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318/338

その318

お、お久しぶり、デス。




 父様と母様にたっぷりと甘えまくれた次の日の朝。私は今、まだ眠い頭でふわふわとしながらシアさんに着替えさせてもらっている。

 着替えの次はまず朝食、その後に少し食後の休憩を入れた後にいつものお手紙仕事の時間になる。今日はどんなお手紙が来ているのか楽しみだ。色々な意味で。


 例え前日に女神様が自宅に光臨しようとも私の生活習慣に変更は無い。変更は無い筈なのだが……。


「姫様、まずは右足から。……通しますよ」


「うん」


「はい、左足もお願いします」


「うん。ねむーい」


「次は両腕を上げてください」


「ばんざーい」


「はーい、くすぐりますよー」


「わひゃう! ふふっ、あははは! やっ、やめ……、なんでくすぐるの!?」


「姫様が可愛らしすぎるからです!」


 理由は分からないがシアさんのテンションがやけに高い。着替えついでに何故かくすぐり攻撃を受けてしまった。

 いつもなら、まだ眠い眠いと言っている私に配慮して、もっと静かに丁寧に着替えさせてくれるのだけど……。どうしてこうなった。


 うーむ、昨日女神様がお話に来た事については誰も何も喋ってない、と思うのになー。それとは別件でシアさん的に何か嬉しい事でもあったのかな? 気にはなるけどお腹も空いてるし、まずは手早く着替えさせてもらってからにしよう。

 ……手早く? そういえばいつもよりも着替えのペースが早い気がするね。悪戯をしながらも少しだけ急ぎ気味。やっぱり何かあったんだろうと思う。これは気になる気になる木。



 そんなこんなで着替えの合間合間にくすぐられたり突っ突かれたりと、終始軽いちょっかいを掛けられまくってしまった。もう少し強く言って止めるべきだったかもしれないが、おかげで眼も覚めたので不問としよう。そんな事より朝ご飯だ朝ご飯。


「ありがとシアさん。それじゃ行こっか」


「ふふ。はい姫様、参りましょう」


 にっこり笑顔で差し出された手を取って歩き出す。勿論周りに罠が仕掛けられていないかと警戒をしながらだ。

 例えばこのドアを開けたらグリニョンさんが飛び込んでくるとか、ジニーさんが廊下に倒れ伏しているだとか、そんなビックリ系の罠。テンション高めで機嫌の良いシアさんには注意をしなければならない。


 ふふふ……。いつもならここで驚かされてシアさんを喜ばせるだけの私だけど今日は違う。何故ならもうすっかりと眼が覚めているからね!

 しかし、裏を返せばシアさんらしからぬこの浅はかな行動、これも罠の一つとも考えられないだろうか……? まだ裏の裏が存在している可能性も捨ててはいけないか。今日の私は一段と冴えてるわ。


 シアさんがドアを開け、そのまま私を前へ押しやる様にして廊下へと出そうとする。

 やっぱり罠が張られていたか! と身構えたのはほんの数瞬。廊下で待っていたのはなんと……


「おはようシラユキ。……どうしてそんなに腰が引けてるのかしら?」


 微笑ながらも首を少しかしげている母様だった。


「う? あ、母様? おはよう母様ー!」


「ふふ、可愛いわ……。眼はきちんと覚めているみたいね」


 シアさんには悪いと思うのだけど、繋いだ手を放して母様に抱きつき、頬擦りをしながら朝の挨拶をする。

 母様も優しく私を抱きとめ、ゆっくりと頭を撫でてくれる。幸せ。


 母様は私が起きる時間には既にお仕事に取り掛かっているらしいので、こちらから挨拶に行く訳にはいかない。お邪魔になってしまうからね。たまに朝食中の私を構いに来てくれるのだがそれも本当にたまにの事だ。

 それがこんな起きてすぐ、部屋の前で待ってくれているなんて初めての事かもしれない。貴重な機会を逃さず早速母様に甘え分を補給しなければ。


 でもどうして母様が? もしかしたら昨日に引き続いて今日もお仕事をお休みにしてしまったとか? それは嬉しいけどカイナさんが大変な目に遭ってそうだし、リリアナさんの怒りが有頂天になってしまいそう。ガクブル。

 それは一旦置いておいて、シアさんの上機嫌な理由は母様これだったのか……。ふむ、だから着替えを急いでいたんだね。なるほど納得。

 さてさてそれじゃ、納得したところで母様のご用は何かな? もしが本当になって今日も一日中母様に甘えられるのだとしたら嬉しいね、少し不安でもあるけど。なんという複雑な気持ち。ふふふ。


