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その41

「う……ん……。?」


 私、寝てた? うーん、暗いな、ベッドで寝てる、ね。あれ? いつ寝たんだっけ……

 この感触は、何となく自分のベッド、だね。ここは私の部屋か。目を凝らすと薄っすらと見える。うん、自分の部屋だ。


 ああ! 今日町に行ったんだった。帰る途中に疲れて歩けなくなっちゃって、姉様にオンブしてもらったんだった。その後すぐ眠くなって、寝てしまって、それで、夜までぐっすりか。今何時だろう……

 体を起こし、明かりの魔法を点けようとしたが、何か体が重い。起き上がれない? あ、あれあれ?


 何か、頭もぼーっとするね……

 寝すぎたのかもしれないね、やけに体がだるい。うーむ、寝なおそうかな。



 もういいや寝てしまえと目を瞑り、二度寝を慣行しようとした丁度そのとき、ドアが控えめにノックされた。


「姫様? お目覚めになられました?」


 ん、シアさんか……。何で私が起きた気配に気づけるんだろうこの人は。ああ、メイドスキルだね、納得納得。


「ああ……、うん……。起き、たよー……」


 声を出してみて驚いた、何というか細い声。今のは自分の声だよね? 今のでちゃんと聞こえたかな……

 何でこんなに体が重く感じるんだろう? 喋るのも辛いとは。今口に出した分だけでかなりの体力を使った気さえもする。


「ひ、姫様!? すみません入ります!」


 シアさんが返事も聞かずに部屋に入って来た。珍しいね。何かあったのかな? いつもなら私の許可無く勝手に入るなんて絶対しないのに。


 どうやら相当慌てているらしい、部屋の明かりではなく、魔法で明かりを出しつつ駆け寄ってくる。


「姫様……! 失礼します」


 そう言って、シアさんは私の額と頬に手を当てる。

 つ、冷たいわー、気持ちいいわー。シアさん何でこんなに手が冷たくなってるんだろ。


「何てこと……! ひ、姫様、すぐに戻ります。少しだけお待ちください」


 いつもより少し強めな言い方でそう言うと、すぐに部屋から出て行ってしまった。明かりは消えないままだ、まぶしくて寝れないよ……


 さっきのシアさんの手、冷たくて気持ちよかったなー

 先ほどの冷たい手の心地よさを思い出したらなにか、また更にだるくなってきた気がする。そんなに疲れたのかな私、でも、姉様の背中で寝てただけだよね。




「シラユキ!!!」


「馬鹿、ユーネ、声が大きい。静かにしろ」


 急に勢いよくドアが開き、兄様と姉様が部屋に入ってきた。何かに慌てている姉様を兄様が窘めている。


 うー……、寝かせてよー、眠いのよー、だるいのよー


「ご、ごめんなさいお兄様……。シラユキ、大丈夫?」


 姉様はさっきのシアさんと同じ様に、私の額に手を当てて、顔を覗き込んでくる。何という気持ちのよさだこれは。頬に手を当ててくれれば頬擦りするところなのだが……


「ん……」


 多分疲れてるだけだから寝かせてー、と言いたかったのだけれど、あれ? 何故か声を出す気が起こらない、起こせない?


「うわ、辛そうだな……。今、フラニーが氷用意してるからな? もう少し我慢するんだぞ」


 氷? おお、いいねそれ、何か熱っぽいし、ありがたいよ。……?



 ああ、熱があるのか、私。






「うひゃー、気持ちいー……」


 額にタオル、その上に氷水の入った、多分皮製の袋を乗せられた。何これ気持ちよすぎでしょう。

 前世で使った額にピタッと張るだけのシートとは違い、この刺す様な冷たさがいいね。たまに外さないと痛くなってきてしまうのが氷袋の面倒さか。



 五分と待たずに、フランさん、メアさん、シアさん。メイドさんズが全力で介抱をしにやって来てくれた。

 続いて父様、母様も。ちょっと来すぎじゃね? 私の部屋そこまで広くないよ。


「具合はどうだ? ああ、辛そうだな……。代わってやれればいいんだが……」


「シラユキが熱を出すなんて初めてで、本当に焦ったわ。今までは女神様の加護のおかげか、健康そのものだったしね。ああ……、本当に辛そう……」


 父様は悲痛な表情。母様は半泣きの状態だ。

 二人とも心配しすぎだよ。多分ただの疲れだって……、疲れ?


