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315/338

その315

また一ヶ月以上も……

お、お久しぶりです。(震え声)

「ただいまー!」


「おかえりシラユキ、レンも」


「二人ともおかえりー。あれ? ノエルは一緒じゃないの? っと、それよりもどうだった? やっぱり潰れてた?」


 やっぱりってどういう意味なんですかねえ……。まあ、私も冗談半分だけど似たような事を考えいたし、文句は言わないでおこうじゃないか。



 町から帰って来た私たちを談話室で待ってくれていたのは、メアさんとフランさんの二人だけ。ほかのメイドさんズは多分各所でお仕事中だろう。ちょっと物足りないと思ってしまうのは贅沢というものか。


 今日私は、シアさんとノエルさんを連れて『踊る妖精』の、ええと……、視察? に出掛けていた。

 ノエルさんという三人の中でのリーダー的な存在が一時的に抜け、逆に接客業とは縁も程遠いエレナさんがその穴を埋めるべく補充へと入った、いや、入ってしまったお店は今現在どうなってしまっているのか……!? と少し心配に思えたからだ。



 そんな失礼すぎる心配もいつもの取り越し苦労で終わったんだけどね。ふふ。


「ううん、潰れるどころかエレナさんすっごい人気者になってたよ。ちょっとビックリしちゃった。ノエルさんは多分キャロルさんの所かな」


 シアさんに手を引かれ、椅子へ座りながらまずは簡単に結果報告。予想とは正反対の結果に驚きとしか言えない。


「ええー!? あのエレナが? ちょーっとそれは信じられないと言うか思いもよらなかったって言うか……。あ、姫の言葉を疑ってる訳じゃないからね」


「ふふ、分かってるよー。あのエレナさんだもんね? ふふふ」


 それはメアさんだけではなく、エレナさんを知っている人ならば誰だって信じられないだろう。実際目の前で見た私だって、事態の把握にそれなりの時間を要してしまった程だからね。


「あのって……、ふふ、ま、エレナだから仕方ないかな。でもさ、人気者になってた? やっぱりあの子って黙ってれば美人だからかな。うーん……? 私もシラユキを疑う訳じゃないけどすぐには信じられないかもね」


 二人とも納得がいかないのか少し考え込んでしまっている、これはエレナさんの信頼の高さが原因だろう。……悪い意味での信頼だが。


 エレナさんは最早、家事全般なんでも来い! って感じの立派な一人前メイドさんになったんだけど、それは大好きなライスさんのために修めたスキルだからね。基本自由(フリーダム)なところは一切変わってなくて、グリニョンさんと結託して悪戯やサボりを優先する事の方が圧倒的に多い。我が家のメイドさんズの中では一番の年下だし、リリアナさんもエレナさんに関してはそこまで目くじらを立てて怒るような事もしないで、軽く叱る程度なのが原因なのかも。まだ成人したばかりのタチアナさんはあんなにも真面目な人なのになあ……。


「姫様、どうぞ。まあ、私としましても期待外れ、残念だったと言わざるを得ませんでしたね。客への暴言、売り上げの持ち逃げ、それ以前に店からの逃亡など面白い結果になる事を楽しみにしていたのですが……。はあ」


「ありがとー、って変な期待しないの! もう!」


 ため息をつきつつ、心底残念といった空気を醸し出しながら紅茶を差し出してくれるシアさん。本当に残念そうにしているから困る。


「あはは、怒る姫もかーわいい。で、人気者になってるんだっけ? それってどういう意味で?」


「だから見た目の話じゃないの? エレナって胸はあんまり無いけど普通に美人だし」


 シアさんの不穏すぎる発言を軽く流して普通に話を進める二人。さすがは私自慢のメイドさんだ。

 とりあえず私もできるだけスルーしつつ二人にちゃんと説明をしなければ。しかしマリーさんというツッコミ役がいない今どこまで頑張れるか……。


「エレナさん美人さんだもんねー。それもあるけど、えっとね、エレナさんはお店でもエレナさんだから、かな?」


「エレナだから?」「お店でもエレナ?」


 私の意味不明な説明に二人は揃ってハテナ顔。噛み砕きすぎたかもしれない。

 メアさんとフランさんならば或いは? とも思っていたがさすがに高望みが過ぎたようだ。


「うん、自由奔放って言うのかな。どんなお客さんにだって敬語も使わないし、注文が少なすぎたりすると文句言っちゃったりもするし、逆に多すぎてもめんどくさいって怒り出しちゃったりするんだよ?」


