その34
「装備一式預けてきたけど……、俺、殺されないよね?」
「短い付き合いだったなラルフ」
「何cm間隔で刻みましょうか?」
「駄目よ、シア。シラユキに血は見せたくないもの。刃物は無しでね?」
何で三人ともこの人にこんなに冷たいんだろう。姉様の事を愛称で呼んでるし、結構仲の良い友達なんじゃないのかな?
ああ、友達としての冗談か。シアさんはシアさんだからしょうがないね。
「だ、誰も止めてくれる人がいない!? あ、シラユキちゃんだっけ? 助けて!!」
「え? わ、私ですか?」
いきなり話振らないでよ……。でも、兄様たちのお友達っぽいし、普通に話せるかな? 私何故か、エルフ以外の種族は何となく怖いんだけど。
「え、と……、ごめんなさい!」
「この世に神はいないのか!?」
ああ、この人面白いわ。大丈夫そうだ。
装備一式を預けてきたラルフさん、だっけ? 黒っぽい上下の服で、見た目は普通の町の人のようだ。
「へー、妹なのか。おっと、俺はラルフアード、見ての通り冒険者だ、年は十九。よろしくな、シラユキちゃん」
「姫様に気安く話しかけないでもらえますか? 病気が移るので」
「何の病気!? 話しただけで移るの!?」
「シアさん話が続かないよー」
「すみません、姫様」
シアさんピリピリしてるなー……
見てて面白いからいいんだけど、もう少し話した後でね。
「は、はじめまして。えと、シラユキ・リーフエンド、十歳です。よろしくお願いします、ラル、ファードさん?」
「おう、よろしく! ラルフアード、な。ラルフでいいよ」
ファーじゃなくてフアーか。ラルフさんでいいね。
「十歳か、何で今まで教えてくれなかったんだ?」
「そりゃ、お前に会わせたくなかったからに決まってるだろ? 何当たり前な事聞いてるんだよお前は」
「当たり前なのか!? あれ? 俺達親友じゃね?」
「親友だからこそ、っていうのもあるかもな」
親友、兄様の親友かー
他の種族のお友達いるんだ。私、考えた事もなかったよ。
「そうだ。おい、ラルフ。ミートパイ追加で頼むからお前も食え」
「お? 奢りか? それならありがたく食わせてもらうが」
「お前たちはまだ食べれるか? この残ったの頼むよ、甘くってさ」
兄様が頼んだのはカスタードクリームのパイ。甘い物はそこまで好きじゃないのに、多分私に少しくれるつもりで頼んだんだろう。このさりげない配慮、やるな。
「いいわよ。私たちは三人で二個だから。シアもいつの間にか結構食べてるみたいだし」
ホントにいつの間にかだよ。多分、一秒にも満たないよそ見の間に、食べてしまっていたんだろう。なにそれこわい。
「こっちのメイドさんも初めて会うよな? おい、ルード、紹介しろよ」
「いいけど、死ぬぞ?」
「紹介だけで死ぬ覚悟!?」
いいわー、この人いいわー。
今まで周りにいなかったタイプの人だ。普通にいい人、好青年っぽい。
「シラユキ以外はぶっちゃけ有象無象にしか見てないからな。シラユキがいなかったらさっきの求婚で、よくて即死、悪いと半殺しだったな」
よくて即死!?
「よくて即死!? 即死の方がいいのかよ!!」
ツッコミしなくていいのは楽でいいわ。しかし、シアさんの紹介が酷いな。でも納得しちゃうんだけど……
「はぁ……。バレンシア、と申します、姓はありません。姫様お付のメイドをさせて頂いています。よろしくして頂く必要は一切ありません。次に私の前に出たら肉片になるつもりでどうぞお付き合いください」
「もっと遠まわしに言ってあげて!!! 次に会ったら肉片って、会ったら死んじゃうよ!?」
「!?」
うん? ラルフさんが私見てびっくりしてる? あ、急に大声出しちゃったからだ。恥ずかしい……
「あ、あう……」
「この子ツッコミできるのかっ!?」
「えっ」
「姫様に向かって叫ばないで下さい。抉りますよ?」
「どこを!?」「どこを!?」
見事にハモッた。
「いやー、森のエルフにも、ちゃんとツッコミできる子がいたんだな。会う人会う人全員ボケだからな」
「そうなんですよね。あ、でも、ちゃんと突っ込める人もいますよ? ボケに対して人数がかなり少ないですけど」
「この町に住んでる人はそうでもないんだけどな? 森から出てくる人ってみんなボケだったんだよ。ボケにボケを重ねて突っ込まないまま話進めるんだよ。もう、辛くて辛くてさ」
「あー、分かります分かります。でも私も結構慣れてきちゃったんですよね。慣れって怖いですよね……」
パイをつつきながら話が進む。この人は、アレだ、私と同じタイプの人と見た。
「駄目だぞツッコミを放棄しちゃ! それは負けだ! 逃げだ!! シラユキちゃんが、森の中のエルフに、ツッコミの役割の大切さを皆に説くんだ!!」
