その52
「話を戻すぞ? シラユキは魔法のレベルが高すぎるから、ついつい話が逸れて行っちゃうんだよ」
「何の話だっけ?」
「雷の事?」
私も姉様ももう完全に覚えてない。何の話してたんだっけ……
「名前だよ名前。シラユキにも考えてもらおうと思ったんだよ」
「名前? 誰の? 子供? ルー兄様とユー姉様の子供? え? 子供できたの!?」
い、いつのまに!? 何で教えてくれないのよ!!!
「ちげえよ……、いや、欲しいけどさ。そうじゃなくて、魔法の名前だって。雷の矢じゃちょっとインパクトに欠ける」
あ、そういえばそんな事を話していたような? ちょっと焦ったよ……
「あー! してたしてた! そうね、私たちには全く馴染みが無い系統の魔法だからね、これ。シラユキ、何か無い?」
「うーん? 名前かー……。雷の矢ね、うん。『ライトニングボルト』、とか?」
ボルト系の魔法は一般的だよね。ゲームでお馴染み。サンダーよりライトニングの方が、何となくカッコいい気もする。
「ライトニング……」
兄様が固まる。
「お兄様?」
「ルー兄様?」
変だったかな? でも、兄様の付ける名前って全部まんまじゃない。ライトボールとかさ。
「シラユキ、やっぱりお前は……、天才か!!!」
どうやらお気に召したようだ。やっぱりゲームで使われてる名前はいいね、安定してるね。
「ラァイトニング、ボルトーーー!!!」
大声で叫び、雷の矢、矢!? 槍か!? 雷の槍を木に投げつける兄様。
投げつけるとは言っても動作の事だ。実際手に持って投げているわけじゃない。
直撃した木はへし折れてしまった。もっと自然を大切にしようよ……
「うん、さすがシラユキの命名した魔法だ。威力のノリが違う。しかし、当たったら即死だなこれは」
「ええ。この威力でこの速度。遠距離戦なら敵無しじゃない? お兄様素敵……」
素敵、って言うか怖いんですけど!?
「い、今の威力なら、『ライトニングスピア』でもいいんじゃない? 矢って言うか槍だよあれ」
「し、シラユキ? え? お前天才過ぎないか!? 『ライトニングスピア』! よし! それに決定しよう! した! よーし、早速」
兄様がライトニングボルト改め、ライトニングスピアの投擲準備に入る。
「駄目だよ! また木折る気なの!? さっきの木だって、多分育つのに十年以上はかかってるんでしょ? ひどいよルー兄様!!」
いくら木が大量に生えているといっても、無駄に切り倒していいはずが無い。漫画とか小説に出るエルフを見習おうよ……
「おっと。シラユキは優しい子だな」
「確かにそうね。おいでシラユキ、撫でさせて?」
「え? うん。えへへ……」
わーい褒められ……? 当たり前の事だよ!? でももっと撫でて!
「ねえねえルー兄様。さっきちょっと思いついた魔法があるんだけど、試してみてもいい?」
「ん? どんな物かによるな。あんまり危険そうなのは駄目だぞ?」
「うん! ルー兄様の『ファイアボール』って炎の塊だよね? それなら雷の塊も作れるんじゃないのかなって」
さっきファイアボールを思い浮かべた時に感じた引っかかりはこれだった。
炎の爆発が起きる玉ではなく、着弾したら電撃を撒き散らす様な魔法が作れるんじゃないだろうか?
