その325
某オンラインゲームでスフィンクスのおっぱいを揺らしていたら3ヶ月も経っていました。(正直)
「今日は少々、どころではないくらいの日差しの強さ。なので外出は控えるようにとのことです。残念でしたね姫様」
残念などと微塵も思っていなさそうないい笑顔で言うシアさん。多分お散歩メンバーに自分は選ばれないだろうと予想してそれで喜んでいるんだと思われる。
しかし実際その通りだったので特に何も言わないでおく。だってシアさんがいるとノエルさんが理不尽に虐められてしまうからね、仕方ないね。
「はーい。それじゃ今日はどうしようかなー」
外出禁止とまでいかないけれど、控えろと言われればよほどの事がない限りその言葉には従おうじゃないか。どうせどこかに行きたいと言ってもシアさんがあれやこれや、日焼けでもしたら世界的な損失だなんだと言って意味不明に阻止しようとしてくるに決まっている。
ふむ。自分で考えておいてなんだけど、私はちょっとシアさんのことを悪く思いすぎ、いや、別に悪く思っている訳ではないんだけど、何て言うんだろう……? 諦めが早すぎ? かな。シアさんの行動に対して先読みしすぎてしまっている感があるかもしれない。これはちょっと反省しなければ。
「ふふ。姫様のお好きな様に」
にっこり笑顔で軽く頭を撫でてくるシアさん。今現在私と二人きりなので超上機嫌だ。
ううむ……。ここまで機嫌のいいシアさんなら、お散歩は無理としても、家の前でルシアとクラリスと遊ぶくらいは許されるのではないだろうか!? それじゃ早速。
「ルシアとクラリスと外で」
「いけません! 姫様がもし日焼けでもされようものならそれはリーフエンドのみならず全大陸、世界にとっての大損失大損害大事件です! どうかお考え直しください」
「思ったとおりすぎるよ!!」
いや、それ以上だったかも。まったくもうシアさんは……。
「ふふ。何やら期待されていらしたようなのでつい大袈裟に。申し訳ありません」
「むう」
「ふふふ」
丁寧に頭を下げながらもさらに上機嫌になってしまったと分かる声色。本当に嬉しそう、幸せそうだ。
やはり、いくら私が行動を先読みしようとも、その先の先を読んでからかってくるねシアさんは……。全く勝てる気がしません! 別に勝つ気も無いけどね。
勝ち負けの話じゃないけれどこうなってしまったのなら仕方がない、今日一日はずっとシアさんと一緒に行動してあげようじゃないか。ふふふ。
散歩をしようと出掛けた筈が、何故かお祭り騒ぎの大宴会になっちゃったぜ、という訳が分からないよ的な昨日から一夜明けた次の日の朝食後。今日こそはメイドさんズの誰かを誘ってお散歩リベンジ! と張り切っていたのだが、それもまた始まる前に終わってしまった。どうしてこうなった……。実はシアさんの報告を待たずとも結果は分かりきっていたのだけれどね。
窓を開けて空を見上げてみると、まさに抜けるような青空。体が逆に空へと落ちていってしまうんじゃないかと錯覚してしまうくらいだった。こんな日に外へ出て行こうものなら、お昼頃にはギラギラ太陽に焼かれてしまう事確実だろう。
ではどうしたものか? 朝のお手紙仕事、習慣事が一つ抜けてしまって手持ち無沙汰。平たく言うと超暇である。
さっきまで一緒にいたメアさんとフランさんは、シアさんと入れ替わるように片付けや他のお仕事へ。そしていつもの様に左隣に立っているシアさんは、私と一緒ならどこでも何でも大歓迎なお人。外出が無理となると特に提案はしてきてくれないだろう。
子供らしく遊べと言われても慣れ親しんだ家の中。シアさんを含め誰と何をして遊んだものかな……。
「うーん……。よし!」
このまま談話室でシアさんとのほほんと過ごしているのもなんなので、とりあえず家の中をフラフラとうろついてみようと思う。風の吹くまま気の向くままというやつだね。
「姫様?」
いきなりやる気を見せた私を見て不思議そうにしているシアさん。でもしっかりと椅子を引いて立たせてくれるあたりはさすがの一言。
「外が駄目なら、家の中でお散歩しよっか?」
「はい。どこへでもお供させて頂きます。ふふ」
差し出された手を取って廊下へと歩き出す。シアさんの機嫌の上昇はしばらくおさまる事をを知らない。
談話室から一歩外へ出た所で足を止め考える。上に行くべきか下へ下りるべきか……。べきべき。
