その36
「外はもういいだろ。中入ろうぜ」
確かにそうだね。
色々な依頼があって見てて面白いのだけど、こっちはギルドとあまり関係が無かったんだったね。
「もう十分だろ。他行こうぜ? なあシラユキ」
「中見てみたーい」
折角ここまで来たんだ、少しくらい見て行きたい。
「うう……。実は私も中に入るのは初めてなのよね」
姉様も入ったことは無いみたいだ。ちょっと緊張してるね。
当たり前か。姉様だって王族だよ、お姫様だよ。冒険者ギルドに来たがるお姫様は、世界で私一人くらいしかいないよ……
「俺は何度かあるが……。そうだな、見た目は酒場だな」
「あ、ルー兄様言わないで!」
「おっと。ホントに楽しみなんだな……」
危ない危ない。自分で見て、知る事ができる物が目の前にあるのに、直前で説明されてしまうところだった。
「それでは、姫様、お手を」
「うん。やっぱり手繋がないと駄目なんだ?」
シアさんと手を繋ぐ。私と手繋ぐとシアさん凄く嬉しそうなんだよね。もっと妹みたいに扱ってくれてもいいんだけどね。
「駄目よ? 何があるか分からないんだから」
ここだって町の施設のうちの一つなんでしょ? 大丈夫だと思うんだけどなあ……
「そうだぞ? 何か珍しい物見かけたら、走って見に行くに決まってるからな」
信用が無いだけだった!
しかしさすがみんな、私の事をよく分かっていらっしゃる。絶対何かあったら走り寄って行くよ私……
「その辺は見たままの子供なんだな。好奇心旺盛ってやつか」
ラルフさんも笑う。冒険者がみんなこんな人たちなら、話しやすくていいんだけど……
ちょっと怖いが、この三人がいれば大丈夫だ、問題ない。
ラルフさんは数には含まれない。ごめんねー
中に入ってくるりと一回し。なるほど、酒場だね。
広いスペースに複数の丸テーブルと椅子、奥にはカウンター。カウンターの中には大きな棚と、奥へ続いているのか、ドアが一つ。棚にはお酒などの代わりに書類がある。
壁には、外にあったような大きなボードが一つあるね。あれがギルド本来の依頼の掲示板か。外の物に比べると、大きさはこっちの方が大きいが、貼ってある紙の数が少ないな……
テーブルには、何組かの冒険者の人たちが座って、何かを飲みながら話をしている。人間と獣人の人しかいないね、女性も少ないが、いる。飲んでいる物はお酒だろうか?
うん? やっぱりみんな全体的に、服装が黒っぽい。流行ってる、訳じゃないよね。
見渡してみると、殆ど黒一色。何人かは、赤だったり白だったり、他の色の人もいるんだが。なにか決まりでもあるのかな?
「FからDランクまでの冒険者は、服装を黒系統で統一しなければならないんですよ。自由な色の服装が許されるのはCランク以上必要なんです。さすがに私生活では自由ですが、その場合もいくつかの決まりがありますね。こちらの説明は必要ないでしょう」
シアさんが答えてくれる。やっぱり決まりがあったんだね。……?
「あれ? 私口に出してた? また顔に出てたかな……」
「メイドですので」
「メイドさんって心読めるのか!?」
「わ! ラルフさんまた大声!」
「悪い! ついついツッコミ入れちまうんだよ……」
ああ! 視線が!! 何だようるせぇなあ、っていう視線が!!!
エルフの冒険者か? 珍しいな。
違うだろよく見ろ。まだ子供じゃねえか。
メイド? どっかのいいとこのお坊ちゃんたちかね?
それがこんな所に何の用があるってんだ? 依頼か?
可愛いなあの子……
うっわ、引くわ。アンタそんな趣味あったの? ちょっと今後の付き合いを考えなきゃ。
ちっげぇよ! 青髪の子だって。エルフだからって可愛すぎるだろあれ。
おお! 言われて見ればそうだな。メイドの方もかなり美人じゃね?
あの白い髪の小さい子も将来が楽しみだよな。何か反則的な可愛さじゃん、あれ。
どこのお姫様よあれ……。だ、抱きしめに行きたいんだけど、大丈夫かな?
お? 一緒に入って来たのってラルフの奴じゃねーか! よし! おい、行くぞ、美人エルフとお近づきに……
「よし、死にたい奴から前に出ろ」
兄様怖いよ!!!
確かにちょっと、いや、かなり怖いんだけどさ。兄様じゃないよ周りの人たちだよ。
私と、特に姉様に集まる視線のせいで、兄様はもう切れる直前だ。
「ストップストーップ!! 落ち着けルード! お前らも来るな!! この辺り一体が更地に変えられちまう!!!」
更地? おいおい大物かよ。何モンだ?
馬鹿かお前ら、王族だぞあの青髪二人。ハイエルフだ。
王族? ハイエルフ!? ホントにお姫様!?
