その314
「はあ、つい逃げちまったけどアイツには悪い事しちまったかな……。シラユキ様、ソフィーティアの奴はあれが普通っつーか素の行動なんすよね?」
「うん、本人は別におかしな行動でも何でもないって思ってる筈だよ。私は結構慣れたけどどこからどこまでが本気なのか全部は分からないかなー」
「そっすかー……。店じゃ割りと普通なのは何でなんだ? まあ、アタシも追々慣れていきますよ。んじゃ次はどこに行きましょかね」
綺麗なブリッジを見せてくれたソフィーさんに別れを告げ、逃げる様にしてやって来たのは母様の執務室近く。次と聞かれても特に当ては無い。
実際逃げてきたんだけどそんな細かい事は気にしないで、と。それじゃ丁度いいし次は母様の所に行こうか。でも私は甘えるのに忙しくなると思うから質問はノエルさんに全部お任せする事になると思うけどね。ふふふ。
「あん? ノエル、とシラユキ様? ちょいちょい、アンタ見習いの分際で何勝手にシラユキ様抱き上げてんのよ。はいはいさっさと降ろして差し上げる!」
「わ、キャロルさん? あれ? 今どこから……?」
何となくノエルさんに抱き上げられたまま移動していると、キャロルさんがどこからともなくやって来ていきなり注意をし始めた。前にも後ろにもいなかった筈なので、もしかしたら窓から入って来たのかもしれない。ちゃんと入り口から入って階段を使いましょう。
「うっせうっせ。あ、そういや聞いたぞ? 偉そうにしてる癖にお前だってまだ見習いらしいじゃねえか! その可愛いネコミミは見習いの証だってな」
「いやいや、これはシラユキ様が可愛いから付けててって言われるから付けてるだけだって。ま、シア姉様たちからするとまだまだ見習いも同然なのは自分でも分かってるから強く否定はできないんだけどさ」
ああ、かなーり前にそんな事をお願いした覚えもあるような……。
キャロルさんと言えば、フリフリメイド服のネコミミツインテメイドさんというイメージがもう定着してしまっているよね。汚れたり傷付いたりして新しくする場合もそのお願いを律儀に守り、毎回ネコミミ付きをシアさんにお願いしてくれてるんだとか。
律儀と言うか、キャロルさんは優しいお姉さんだねホントに。ネコミミ付ならシアさんのお手製になるからそれも理由のひとつにあるんじゃないかな? ふふ。
とりあえず私はこのままでいい、と伝えてキャロルさんには納得してもらう。思いっきり不満顔で渋々だったが。
キャロルさんの場合はシアさんが意地悪してただけで、実際のところそんな決まりなんて無いんだけどね……。
「お、そうだシラユキ様、コイツが一番の適任なんじゃないっすか? 館ん中で誰があの人と一番付き合いが長いかって言ったらやっぱキャロルっすからね」
「う? うん、確かにそうかも」
「一体何の話よ? 私と誰が付き合いが長いって? アンタ? それともシア姉様?」
確かにノエルさんの言うとおり、この家の中でシアさんについて一番詳しいのはキャロルさんだと思う。しかしキャロルさんが素直に大好きな人の弱点を教えてくれるだろうか? 怒り出してここでいきなりガチバトルとか始めたりしないだろうか!? 不安だ。
まあ、私が聞けば多分問題ないかな。ノエルさんには母様の所で頑張ってもらうつもりだし、ここは私に任せてもらおうじゃないか。
「ねえねえキャロルさん、ちょっと変な事聞いてもいーい?」
「うへえ可愛い、っとすんません、アタシは黙ってますね」
「はい? あ、シラユキ様のご用事でしたか。どうぞ、何でも聞いてくださいね」
抱き上げられているので文字通り上から目線。私に頼られて嬉しいのか、笑顔で見上げてくるキャロルさん可愛いです。
「シアさんの弱点? 特別弱い所があったら教えてほしいんだけど……、あるのかな?」
「えっ? シア姉様の弱い所……、ですか?」
単刀直入だが、実際そんなものが存在しているかどうかも分からないので疑問形で質問する。問われたキャロルさんもやっぱり疑問系で聞き返す。これは本当に存在すらしてないんじゃないだろうか……。
「うん、全然分かんなくて。キャロルさんも知らない?」
「あ、いや、あるにはありますし私も知っていますけど一体どうしてそんな……、はっ!? そ、そうよね、シラユキ様ももう五十になられたんだしそういう事を考えられてもおかしくはないわよね……」
あ、あるんだ? 意外!! シアさんもああ見えてやっぱり普通? のエルフだったのかー。失礼な感想だけどシアさんだから仕方が無いね。うんうん。
