表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/338

その32

「ねえシラユキ、町、行ってみない?」


 『三百歳から始めるダイエット』、という本を読んでいたら姉様に誘われた。



 町、町かー……。アップルパイ食べて泣いた記憶しかないわ。味に感動したわけじゃないよ?


「何しに行くの?」


「まったくこの子は……。最近また読書ばっかりよ? 運動もホントに散歩程度しかしてないし……」


 なるほど、特に理由はないようだ。折角だから運動も兼ねて町まで行ってみるか、くらいの気持ちだろう。


「別にいいけど、今から? 前みたいに通達とか入れなくていいの?」


 実は、前回町に冒険者が少なかったのは、あの通達という名の脅迫のせいだった。



 兄様が言うように、一部の冒険者は、冒険者という事を楽しんで行動している者も勿論もいる。

 そういう類の、冒険心、好奇心旺盛な人たちは、その日一日、宿とギルドに缶詰になっていたらしい。問題を起こすな、あの三人に関わるな、と。


 ごめんなさい、冒険者の人たち……



「いらないってもう。あの時はシラユキに、冒険者の現実を見せたくなかっただけだからね?」


「ああ、なるほどー」


 か、過保護だね……。結構な数の人に迷惑を掛けてたんじゃないだろうか?



「他には誰が行くの? シアさんは行くんだよね?」


「はい、姫様が向かわれる場所へはどこへでも、必ず。ご安心ください、姫様の半径2m以内に」


「それはいいから! 肉片とか嫌過ぎるから!! しかも2mに増えてる!?」


 だ、駄目だこの人……早く何とかしないと……


「後は、お兄様も行くわよ? 私、飛んで移動は、できるけどあんまり得意じゃないのよ。スカートで行きたいし、お兄様にお姫様抱っこで飛んでもらうのよ。ふふふ」


 久しぶりにお熱い仲が見れそうだ。ラブラブで羨ましいわ……


「そうなると私はシアさんに? シアさんには私、重くないかな?」


 重いって言っても30kgも無いんだけどさ、女性の腕には十分重いよね。

 あれ? でもみんなひょいひょいと私を抱き上げてるな……


「姫様は羽根のように軽いです。お任せください」


 すっごく嬉しそうな笑顔だ! ま、弄られたりしないよね……?






「よーし、今日は最初っから飛ばすぞ、昼までには着く。んでもってまずは飯だ」


 軽く準備運動をしながら兄様が言う。


 取る物取らず、そのままの足で、なんだけど、財布くらい持ってるよね? 不安になっちゃう……


「お兄様お願いね」


「ああ、しっかり掴まってろよ?」


 姉様を抱き上げる兄様。

 まるで映画のワンシーンの様だ。すでに二人の世界に入ってしまっている。って速っ!


 ものの数秒で全く見えなくなってしまった。

 木が多いからって言うものあるとは思うんだけど、ちょっと速過ぎでしょうあれは。


「シアさん追いかけて! 置いて行かれちゃう!」


「分かりました。たまには軽く、本気を出してみましょうか」


 シアさんも私をお姫様抱っこ。

 首に手を回してしっかりと抱き付く。……本気?


「え? ちょ、あ、待って! やっぱりゆっく」


 ドンッと凄い音がして、景色が真横に高速で流れていく。


 こ、これってまさか! 走ってるの!?

 斜めに大きくジャンプするのではなくて、極限まで低く跳んでいるんだろう。一歩一歩の歩幅が異常に広い。

 これはまさに生身ジェットコースター。まるで線路が引かれている様に木を避けて進んで行く。


 凄い……、こんな移動方法もあるんだ…… 



「喋っても大丈夫ですよ? 揺れはあまりありませんよね?」


「速い! 速いよ! 凄いよシアさん!! 後これ酔いそうだよ? 人酔い? 人酔いなの!? あ! 前見て前!! 大丈夫なんだろうと思うけど怖い!!!」


「ああ……、なんという可愛らしさ。し、幸せすぎます。姫様、このまま遠くへ、一緒に逃げてもらえませんか?」


「また告白!? ぷ、プロポーズ!? 駆け落ち!?」






 そうこうしてる間に町の近くに着いてしまった。

 城壁、とまでは言えないけれど、それなりの高さの壁が見える。


 ここまでどれくらいの距離があるか、抱き上げられていただけの私には分からないが、そうとうな早さで着いたのは間違いない。兄様たちも途中で追い抜いてしまったようだ。


「少し急ぎ過ぎてしまった様ですね、お二人はもう少し掛かりそうです。それでも後十分も掛からないとは思いますが」


 あ、分かるんだ。もう突っ込む気も起きないよ……


「こちら側、森へ抜ける側の方へはあまり人も多くは来ませんし、少し休憩しましょうか」


 やっぱりあれは疲れるんだよね、ちょっと無茶させちゃったかな……



 森へ向かう側の入り口は人通りが少ない。この辺りは既にエルフの監視区域に入っているんだろうか?


 シアさんは、魔法で地面から椅子を作り出し、座る。そして両手をこちらへ広げ。


「姫様もどうぞ」


「あ、一緒に座るんだ」


 多分全然疲れてないよこの人! 私だけ座るわけにはいかないし、いいんだけどね……


 素直にシアさんの膝の上に座らせてもらう。あれ? シアさんとこうするのは、もしかして初めて?


「ほ、本当に座って頂けるとは……」


 感動してるね。


 たまにはいいかもね、こんなのもね。






「あ、いらっしゃったみたいですね」


「うん?」


 やばい、シアさんの膝の上やばいわ、超和むわ、これがメイドスキルか!


「よ、っと。悪い、待たせたな。バレンシアお前速過ぎだろ」


 少し離れた所へ着地した兄様が、姉様を地面へ降ろしながら言う。


 急に上から人が降って来たように見えたよ。親方! 空から美形カップルが!!


「ありがとうお兄様。シア、凄いわね、あの速度で木とか全部避けていくんだもん。一体どうやってるのよあれは」


「メイドですので」


「またそれか!!」


 上から見るとそういう風に見えたんだね。木と木の間を縫うように高速で移動か……。さすがメイドさん。




「それで、何してるんだお前らは。休憩か? 仲良いな……、俺に代われ」


「至福の一時です。私たちはここで待っていますので、お二人は存分に楽しんで来てくださって結構ですよ」


「こらこら。二人が来ないと意味ないでしょ。まずはお昼、食べましょ?」


「ふふ、冗談です。さ、姫様。参りましょうか」


「うん!」


 残念そうだ。多分さっきの本気で言ってたな……






二度目の町訪問。シラユキは泣かずに帰って来ることができるのか!?

保護者三人付きのはじめてのおつかいのようだ……



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