「もしかして、私、って、あれ、だけ……」


 おっと、喋るのはまだまだ無理そうか……

 もしかして私って、たったあれだけ歩いただけの疲れで熱を出してしまったんだろうか?


「ひ、姫様! 喋らなくても結構ですから! ああ……、どうしたら……、ああ……!」


「ちょ、ちょっとシア! さすがにウルギス様とエネフェア様の邪魔はまずいって!」


 珍しくシアさんがテンパっている、メアさんに注意されちゃってるよ。

 ごめんねー。いつもの完璧メイドスタイルが、見る影も無いほど混乱させちゃったみたい。


「し、シア、落ち着いて。シラユキ、お話しは元気になってから聞くからね? 今日はもう寝よ? 明日、また元気な顔を見せてね」


 うん、多分明日になれば全快だよ。


「病気も怪我も、魔法じゃ治せないからな、十歳じゃ魔法薬も使えないし、さすがにバレンシアも焦るか。大丈夫、ただの疲れだろ? 心配なら付いていてやればいい」


「は、はい! 勿論です!」


 落ち着いたかな? 兄様姉様凄いわ、慌てるシアさんを……? え?




 怪我って魔法で治せないの!?


 嘘!? 回復魔法って無いの!? そ、そんな! 冒険には必須じゃないの!?

 魔法薬って確か、普通に、飲むタイプ塗るタイプのお薬だよね? 五十歳までは体に負担がかかり過ぎて使えないっていう。

 え? 魔法でパッと治るんじゃないの? お薬塗って包帯巻くの?


 え、え? えええええええー……












「姫様?」


 私を呼ぶシアさんの声に、意識が完全に覚醒する。


「ん……、あ、いつの間にか寝てた?」


 シアさんが光量が弱めの明かりの魔法をつけてくれる。

 知らないうちに寝てしまっていたみたいだ、残っているのはシアさんだけか。


 窓の外はもう白んでるね、まだ少し暗いが。体も結構楽になってるかな、動き回るには辛そうだけど……


「シアさん、もしかして徹夜?」


 うん、声を出すのも問題無さそうだ。


「ええ、あ、いえ。メアとフランと交代でしたよ?」


 話しながらも、テキパキと私の熱を測ってみたり、見える部分の汗を拭ってくれたりしている。


 これは、嘘だね。

 メイドスキルなのかクマはできてないけど、シアさんがあの状況で、私をほかの誰かに任せて仮眠を取るなんて、まずありえないだろう。

 でも、いいや、隠したいのなら聞かないでおこっと。


「体、起こせますか? 汗を拭いて、着替えをしなければ。少しでも辛かったらすぐに仰ってくださいね」


 言われて見ると、かなり汗をかいてしまっているようだ。このまま寝たら風邪をひいてしまうかもしれないね。それに、肌に張り付いて気持ちが悪い。

 一度そう感じると、どんどん不快感が増してきた。起き上がって着替えるくらいならそこまで負担になる事も無いだろうし、さっさと脱いでしまおう。


「うん、それくらいなら大丈夫そう。お願いするね」


 優しく手で支えられながら体を起こし、服も脱がせて貰う。そういえば、ちゃんと寝巻きを着てるね私。着替えさせられてる間、全く起きなかったのか……




「ひゃっ」


 濡れたタオルの冷たさとくすぐったさに思わず声が出てしまった。


「す、すみません。冷たすぎましたか?」


「大丈夫、少しくらい冷たいほうがいいな」


 体を丁寧に拭いてくれるシアさん。まるでお姫様だね私。あ、お姫様だった……

 着替えの時、お風呂の時に、裸なんて毎日見られているから慣れているはずなんだけど、こういう状況だとちょっと恥ずかしさが出ちゃうね。


 実は下着から何から何までシアさん任せなんだよね。下くらいは自分で穿かせて欲しいんだけど……

 自分一人で着替えができなくなってしまいそうだ。本当にどこのお姫様……、だったね、あはは。



「そうだ、シアさん。ちょっと気になったんだけど、傷、怪我を治す魔法って無いの?」


「え? ええ、ありませんよ? 怪我を治す魔法は無くとも、癒しの力を持つ者は僅かですが存在します。癒しの力が確認された者は即国に召抱えられ、結構な地位を与えられる事になります。平民が会う事は難しいでしょうね……。そうでした、リーフエンドにも一人いる筈ですよ。人前にはもう滅多に出てこないらしいので、そういった方がいる、という話を聞いただけなのですが」


 癒しの力。シアさんのナイフを出す能力みたいな、個人専用の魔法かな?

