その324
また一ヶ月も間が空いてしまいました。の一言がテンプレになりつつありますね。
触手! まさかの触手!! あそこはモフモフポイント、つまり体毛ではなかったという事なのか!?
「ルシアちゃんルシアちゃん? これ生えてるところ見える? 何か分かる?」
(? なにそれ?)
(うしろ! せなか!)
(?)
触手って言うといやらしいイメージしか沸いてこないなあ……。あんなに可愛い二匹に触手なんて! それもうねうね動くなんて!!
「やっぱりまだ自分で動かせないみたいっすね」
「自分の体の一部だって理解できれば動かせるようになると思うんだけど、肩の後ろだから見える訳ないかー。これどうしよっか?」
「普通は親のを見て覚えていくんだろうが……。とりあえず今は切っちまうか? あ、いや、コイツのも伸ばして見せてやればいいんじゃないのか?」
「スティーグちゃんナイスアイデア!! それじゃぐいっと引っ張っちゃって!」
「それだけでいいのか……。おい、頼むから暴れるなよ」
(あばれる?)
「姫に押さえててもらえばいいんじゃね?」
「おお、レミジオにしては名案だな。姫、ちょっとクラリスを……、ん? 姫? 何ボーっとしてるんだ?」
こう、あれだよね。触手って言うと、ゲームとかアニメのヒロインの女の子がほぼ確実って言っていいくらい捕まるよね。いやらしい。
それでヒロインの子が騎士っぽいキャラだったりすると、くっ、殺せ! とか言っちゃうんだよね。いやらしいわ!
「驚きすぎて固まっちまったみたいだなあ。シラユキ様こいつ等の事完全に犬としか思ってなかったみたいだし無理もないか……。シラユキ様? シラユキ様ー?」
いやいやさすがに、くっ殺せ、なんてセリフは出ないか……。あ、なんとなくクレアさんは言いそう。そういえばらめえとか言ってたアニメはあったような気がするけ、ど?
「う? あ、な、なあに? ノエルさん」
いつの間にかノエルさんにほっぺを摘まれていた。うにうに。
いけないいけない、触手と聞いてつい考えがいやらしい方向に突き進んじゃってたよ。反省反省。
「ショックかもしんないすけど、これであいつ等の何が変わる訳でもないんすから、そう気を落とさずにっすよ」
「そうそう。シラユキちゃんが犬って言えばこの子達は誰が何と言おうと犬なんだから、ね!」
「う、うん」
……何が?
とりあえず、ノエルさんが撫でてくれるみたいだから今はされるがままにしておこう。ふふふ。
改めて話を聞いてみると、どうやらルシアが触手を自分の体の一部だと認識できていないみたいで、そこで今度はクラリスの触手も引っ張って伸ばし、それをルシアに見せることによって問題の解決を図ろうという企みらしい。企み?
それで私がクラリスを暴れないように抑えておく役に抜擢されたと。なるほど理解した。……理解はしたけど納得はできないけどね!
「クラリスもルシアもそんなことで暴れたりしないよ? まったくもう……」
「いや、これだけでかいとさすがにな。一応だ一応」
ふーんだ、スティーグさんは二匹よりずっと強いくせにー。多分だけど。
まあ、不安なら仕方がない。頼まれた仕事はきちんとこなそうじゃないか。
伏せたままのクラリスの前にしゃがみ、頬の辺りを掴んで左右に引っ張ってみる。むにょーんと。
「なにこれすっごく伸びる! 可愛い!」
結構力いっぱい伸ばしているのだけど、尻尾の振り方と、文句の一つも無いところから痛みはないんだと思う。むしろ喜んでるっぽい。
「お? むっちゃ伸びてる伸びてる。いや、伸ばすのはそこじゃないんだよ姫。てかちゃんと押さえろよー」
「これでいいんじゃないいか? クラリスが姫の近くで暴れるなんて絶対ないだろうし。それじゃスティーグさん」
「ああ」
短い返事を一つ、スティーグさんはゆっくりと両腕を上に挙げていく。そしてその腕に付いて行くかの様に伸びていくクラリスの毛、もとい触手。
(なんかむずむずする!)
