぎたんじゃないの?」


「そう言えばそうだな……。どうしたんだメイドさん? いつもなら既にナイフが飛んで来てると思うんだが」


 さすがにこのお店の中じゃ投げないよ、冒険者ギルドの中だと投げまくってるけどね。

 おかげでギルドのテーブルは穴だらけだ、そのうち弁償しよう……


「姫様も日々成長されているんです。私もこれくらいの事で動じてはいけませんからね」


 シアさんが過保護卒業!? そ、それはちょっと寂しいな……


「まあ、暗い夜道は気をつけた方がいいと思いますよ? 深い意味はありませんが」


 にっこりと笑って言い放つ、しかし目は笑ってない。やはりシアさんだった!


「ごめんな、ナナシ。俺たち死んだわ……」


「ええ!? ちょっ! 死ぬならラルフだけで死んでよ!! ……ああ! あたしのせいか!!」


「シアさーん?」


「もちろん冗談です」


 何かシアさん機嫌がいいね? なんとなくだけど。





続きます。

十二歳編一人目の新キャラ登場です。ネコミミは素晴らしいな……


今回から人物描写もある程度は入れていく事にしました。

これ以前のキャラはその内に『裏話』の方で書こうと思います。

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