その332
お久しぶりなのかよく分かりません!
「こっここここれあげる!! コレットのおっぱいあげるから許して!!!」
「きゃっ!! ちょ、や、やめっ!」
コレットさんの背後から両手でワシッと、その大きな胸を掴み上げてどうだどうだと見せ付けてきた。
茫然自失状態だったハンナさんが、意識を取り戻すと即座に行動したのがこれである。何という判断力と決断力、それに行動力。
ふむふむ? そうきましたか……。ハンナさん、あなたの全てを許しましょう!!
という訳で当事者の私にもよく分からなかったいざこざは全部解決、慌ただしかった場も落ち着いたところで席をいつものテーブルへ。改めてお話を再開しようじゃないか。再開と言っても実際は始まってすらいなかったのだけど……。
まだ納得できていない、不安そうなコレットさんに、ハンナさんの無礼? な振る舞いに対しては何とも思っていないよ、とさりげなく言っておくのも忘れない。しかし貰ったモノはもう私の物、絶対に返しませんが! ええ、誰が何と言おうと絶対に!!
まず私がいつもの椅子に座り、シアさんがその左後ろ辺りに立つ。シアさんが少し後ろに下がってしまっているのは、何故かハンナさんが私の左隣、すぐ手が届くくらいの距離で座っているからだ。そして右側にはミランさんと、正面にコレットさんという配置。
ちなみにミランさんは受付をソニアさんと交代し、続けて参加となりました。これは嬉しい誤算。
それではまずは自己紹介。私は軽く名前だけ、シアさんはただのメイドさんだからと拒否、ミランさんは元から必要なしとさくさく進んでいく。
「ハンナ・ハンミ・ハンムルソンでーす! 改めてよろしくぅ!!」
「ハンナァ!! あ、すみません! ええと、コレット・カース、です。は、初めまして……。あの、その……」
「ふふ、大丈夫大丈夫。コレットさんも普通に話していいからねー」
「はい! あ、ありがとうございます!」
やっぱりまだまだ納得のいってなかったコレットさんに、もう一度念を押して心配なしと伝えておく。私の正体を知ってからも態度の変わらないハンナさんとは正反対、真面目で苦労人気質な人なんだろう。しみじみ。何となくだけどカイナさんを思い浮かべてしまう。
しかしハンナさんの名前は凄く語呂がいいと言うか音が聞こえいいと言うか……。とにかくいい名前だと思う。何となくだけど腕が伸びる人型機動兵器を思い浮かべてしまう。
「本当にびっくりですよ。町の人の話とか、ミーランさんからシラユキ様のお噂は聞いていたんですけど、こんなに簡単にお会いしてしまうなんて思ってもいなくて」
「そうそうそれそれ! だから私もシラユキちゃんがシラユキちゃん様だって気付けなかったんだってば!! つまりミーランさんのせい!」
「は?」
「ひい! 嘘です冗談です全部私のせいでした!! 馬鹿でごめんなさい!!」
キラリと光るミランさんの瞳と鋭い眼差し。自由人のハンナさんもさすがに逆らえないらしい。
結構忘れがちだけど、ミランさんは怒ると普通に怖い人なので怒らせるのはやめましょう。私との約束だ!
軽い名前だけの自己紹介の後は仲良くスーパー雑談タイム。森の住人のような気安い話し方のハンナさんのおかげでこちらもスムーズに進んでいく。それに伴ってコレットさんの緊張も少しずつ解けていっているみたいだった。
ハンナさんは元よりそうだが、やはりコレットさんもリーフエンドの管理圏外出身とは言え同じ種族、王族相手でも気持ち心が近い感じがする。他の種族だとこう簡単にはいかないだろう。まあ、厳密には限りなく近い別種族的な何かだと思うんだけど。
「そういえばさっきコレットさんが言ってた私の噂って、例えばどんなのがあるの? リーフエンドの外だとどんな風に言われてるのか気になっちゃって」
さてここで一つ話題を提供。コレットさんが何やら色々とおかしな事を言っていたからね。
私はもう、初対面の人でも相手がエルフならば普通に丁寧語抜きで話している。実践するのはこの二人が初めてだから少しドキドキしてしまっているが、特に気にした様子は見えないので一先ずは安心と言ったところ。子供は子供らしくが一番なのだ、多分。
「え? は、はい! ええとですね、まずはとにかくどこででも聞くのが、小さくて可愛らしい、ですね」
くう! 自分で聞いておきながら何だけど、やっぱりあんまり聞きたくなかった! 五十歳になっても小さいままだから確かに一番に噂されてそうだと思ってはいたけど……。
「秋祭りの後とかで、シラユキ様を見て来た! って自慢する人は結構いるんですよ。その人たち皆が皆これくらいって言うんです」
手の平を床に向け、左右に軽く振って見せてくれた。その高さはまさに私の身長と同じくらい。こう客観的に自分の小ささを見せつけられると少しだけ切なくなってしまう。ぐぬぬ。
ううむ、知らない所で私の情報が拡散、さらに共有されてしまっている……?