しかし、キャロルさんの様子が何やらおかしいのが気になるね。そのシアさんの弱点とやらを早く教えてもらいたいんですがねえ。
「キャロルさーん?」
「ああー、何かショック! シラユキ様にはずっと汚れの無い子供でいてもらいたかったなあ……。でもまあ、相手がシア姉様だからしょうがないか」
軽く呼んでみたけれど返事はなし。どうやら気持ちがどこか別の方向へ向いてしまっているみたいだ。ちょっと寂しい。
「何言ってんだコイツ? おいキャロル、シラユキ様無視すんなよ。おーい?」
「シア姉様は完全にシラユキ様一筋だし、もう私が間に入り込む余地は無くなっちゃうかな……。ん? でもそうなると……」
見るに見かねた感じでノエルさんが注意をしてくれたが、それでもキャロルさんは返事を返さずブツブツと独り言を続けている。
「むう。キャロルさー」
「シラユキ様! 私もご一緒させてください!!」
「わぅ!」「おわっ!」
言い切るよりも早く大声で返されてしまった。私もノエルさんもあまりに急すぎて驚いてしまった。
まったくもう、ビックリさせてくれちゃってー。でもキャロルさんなので許します。
それよりもご一緒って、キャロルさんもシアさんの弱点探しについて来てくれるっていう事なのかな? でもキャロルさんは知ってるって言ってたよね……。ううむ、どゆことー?
「キャロルさんも一緒に? 私たちと?」
「ええ、は、はい。あのー、ええとですね、は、初めてが三人でもいいじゃないですか! シラユキ様はこれからハーレムを築かれるんですから複数人同時に」
「やめろこのアホ!!」
「いった! 何すんのよいきなり!! アホとかアンタにだけは言われたくないわ!!」
ノエルさんの垂直チョップがキャロルさんの脳天に炸裂! キャロルさんは色んな人によくチョップされてるけど、多分頭の位置的に打ち込みやすいんだろう。
「何ブツクサ言ってるかと思ったらソフィーもお前も頭ん中はそればっかかよ!! バレンシアさんの弱い所ってそういう意味じゃねえ!!!」
「はあ? 何よそういう意味じゃないって。だったらどういう意味で……、はっ!? す、すみませんシラユキ様!! 私ってば恥ずかしい勘違いを……」
「え? 何が?」
私はもう何がなにやら状態、急な出来事の連続で驚きっぱなしだ。
キャロルさんが何をどういう勘違いをしていたのか気にはなるが、ソフィーさんの名前が出てくる辺り突っ込んで聞くような話でもないだろう。それよりもシアさんの弱点を早速教えてもらうとしようかな。
「ただいまー。あ、シアさん戻って来てたんだね。ふふふ」
「まさに丁度いい所にって感じっすね。フフフ」
「お、おかえりなさいませ姫様。くっ、何という上機嫌、可愛らしすぎます……! まったくこの三下は三下の分際で姫様の笑顔を独り占めしようとは許せませんね」
「何か理不尽な理由つけて睨んできてるんすけど……」
キャロルさんから教えてもらったシアさんの弱点、残念ながらそれは弱点と言える程のものではなかった。
「おかえりひーめ。ノエルもね。姫ってば不適に笑ってるつもりだと思うけど普通に可愛すぎ!」
「おかえり二人とも。その様子だといい収穫があったみたいね。ふふ、それじゃ私らは少し離れて高見の見物といきますか」
「だね。とばっちり受けるのもイヤだし」
それはシアさんの超苦手とするもの、いや人物。そう、上司(?)のリリアナさんである。
「姫様、そろそろお許しを頂きたいのですが……。私もう倒れてしまいそうです!」
「あはは、私分が切れそう? もうちょっとだけ待ってねー」
「は、はい! む、ほらそこの、早く姫様をお席へ案内して差し上げなさい。まったく気の利かない、これだからこのゴミクズは……」
なんだ拍子抜けーと思いながらも、丁度向かう先だったのでリリアナさんからも心当たりを聞いてみたのだが、これがまさかの大当たり! ついにシアさんの本当の弱点を発見する事ができたのだった。めでたしめでたし。
「ゴミクズはやめてくださいよマジで。……ま、それも今日までっすけどね!!」
「ほう? 何やら自身あり気のようですが……。さあ、早く私の弱点とやらを見せてみなさい、姫様の御前で完膚なきまでに叩き潰してあげましょう」
「シアさんこわっ! それじゃノエルさん」
「はい! シラユキ様!」
いざKBFへ!! ……ここだった恥ずかしい!