「あ、やっぱりそういうのは自分でも分かるんだ?」
ルシアの場合は一瞬だったから何も感じなかったのかな?
「何がだ?」
「あ! う、ううん? 何でもないから続けていいよー」
「? おう。意外と軽いなこれ。見た感じただ体毛が纏まってるだけなのか」
小声だったのに聞き取られてしまってたか、危ない危ない。怪しまれてないといいけど……。スティーグさんもあんまり表情に出ない人だから分からないなあ。
(のびてる? せなか?)
(せなか?)
あ、私が掴んでたら首が動かせないか。これは失礼。
(? なにかのびてる?)
頬から手を放すとパッと後ろを振り返って確認するクラリス。でも今ひとつ自分の身に何が起きているのか理解できていないみたいだった。
「ん? あ、こら放すな姫。思ったより大人しいからいいんだけどな」
「だからそう言ってるのにー。クラリスはそれ、まだ自分のだって分からないみたいだね」
右から左からと、自分の背中を何とか見ようと頑張ってはいるがそれは無理なお話であった。仕方ないね。
「やっぱりクラリスちゃんもそう? とりあえず暫く見せ合いっこさせてあげればいいかな……。ノエルちゃんこっち交代して」
持っていた触手二本、二房? をノエルさんにそのまま手渡すジニーさん。
「あ、はい。姉御はどうするんすか?」
「私がいるとクラリスちゃんの気が散っちゃうし……、シラユキちゃんとグリーの所にでも行って待ってようかなってね。それじゃ行こっか? シラユキちゃん」
「わぅ。私もここで見てるのは駄目なの? 気になるよー」
後ろからひょいっと持ち上げられてしまった。そしてしっかりと唸って威嚇するクラリス。確かに気が散りまくりそう。
「何があるか分からないから一応ね! それよりお姉ちゃん喉渇いちゃったから何か飲み物出してほしいなー!」
「うん。オレンジジュースでいい?」
「うんうん! シラユキちゃんにはお姉ちゃんが飲ませてあげるからね! ね!!」
自分で飲めまーす。でもジニーさんに甘えるのもありかもしれない。ふふふ。
二匹の訓練(?)を近くで見れないのは残念だけど、危険があるかもしれないのなら仕方がない。大人の意見を尊重して素直に諦めよう。
私も少し喉が乾いていたところだし、グリニョンさんの様子が気になるのも確か。いくら日陰とはいえ、こんな暑い中で寝ていたら熱中症になってしまうかもしれないからね。
「え? 俺たちは?」
「何かあった時用に残されたんだろ多分。男三人もいればこいつ等が暴れても簡単に取り押さえられそうだもんな」
「何かって何だよ無理だって!! 俺らは別に強かないんだぞ!」
「へ? そうなのか? いやだってさっきグリフィルデの奴が」
「強いとか弱いとかそれ以前の話だって俺たちは。でもまあ、スティーグさんがいるなら大丈夫か?」
そんな声が後ろから聞こえてきたけれど、一切気にせずスタスタと歩いていくジニーさん、プラス私。
とりあえず心の中で応援だけしておこう。頑張ってねー。
私を抱えたまま椅子に、グリニョンさんのすぐ隣の席に腰掛けるジニーさん。しかしグリニョンさんは何の反応も見せてくれない。
いつもなら少し離れていても、野生動物じみた感覚で私に気付く筈だけれど、この様子だともしかしたら熟睡してしまっているのかもしれない。
「グリニョンさんグリニョンさーん?」
寝ていても起きていたとしても、こちらからアクションを仕掛ければ済む話か、と名前を呼んでみたが反応は……、やはりなし。机に突っ伏したまま微動だにしない。