「うわあ、さすがエレナ。でも姫、それって人気者になるどころか普通嫌われるんじゃないの? 特に人間種族ってそういうのに煩いんでしょ?」


「いるいるそういうの。ふふ、エレナはどこに行ってもエレナ、ね。なーるほど」


 おや? フランさんは今ので理解できちゃったみたいだね。自分で説明しておきながらちょっと驚き。

 それじゃ、メアさんにもちゃんと分かるようにもう少し頑張ってみるとしようかな。……よし!


「憎めない性格と言えば分かりやすいでしょうか? 好き放題をしていても最終的にはやれやれと全て許せてしまうような……。まあ、簡単に言えばそんなところですね」


「そゆ事そゆ事。シラユキだってたまに苛められてるのにエレナのこと大好きだし、私らだって呆れる事は多いけど嫌う事はまず無いでしょ? なんでかエレナって注意する気があんまり起きないのよね」


「あ、あー、確かにそうかも。ふーん、それもある意味才能なのかな? 私たちの場合は諦めに近いかもしれないけどね。ふふ」


「ふふ、そうかもしれませんね」「あはは、確かに」


 そう言って笑い合うメイドさんズ三人。やはり仲良し三人組だ。


 そして私は一気に蚊帳の外? まったくシアさんめ、私が頑張ろうと張り切ったらコレだよ! 途中まで物凄くどうでもよさそうにしてたのにぃ。

 多分純粋に説明したかったのか、それとも私がメアさんとフランさんばかりとお話してて軽く嫉妬しちゃったのかもしれないね。私の代わりに説明してくれた、と好意的な解釈が真っ先に出てこないのはシアさんだから仕方が無いんです。



 シアさんが簡潔に説明し、二人ともほぼ理解してしまったみたいだが、一応私からももう少しだけ補足をしておいた。

 『踊る妖精』のメイドウエイトレスさん三人組は私のメイドさん、なのでお客様相手でも私のメイドさんらしく必要以上に畏まったりはしない。だけどそこはやっぱり客商売、お客様はお客様なのだ。

 しかし、そんな面倒な話など知った事か! とばかりに自由フリーダムさを見せ付けるエレナさん。問題になるどころか今ではそのエレナさんの傍若無人っぷりを楽しみに通っているお客さんが何人もいるんだとか。


 ふむ、私の大好きなお姉さんでありメイドさんのエレナさんが人気なのは嬉しい、が! あまり人気が出すぎてしまうのも困り者かな? ノエルさんたちにだって固定ファンがかなりの数いる筈だしちょっと心配になってきてしまう。

 まあ、私のメイドさんに何かしようなんて考える人はあの町にはいないと思うけどねー。ふふふ。



「あ、そうそう、シラユキちょっとこっち来てこっち」


「う? うん」


 今日の視察についてのお話はこれにて終了、といった辺りでフランさんが何かを思い出したかのように私を手招いて呼ぶ。

 ほんの数歩の距離なんだからそっちから来てくれればいいのにー、と思いながらも、それはフランさんにとってみても同じ事なので口には出さない。


 椅子から降り、すぐ近くにいるフランさんに歩み寄る。

 こういう時に文句を言いそうなシアさんだが、特に何も言わず椅子を引いてくれた。今日は一緒にお出かけできたので機嫌がいいだけかもしれないけど……。


「どうしたのフランさ」


「捕まえた!!」


「わぅ! 捕まった!!」


 ななな、なに? なんで捕まったの私!?

 くっ、別にニヤニヤと何か企んでいそうじゃなかったから油断してた! 完全に素の状態に見えたのにー!!


