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308/338

その308

 突撃だの乗り込めだの勢いを付けて言ってはみたが、ここは森の中ではないので普通に歩いて例のテーブルへ接近する。駆け寄るなんてはしたない真似はしません!

 その途中他のテーブルに着いている冒険者の人たちから、可愛いとか何あれだとかそんな言葉が数多く聞こえてきた。恐らくインドアモードのエレナさんに対してのお褒めの言葉だろうと思われる。


 フフフ、みんな騙されてるね……。エレナさんは可愛いだけの人でないというのにその浅はかさ愚かしいな。

 ウルリカさんがいれば色々と説明してくれそうなものだけど、今日は広場の方に行っているのか残念ながらあの素敵モフモフ尻尾は見当たらない。まあ、家族を褒められるのは悪い気はしないのでこのまま誤解させておくとしようじゃないか。ふふん。


 そんな一分にも満たない短い時間の事だったが、そのおかげで、兄様と姉様に怒られるかも!? といった緊張が少し薄まってきた。

 薄まっただけで消え去ってはいないのでまだまだ胸がドキドキでハラハラものだが、もう目の前まで到着してしまったからには覚悟を決めるほかはない。


「る、ルー兄様、ユー姉様、ごめんね。き、来ちゃった……」


 シアさんの後ろに隠れながらだけど開口一番まずは謝る。姉様はともかくとして兄様には普通に怒られてしまいそうだ。

 兄様と姉様はエレナさんからこちらに、まずはシアさんを確認して少し驚き、視線を少し下げて私と目が合うとさらに驚いた表情を見せた。


「し、シラユキ……? 何だそれ可愛いなおい。またバレンシアが作ったのか? 隠れてないでもっとよく見せろって」


「か、かか、可愛いわ!! さっすがシア、毎度いい仕事するわよねホント。ほらほらこっち、お姉ちゃんのお膝におーいで?」


 兄様は私を一目見て笑顔になり、姉様も大喜びで自分の両股を軽く叩いて私を呼んでいる。


 怒られるかと思ったけど全然そんな事は無かったぜ!

 あっれー? 怒られたかった訳じゃないからいいんだけどなんだかなー。ちょっと肩透かしされた気分。


「ありがとうございます。さ、姫様、まずはお席、いえ、ユーフェネリア様のお膝へ。エレナさんもそこらに適当に腰掛けてください」


「う、うん……」


「ん……、ま、いっか。ここでウダウダ言っても話は進まなさそうだし」


 誇らしげに二人にお礼を言ってから、私の背を軽く押して席(?)を勧めるシアさん。エレナさんに対しては投げやり感が漂っているのでデレ期間は終了してしまったのかもしれない。残念。



「あ、ちょっと冷えちゃってるわね。寒かったでしょシラユキー? うーん、可愛い! あ、手袋はしたままでいいわよ」


「あう。ユー姉様恥ずかしいよ……」


 フードを脱いでから姉様の膝の上に座らせてもらうと、その瞬間後ろから抱きしめられて頬擦りをされまくってしまった。恥ずかしい。


「まさかこの寒い中自主的に町まで出て来るなんてな。そんなに寂しかったのか? ごめんなシラユキ」


「そ、そういう訳じゃないんだけど……」


 兄様にも小さな子供をあやすかのようにグリグリと撫でられまくってしまった。恥ずかしい。


 むう、外は寒かったから膝の上も頬擦りも温かくて幸せなんだけど今はまだちょっと……、その……。


「さっきまで元気だったのに急に大人しくなっちゃってこの恥ずかしがりめ。んでルー兄、ユー姉? このニヤニヤして姫見てる人は誰なのよ?」


 そう! まずはそれです!

 姉様の膝の上で幸せ気分に浸る前に、さっきから気を使ってくれているのかどうなのか、無言でこっちを見てニヤニヤしているこの男の人の正体を明かしてもらえませんかねえ……。 


「む、あー……、どうしたもんかな。ユーネ、どうする? 俺はまあ、別に紹介しちまってもいいと思うんだけどな」


「うーん……、どうしようかしら? ど、どうする? シア」


 兄様から姉様に、そして姉様からシアさんにほいほいとバトンが手渡されていく。……うん?