「グリーなんて放っといて放っといて。それよりシラユキちゃん、早くジュース出してジュース!」
「うにゅ。ふぁーい」
後ろから両頬を押さえられてお願いされてしまった。
まったくジニーさんめ! 友達がぐったり、してる訳じゃないけど何の反応も返さないのに自分のジュースを優先するとは。
でも友達だからこそ問題ないと分かるのかもしれない。今はジニーさんを信じて喉の渇きを潤す事を優先しようではないか。
テーブルの上にグラスを二個、オレンジジュースの瓶を一本出現させる。何度使ってみても便利な能力だ。
「ありがとシラユキちゃん! うーん冷えてる冷えてるう!! グラスは一個でもよかったかもね! ふふふ」
確かに二人で飲み回せば一個で済んだか……。洗い物が一つ減るからいいアイデアかも? ……などと考えていたのに、ジニーさんは普通に二個ともに注いでしまっていた。
「はいグリー、オレンジジュース」
「うい。ありがと」
片方を自分に、そしてもう片方はグリニョンさんに差し出すジニーさん。
グリニョンさんも自然な動作でそれを受け取り、二人ほぼ同時に口をつけ飲み始めた。
あれ? グリニョンさんいつの間に起きて……? あ、私の分は!?
「冷たー! 美味しーい!! はい、シラユキちゃんも半分どうぞどーぞ」
「あ、うん!」
わーい。よく冷えたオレンジジュースを外出先で、大好きなお姉さんの膝の上で飲むなんて最高の贅沢だね! いや、最高は母様かな?
しかし、グリニョンさんを起こして今までの流れを説明したりとか、そんなワンクッションを置いてもらいたかったね。私にはちょっと展開を飛ばしすぎでついていけなかったよ……。
やっぱり二人は黙っていても分かり合ってる、仲の良いお友達なんじゃないですかー。ふふふ。
「んで、あいつ等放っといても大丈夫なん?」
「だいじょぶだいじょーぶ! スティーグちゃんがいるし、ノエルちゃんもいるしね!」
話はしっかりするんかい! はっ!? はしたないわ……。
心の中で全力でツッコミをいれ、あとは力を抜いてジニーさんに持たれかかって二人の会話をぼんやりと聞くとしよう。多分それが二人にも、私にとっても一番の選択だと思う。シアさんのいない私はなんて無力なんだ……。
「姉御姉御ー! ちょっとシラユキ様貸してくださいよー!」
「うん? はいはい、ちょっと待ってねー!」
ノエルさんも私の事を物扱いするのか! しかし私のメイドさんであるならばそれでよし。むしろ褒めてもいいくらいだ。
こちらへ避難して来てから大体二、三十分程度経った頃、ノエルさんが何やら私を必要としているらしく大声で呼んでいる。実際呼ばれたのはジニーさんだけど細かいところは気にしない。
「あ、ジニーさん待って待って。グリニョンさんは? 一緒に行かないの?」
来たときと同じように、私を抱えたまま席から立ち上がるジニーさん。でも一応グリニョンさんからも意思確認を取っておかねば。
「あん? ああ、あのワンコロ共がにょろにょろできる様になったん? んー……、んんー……? 一応ついてく」
「にょろにょろ?」
「イールみたいににょろにょろしてるじゃんアレ」
アレ、とあちらを指差すグリニョンさん。
グリニョンさんが言うと凄く可愛く聞こえる。にょろにょろ。
「へー、グリーってホントにシラユキちゃん大好きなんだ? かっわいいもんねー! ふふふ」
「うっざ」
今の会話で何がどうしてどうなるんですかねえ……。まあ、嬉しいけどね!