 そんな貴重な人材を一般庶民のまま、ましてや冒険者とかにするわけも無いか、国がさっさと引っ張って行ってしまうんだね。

 王族にもしもの事があってはいけないからね、即時治療の能力を持つ者が近くにいるという事は、相当安心できるんじゃないだろうか。


「それなら一般の人、冒険者の人はどうしてるの?」


「魔法薬も高価な物ならかなりの性能を持ちますよ。手足を切り落とされたくらいの傷でも、傷口にかければ即出血が止まり、あとは包帯を巻いておく程度でいい、というレベルの物まであります。さすがに欠損までは治せませんがね。そこまでの物は一般の方も、冒険者も使うことは無いですね。どちらも傷薬程度の効果の物しか使っていないですよ。冒険者は一応高い効果のある物を一つは常備しておくのが基本なのですが、そこまでの傷を受けるという事は、その、アレですので、実際に使われることは稀ですね」


 ああ、なるほどね。治療は魔法薬が基本なんだ。魔法で傷を治し、そのまま戦線復帰、なんていうのは無いのか。

 即時治療の手段がないって事は、冒険者って本当に一撃もらったらアレだ、一発アウトの世界なんだ……




 新しい寝巻きに代え、シーツを代えたベッドに寝なおす。冷たくなったベッドが気持ちよすぎる。


「姫様の前世、以前の姫様がいらっしゃった世界には存在していたのですか? その、治療の魔法、でしょうか」


 あ、シアさんこれはかなり疲れてるな。前世の私の事を聞くなんて大ミスやっちゃうとは。でも、いいか、特に隠してるわけじゃないしね。母様には内緒にしておいてあげよう。


「ううん、治療の魔法どころか魔法自体無かったよ、魔法なんてお話の中でだけの物だったんだ。だから、魔法って何でもできちゃうってイメージがあったんだよねー……」


 魔法は現象を起こすだけだったね。傷が治っていく現象? そんなのイメージできるわけ無いか……。細胞分裂とかだっけ、全然分からないや。



 シアさんは少し考えて、ゆっくりと話し始めた。


「魔法はただの、人の使う技術の一つです。姫様にもすぐに理解できる日が来ますよ。自分の無力さ、魔法という物の手の短さに。決して人の手では届かない領域、という物が」


 この、話し方。やっぱりシアさんも、……私と同じ、なのかな?


「シアさんは、いつ気づけたの?」


「昔、昔の事です。まだ百にも満たない年齢だったでしょうか。才能が私にはあった、あってしまったんです。何でもできる、自分にできないことは無い。魔法とは何て素晴らしい物なんだろう、と」


 シアさんはまだ続ける。


「旅の仲間、冒険者の仲間、私たち四人はいつも一緒でした。皆、それぞれがとても強かった、私たち四人が組めば倒せない者など無い、例え最強種と謳われるハイエルフであろうとも」


「シアさんストップ」


「……姫様?」


 やっぱり、聞いちゃ駄目だよね。過去形ばかりだし、きっとその三人の仲間の人はもう……



「シアさん大丈夫? いつもならそんな話、絶対してくれないよ?」


「ええ、分かっていますよ。今日ばかりは、姫様の問いに全てお答えしようかと」


 そういう事か……。ああもう! 何で自分を責めるのかな!!


「シアさん責任感じすぎだよ。体力の無さ過ぎた私が悪いんだよ?」


 私が疲れて熱を出した事のどこにシアさんの責任があるというんだろう?


「姫様を甘やかせていた私の責任、という事にもなりますよね」


 また表情を読んだ!?


「な、ならないんじゃないかなー? なる訳無いよ! もう!」


「ですよねー。あ、大きな声は出さないようにお願いしますね。まだ無理をしてはいけませんよ?」


 ふふふ。何となくだけどいつものシアさんに戻ってくれたかな。




「それでは、最後に一つだけ、姫様の質問にお答えしましょう、包み隠さず、どんな問いにもお答えします。それが私への罰。どうか、お願いします」


「ホントに変な方向にまじめなんだからシアさんは……。ちょっと待ってね」


 一つだけ、一つだけか……

 さっきの話は駄目だ、私が聞くには重過ぎる。多分私が耐えられない、鬱になっちゃうんじゃないかな? さっきは危なかった!!

 それならどうする? 冒険者時代の事? 二つ名のこと? 生まれ? 育ち? 恋愛?