 フランさんの目の前まで来たところで、がばっと勢いよく抱き上げられてしまった。


「な、なあにフランさん? 何で急に捕まえたの?」


「ふふふ、シラユキかーわいい。ううん、何となく抱き上げたかっただけだから気にしないで」


「あ、そうなんだ? もう、ビックリしちゃったよ……」


 スリスリと頬擦りをしてくるフランさん。何も無いと言うのなら安心して可愛がられておこうじゃないか。


 もしかしたら、私が今日お出掛けしていたせいで私分が切れ掛かっていたのかも? なーんてね。ふふふ。


「あ、そうだった。ねえ姫、ちょっとこっちまで来てもらえるかな」


「う? メアさんも? ちょっと待ってねー。フランさん」


「はいはい。もうちょっと抱き上げてたかったのに……。ふふ、また後でね」


「うん!」


 フランさんに甘えまくっていたら今度はメアさんに呼ばれてしまった。メアさんは私分が切れたとかではなく普通に用事を思い出したみたいだ。


 またもや数歩の距離なので、テテテと歩いてすぐにメアさんの目の前に到着。さーてメアさんのご用はなあに?


「何かあったのメアさ」


「捕まえたよ!!」


「!? 捕まったよ!!」


 あ、あれ? また? なんでまた捕まったの私!?

 ゆゆゆ、油断してた!! メアさんも完全に素の状態に見えたのにー!!


 先程と同じく、メアさんの正面まで来たところで勢いよく捕獲されて抱き上げられてしまった。


「メアさんまで! なんで捕まえたのー?」


「あはは、姫かーわいい。私も何となく抱き上げたくなっちゃってさ」


「そうなの? むう、ビックリしちゃうから普通に抱き上げてよー」


「ごめんねひーめ。うーん、可愛い!」


 ウリウリと頬擦りとキス攻撃を繰り返してくるメアさん。何も無いと言うのならまた安心して可愛がられておこうじゃないか。


 メアさんはあれかな、フランさんの行動を真似てみただけなのかもしれないね。……シアさんは肩を震わせて我慢してないで普通に笑ってもいいんだよ? まったくもう。



 数分後、三人の内のメアさんにだけ可愛がられている訳にはいかないので席へ戻り、椅子に腰掛けようとしたその時。


「捕まえました!!」


「捕まりました!!」


「つ、捕まりましたって……、あっはは!」


「さすがに三回目ともなるとちょっと余裕そうかな? ふふふ」


 やっぱりと言うか案の定と言うか、二度あることは三度あると言うべきか、シアさんに後ろから襲い掛かられて、じゃないや、抱き上げられて三度捕まってしまった。


「やると思ったよ! もう!! 三人ともなんで捕まえてくるのー?」


「姫様が可愛らしいからです」


「答えになってないよ!」


 いや、シアさんとしてはそれが本当の答えなのかもしれないけどさ……。


「はー、姫の反応面白可愛すぎ! うん、シアの言うとおり可愛いからっていうのが一番の理由かもね」


「ええ、本当に。姫様が可愛らしすぎるのがいけないんですよ?」


「なにそれ。むう、ビックリしただけで嫌とは思わないからいいけどね」



 シアさんにもたっぷりと頬擦り攻撃を受けた後、ようやく開放されて席へ落ち着くことができた。

 よくは分からないけど三人とも私で遊びたかったんだろうね。私、で! お姫様で遊ぶとはメイドさんじゃなかったら決して許されない行為なんだよ? なのでメイドさんである三人は許します。


「まあ、シラユキが可愛いからっていうのも理由のひとつだけど、ちょっとこの前のノエルのアレで思いついた事があってね」


「う? ノエルさんのアレって?」


 紅茶を一口飲み、ふう、と一息ついたのを見計らってフランさんが理由を話し出した。

 どうやら何となく構いたかったからという訳ではないらしいが、ノエルさんのアレとは一体……?