上の階に上がると兄様や姉様、もしかしたら母様に遭遇して捕まってしまうかもしれない。そうなってしまえば今日のお散歩はそこで早くも終了となってしまう。やはりここは下に下りるべきだろう。
それでは、上機嫌すぎるシアさんにどこかに攫われてしまう前に、でも目的地は定めずゆったりと歩いて下の階へ出発! 道中ほかのメイドさんズに出会う事を期待しようではないか。
そして特に誰とも遭遇せずに玄関前の大ホールへ到着してしまった。どうしてこうなった……。
厳密に言えば誰とも出会わなかった訳ではない。ただ、私の暇つぶしに付き合ってもらうだけのためにお仕事の邪魔はしたくないなー、と挨拶だけで済ませてしまっただけだ。
もう早朝という時間ではないけれど、やはりメイドさん的に朝は色々とやる事があって忙しいらしい。これは談話室で大人しくしておくのが一番の正解だったのではないだろうか……。
ここまで来てしまったのに今更うにうに悩んでも仕方がない、と、一般メイドさんたちに軽く挨拶をしながら玄関の大扉へと向か……
「姫様……」
向かえなかった! その、やれやれこの困ったちゃんは、的な表情はやめてくださいませんかねえ……。
一歩二歩と踏み出した辺りで完全に停止。私の左手はシアさんの右手としっかりと繋がれているので、シアさんが動いてくれない限り私はその場から移動することができないのであった。まるでリードを付けられたペットの様。
ぐいぐい引っ張ってもシアさんは微動だにしない。地味に凄い。メイドスキルなのか私が非力すぎるだけなのか……。
「むう。ルシアとクラリスが外にいるか確認しようとしただけなのにい」
「ふふ、可愛らしい。では……、確認するだけですよ?」
「はーい」
ちょっと外に出るくらい許してもらえるかなーとも思ったけれど、今のシアさんの反応からするとやはり無理そうだ。
まあ、二匹を家の中へ入れてしまえば済む話だから別に問題はないんだけどね。
いや、いくら広い玄関ホールと言ってもここは屋内、一般メイドさんたちも何人かで掃除していたりもするし、あの巨体ではそこまで自由に動き回ることができないかもしれない。
……!?
「あっつい!」
考え事をしていたら不意に前方から熱気、暑さに襲われた。
何今の!? と辺りを見回してみるとその熱気の正体は何でもない、ただシアさんが玄関のドアを開いただけだった。そのシアさんは顔を逸らし、肩を震わせて笑いを堪えているが……。
まったくシアさんはすぐ私を驚かせるんだから! 今のは私が勝手に驚いただけなんだけど! あと、シアさんの笑いのツボって本当によく分かりません!!
しかし、ドアを開けただけでこの熱気? まだ午前中なのに? 今日は本当に暑いんだね。家の中は、涼しいとまでは言えないけれど暑くはない。快適な空調魔法生活万歳です。
――あー、バレンシアがまた姫いじめてるー。
――うっわここまで熱気が……。早く扉閉めてよ!
――暑いあつーい! 折角涼しい館に避難して来たっていうのにまったく……。
おおう。ドアを開けっ放しでいたら文句が飛んできちゃったわ。これは申し訳ない。
確かにこのギラギラ太陽と熱気、私もいつまでも晒されていたいとは思わないね。
「あの犬共は……、見当たりませんね」
「犬共とか言わないでよもう……」
一般メイドさんたちからの非難轟々を軽く無視しつつ、それでも素直にドアを閉めるシアさん。
いい加減家の近くに住んでいるみんな、せめて掃除に来てくれる一般メイドさんたちくらいには友好的になってもらいたいものだけど……。それもシアさんにはまだ難しいのかな? ぐぬぬ。
ここでいつもの私なら、ぐぬぬと唸って諦めるところだが今日は違う。少しだけ頑張ってみよう。……暇だからね。
とりあえずシアさんを引っ張って行って、一般メイドさんたちとお喋りでもしようじゃないか。……暇つぶしにね。
十分二十分程度の立ち話の結果、シアさんが一般メイドさんに向けて放った言葉は、はい、いいえ、はあ、そうですか、の四つのみだった。概ね予想通りのオチだったのと、収穫も二つあったのでそこまで落胆はしていない。
まず一つ目の収穫。それはルシアとクラリスの行方。
どうやらマリーさんが私よりも一足早くやって来て、二匹を連れてどこかへ出掛けてしまったらしい。多分背中に乗る練習をするために広場まで行っているんだろう。
マリーさんは私の楽しみを奪った罰として、シアさんからぬるーいお仕置きを受ける予定となってしまった。理不尽すぎる!
