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その49

「いたっ! 痛くないけど」


「ニ回目です」



「わぷっ!」


「三回目」



「あうち!」


「よ、四回目ですね」



「わひゃ!」


「可愛い五回目です」


 可愛い五回目!? 


 シアさんは常に笑顔。楽しそうだなー。完全によそ見しながら併走してるよ……

 どうやったらよそ見しながら走れるのか、と聞いたことはあるのだが、メイドだからの一言で済まされてしまった。どうやらこれは慣れるしかないみたいだね、練習あるのみだ。




「さあ! 次は私へどうぞ!」


「何で前にいるの!?」



 今回の衝突事故回数は十五回。多くも少なくも無いね、微妙だ。シアさんは数には含まれない。






 途中ちょっとした買い物をし、冒険者ギルドに到着。

 入り口横の掲示板に目をやると、相変わらず雑務依頼の数は凄い、子供の世話から魔物退治まで、内容は本当に何でもある。何でも屋だなぁ……

 町に住んでいる大抵の大人は職に就いているので、アルバイト的なものはやはり冒険者に頼むしかないらしい。大きな町であればあるほど雑務依頼は増えていく。リーフサイドも結構大きめの町だが、これでも少ない方だとシアさんは言っていた。王都と呼ばれるような町になると、同じギルドが複数あったりして、掲示板もそれぞれ二枚ずつあったりするらしい。




 中に入ってまず目標を確認、全力で安心する。両手剣は目立っていいね。


「こんにちわー! ラルフさんの訃報を聞きに来ましたー!」


「この度は、大変面白い結果になりまして……」


「生きてるよ!? 死んでないよ!!!」


 いいツッコミだ。元気そうだね、さらに安心。




 ミランさんは受付の仕事。今日はいつもより人が多いみたいで、受付に列ができている。何度もギルドには来ているけど、こんなに受付に人が並ぶところなんて初めて見たよ。とりあえず後でテーブルに来てと誘っておく。

 ラルフさんを連れて、いつものカウンター近くのテーブルに着く。元々そこに座っていた人たちはシアさんの一睨みで駆逐された。これもいつものことだ。シアさんに睨まれるためにこの席に座っている奇特な人もたまにいるから面白い。でも命は大事にしようね。



「元気出してくださいね」


「片腕くらい無くして帰って来れば箔もついたものを……」


「なんで失敗した事が前提なんだよ! 成功したよちゃんと! もう俺Cランクだぜ!?」


 初めはこのツッコミも怖かったが慣れるとやっぱり面白い。みんなが私をいじるのが好きなのがよく分かるよ。


「ふふふ、ごめんなさーい。それと、おめでとう! ラルフさん」


「オメデトウゴザイマス」


「おお、ありがとなシラユキちゃん。しかし、メイドさんは相変わらずだなぁ……。ちゃんと土下座して謝ったじゃん、俺」


 そう、兄様に理由を聞いたラルフさんは、何と全員に土下座で謝って回った。何というドゲザー。



 人間からエルフ、エルフから人間にもそうだが、寿命の差が有る種族の求婚は、本来の意味ともう一つ。

 『私と一緒に死んでください』という意味があるのだ。


 そんな事を会う人会う人に言ってれば、嫌われて当然だよね。



「お気になさらずに。個人的に嫌いなだけですから」


「気にするよ!? 何でそんなに嫌いなんだよ……。まあ、第一印象が最悪すぎたか」


「シアさんは、他の種族の人はあんまり好きじゃないみたいですからね。別にラルフさんだから、っていう訳じゃないと思いますよ」


 やっぱり先に死なれちゃうのは悲しいし、怖いよね。あまり仲良くしておきたくは無いんだろう。

 私もきっと、友達の死を経験してしまったら、友達を作ることが怖くなりそうだ。


「個人的に、嫌いなだけですから」


 シアさんが個人的に、を強調して言い直した。

 フォローをあっさり潰すシアさん、さすがだ。


「メイドさんが個人的にじゃなくて、俺個人が嫌いなのか!?」


「ええ、ですが、お気になさらずに」


「だから気にするよ!! 理由を教えてくれよ理由を……。直せる所は直すからさ」


 ラルフさんは相変わらずエルフ大好きらしい、人の好みは早々変わらないものか。シアさんはボケもツッコミもできる貴重なエルフ、じゃなくて、エルフの中でも特に美人さんだからね、なるべく仲良くしたいんだろうと思う。