「あの姫のスカートをみんなでめくりまくった日の事だよ。お遊びだったけど姫人質に取られてたでしょ?」


「うん。今更だけどなんで私のスカートがめくられないといけなかったんだろ……」


 深く考えたら負けか……。ぐぬぬ。まあ、楽しかったのは確かだから本当に深く考える必要もないだろうね。


「でね? 今日三人が出掛けてる間、姫って結構簡単に捕まっちゃいそうだよねー、ってフランと話してたの。それで試してみたって訳」


 なぬ? 簡単に捕まりそう? うーん、それはどうかなー。今のは家の中だから完全に油断しきってただけだと思うなー。


「そうそう、おっぱいの大きなメイドさんにおいでおいでって手招きされたら、それが見ず知らずの人でも簡単について言っちゃうんじゃない? ってね」


「えー……」


 いやいや、いくら私がメイドさん大好きであっても全く知らない人について行ったりは……、しない、んじゃないかなあ、と思います。多分。


「なるほどそういう事でしたか。まあ、その方がもしエルフだったとしたら私も強く否定はできませんね。多種族ではいくら無類の巨乳メイド好きの姫様といえどもそう簡単に……」


 と、シアさんは何故かそこで言葉を止めてしまい、私の顔を覗き込むようにして見つめると……


「ついて行ってしまうかもしれませんね」


 にっこりいい笑顔でそう言い切った。


「ちゃんと否定して! エルフだったら気を抜いちゃいそうだけどさー。でも町に行くときはシアさんかキャロルさんが一緒なんだから大丈夫だと思うよ?」


「うん、私たちもそれもそうだねって結論は出てたんだけど」


「シラユキを捕まえて遊んでみたかっただけだから気にしないでね。ふふふ」


「なにそれひどい。普通に遊んでよ普通にー」


 結局私で遊びたかっただけなんじゃないか! あらぬ心配をしちゃって少し不安になってたのかもだからこれ以上強くは言わないでおくけどね。




「姫様!!」


「わっ。あ、クレアさんだ。どうしたの?」


「なんですか騒々しい。姫様はお帰りになられたばかりでまだお疲れなのですよ?」


 話にひと段落がつき、のほほんと休憩を続けていたらクレアさんが部屋に飛び込んできた。

 完全に気を抜ききっていたので驚かされてしまい、そのせいかシアさんの機嫌が急降下してしまっている。


「お寛ぎのところ騒ぎ立ててしまい申し訳ありません! 姫様にお客様が見えて……、し、失礼します!!」


「うわぅ。また捕まった!!」


 クレアさんは謝りながらも足は止めず、そのままの勢いで私を抱き上げた。これで捕獲されるのも四度目か……。


「なに? クレアもシラユキを捕まえたかったの? って、うん?」


「お客様? 姫に? 誰だろ一体……」


 ……? あ、私にお客様が来てるのか。態々クレアさんが呼びに来るくらいの人なんて心当たりにいないなあ。


「姫様、急ぎとの事なのでこのまま執務室までお連れさせて頂きます」


「うん。それじゃまた後でねー」


 ここで考えても答えは出ない、大人しくクレアさんに連行されようではないか。何やらクレアさんも焦っているみたいに見えるし余計な質問をするのも控えておこう。


「と、いかん、忘れるところだった。お前たち三人は自室で待機していろとの命だ、ウルギス様よりのな。バレンシアは戻るより先にキャロルとノエリアを探して伝えておいてくれ、頼んだぞ」


「な、ウルギス様の……!? わ、分かりました、すぐに」


 おお、シアさんが素直に……。さすが父様ださすが。


「自室待機って……。ま、後でシラユキから詳しく聞けばいいかな。はあ、その間何してよう……」


「あ、私もフランの部屋で待ってようかな。ひーめ、楽しみに待ってるからねー。お客様の前ではしたなくツッコミ入れたりしちゃ駄目だよー?」


「は、はーい。シアさんも勝手に抜け出して覗きに来たりしちゃ駄目だよー?」


「では姫様、また後ほど……」


「返事して返事!」




 ううむ、急な話で何が何やら……。とにかく私にお客様が来てるんだよね? でも誰だろう? 父様がメイドさんズに自室待機って命令しちゃうくらいだから、もしかしたらどこかの国の偉い人が急遽訪問したとかかもしれないね。

 まあ、私の家まで来てるとしたらその人はまずエルフで間違いはなし、そこまで緊張も警戒もしなくていいかな。クレアさんが目に見えて焦ってるのが少し気になるところではあるけど……。




続きます。


このお話が終わったら『裏話』の方におまけと、あと教シアも投稿したいですね。……今現在一文字も書けてませんけど!

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