その48
「シーアさん! また町に行こ? 今日はラルフさんが試験から帰ってくるんだって」
「生きていれば、ですね」
「相変わらずラルフさんには冷たい!」
十二歳になりました! 背は全く伸びていません! 泣けるわ……
十一歳になって少し経った頃から、シアさんと二人だけでも町に行ってもいい事になった。二人だけの方が行き帰りが早いからね。それに、シアさんさえいれば私の身の安全は確約された様なもの、護衛対象が一人の方が守りやすい、と言う事もあるかも。
買い物した商品などは二人では持って帰るのが大変なので、後日国の者が取りに伺います、と、ちょっと王族っぽいことをしている。これは慣れないね。片手に提げれるくらいの荷物なら持って帰れるんだが……
そういえばお金も後払いなんだよね。でも、無駄遣いして怒られるような事はしていない、と思う。相変わらず小市民感覚は抜け切って無いね。抜けるとも思えない。
冒険者ギルドにもあれからよく通っている。顔見知りの冒険者の人も何人かできてしまった。獣人の人の耳と尻尾にも触らせてもらったよ。
少し前、ラルフさんがCランクに上がる試験を受ける事になった。Cランクから先は全て試験が必要らしい。EからDに上がる場合は受付の人が適当に付けてしまうみたいだ。それでいいのか冒険者……
試験の内容は、単独での討伐依頼の成功。実際の依頼ではなくギルドの用意した物らしいが、野生動物を依頼も無く殺してしまうのはどうなんだろう? 気になって聞いてみたら全員から撫で回された。何故だ。確かに放っておいては危険なのかもしれないが……
今日は試験が終わり、帰って来る予定日だ。順調に行けば、の話だけどね。
「もし、死んでしまっていたとしてもあまり気を落とさずに。ラルフさんですし」
「不安になるような事言わないでよ、もう!」
でも、不安は不安だ。ラルフさんは初めて会った当時、すでにCランクでも通じる実力があったらしいんだけど、絶対大丈夫という保障は無いよね。
何が起こるか分からないのが現実だ。討伐の対象以外に、絶対に勝てないような、出会ってしまったら終わり級の魔物に出くわす可能性もゼロではない。
「よし! 行くのやめようか!」
やっぱり怖いわ。死んでたらその情報だけ後で聞かせてー!
「姫様は強くなられたのか、弱くなられたのか……」
「好奇心だけで動く様なことが無くなっただけだよ。でも弱くなったのかもね」
正直このままみんなと付き合っていけるか不安だ。だってみんな、私の成人前に、きっと、死んでしまう。
「いえ、きっとお強くなられたのだと思いますよ。十歳のころ、あの話をしておいてよかったと思います」
「あの話? ……ああ、寿命の違いで起こる悲劇ね」
「私としては、できたらあまり、他種族の方と深い関わりを持って欲しくは無いのですけれどね」
「うん、ありがとね。でも、生きていれば絶対通る道なんだしさ、早い遅いは関係ないよ。いっぱい泣いて、いっぱい後悔して、それからまた考えるよ」
もう二度と、森から出たいとも思わなくなるかもしれない。そうなったらそうなったでいいかもね。そこからまた百年も生きれば、考えがまた変わるかもしれない。
私は、ハイエルフ。エルフの王族よ! 人間じゃないからね、考えだって違うさ!!
「姫様まだ十二歳なんですから……」
「あはは。老けて見える?」
「大人びて見える、くらいにしておきましょう。でも、本当にお強くなられましたね」
自分でもそう思うよ。でも、ちょっと早すぎるのかもね。まだ十二だったよ私。人間換算十歳ちょっとだよ。
「お願いします。まだまだ可愛らしい、子供らしい姫様でいてくださいね。できたら一生」
「シアさんってやっぱり小さい子好きなんだよね? 私はストライク?」
最近はシアさんともお風呂に入るようになった、んだけどね。触りまくってくるのよこの人! まあ、いやらしい手つきではないんだけどね。
「いえいえ、誤解です。姫様の反応が可愛らしすぎてつい……」
多分年々からかいのレパートリーを増やしているんだと思うけど……
「シアさん、ホントに本当に、その、そっちの趣味の人じゃないんだよね?」
「ええ、姫様以外の女性には全く興味ありませんよ?」
「私にはあるの!?」
それならそれでもいいやと思ってしまう私も、きっと駄目なんだろう。
シアさんのことは、私はいいお姉さん、頼りになるお姉さんとしか見てないんだけどね。これは本当のことよ?
もしかしたら、シアさんに押し負けそうな気もしてしまうが。ふ、不安だ……
エルフは一応同性婚も認められている。でも数は少ない、と言うか殆どいないので、特に決まりなどは無い感じだ。女性同士で子供が欲しい場合は、男の人を襲えばいいらしい。凄い話だよホント……
お爺様お婆様はかなりアバウトな性格らしく、決まりなんて勝手に作れ、の一言だったらしい。でも大丈夫だ、問題ない。みんな家族だしね。
今は母様がちゃんとしているからかもしれない……
「それでは、参りましょうか?」
「また否定しないし……」
「性的な意味ではありませんからご安心を」
「う、うん、信じるよ? それじゃ、私、まだ速く走ると危ないし。早めに出ようか」
跳躍魔法はできるようにはなった。兄様やシアさんみたいに高く飛び上がって落ちるのは怖いので、低く、短く、でも速く飛ぶ感じにアレンジを加えている。他の人から見ると高速で走っているように見えているんじゃないかな。使い始めの頃は何度も木にぶつかったよ。風を纏ってるからびっくりする程度で済むんだけどね、全力でぶつかると逆に木の方が折れてしまうのがちょっと怖い。人には絶対にぶつからないようにしなくては……
その他の魔法も、日常使う程度の魔法は全て使えるようになった。あまりの覚えのよさ、使いこなす早さに呆れられてしまったよ。目の前で使って見せてもらった魔法を再現してみせただけなのに、みんな驚きすぎだよね。
父様と兄様は、そろそろ自衛のために攻撃魔法を覚えさせようとしているみたいだが、攻撃魔法は怖い。火を灯すのも実はまだ怖いのよ。情け無いね私は……
「お気になさらずに。攻撃魔法など使えるようにならなくとも、姫様は私が一生お守りしますので安心してくださいね」
「また表情を読まれた!? どうやったらそんな具体的に読めるの!?」
「メイドですから」
「なるほど! もういいよ!!」
言い切って走り出す。木にぶつからない様に、避けて避けて、でも速度は維持して、っと。これは集中力がかなり必要なんだよね。
そういえばさっきのシアさんの言葉って、プロポーズみたいじゃない? できたら男の人に言われたいよ……、男の人と一対一で話す勇気も無いんだけどね。話しかけられても全力で逃げ出す自信がある。
まずいなこれは……。このまま行くと……、シアさんと結婚か!?
「あいたっ!」
他事を考えていたら、木にぶつかってしまった。恥ずかしい!
痛みは無いからいいんだけどね。急に止まっちゃうからびっくりするのよこれ。
「大丈夫ですか姫様? ふふふ、早速一回目ですね。今日は後何回ぶつかるでしょう?」
「ううう……。目指せ十回以内!!」
「はい! 頑張りましょう!」
始めの内は毎回大慌てだったシアさんだが、もう慣れたものだ。今では逆にぶつかったときの反応を楽しみにさえしている。ひどいわひどいわ。
今回はちょっと短めですが、十二歳編開始です。
前回から約一年後のお話になります。