その40
うーん、今日は楽しかった! 新しいお友達? が二人もできたし、冒険者の事を色々と知る事もできた。
後は気になった時にシアさんに聞けばいいし、またギルドへ行ってミランさんに会って聞くのもいい。
お菓子もいっぱい買ってもらえたし、っとこれは別にいいか。
駄目だ口がにんまりしてしまう。本当に楽しい、素晴らしい一日だった。
「そんなにお菓子買ってもらったのが嬉しいんだこの子……、可愛いわ」
「違うよ! まあ、それも多分に含まれるんだけどね」
兄様はラルフさんと町に残るらしく、私たち三人はのんびりと歩いて帰っている。
多分エルフに求婚する、という意味を教えているんだろう。
「すみません。私がお二人を抱えて飛べればよかったんですが……」
「荷物もあるし、しょうがないわよ。疲れたら近くの家で休めばいいから大丈夫よ。気にしないで、シア」
近くの家って……
ちょっと疲れたから休ませてもらうわー、と、ズカズカ上がり込んで行くんだろうか。
確かにそれもありかな。みんな家族だし、嫌な顔をされるっていう事は想像もできない。
「ごめんね? つい嬉しすぎていっぱい買っちゃって……」
「いえ、姫様の久しぶりの……、? ほぼ初めての我侭……? あれは我侭ではないかも……。おっと失礼しました。店ごと買い占めてもよかったんですよ?」
私、我侭言ったの初めてなのか……? いやいやまさかそんな。
荷物を持っているのはシアさんだけなんだけど、ちょっと買いすぎたかな、抱えるように持っている。
何度も、少しは持つよ、って言ってはいるんだけど、シアさんが私たちに荷物を持たせる訳が無いよね……
ちなみに兄様には、この倍くらいの量を預かってもらっている。か、買いすぎた!
「ううう……。みんな止めてくれてもいいのに……」
お菓子の山を見てテンションが上がりすぎた私は、あれも欲しい、これも欲しい、と、全く止まる気配も無く、この量になってしまったのだ。
ああ、確かに我侭じゃないや。また全力で甘やかされただけだった。
シアさんから見ると、私って我侭なんて言った事が無い様に見えるのかな。いつも言ってる気がするんだけどなー……
「姫様?」
私の異変にシアさんが真っ先に気づく。
「シラユキ? 大丈夫? ああ、どうしよう。疲れちゃった?」
情けない事に、一時間と歩けずに疲れきって立ち止まってしまった。
家まで後どれくらいなんだろう……
「ご、ごめんね二人とも、私ひ弱で……。今どれくらいまで来たの?」
「うーん。まだ半分も来てないのよね。シアはそのまま荷物お願い。私が背負っていくわ」
「え? 姉様も疲れてるよね? 大丈夫、少し休めばまた歩けるよ」
そう言ってはみたものの、多分無理だ。少し歩いては休憩、を繰り返していたら、家に着く頃には真っ暗になってしまいそうだ。
「私がこの程度で疲れるわけ……、あ! そっか、ごめん、そうだったわね」
な、なんだろ? 最近、こうやって急に納得される事が多い気がする。
「私、魔法使って歩いてるのよ、体に負担をかけないように。長時間歩く時はさすがに、ね」
「そ、そんな魔法があるんだ……。先に教えて欲しかったー……」
そういう事か! やけに二人ともスイスイ歩いて行ってると思ったよ……
しかし、魔法はそんな事もできるのか、便利だなー
「でもごめんね? これは成人しないと使っちゃいけないの。シラユキはまだ子供、まだ体が育ちきってないからね。使えそうでも絶対に使っちゃ駄目よ?」
小さい頃から魔法に頼りすぎると、大人になっても、必要な筋肉が作られていなかったりするんだろう。それはちょっと怖いね。
「うん。やっぱり二人とも凄いね。私、駄目駄目だ……、もっと運動もしなきゃね」
このままでは、魔法に頼ってるわけでもないのに、大人になってもひ弱なままな気がしてきた。