ノエルさんが私の後ろから両脇に手を差し入れ、そのままゆっくりと持ち上げる。ぶらんとして不安定だがここからが肝心なところなので何も言わないでおく。
「バレンシアさん! 大人しくスカートをめくらせないと……、アンタの大事なシラユキ様が大変な事になるっすよ!!」
「きゃ、きゃー。たすけてシアさーん」
ずずいっと私をシアさんの方へと突き出し、訳が分からない要求をするノエルさん。いやらしい。
「なっ、何という事を! 考えましたね……」
「人質!? まさかの人質!! あはははは!! いたっ、お腹痛い!!」
「ぶふっ! ノエル卑怯! シラユキ可愛い!! わ、笑わせないで!」
どうなるかと思ったが中々にいい反応を見せてもらえた。メアさんとフランさんは別の意味でいい反応を見せてくれているがそれは置いておこう。
シアさんの弱点。それはなんと……、私でした!!
駄目元でリリアナさんに聞いてみたらまさかの即答で、私を味方に付けるなり人質にするなりすればいくらシアさんでもどうする事もできないだろう、とニヤニヤしながら教えてくれたのだ。リリアナさんさすがすぎる。
これぞまさに灯台下暗し、意外な盲点だったね。ふふふふ、これでもう勝ったも同然か。
「ふむ、姫様が大変な事にですか……。具体的にはどう大変な事になるというのです?」
「えっ? た、大変な事って言や……、大変な事っすよ」
「ですからどんな目に遭われると言うのですか。まずはそこをはっきりとさせない事には私も素直に従う訳にはいきませんね」
て、手強い……! そして鋭い!!
意外すぎる手に最初こそ動揺したシアさんだったが、冷静さを取り戻すとこの作戦の穴を的確に突き始めた。
つまり私たちは、この先何も考えていなかったのだ! どうとでもなると思ったのが一番の敗因か……。いや! まだ負けと決まった訳ではない!!
「ちょ、ちょっと待ってください! し、シラユキ様どうしましょう? アタシの予想だとすぐに決着がつく筈だったんすけど……。やばいんじゃないっすか? コレ」
「うん、さすがはシアさん、一筋縄じゃいかないね。とりあえず適当に言ってみる?」
「はい、了解っす。えーっと……」
こそこそ小声での作戦会議は終了。そしてもっと細かく作戦立てをしておくべきだったと反省。この教訓は次に活かそうと思います。
「シラユキ様の明日のおやつが抜きになります!!」
「ええええ!!?」
「なんて卑劣な!! これは迂闊に動く訳にはいかなくなりましたね……」
「ノエルひどーい」「ノエルひきょーう」
ちょ、ちょっとちょっとノエルさん? 冗談でも言っていい事と悪い事というのが世の中にはあってですね……。それは許されざるよ!!?
「ふっふっふ、さあ大人しくそのヒラヒラした……、ってなんですかシラユキ様?」
「他のにして! もっと別な方法でお願い!」
「へ? 駄目なんすか? 参ったな……。そんじゃあれっすよ、耳を引っ張るとかどうっすかね?」
「痛い! それも駄目!」
「エレナにはたまにやられてるじゃないすか。うーん、どうしたもんかなこりゃ……。可愛すぎてニヤけちまうわ」
おやつ抜きは死んじゃうし、耳を引っ張られるのも考えただけでも痛いので勘弁してください! エレナさんはエレナさんだから許されるのであってですね……。
「そだ、バレンシアさんのスカートをめくらせないと、反対にシラユキ様のスカートがめくられちまうってのは」
「それです! さあさあ、私は従いませんし抵抗もしますよ。なので早く姫様のスカートをめくり上げなさい。さあ!!」
「さあ! じゃないよ!! シアさん楽しそうだね……」
「バレンシアさんってシラユキ様が絡むとノリがいいっすよね。うし、この作戦は失敗か。っつー訳でシラユキ様には大変な目に遭ってもらうしかないっすね」
「何でそこは潔いの!? きゃ、きゃー!!」
「もっと勢いよく! ああもう何を手間取って……、私も手伝います!」
「お、お腹痛い……、死んじゃう!!」
「まったく何やってんだか……。ふふふ」
ノエルさんの能力を認めさせるためのシアさんの弱点探しだった筈が、何故か私のスカートがめくられまくるという結果になってしまった。本当にどうしてこうなった!!
まあ、そのおかげと言っていいものか分からないけどノエルさんも名前で呼んでもらえるようになったし、終わり良ければ全て良し、なのかな? 個人的には全然納得いかないけどね!
一日の話が長々と、本当に長々と続いてしまいましたね。(リアル話)
次回はまた未定です。ペースを戻して一週間くらいで投稿したいところです。