「さ、談話室に行きましょうか。シラユキお腹空いてるでしょ? ふふふ、お母様が抱き上げて連れて行ってあげるからね? ふふふふ」


「はーい! 母様ありがとー。ふふふー」


 私をひょいと軽く抱き上げ、ギュッと抱き締めて頬ずりをしてくる母様。私もお返しにと全力でスリスリとさせてもらう。幸せすぎる。


「なんという可愛らしさ……。さすがはエネフェア様ですね……」


 シアさんは完全お控えモードになってしまっているが、幸せそうな私を見てにこやかにしているので何も問題は無いだろう。多分。




「あ、え、エネフェア様!? おはようございます!! ……おっと、シラユキ様もおはようございまっす!」


「おはようひーめ。ふふ、今日もエネフェア様に甘えまくり? かーわいい」


 談話室で私たちを待っていたのはノエルさんとメアさんの二人。フランさんは席を外しているのか他の用事があるのか分からないが、今はいないみたいだった。


「メアさんノエルさんおはよー。母様は私にお話があるみたいだから一緒なの」


「そういう事なの。あ、私は紅茶だけでいいからね」


「はい。姫のことはシアに任せるからね」


「分かりました。エネフェア様、どうぞ」


「ありがとう。ふふ」


 シアさんに椅子を引かれ、母様は私を抱えたまま腰をかける。

 どうやら母様の膝の上で朝ご飯を食べながらお話をするみたいだった。それはどちらかと言うと大歓迎だが、食事のお世話をしてくれるシアさんが緊張してしまいそう。……ちなみにノエルさんは既に緊張のあまり直立不動。和むわ。



 私の部屋から談話室までの少しの間、母様がどうして朝から待ち構えていたのか聞いてみた。その答えはさっきも言ったとおり私に何かお話があるらしいからだ。


 長いお話になるかどうかまでは聞かなかったけど、朝ご飯を食べながらという事なのでそれなりに時間がかかるんだろうと思う。

 機嫌良さ気な母様を見るに、そこまで真面目で難しいお話でもない筈。安心してたっぷりと甘えながら聞かせてもらおうではないか。



「本当はもっとゆっくりとしたいのだけれど……、早速お話しを始めようかしら。はいシラユキ、あーん」


「あーん……。ふふふ」


「姫可愛い! 私もあとで、お昼のときにでもやってあげよっと」


「エネフェア様とシラユキ様って絵になるよなあ……」


 メアさんとノエルさんの生暖かい視線がちくちくと突き刺さってくるけど気にしない! 気恥ずかしさなどより何よりも、母様に甘えられる事の方が大切なのだ。うむ。

 美味しい朝食に加えて大好きな母様の膝の上。そしてさらに、あーんして食べさせてもらえるというまさに幸せ夢見心地状態。


 私の幸せが有頂天になった!! ……と、お話するんだった。いけないいけない。少しくらい、一割くらいは頭をそっちにも割かなければね。


「まず昨日、ウルとリリーと話し合って決まった事……、あ、シラユキが寝ちゃったあとの話ね? それで、あの皆からのお手紙、もう無くす事にしたの」


 ほうほう? リリアナさんの発言力の強さはまさに鬼の力といったところかな? ふふふ。……なんですって?


「え!? や、やめちゃうの? 私の分は?」


「勿論無くなるわよ? 子供がお仕事をそんなに楽しみにしないの。まったくもう……」


「うにゅにゅにゅ……」


 頬をウリウリとこねくり回されてしまった。母様は少し呆れ顔だが私は幸せ!

 いや、幸せは幸せだけどお手紙仕事は取り止めになっちゃうのか……。でも一体どうして? もう毎朝ずっと続けていて完全に習慣になってたのに。毎日の楽しみの一つだったのにい。


「ふふ。どうして? っていう顔ね、可愛い……。ここからが本題なの。シラユキはお行儀よく自分のペースで食べながら聞いててね。バレンシア、あとはお願いね」


「は、お任せください」


「にゅにゅ?」


 ここからが本題? あーんはもう終わりであるか、残念。でも自分で食べようにもほっぺをグニられながらだと難しすぎるんですがねえ……。


 母様は私の頭を撫でたり、軽くくすぐってきたりしながら続きを、その本題とやらを話し始める。食べにくいしシアさんもお世話をしにくそうだ。でも幸せなので何も言いません!