 うん、これしかないね、やっぱり。シアさんもきっと、私と同じ……




「シアさんは……、私と同じ、転生者、なんだよね? 多分私と同じ世界の」




 以前は否定したが、間違いないだろう。さっきの魔法の話といい、シアさんも魔法に万能感を持っていたはずだ。

 私の表情から色々と先読みし、理解するのも、恐らく自分も経験してきた事だから、なんだろうと思う。

 冒険者ギルドの時もそうだ。私が興味本位で近づき、傷つくのを阻止するのも、シアさん自身が以前に同じように傷ついた事があるんだ、きっと。


 これで、もっと、いろんな話ができるようになると思う。嬉しいね。

 シアさんもこの質問が来ることが分かってて一つだけ、と提案してきたんじゃないのかな。











「違いますよ? あの、質問の意味がよく……。それでよかったんですか? 一つなら何でも答えたんですよ?」


「嘘だッ!!!」


 包み隠さず答えるって言ったのに!


「本当ですよ。私はこの世界生まれ、この世界育ちの、どこにでもいるエルフのメイドです。そうですね……、もし嘘を吐いていた、という確認が取れたら、ううむ……。あ、ラルフさんと結婚しましょうか」


 あ、これは絶対嘘ついてないや。だってラルフさんだしね。


 シアさんも、まさかこんな馬鹿な質問をされるとは思っても見なかったようだ。困惑気味に説明をしてくれる。



 しまったあああああああああああ! もったいない!! せっかくのチャンスが!!! でも、どこにでもいるメイドっていうのは嘘だ!




「ううう……、恥ずかしい、ずっとそうだって思い込んでたよ。今日ついに確信が持てたと思ったのにー!」


 やっぱりこの人は謎だよ!! 謎メイドだよ!!!


「ああ! 以前皆様と、姫様の前世について話したときの事ですか」


 やっと合点がいった、と、爽やかな笑顔になるシアさん。


「そうそう! あんな思わせぶりな言い方されたら誰だってそう思っちゃうよ……」


「あれは、本当にあれ以上の意味は無いですよ。ただ、誰にも話せない秘密など誰にでもあるものです、と、姫様の心を軽くしようという気持ちから出てしまった言葉で、全く深い意味はありませんでしたよ?」


「は、恥ずかしすぎる……。結構思い悩んでたのよ私。それが、本人ですら忘れていた、ただの気休めの言葉だったなんて……」


「もしそうだったとしたら、以前の姫様のいた世界の事など聞きませんよ。……あ!」


「あ、それもそうか……。私って、ほんとバカ……」


「申し訳ありません! いくら徹夜で疲れていたとはいえ、誰も聞かないと決めた事をこの私が聞いてしまうなんて!」


 やっぱり徹夜してたよこの人は。


「それじゃ、罰としてもう一つ質問、とか」


「それは駄目です。一つだけ、と約束しましたからね。罰は他にお願いします」


 罰を受ける人の態度じゃないよ! ええい! 何をさせてやろうか!! 何か、何か無いかな……




 ああもう! 決めた!!


「シアさん今から一緒に寝よ! それが罰ね!」


「え? ご褒美ですか?」


「やっぱり駄目!!!」


「それでは早速」


「脱いじゃ駄目! うわ! せめて下着は付けたままで! ぜ、全裸!? !? 明かり消さないで!! ちょ、まっ! きゃーーー!!!」


「姫様可愛い……。大声はいけませんよ? お体に障ります。私は、寝る時は全裸派なだけですからご安心ください。さすがに女性と、どうのこうの……、という趣味はありませんので」


「先に言ってよ! 十歳で初体験かと思っちゃったじゃない。ああ、まだドキドキしてる……」


「姫様が望むのであれば、精一杯お世話させていただく所存ですが? ……ごくり」


「ひい! 望みません!!! シアさんホントにそっちの趣味の人じゃないよね……?」


「おやすみなさい、可愛らしい姫様」


「答えてよ! ……あれ? シアさーん? こ、これって、先に寝ちゃったらアウト!?」






 当たり前の事だが、特に何もされず、二人してお昼過ぎまでぐっすり寝てしまった。


 目が覚めたとき、全裸のシアさんに抱き枕にされていて、つい叫んでしまい、また一悶着あったが、割愛する。





今までで最高の文字数? ちょっと長かったでしょうか?

人物同士の会話がメインなので、そこまで長くは感じないと思うのですが……



補足。シアさんの下着の色は何故か分からなかったようです。


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