「何? え? できるのかそんな事?」
「ちょーっと無理じゃないかな……」
やっぱりそうかなー。
でも、私は雷一切効かなくできるのよ。だから雷を発生させながら、その場に留めておく事もできるんじゃないのかな? 試しに、なんて気軽にできるのはきっと世界で私だけだ。
「やってみていい? 私、雷効かないから大丈夫だと思うんだけど……」
「あ、そうか。ちょっとやってみるか?」
「ちょっと、お兄様、危なくない? もし怪我でもしたら……」
姉様は心配そうだね。さっき即死魔法だって驚いてたし、不安にさせてしまったかな。
「大丈夫だろ。俺たちもいるし、バレンシアもいる。どれくらいの威力になるか分からんが、土壁で覆ってやればいいさ」
「土で覆う場合は少し壁を厚めにした方がいいかもしれませんね。姫様のお使いになられる魔法の威力によっては崩れ飛んでしまいそうです」
雷は物理的な威力もあるんだけどね。地面とか普通に穴開けちゃうよ。一瞬で水蒸気爆発が起こるんだっけ? うろ覚えだ。規模によっては音の衝撃も凄そうだよね。とんでもない魔法を作ってしまったかもしれない。
「それじゃ少し離れててねー。当たったら多分死んじゃうから……。やっぱりやめるね!!」
自分で言って怖かったわ今の!! 無理無理、やっぱりやめやめ!!
「何だそりゃ! いいからやってみろって、俺たちのほうに投げなければ大丈夫さ」
「無理しないでね? 怖くなったら言うのよ? すぐに止めてあげるからね?」
すでに怖いです! 姉様が超心配顔だ……。パッと試してしまおう。
ふむ。とりあえず能力で全身を絶縁コート、両手をボールを持つように前に出す。そしてこの中に、電気を放電。押し留め固定するイメージ……
難しいな……、どうしても固定がうまく行かない。これじゃただ両手の間で放電しているだけだ。
さらに集中して出力を上げてみると、両手の間だけではなく、腕、体、そして地面にまで届くほどの放電になってしまった。か、髪が広がる!!!
「おー! すげえなありゃ……。近づいたら死ぬんじゃね?」
「あ、あれを止められるのはお兄様とシアくらいかしら? 私にはちょっと無理そうなんだけど……」
「うん? 埋めりゃいいんだよ、簡単だろ?」
「あ、そっか。でも可哀想よ……」
失敗したら埋められる!? まずい! しっかり制御しなければ!!!
出力を維持したまま両手の間に押し留める感じで、球状に……?
球状? うーむ、電気の玉か。ん? ああ、その手があったよ。
一旦放電を止める、そして少し大きめ、直径15cmくらいの光の玉を一つ作り出す。
「できた、かな?」
「できた? ただのライトボール、じゃねえなそれ!! 何だそれ!?」
「ちょっと! 早く消して消して!!! 何それ!?」
私の作り出した魔法を見た二人が驚いている。まあ、驚くよねこれは……
プラズマ球です。中心から絶え間なく放電しているが、球体の外には漏れない。電気の科学館っぽい所で見た物をイメージで再現してみただけの物なので、実際のプラズマ球とは違う、電気を封じ込めた玉の魔法、になるのかな。
しかしやばいわこれ、爆発させたらどれだけの範囲に電撃を撒き散らすんだろう? ちょっと試してみたくもあるが、森林火災決定なので仕方ない、消そう。
暴走させないようにしっかりと消す。
ふう、ちょっと……、疲れたね。あれ? これって……
駄目だ、立っていられない、力が、全く入らない。
「魔力使いすぎだ阿呆!! バレンシア、椅子! メアリーとフラニーは飲みモン出せ! 何か持って来てるだろう!」
倒れる私を抱きとめ、メイドさんたちに指示を出す兄様。か、カッコよすぎる……
「はい!」
「え? あ、はい! すぐに!」
「ちょっと頑張りすぎちゃったかな、ちょっと待っててねシラユキ」
シアさんが即座に椅子を作り出し、メアさんフランさんは持って来ていたバスケットを開く。
「シラユキ? 大丈夫?」
姉様が心配そうに撫でてくれる。
「うん……。ちょっと疲れちゃった……」
姉様に抱きつきに行こうとしたのだが……。か、体が動かせない! これが魔力疲れなのか……!