そして二つ目こちらが肝心。
「ふふふー。もふもふー」
「ほほ、可愛らしいのう。しかし儂は今の今までずっと外におったものでの、熱くはないんじゃろうか? のうシラユキ?」
「う? 尻尾? 確かにちょっとだけ熱いかも。でも全然気にならないもっふもふ!」
「なんて可愛らしさ。まったく羨ましい」
少しだけ頑張って足を止めていたその数十分のおかげで、素敵モフモフ尻尾のウルリカさんをお出迎えすることができたのだ!
なんとウルリカさんは、軽く私の顔を見られればと試しに寄ってみただけで、家の周りに見当たらなければすぐに町に戻ってしまうつもりだったらしい。何となく気が変わって玄関のドアを開けたところで私を発見、とお互い本当に運がよかった。
「うーん、ウルリカさん大好き!」
尻尾を充分にモフらせてもらったところで次は正面から抱きつく。
ウルリカさんはお腹丸出し状態だけれど勿論気にしない。それどころか目前に迫る南半球を突っつきたくなってしまう。うずうず。とりあえず全力で頬擦りを開始。
「本当に可愛らしゅうて頬が緩みきってしまいそうじゃの。ふふふ。そういえば、甘えん坊の子供は卒業して立派な大人のエルフになるのではなかったかのう?」
可愛い可愛い、と優しく頭を撫でてくれるウルリカさん。ちょっとイジワルな質問だけど幸せ!
「母様に怒られちゃってやっぱりやめたの。だからウルリカさんにもまだまだ甘えるからねー。ふふふ」
そう、大人になるために甘えるのをやめる、のをまたやめた訳だ。
「ほほ、エネフェア様に叱られてしまったか。それは見てみたかったのう……」
さすがにそれはちょっと恥ずかしいかも……。私のメイドさんになってくれるなら話は別ですが!
「おっと、つい長居しすぎてしまったの。名残惜しいが儂はそろそろ帰るとするよ」
「えー! もう帰っちゃうの?」
そのまま思う存分ウルリカさんに甘えまくりながらお話を続け、そろそろ談話室に場所を移そうかと思っていた矢先の事だった。
今日の本来の目的は、コーラスさんにお花の種を届ける事。それももう済ませた筈なのに帰ってしまうとは……。何か用事でもあるんだろうか? 本当に残念すぎる。
「実はジヌディーヌ殿に呼び出されておってのう……。またどんな無理難題を吹っかけてくるやら、っと、いかんいかん」
「それはお気の毒に。しかしジニーさんなど放っておけばいいでしょうに」
シアさんは何気にひどい事を言うね……。私もちょっとそう思っちゃったのは内緒。ジニーさんめー!
「いやいや儂も一介の冒険者、ギルド長からの呼び出しを無視するなど流石にできんのですじゃ。ではまたのシラユキ、バレンシア殿も」
「はーい! またねー、ウルリカさん」
「ふふ。ええ、ではまた」
残念残念超残念! くらいの気持ちだけど、運よく出会えたことを素直に喜ぶとしよう。そもそも思い付きでここまで降りて来ていなければ、今日は本当は会えなかったかもしれないんだからね。うんうん。
しかし、シアさんはウルリカさんに対しては100%友好的に接してるなあ……。いくらシアさんでもあの素敵モフモフ三本尻尾の魅力には抗えない! 抗いにくい!! のかも?
やっぱり尻尾がないと駄目かー。ウルリカさんは凄いなー、憧れちゃうなー。
さーて、程よく時間を潰せたし、次はどこへ向かおうかな? そろそろメアさんフランさんが談話室に戻ってきそうな頃合だし、一度戻るのもありだね。
いきなり出発地点に戻るとか、私の行動範囲の狭さ、移動距離の短さは家の中でも健在であるか。たまには普段滅多に足を向けない五階より上に行ってみるのもいいかもしれないね。
まあいいや、またメイドさんズを探しながら戻ろう。今度は少しくらいお仕事の邪魔をしてもいいと思うしね。ふふふ。
また今後に繋がりそうなそうでもないような、実際何でもないお話でした。