「私は三人の子を持つ母親として……、その、なんて言えばいいのかしら? とにかく子育てが下手以前の問題なのよ。昨日は今更ながらにそれを痛感させられたわ」


「ん? んんー?」


「あら可愛い。ふふふ」


 口に物が入っているので否定できない! できにくい!! でも母様は何となく私の言いたい事を察してくれているみたいだった。


「ルーが産まれたときは父様も母様もずっといてくれていたし、森の皆も毎日毎日どうにかして構ってやろうと家に押し寄せていたものね……。ユーネなんて私よりルーに甘えるのが好きだったし……」


 へー。兄様が子供のときはお爺様とお婆様と一緒だったのか。なにそれずるい。まあ、初孫だからかな? 姉様は確か、産まれてすぐ兄様に取られちゃったんだよね。ふふ。


「ええと、それで何が言いたいのかと言うと……、本当に何を言いたいのかしら私は。昨日はもう少し綺麗に考えがまとまっていたと思うのに」


「私は母様が大好きだよー。子育てって、女王様なんだから上手じゃなくてもいいんじゃないの?」


 メイドさんズに全部任せておけば大丈夫だよね。大丈夫だ、問題ない。


「え、ええ。そうなんだけど、そういう方向の話ではないの。シラユキにも分かるように言葉にするのは少し難しいわね……。まあいいわ、凄く簡単に言うとね、あれよ、シラユキは五十になって子供っぽさを抜こうと考えていたでしょう?」


「うん。私ももう五十歳だもんねー。でも母様には甘えたいな」


 ハイエロフを目指すと言ってもそれとこれとは別問題。父様母様、それと兄様と姉様にはずっと甘えさせてもらいたい。メイドさんズや森の家族みんなの前での話だね。


「そうまさにそれなのよ。そんな考えは捨てちゃいなさい、今すぐに。さあ」


「さあって、え? 何が? どうやって!?」


 なになに? ど、どういうことなの……。

 母様は私のこの、五十歳になった事だし少しは年相応にならないとなー、という自分でもはっきりと形にできない曖昧な考えを捨てろって言いたいのかな? 

 ううむ、昨日の今日で一体どんな気持ちの変化があったのやら……。ん? 昨日? 昨日といえば……!!


「もしかして、女神様に何か言われちゃったの? 私が来る前に何かお話してたみたいだったよね?」


 そういえばあのあと父様と母様に甘えまくりで完全に忘れてしまっていた。確か秘密にしておく事でもないけど、いざ説明するとなるととても面倒くさそうなお話、だったかな?

 もしかして、母親なんだからシラユキをもっと甘やかせー! 可愛がれー! とか理不尽に怒ったんじゃないだろうな……。普通にあり得るのが女神様の怖いところだよまったく。


「ううん? そうじゃないの。確かに女神様とのお話がきっかけではあるけれど、何か指示されたり注意されたりといった内容ではなかったわ。あの方は私たちの疑問や不安を解消しに来られただけだからね? それが昨日だったのは、多分シラユキが五十歳になったからとかそんな単純な理由じゃないかしら?」


 なるほどなるほど、母様も女神様の本質はちゃっかり見抜いちゃってた訳だね。ふふふ。

 しかし女神様とのお話が理由じゃないとすると……? 一応きっかけではあるんだっけ? むう、気になる気になる木。



「実際来ようと思えば昨日みたいにいつでも来れるもんねー。……あ」


「あら? どうしたのシラユ……、あ、ああ、そうだったわね。私としたことがやってしまったわ……」


 私に続いて母様も顔を上げ、同じ方向、メアさんとノエルさんの方へ視線を向けると……。


「き、聞いてません! 何も聞いてないっすから!! 何だ! 何なんだよ今の会話!! やべえ!! この国やべえ!!!」


「あはは、しっかり聞こえてるじゃない。まあ、あんまり深く考えない方がいいよ。……ついにエネフェア様たちの前にも現れたんだ、女神様。ふふ、ちょっと羨ましいかな?」


「さすがは姫様、エネフェア様ですね。私はもう正直席を外させて頂きたい気持ちでいっぱいです……」


 ノエルさんは耳を押さえて後ろを向き、メアさんは呆れた様子で笑い、そしてすぐ左にいるシアさんはもう逃げ出したそうにしていた。



 や、やってしまった!! でも別にいいよねー、母様も普通に喋っちゃってたしー。

 ……いや、最初に話を振ったのは私か……。ご、ごめんなさい!! これも全部女神様のせいだー!!







全く話は進んでいませんが続きます!



前回の次の日の話なのに投稿は約半年ぶりくらいでしょうか? 危うくエターナってしまうところでした。

思いっきり続いてしまったので次回はなるべく早めに投稿したいと思っています。(するとは言ってない)

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