自慢をしている事から察するに人気がある事は間違いないんだろう。これはちょっと嬉しいやら恥ずかしいやら複雑な気分。
「そんで、揃いも揃って続く言葉が可愛い可愛いってね! 秋祭りの時は特に、大好きなお母さんと一緒だから笑顔が可愛すぎるって大評判!! シラユキ様が笑顔でいらっしゃる間は絶対に戦争なんて起こらないだろう、なんて言葉もあるくらいなんだから!」
最後はキリッとした表情、さらには語り口調で言われてしまった。
はわああああああああああ! やめやめやめて!! 何それ恥ずかしいいいいいいいいい!!!
「わわ、私の噂の話は終わりね! ううう……」
聞いてしまった事を激しく後悔。本当に聞くんじゃなかった……。こ、この話題は早くも終了ですね。
「あっはは! 照れてる照れてるかっわいい!! ほーらほっぺ突っついちゃ……う?」
「う?」
照れに照れて恥ずかしがっている私をさらにからかおうとしたのか、人差し指を立ててこちらに腕を伸ばしてきたハンナさん。しかしいつまで待てども触れられた感触はやってこない。
不思議に思ってそちらを見ると、微動だにしないハンナさんの右腕が目に入った。よく見ると誰かに手首の辺りをがっしりと掴まれている。なるほど突つかれない訳だ。
ハンナさんの表情は笑顔、なのだけれど、笑顔のまま固まってしまっていると言った方が正しいのかもしれない。
そして私とハンナさんは仲良く、ほぼ同時にその腕の先を目で辿る。ハンナさんの手首を掴んで止めていたのは、言うまでもなくシアさんその人であった。ガクブル。
しかしシアさんは、目を伏せ何度か首を横に振ってから手を放し、何事もなかったかの様に待機状態へと戻ってしまった。どうやら初犯はまだセーフらしい。
「さ、さすがに馴れ馴れしすぎたかな? あはは……」
所在なさげだった右手の人差し指で、ポリポリと頬を軽く掻くハンナさん。誰のせいとも言えないが何とも言えない微妙な空気になってしまった……。
「め、メイドさんを、護衛のメイドさんを怒らせるのが一番危ないって町に入る前から、入った後からもさんっ! ざん! 言われてたじゃない! ホント何してんのよハンナ! 死にたいの!?」
「いやいやいやいや! こんなんで怒るとは思わなかったし! シラユキちゃん様可愛いし! ほっぺプニプニしてそうだし!!」
確かに私のほっぺは、一度触れると病み付きになる極上の品だと一部の方々から大好評頂いています。特にミーネさんは一日中でも触っていられるとか、むしろ私の頬をこねくり回す仕事に就きたいだのなんだの言うくらいハマってしまっているね。なにそれこわい。私もメイドさんズのおっぱいを揉みまくるお仕事に……、こほん。なんでもありません。
「と言うか今更だけどそのシラユキちゃん様って何よ!? 失礼でしょうが!」
「ああん? コレットが様を付けろって言ったんじゃんか!!」
「私のせい!? あ、ああ、確かに私のせいだわ……。ハンナの馬鹿さ加減を考えたらそうなると思うべきだったわ……」
「なぁによそれー。シラユキちゃん様も駄目なら駄目って言うってば」
二人とも一応こそこそと話してるつもりだと思うけど丸聞こえです! 目の前だし当たり前だけどね。
本当に親友同士、分かり合っている仲だという感じが伝わってきて、こちらも思わず嬉し楽しくなってきてしまう。
「ふふ。ちゃん様でいいよー。そうやって呼ぶ人も結構いるし。私はちゃん付けのままでも呼び捨てでも全然気にしないよ?」
実はちゃん様呼びをしてくる人は、森の中限定だけど何人もいる。私が五十歳になっても様付けが似合わない子供のままだからというのが理由だね。個人的には結構好きな呼ばれ方だったりもする。
「あ、そう? それならどうしよっかなー? うん! シラユキちゃん様で! やっぱりお姫様だもんねー。ふふふ」
「わ、私は普通にシラユキ様で……。すみません」
どうしてそこで謝っちゃうんですかねえ……。まだ出会った初日だし仕方がないか。
「話を少し戻しますけどね、そちらのバレ……、んんっ! そちらのメイドさんだけは絶対に怒らせちゃ駄目ですよ? 冗談でもフリでも何でもなく真面目なお願いですからね。他にも護衛として付いて来る方はええと、モーニングスターを振り回す小柄で可愛いメイドさんと、怖いくらい綺麗な、でも常に無表情なメイドさんがいるんですけど、そのお二人ならそこまでは……、いえ、どちらからも絶対に怒りを買わない様に気を付けてください」
本当に真剣そのものと言った面持ちで語るミランさん。
ミランさんにとっては、キャロルさんもクレアさんもシアさんと同じ要注意人物であったか……。後でしっかりと言い付けよう。くふふ。
「本当に噂通りの凄いメイドさんばかりなんですね。そう言うミーランさんだって選ばれた森の住人、なんですよね?」
「選ばれたとかそんな、恥ずかしいからやめて。私だって自分がどうして森に住む資格が与えられたのかさっぱり分からないんだから……。誰も教えてくれないし、お聞きしようにも許可をくださったのがウルギス様だからさすがにね」
「へー。それなら私も選ばれる可能性が無くも無かったりするの!?」
「無くて無いわ」
「ぐう。あ、コレットならおっぱい大きいからワンチャンあるんじゃない?」
「無いって……」「ありそうですね」
「えっ? ええっ!?」
「ふふ、冗談よ冗談」
あー、そう言えばそんな話もあったような……。いつの話だっけ? 確か、私の友達だから、っていう理由だけだと弱いとかシアさんが言ってた気がするね。
しかし、久しぶりにお姉さんっぽいミランさんを見た気がする。こんな風に接するのはソフィーさんとタチアナさんくらいだもんね。……うん?