シアさんが即席で作った椅子に姉様が座り、その上に私が抱き締められるように座る。
メアさんとフランさんが用意してくれたジュースを飲んで、落ちつ、かない。
これが魔力疲れなんだね。やばい、全く息が整わない! た、確かに辛いわこれは……
「まったくお前は……。いや、止めなかった俺が悪いか。さっさと埋めるんだった」
「埋めるとか……、怖いこと……、言わ、ないでよ……」
あっれー? 魔力どれだけ消費したのよあのプラズマ球。放電させる程度じゃ何とも無かったのに……
「いいから、無理しないで休みなさい。無理しないでって言ったのに……」
う……、姉様半泣きだ。悪い事しちゃったなー
「ごめんね……、姉様……」
「ううん。まだ十二歳の子供に使わせる魔法じゃなかったわ……。ごめんねー……」
姉様はぎゅっと抱き締めてくれる。
疲れたけど、疲れてるけど、何か幸せだ。
「先ほどの雷の球体、ですか。あれをそのまま投げ、着弾、炸裂したとすると……。恐らく直径50mほどの範囲に雷を撒き散らしていたでしょう。あ、姫様は喋らなくて結構ですよ。表情を読みますから」
私が疲れ切ってるのに、シアさんが冷静だ。多分怒ってるなこれは……? 50m? 広すぎない?
「怒ってなどいませんよ? 着弾、もしくは爆破位置から離れるほど威力は下がるとは思いますが。中心位置なら恐らく、ウルギス様でさえなすすべ無しでしょう。風の鎧、土壁など無意味。地面を抉り、小規模のクレーターができる威力かと」
風の鎧か……。空気の圧縮層を作れば威力の軽減はできそうだね。50mくらい離れれば軽い痺れくらいの威力まで落ちそうだ。
50mかー。シアさんはどうにかできそう?
「一撃なら何とか、と言ったところでしょうか? 魔力をナイフに変えて、防御に回せば恐らくは……」
やっぱりシアさんって凄い。個人専用の能力って有ると無いとじゃ全然違うんだ。
「私の場合は能力の相性がいい、という事ですね。どちらにしても、あれをノーモーションで撃たれれば誰でも同じ結果になりますよ」
なるほど、でも一回出しただけでこれかー。魔力疲れってきついね……。どうにかできない?
「無理です。沢山食べて、充分にお休みください」
そっかー。ごめんねシアさん、すっごい心配かけちゃったみたい。みんなにもね。
「いえいえ。ゆっくりお休みくださいね。数日は続くと思いますから」
うん、ありがとう……。数日? 一日休んだくらいじゃ治らないの?
「ええ。その間は私がしっかりとお世話させて頂きますので、ご安心を」
シアさんはにっこりと笑って綺麗にお辞儀をする。
ああ……、怒ってないと思ったらそういう事か……。全力で私のお世話できるのが楽しみなんだね……
「まあ、その、なんだ。これは嫉妬すら覚えるぞ。バレンシア、後でコツを教えろ」
「私にも教えて? 何かすっごく羨ましいんだけど……」
「では、お二人とも、まずはメイドにならなければいけませんね。話はそれからです」
「メイドになればできるのか? メアリー」
「できる? フラン」
「無理ですよ! そんなのシアにしかできませんって!」
「私は何となくなら。ルーディン様もユーネ様も、何となくは分かるんじゃないのかな?」
「何となくならな。やはり、さすがはバレンシア、という事か」
「私も何となくは確かに分かるわね。シラユキは表情に出やすいし」
姉様大好きー!
「あ、分かる分かる。私も大好きよ」
マジで!?
「マジです」
シアさんは絶対心読んでるだろ!!!
本文中に出てくる「雷」という言葉は雷そのものを指して使われる以外では、「電気」の意味で使われています。
分かり難い表現だったかもしれませんね。日本語って難しい……