ジニーさんの腕にゆらゆら揺られ、四人と二匹のいる場所へと戻って来た。
パッと見は離れる前と特に変わらないように見える。が、二匹とも動かし方をマスターできたのか触手は綺麗に収納され、元の素敵モフモフポイントに戻っていた。
「ノエルちゃんおっ待たせー!」
「ルシアー、クラリスー、ちゃんと自由に動かせるようになった?」
(なったよー)(なった!)
尻尾をフリフリ、ついでに触手を少しだけ伸ばしてうねうねと元気に肯定する二匹。色が銀に近い白色なので、見ていて気持ち悪くならなくて安心だ。
「あっさりできる様になりましたよ。つか向こうからでも見えてましたよね?」
少し離れた程度の距離だったから見て分かっていたんだけど、念のため、一応の確認です。動かせてはいたけど自由にとまではいかなかった、っていう可能性も無くは無かったからね。
「うん。ふふふ」
「ひでえ! 笑うなよなー」
「まったく酷い目に遭ったな……」
エンリクさんとレミジオさんがピシピシと鞭打たれていたのを思い出してつい笑ってしまった。二人とも怒ってはいないみたいだから反省はしない。
「姉御、ちょいとシラユキ様を降ろしてもらっても、あ、こっちに貸してください」
「あ、うん。何するの? ノエルちゃんもシラユキちゃんを抱っこしたくなっちゃった?」
はいどうぞ、と安定の物扱いで手渡される私。これには慣れすぎて何も感じないどころか、今では嬉しくさえ思ってしまう。
「あざっす! いや、アタシもずっと抱き上げていたいんすけど、今は試したい事があってですね。ええと、どっちにしたもんかな……」
「どっちに?」
ううむ、背中側から持ち上げられている状態なので疑問を口に出す事くらいしかできない。正面からならぎゅっと抱きつくところなのに!
「ルシアでいいんじゃないか? こいつの方が大人しいし」
「お前男の子なんだからもっと元気に暴れないと駄目だぜー?」
(なにが?)
二人はこれから何をするのか把握済み、と。スティーグさんも静観してるし危険はなさそうだね。
「暴れるのはさすがに拙いだろ……。ほらルシア、優しく丁寧にだぞ。何か仕出かしたらバレンシアさんがすっ飛んで来てアタシら全員皆殺しにされちまうからな?」
(ばれんしあこわいー)(ばれんしあこわいー!)
なんて事を言うかなノエルさんは! 事実だから仕方がないとはいえもう少し言い方があるでしょう言い方が! 私が一番失礼だな!!
さっきの会話の流れと今のノエルさんの言葉で、私もやっと何をされるのか理解できた。テンションが上がって失礼な事を考えてしまうのも無理はないだろう。多分。
怖い怖いと言いながらもするすると二本の触手を伸ばし始めるルシア。伸ばす先は勿論私。
そのまま一本は脇の下辺り、もう一本は腰の辺りにゆっくりと巻きついてくる。ややくすぐったいが我慢だ我慢。
「締め付けすぎたりすんなよ? できるだけ慎重にな。シラユキ様、痛かったり苦しかったりしないっすか?」
(いたくないー?)(くるしくないー?)
