その53
今回はかなり短めです。
「はい、シラユキ、リンゴ。あーんして?」
「あーん……、んっ」
「ふふふ」
なにこれ幸せすぎる。
一晩寝たくらいでは魔力疲れは治らなかった。少し楽にはなったかな? 程度には回復してるんだけど。まだまだかかりそうだね。
一度は経験させるつもりだったらしく、あまり怒られる事は無かった。
シアさんが大喜びで、私の身の回りの世話をしてくれている。トイレくらい一人で入らせて欲しかったが、昨日の夜は無理だった。あまりの恥ずかしさ、情けなさに泣き出してしまった。
さすがに泣き出してしまったのはショックだったのか、お風呂では特に何事も無かったのだけれど……。まだ数日はシアさんだよりになりそうだね。
今日は朝から母様が付きっ切りで世話を焼いてくれている。
母様はお仕事があって、あまり一緒に遊んだり、出かけたりできない。たまに暇を見ては私の所に来てくれるんだけど、私はそれが嬉しくてしょうがない。子供だね……
その忙しい母様が、今日は朝から一緒にいてくれる。あまりの幸せに泣きそうだ。
今は膝の上に座らせてもらっている状態、それだけで自然に頬が緩んでしまう。
「えへへ。母様大好きー」
「ふふ。まだまだ甘えん坊ね、シラユキは」
「母様は特別だよ。もっと甘えさせてねー」
体を横に向け、母様に抱きついて頬擦りする。
「可愛い……。ごめんね? いつもあまり構ってあげられなくて」
「んーん。母様は女王様だし、忙しいから。たまにこうやって甘えさせてくれるだけで十分だよ。凄く嬉しい」
「シラユキが一言、もっと構って、って言ってくれれば、女王なんてその場で辞めちゃうのに……」
ホントに辞めそうだから怖い。そうなると次の女王は姉様か? 無理じゃね? 私か!? もっと無理じゃね?
「大丈夫。父様も、ルー兄様もユー姉様も、メイドさんたちもみんな優しいよ。寂しいなんて思う暇もないくらい構ってくれてるから」
「まだ十二歳なのに……。もっとゆっくり大人になってね? もっと一緒にいたいって我侭言ってもいいのよ?」
「今日はずっといてくれるんだよね? それだけで十分すぎるくらい嬉しいよ。我侭言って困らせるなんて絶対イヤ」
「もう……。お母様をもっと困らせて欲しいわ……」
ああ、駄目だ。嬉しい、幸せ。私ってこんなに母様のこと大好きだったんだね。
「あまりの姫様の幸せそうな笑顔に浄化、いえ、癒されます」
「浄化!?」
「あ、大きな声出さないの。ほら、こっちもたれなさい」
シアさんの一言に突っ込んでしまった私を、優しく抱き寄せてくれる母様。
「こらこら、シア。邪魔しないの」
メアさんが笑顔で注意をする。
「そうそう。こんなにふにゃけたシラユキは滅多に見れないんだからさ」
ふにゃけた? 面白い表現だね……
「私の前でも、いつもあんな表情をしてもらいたいものです」
シアさんも笑顔だが、ちょっと複雑そうだ。
「無理じゃない? レンってばシラユキのことからかい過ぎだよ」
「姫の反応は面白可愛いからねー。しょうがないよ」
「ですね。こればかりはやめる訳にはいきませんね」
やめようよ! まあ嫌って訳でもないんだけど。
「三人とも、いつもありがとうね。貴女たちがいてくれるから私も安心してお仕事できるのよ」
「へ? はっはい! ありがとうございます!」
「これからも遠慮なくお任せください。一生」
「一生!? まったくレンは……。私もシラユキのお世話は楽でいいからいいんですよ。外さないで下さいね」
三人とも相変わらずだなー。ずっと私の専属メイドさんでいて欲しいな。
「今日はまだまだ構い倒しちゃうからね、覚悟しなさい。ご飯だって食べさせてあげるし、お風呂も一緒に入りましょ? 寝る時も一緒だからね」
「えー。私、幸せすぎて死んじゃうかも……」
「姫は本当にエネフェア様のこと、好きだよね」
「当たり前でしょ? シラユキまだ十二なんだから、これが普通なのよ」
「ですね。今日の姫様は年相応に見えますね」
「母様大好きー!」
「ふふふ。私もよ、愛してるわ、私の可愛いシラユキ」
『トリップ』は毎回これくらいの文字数でしたね。何故かもの凄く少なく感じてしまう……