「そうですか? では、生まれ直してから来てください。話はそれから、という事で」


「俺全否定!! く、くそう……」


 多分、小さな女の子に生まれ変われば相手してもらえるよ。生まれ変わりなんて無いんだけどね……






 受付のお仕事はまだ一区切りつかないみたいだ、もう少しお話を続けよう。


「試験ってどんなのでした? 魔物の単独討伐ですよね? どんな魔物で、あ、大丈夫だったんですか?」


 ラルフさんの生死と試験の内容に気をとられすぎて、怪我の有無の確認はしてなかった。いけないいけない……


「おっと、質問攻めだな。目キラキラさせて可愛いやつめ」


「残念ながら、試験の内容は明かせないんですよ。その土地土地、季節によって変わりますし」


「ああ、プレベアだったよ。Dランクん時に何度かやった相手だし、楽勝、じゃあなかったけど、大きな怪我は無かったぜ。心配してくれてたみたいだな」


 シアさんの説明が……。明かしていいんかい。

 プレベア? 何故か平地に生息する熊の様な魔物だっけ? た、単独で熊撃破!? ラルフさんホントに強いんだ……


「はあ……。明かしても特に罰則はありません。その地域からいくつかの候補から選ばれるだけですしね。生息している魔物の種類がそう簡単に変わる事はありませんから」


「あはは。……うん? そうなると、簡単そうな試験の町で受ける人が増えちゃうんじゃないの?」


 比較的簡単そうな町で、試験だけ受ける人が出るんじゃないだろうか? Cランク相当で、プレベアより狩りやすい魔物だっているんじゃないかな。


「簡単な試験なんて無いよ、ちゃんと考えられてるさ」


「簡単な試験があったとしても、いきなり試験を受けさせる受付はどのギルドにもいないと思いますよ?」


「ああ、その人の人柄や、他の冒険者からの評価、町の人からの反応。実際自分が見て感じて、大丈夫だ、と思わない限り試験なんて受けさせてもらえないんだよ。ミランさんいつもボケーっとしてる様にしか見えないけどな、見るところはちゃんと見てるんだぜ?」


「ギルドの書類の情報だけでは、個人の人柄、本当の実力までは分かる訳もありませんしね」


「あー……。確かに……?」


 町の人、先住冒険者からの評判、受付から見た実際の人物像。実力だけではランクアップはできないのか。信頼と実績が必要、と。ふむふむ……

 ん? という事は、ランクアップのためには一定期間、まずは試験を受ける予定の町に留まらないといけないのか?


「試験を受けるのは、大体自分が拠点としている町になりますね」


 疑問に思った次の瞬間にシアさんが答えを出してくれた。


「また顔を読まれたよ……」


「もう職人芸の域だな……。俺は十六からこの町を拠点にしてるな。護衛の依頼で他の町まで行く事もあるけど、またこの町までの護衛や配達の依頼があったら、それ受けて帰って来るんだよ」


 五年もいれば確かに大丈夫そうだよね。ラルフさん好青年だし、エルフに土下座で謝って回った事もよかったのかもしれないね。それが無ければ試験は受けさせてもらえなかったんじゃないかなと思う。






「す、すみませんでしたシラユキ様。今日に限って依頼の受付が多くて……」


 お仕事に一段落ついたミランさんがお話に参加してくる。確かに今日は多かったね、本当に珍しい。


「ミランさんお疲れ様。それじゃ、シアさん。あ、ミランさん、グラス四つお願いしていいかな?」


「はい。少し前を失礼しますね」


 シアさんがテーブルにクロスを敷く。


「は、はい! すぐに用意しますね!」


 しまったー!! もしかして今、命令しちゃった?