マジか! よく知ってんなアンタ。
ラルフ! お前何て連中を連れて来るんだよ!?
「はいはい、悪い悪い。俺も止めたんだけどなー」
ちょっと前にギルドから布告があったろ? メイドを連れた身なりのいいエルフには絶対に話しかけるなっつー奴。
ああ、あったなそんな事も。もうだいぶ前の話じゃないか? それ。
あったあった。確かC以上の連中は全員缶詰だったんだっけ?
ああ。何の説明もなしに、町入ってすぐ強制的に宿に押し込められたな俺。
そうそう。普段暇してるギルド員連中がすっげえ顔して焦ってんの。あれは笑ったわ。
な、撫でたーい! 抱きしめたーい!!
王族かー。くっそ、可愛いな。何とかお近づきに……
「やめて!!!」
あ! ちょっと面白くなってきてたのに! 誰よ止めたのは?
カウンターの中から一人の女性が出て来て、こちらに駆け足でやってきた。
「またいきなり連れて来て! 事前に連絡入れなさいっていつも言ってるでしょう! 今日はギルド長もいないのに……。何かあったら私の責任!?」
パタパタとこちらにやってきたのは、見た目二十歳くらいの大人のエルフ。ギルドの受付嬢?
背はシアさんと姉様より少し高いくらいかな? 薄いオレンジ色の肩まである髪がとても綺麗。
美人だが、可愛いという言葉の方が合っているね。
「ああ、悪い、ミランさん。こいつらがどうしてもギルドに行ってみたいってな?」
ミランさん? 見た目通り可愛らしい名前だな……。ふむ、胸は普通サイズか。よし。
「王族の方をこいつら!? いい加減にしなさい毎回毎回!!!」
うおう! びっくりした! 外だとこういう反応が普通なんだ?
「いや、いいよ、ミラン。気にしてない。だってラルフだしな」
「おう! 俺とお前の仲だしな!」
やっぱり兄様とラルフさんはかなり仲がいいみたいだね。親友より悪友? そんな感じだ。
「どうしてこんな奴がルーディン様のご友人に……」
「ラルフさん意外に評価低いんだね」
ホントに意外だ。社交的で明るい性格は好かれると思うんだが。
「俺って、何でか知らないけどエルフの女の人に嫌われてんだよ。見た目はそんな悪く無いよなぁ」
「どうなんだろう? 私、人間の人と話すのってラルフさんが初めてですし」
「そこまででお願いします。姫様には少し早い内容が含まれますので」
「え? やっぱり俺なんかあるのか!?」
少し早い? でも、シアさんが言う事だ、これ以上はやめておこう。
「姫様……? そちらの方はユーフェネリア様ですよね?」
「ええ。はじめまして、ユーフェネリアよ。貴女はミラン、でいいのかしら?」
姉様が王族っぽい! これは貴重なシーンだ、しっかりと見ておいて、後でからかおう。多分母様の真似だよね?
「は、はい! はじめまして! ミーラン・スケイロといいます! こっここ、ここで受付件冒険者として働いています!!」
ミランさんガッチガチだね。
そうよ! これが普通の反応なのよ! ラルフさんも自然すぎて、この世界王族とか意味ないんじゃね? とか思い始めてたよ!
「そ、そちらのお小さい方は……、白い髪の……? !? 世界一愛らしい姫様!?」
「何その恥ずかしい呼び名!?」
「すすすすすすみません!! 王族の方からの通達にそう書かれていたもので……」
父様か! 何書いてるのよもう!!!
「すみませんすみませんごめんなさい!!! ああ……、私もここまでか……。結婚したかったな……」
不機嫌になった私に勘違いしたのか、盛大に謝り、そして死の覚悟をしてしまった様だ。
や、やっぱり面白いなこの人……
「相変わらず大袈裟だなあ外の連中は。この程度の事で誰も怒らないって」
「あ、うん! 大丈夫、怒ってないですよ?」
「シラユキが世界一愛らしいのは事実だし、いいじゃない」
よくないよ!
おっとと、私も自己紹介しなきゃ。
「はじめまして、シラユキ・リーフエンドです。今日は急に来ちゃってごめんなさい」
「いえいえいえいえいいえ!! ど! ど、どうぞ!! 毎日でもお越しください!!!」
ミランさんの反応は新鮮で面白いな……。慣れられるまで毎日来るものいいかもしれない。
「ミランさんって、ルード連れて来る度こんな反応するんだよ。でも今日は一段と面白いな」
「こいつは早く死ねばいいのに……」
「なんという辛辣な言葉!!」
「王族の方たちの前で大声出さない! ランク下げるわよ!!」
「職権乱用!? 公私混同!? ミランさんも叫んでるじゃん!!!」
あ! これか! ツッコミが嫌われるのか!? まさかね……
一応王族らしく大人しくしておいた方がいいかな?
新キャラが一人だけかと思ったか? もう一人いたんだよ!!
この小説初の常識人が登場? いやいや、まさか……