「いいから、今日は私に甘えなさい。お姉ちゃん命令よ」
おっと、お姉ちゃん命令だ。これは逆らえないね。ふふふ。
「うん! ありがとうユー姉様! 大好き!!」
「か、可愛い……。まったく、急に元気になっちゃって、もう……」
姉様の背中にもたれかかって、首に手を回す。
いつも思うんだけど、姉様も、みんなも、何でこんなにいい匂いなんだろう……
「し、幸せ……。抱っこもいいけどオンブもいいものね。この密着感が何とも言えないわ」
「う、羨ましい……。帰ったら私にもお願いします、姫様」
「ユー姉様、何となくその発言はやーらしいよ」
兄様といつも一緒にいるからね、伝染ったんだろう。
「そ、そう? 気をつけなきゃ……。それにしても……、毎回思うんだけどさ、シラユキって軽すぎない? ちゃんと食べてる? 今さら不安になってきちゃったわお姉ちゃんは」
「うん? 食べてるよ? 私ってそんなに軽い?」
「うんうん。ちょーっと軽すぎるんじゃないかしらこれは」
「元々姫様は小食ですし、運動も散歩程度しかされていないですから。通常の十歳頃のエルフと比べると一回り以上小さいですよね。だ…そ……い…」
やぱり小さいよね私って。
周りに同年代の子供がいないからさ、そういうの全く分からないのよね。
ん?
「シアさん最後、何か言った?」
「いいえ? 何か聞こえました?」
私のログには何も無いな、気のせいか。
そのまましばらく、他愛も無いおしゃべりを続けながら歩いていた。
そろそろ半分くらい? 姉様とシアさんは全然平気っぽい。魔法の補助があるとはいえ凄いな、二人とも荷物持ってるのにね。
「うん、決めた。明日からもっと魔法の練習、しましょ? シラユキはもっと運動もしなきゃね」
魔法の練習かー……
最近はもう、明かりの魔法さえあればいいや的な感じなんだよね。
「そう、ですね。姫様に魔法、というのが、実はかなり不安だったりするんですが」
「そうよね、この子ホントに何でもできちゃいそうだからね……。とりあえず基礎の基礎からやり直しましょうか」
「はい。私も考えておきます。厳しくなく、きつくもなく、それでいて存分に甘やかせる事のできる練習メニューを」
「お願いね。お父様お母様には私から言っておくわ」
スルーかい! 甘やかす気満々だよこの二人は!
体力作りのついでに魔法の練習くらいの考えでいいか……
「少しくらい厳しくしてくれた方がいいのに……」
もう私完全に甘え癖がついちゃってるよ……。
少し厳しくされたら泣き出しそうだ。これはいけない!
「厳しく? 無理無理。それでシラユキが泣いちゃったりしたら、私、死んじゃうかも」
「無理です。姫様に厳しく当たるくらいなら死を選びます」
「なんで二人とも死んじゃうの!?」
ええい、この過保護家族め。
ま、いっか。基礎の基礎からゆっくりと、甘やかされながら頑張ろっと。
まだ十一歳までですら何ヶ月もあるんだ、五十歳、百歳なんて想像もできない長さだよ。
ゆっくりだらだらやっていこうー
「ふわ……」
おっと、欠伸が。
初めて長時間歩き回った疲れと、姉様の背中という安心で眠気が凄い。でも自分だけ眠るわけには……
「あ、眠い? 寝ちゃっていいわよ」
「着いたら起こ、いえ、着替えなど全て私にお任せを。ぐっすりと眠って頂いて結構ですよ」
「う、うーん……。ごめんなふぁいふたりともー、おやふみ……」
しかしあっという間に限界だ。二人には後で改めて謝ろう。
「く、くすぐったい! 息が! シラユキの吐息が首に!」
「ユーフェネリア様代わってください! お願いします!! お願いします!!!」
「何その真剣な目!? だ、駄目よ! 落ち着きなさい!!!」
うるさいなー二人とも。静かに寝かせてー……
二度目の町訪問は泣き出すことなく無事終了。
次話からはまた魔法の練習になる、かも?