 つい、いつもメイドさんズにお願いする感じでミランさんに言ってしまった。ミランさんはお友達なのにいぃぃぃ……


「ん? 何だ?」


 おっと、気をしっかり持とう。私は王族、人に指示を出す事に、な、慣れるんだ……

 そうだ! ミランさんも私の家のメイドささんになれば問題ないよ! うんうん。


「ラルフさんのランクアップのお祝いです。ここに来る前にちょっと寄り道して、ケーキを買ってきたんですよ」


 苺のショート、チョコ、モンブラン、オレンジジャム。私はもちろん苺!


「け、ケーキか、ありがとな。気、使わせちゃったか」


 ラルフさんは甘いの苦手だったよね。でも、男性一人、女性三人だ、ここは我慢してもらおう。自分のお祝いの席で我慢? ひ、ひどい事してるな私は……


「残念ながらお祝いになってしまいましたが」


「残念じゃないよ!?」


「ふふ。相変わらず仲がい、!? すみませんっ! な、ナイフは!!!」


 仲がいいように見えるよね。でも、結構本気で嫌ってるんだよね……。しょうがないか、ラルフさんだし? シアさんだし。


 私は苺、ミランさんにはチョコ、そしてシアさんの前にはモンブラン。

 あれ? シアさんはオレンジジャムのケーキじゃなかったっけ? モンブランはラルフさんのじゃなかったかな……


「こちらは姫様のオススメのオレンジジュースです。買って少し経ちますので、ご自分で冷やし直してお飲みくださいね」


 自分で冷やす。物を冷やす魔法だね。

 この魔法本気で便利で最高なんだよ? 自分の好きな温度に調節できるからね。私ももう慣れた物で、これくらいのサイズなら一瞬で氷にもできる。シャーベットも作り放題だ。自分の趣味に合った魔法は、慣れるのも成長するのも早いもんだね。魔法の練習には食べ物を絡ませるといいのか……?




 セッティングが完了したようだ。シアさんが私の隣、定位置に戻ってくる。


「あれ?」


「シア、さん? オレンジのは?」


「お、俺のは?」


「私の分は、ここまで来る間に頂いてしまいました。大変おいしかったです」


 い、いつのまに!? 一緒に横歩いてたよね? 荷物持ってさ!!


「あ、え? それじゃそれ、俺のなんじゃないのか?」


「な……、三個しか無いんですよ? ここは遠慮しておくところでしょう? まったく、これだから……」


「あ、そうか……、って違うよね!? メイドさんもう食べたんだよね!?」


「ええ、それが何か?」


 しれっと言うシアさん。

 シアさんはやっぱり最高だなー、面白いなー、憧れちゃうなー。ここは私も乗っておくべきか。


「変なこと言うねラルフさんは」


「女性三人からケーキを奪うとか、降格ものじゃない?」


 ミランさんも理解して乗ってくれたようだ。この人も慣れたね……


「え!? 俺がおかしいの!? いや、ケーキは別にいいんだけどさ……。降格!? ランクアップの祝いの席で降格されるの!?」



「うるせえよさっきから!」「ラルフうるせえ!」「一々叫ぶな!」「美人に囲まれやがって! 爆発しろ!!」「メイドさん、そいつ殺っちゃって!」「シラユキちゃんこっち向いて!」



「悪いの俺なの!?」




 ラルフさんには後日ちゃんとお祝いを贈ったよ。魔法で強化された銀で作られた胸当てと手甲、ミスリルなのかな? ふぁ、ファンタジーだわ……







現実の裏話

http://ncode.syosetu.com/n3344w/


こちらも投稿を始めました。

最新話までのネタバレ、キャラ崩壊、メタ発言を多分に含みますのでご注意ください……


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