「大丈夫だよー。ちょっときゅっとするくらいかな」
ノエルさんとルシアとクラリス、同じような事を聞いてきて面白いね。みんなにも二匹の声が聞こえたらどれだけ楽しいか……。それだけが残念すぎる。
「お? よし、手え放すけど絶対に落とすなよ? 落としたらホントに殺されちまうんだからな!」
「その時はノエルちゃんがしっかりキャッチしてあげればいいでしょ! それならもし落としちゃっても殺されるのはノエルちゃんだけになるからね!」
「そりゃないっすよ!! あ、こら! 離れてくな!!」
ノエルさんと私を置いて全員が数歩下がってしまった。シアさんがいない所だとこういう冗談で盛り上がるのが本当に面白い。
しかし、振り返って見ると冗談などとは欠片も感じられない真剣な表情をしているノエルさん。頬を伝って落ちていく汗は暑さからなのかそれとも別の要因からなのか。真実は誰にも分からない。
「わ。力持ちだねルシア」
「っはー! し、心臓に悪いわ……」
手を放されたときに感じた浮遊感はほんの一瞬だった。軽く締め付けられている感じはするけど驚くほどに安定している。
スティーグさんは毛が纏まっているだけと言っていたが、改めて近くで見ると白くて薄いリボンの様にも見える。元が細い毛だけに、いくら纏めても太さを得る事はできないんだろう。
それでも肩周りの毛を総動員させて一本の触手に仕立てれば、多分それなりの太さにも仕上げられるとは思う。何という不思議生物なんだ。
「あはは、ぶらーんとしちゃってかーわいい!!」
「あんなに細いのに結構力強いよなあの触手」
「これでまた姫のいい遊び相手になれるなー。でもエレナがなんかやらかしそうか?」
「その時はまたその時考えればいいさ。ルシア、それだけじゃないだろ?」
ええい、みんなして好き勝手なことをー! むむむ? まだ何かするの?
「それだけじゃないって、え? わあ!」
スティーグさんに問うまでもなくその答えは判明した。ルシアが触手を動かして自分の背中に私を座らせたのだった。
跨るようにではなく横座り。いつぞやのソフィーさんの人間椅子を思い出す体勢だ。しかしこれは……
「意外と視界が高い!」
「そんな感想!? シラユキちゃんもうちょっと何かない何か!」
そんな事言われても……。むう、男性陣は大笑いですか。何故だ!
うーん? 強いて感想を挙げるなら、背骨が当たって痛いかと思ったら結構柔らかい座り心地で、それでいて触手のおかげかふらつきもせず安定して座っていられる。くらいかな? あ、もう一つあった!
「伏せさせなくても背中が撫でられるよ!」
「どうでもいい」
グリニョンさんに一言でばっさりと切り捨てられてしまった。悲しい。
二匹とも大きくなりすぎちゃって、撫でてあげるのが結構な重労働になってきている私にとっては重要な事なのにい。
背中を撫でてあげるとルシアから喜びの感情が溢れ出してくる。能力なんてなくても尻尾の動きで一目瞭然けどね。
「そうだ。ルシアルシア、このまま歩けたりする?」
(やってみるー?)(あぶなくないー?)
「ちょっと性急すぎますよシラユキ様。そういうのはバレンシアさんがいるところで」
「大丈夫大丈夫。ゆっくり歩いてみて」
(はーい)
私のゴーサインでのっしのっしと歩き出すルシアとクラリス。その足取りは本当にゆっくり、なのだけれど……
「わっわっわっ、わぅ!」
「ちょっ、ま、待ってくださ、って速え! 一旦止まれ!! お前ら体でかいんだからもっとゆっくり歩けよ!」
(えー?)(もっとー?)
「ししし振動が凄い! あんまり揺れない様にこれでなんとかできる? できそう?」
これ、と触手をさわさわと撫でてみる。感触は普通に毛そのものだ。
そういえば、ウルリカさんの狐形態に乗せてもらった時も揺れと振動が本当に強かったんだよね。鞍か何か付けないと無理っていう結論が出てたんだった。思い出すのが遅すぎたわ。
そこでこれ、触手で衝撃を和らげる的な方法を取ればなんとかなるんじゃないだろうか?
(やってみる)
「わわわっ、浮かせたら意味無いから! もう一回座らせて……、揺れる揺れる!!」
「だから速いって!! もっとゆっくり! 静かに歩け!!」
(むずかしいー)
(くらりすもやるー!)