「コレットさんってミランさんより年下なの!?」
「ふわ!? は、はい!! すみません!! まだ二百にもなってません!! ごめんなさい!!」
ままままままマジで!! その胸で!!? あ、これやるの二回目な気がする。
ハンナさんがミランさんより年上なのは、言葉遣いからなんとなく察して分かってはいたのだけれど、まさかその保護者的な人であるコレットさんがまだ二百歳にもなっていないどころか、約百八十歳のメアさんよりも年下だとは夢にも思わなかった。人は見かけに寄らないとはまさにこの事か。
判明した衝撃の事実に驚き、もう少し二人の関係を突っ込んで聞いてみることにした。
二人は同じ町の出身で、他種族に比べれば圧倒的に少ないエルフの住人同士、家族同然に暮らしていたらしい。
「私が四百ちょいだから、もう妹より娘に近い感じかな?」
「その言葉に同意してくれた人が誰か一人でもいた!? どっちが子供よどっちが!!」
コレットさんの胸が日に日に大きくなり、じゃなくて、コレットさんが成人した辺りでハンナさんが、何の脈絡もなく唐突に、冒険者になって世界を回りたいだの言い出したんだとか。何故?
「結局深い理由は無くて、暇だったからとか面白そうだからとかその程度だったんですよ!?」
「私は別に付いて来なくてもいいって言ったのに。コレットってばよっわよわだしぃ」
この自由で明るいだけが取り柄の、馬鹿と言う言葉が服を着て歩いている様な、無駄に年齢を重ねただけで全く尊敬に値しない姉のような存在が身一つで町の外に出たら……?
圧倒的な不安に駆られたコレットさんは、放って置け、という周囲の反対を押し切り、半ば無理矢理旅に同行しているんだという。
「私は確かに弱いけど! でも私がいなかったらハンナなんて今頃、悪い奴らに騙されて捕まって、挙句どこかに売り飛ばされてるでしょう!?」
「ひどっ! コレットはちょっと大袈裟に考えすぎだってば……。いや、まあ、実際のとこありがたいし嬉しいんだけどさー」
コレットさんはそれまではただの一般エルフのお姉さん。冒険者としては足手まといどころか、それ以前の問題だった。だけど町の中では逆に凄く頼りになる存在だったらしい。
「ハンナさんは四百歳? なのにそんなに信用がないの?」
「ないんです! 露店でお釣りを誤魔化されても笑顔でありがとうとか言っちゃう奴なんですから!」
「ええ……」
「ちゃんと確認しましょうね」
「はい……」
私はお金自体使った事がないから何とも言えないけどね。金貨を十枚魔法で収納してあるけど取り出した事すらないや。
詳しく話を聞いてみて思った事が二つある。まず一つ、二人はとても相性がいい、だ。コレットさん的には不本意だと思うけど。
お互いの欠点を補い合える、凹凸が綺麗に嵌る様な……、とにかく凄くいい仲間? なんじゃないかな。素敵な事だと思う。
そして二つ目は……、エレナさんの冒険者への道を諦めさせて本当に良かった、という心からの安堵。コレットさんの様な理解者がいたらメイドさんになっていなかった筈。本当に、本当に良かったよ……。
※シラユキのほっぺをつんつんしようとしていたのはハンナでした。恥ずかしい!
無駄に混乱させてしまったかもしれませんね……。申し訳ありませんでした!!
話は全く進んでいませんがまだまだ続きます。
最近オーバーロードの二次創作が書きたくて書きたくて仕方ありません。二次創作自体書いた事がないのですが!