「あ、それは無理です」
「無理なのかよ!? 即答か!!」
「私調べによると、国内のボケ担当エルフの数は、全体の97%にも上ります」
「97%……だと……」
「ええ。もう、私一人の手には負えないんです……」
「そんな……。外の人間の俺からは頑張れという言葉しか贈れない……、負けちゃ、駄目だ……」
「分かっています。例え無理だと分かっていても……、ううう……」
「あれ? どうしたシラユキちゃん?」
急に黙り込んでしまった私を不思議に思い、聞いてくるラルフさん。
は、話しすぎた! 変な事言いまくってた! 途中からついノリノリに……
「正気に戻りましたね。饒舌な姫様も大変可愛らしかったのですが、残念です」
「お、終わったか? よく分からん話だったが、こんなにペラペラと話すシラユキは珍しいな」
「敬語で話すのも久しぶりじゃない? 最近はもう誰にだって普通に話してたし」
三人とも止めてよ! まさかシアさんまでもが、初めて会う男の人との会話を止めようとしないとは。
「多分、久しぶりに同種の人に会って、一時的にテンションが上がったんだろ」
「この子が、初めて会う人とこんなに話すなんて、凄い事なのよ? ラルフは運がいいわ」
「そうなのか……。黙り込んじゃったな、結構恥ずかしがり屋なのか?」
「ああ。最初はメイドたちとも話せなかったんだよ」
「そうそう。ガチガチに固まって何故か敬語で話してたのよね。私たちの後ろに常にくっ付いててさ」
「懐かしいですね。私が初めて姫様とお逢いして、早八年、もうすぐ九年になりますか」
「シアが来たのって二歳の頃だっけ? ほんの八年前の事なのに懐かしく感じるわね」
やめて! やめてください! 人の小さい頃の話とかやめて!!! 今も小さいけどさ!
うおおおお……。止める、止めるんだ! 話を逸らすんだ! すり替えろ!!
いい話題はないか? ……ラルフさん、ラルフさんは、冒険者! これで行こう!
「あ、あの……。ラルフさんは冒険者の人、なんですよね?」
「詳しく聞きたいなそれ、主にメイドさんのことについて、っと、何かな? 一応冒険者だぞ?」
危ない! 話をもっと掘り下げられるところだった!!
「冒険者の人って、どんなお仕事してるんですか?」
冒険者の人たちは実際どんなお仕事をしてるんだろう。これはシアさんからもまだ聞いてないし、丁度いい話題だろう。
「仕事か、うーん……、色々だなぁ」
「聞かない方がいいかと、姫様、また憧れを壊しますよ?」
「あ、もしかして凄く酷いお仕事とかなの? ご、ごめんなさい……」
そ、そうだよね、危ない仕事ばかりなんだよね。それこそ毎日人が死んでいくような過酷な……
「おいシア、聞かせてやれよ。また勘違いしてるぞこいつ」
「は、はい……。申し訳ありません、姫様……」
「ラルフ、最近どんな仕事したよ?」
わわわ! ちょっと心の準備をさせて欲しいな……
「あん? あーっと、昨日は芋掘りだな。その前は薬草採りの護衛、という名の荷物持ち、だな」
芋掘りと荷物持ち? 一応護衛だけど荷物持ちが主ってこと? え? お芋?
「お? またいい顔してるな。よくやったラルフ、ジュースを奢ってやろう」
!? い、今のセリフを素で聞く事になるとは! さすが異世界だ!!
おっと、現実逃避はやめよう。
「お芋堀り、ですか? 魔物と戦ったりするんじゃ?」
「勿論そういった依頼もありますよ。ですが、人一人にこなせる様な簡単な物ではないんです。どんなに難易度の低い討伐依頼でも、複数人数で当たるのが基本なんですよ?」
「そうそう、このメイドさんはよく分かってるんだな。魔物の討伐依頼を受けるのなんて、多くても月に一度あるか無いか、くらいさ」
「一般のその他大勢の冒険者はその様な感じですね。大抵は町の住民からの雑務依頼をする毎日ですよ。中には、討伐依頼をメインとして活動している集団もいるにはいます、クランやチームなどと呼ばれていますね。ですが、この町には一組もいない様です」
「ちなみに俺のランクはD。一人で討伐依頼なんて受けさせてももらえないさ」
「ストレイドッグの討伐依頼でさえ単独で受けるのは最低でもCランク以上からです。ああ、ラルフさん? 貴方ならCランクも夢ではないと思いますよ?」
「マジか!? ってこのメイドさん何者なんだ?」
ストレイドッグ? 野良犬? 野犬か! 群れの規模や体の大きさが違うんだろうけど、犬かー……
そ、そうだよね、失敗したら死んじゃうかもしれないのに、ポンポン依頼振り分けてたらあっという間に死体の山だよ。
「姫様の夢を壊すようで心苦しいのですが、冒険者より何でも屋、という名が一番近いかと」
「あ、スルーするんだ? メイドさんやっぱり俺の事嫌い?」