「きゅう!」
「あ、こらてめっ! 取り合うな!! でも今のは無茶苦茶可愛かったからよくやった!」
「なにそれひどい!」
ちょっときゅっと締められただけだからいいんだけどね……。
それからも結構長い時間、ああでもないこうでもないと四苦八苦の試行錯誤を繰り返した結果、触手をお尻の下に敷いてクッションの様な役目をさせるのが一番だと判明した。
時間を掛けたおかげでその安定性は抜群の一言。今ではもう多少速く歩いても全く支障のないレベルだ。
なんという充実感と達成感。ここ最近では一番の出来事かもしれない。
長々と付き合ってくれた二匹とノエルさんに感謝を、早々に解散した他のみんなには恨み言を贈ろう。
「見て見てあの可愛い笑顔! あの二匹を連れて来てくれたマリーには本当に感謝しなければいけないわね」
「いえいえそんな私なんて! でもシラユキ様の笑顔、本当に可愛らしいですわ!!」
「もうすっかりシラユキ様がご主人様ですよね。お嬢様も複雑なお気持ちじゃないんですか?」
「いいじゃないそんな細かい事。あの笑顔の前では些細な事よ。ね? お兄様」
「さすがに他人のペットを盗っちまうのは拙いと思うけどな俺は。でもホントいい笑顔してるな」
……ぬ?
「これで姫ももっと外で遊ぶようになりそうかな? 運動不足も解消できるといいんだけど」
「背中に乗ってたら意味無いんじゃないの? まあでも外出が増えるのはいい事かもね。ふふ」
「ええ。あの巨大なだけだった犬共も漸く姫様のお役に立てる様になりましたか。しかしお怪我をされないかと不安ではありますがね」
「犬にまで嫉妬するな! まったく酷い言い草だなお前は……」
おやおや?
「さて、少し遅くなったけどここいらでお昼にするとしようかね。カイナはエネフェアのところに戻っておきな」
「はい。キャロルは姫様をこちらへご案内してくださいね」
「いやいや、ここで私が出しゃばったらシア姉様にお昼抜きにされるって」
「んじゃわたしが行こか」
「誰でもいいから早くしてー! お姉さんもうお腹ぺっこぺこなんだから!!」
い、いつの間にみんな揃って……。
「結構前から次々来てましたよ? スティーグさんがシラユキ様が可愛い事してるぞってエネフェア様を呼びに行ってたんす。はは、シラユキ様集中しすぎて全然気付かなかったみたいっすね」
「教えてくれてもいいのに!」
「すんませんっす!」
まったくもう。悪気の無い笑顔だからあんまり怒れないじゃないか!
しかも、よくよく見回してみると広場には他にもかなりの人数が……。これを気付けなかったとかさすがに鈍感すぎるでしょ私! 自分でもその集中力に驚きだよ。
「シラユキお昼、昼ごはん。そいつに乗ったままでもいいから早く」
「はーい! すぐ行くねー」
(ごはーん!)(ごはーん!!)
「そういやお弁当が無駄になっちまいましたね。まあいいか」
「もうお散歩続行はどう考えても無理だからまた今度食べよー」
「ういっす。んじゃ行きましょか!」
ノエルさんとグリニョンさんを連れてのお散歩のはずが、蓋を開けてみたら何故か騎乗訓練と大昼食会になってしまっていた。世の中には不思議な事もあるものだね。
お散歩の続きはまた今度、次の涼しめの日の楽しみに取っておこう。また今日とは違ったアクシデントが起こりそうで楽しみだ。
ちなみにこのすぐ後に父様がやって来て、これだけいて何故誰も酒を持って来んのだ! というお怒りの一言で、大昼食会はお祭り騒ぎの大宴会に変わったのでした。めでたしめでたし。
お祭りのメイン出し物(?)が私とルシアとクラリスだったからあんまり目出度いとは言えないかもだけど……、楽しかったからよしとしようじゃないか。
続いたり続かなかったりします。
後半駆け足気味ながらも結構な長さになってしまいました。約9000文字?
日を空けて少しずつ書き進めていくと上手く纏めるのが難しいですね。