「そうですね……、いつまでも無言を通してもらうのもなんですし気が重いでしょうからね。では軽く紹介させて頂きましょうか」


 ……あれ? 何かおかしくない?


「こうなっちまったら仕方ないもんな。しっかし、お前が一番反対してたのにどういう風の吹き回しだ?」


「そうよねー、態々シラユキをここまで連れて来ちゃうくらいだものね。心変わりかいつもの気まぐれかしら?」


「さあ? それは私には何とも申し上げる事はできませんね。……姫様?」


 おかしいと言うか間違いないじゃないか!!


「シアさんこの人が誰か知ってるの!? ルー兄様たちが何しに町に来てたのかも! さっきは知らないって言ってたのにー!!」


 また私と二人きりになりたいとかそんな変な理由で嘘をついてたんじゃないだろうな! ぐぬぬぬぬぬ……。誠に遺憾である。


「姫様? 確かに私はお二人の居場所までは、と申し上げましたが……、それ以外の事でしたら概ね把握していたのですよ?」


「なにそれ! あ! 聞かれなかったから!?」


「はい、聞かれなかったからです。ふふふ」


 にっこりいい笑顔でしれっと言われてしまった。

 もう!! 汚いなさすがシアさんきたない! でも嫌いにはならないけどね!


「うわあ、バレンシア性格わっるぅ」


「シラユキをからかってツッコミを入れられるためなら何でもする奴だからな」


「それでもやりすぎないギリギリを狙うのがさすがよね。シラユキもそんなに怒ってないみたいだし」


「ははっ。……あ、やっ、す、すみません!」


 謎の人にも笑われてしまったじゃないか! シアさんめー!!! 




「では簡単に。こちらの方はクライドさんといいまして、お隣の町、カルルエラの錬金ギルドの次期ギルド長になられる予定の方です。姫様のご紹介は必要ありませんよね?」


「ええ、シラユキ様の噂は色々と伺ってますから。ええと……、初めまして、クライドです。以後お見知り置きを、いや、あー……、よろしくお願いします」


 ほほう? 次期ギルド長さんとな? でも錬金ギルドとか全く興味無いんですけど! 紹介してもらって失礼だな私は……。


「は、初めましてー、シラユキです。こちらこそよろしくお願い、します」


 むう、やっぱり一応だけど初対面の人の前だと緊張しちゃうね。さっきまでシアさんときゃいきゃい言い合ってた元気はどこに行ったのか? とか思われてそう。

 でも、なーんとなくだけど話しやすそうな人、かな? こうやってにこやかにしている様子を見てると最初の悪い印象が全部飛んで行ってしまった感じ。


「あたしはエレナ。でもどうせもう会わないだろうから別によろしくしなくてもいいよ」


「え? あ、はい、分かりました」


 あまりにも愛想がなさすぎるエレナさんにクライドさんは苦笑いで対応。結構乗り気で質問するかと思いきや意外な反応だ。


 ふむ。クライドさんは見た目は三十もいってないくらいで結構若そうに見えるけど、時期ギルド長に選ばれるだけあってしっかりとした大人の男性みたいだね。誰がどこからどう見ても子供の私には難しい言葉を使わないように、簡単に名前だけの自己紹介だけにしたみたいだし。多分だけどね。

 そしてエレナさんのそっけない態度にも気を悪くした様子はなさげ。これはあれだ、所謂好青年と呼ばれる感じの人なんだろう。


「……なるほどな。クライドはリーフサイドの他のギルドに挨拶回りに来てたんだが、そこでたまたま、偶然知り合って俺が興味を持って、っていう流れだな」


「そ、そうだったわね。でもすぐにカルルエラに戻っちゃうみたいだったから、別に無理にシラユキに会わせる事もないかしら? っていう事になってね。ね?」


「ええ、これが胸の大きな女性でしたら紹介もしやすかったのですが男性でしたからね。姫様もエルフ以外の男の方とはお話もし辛いでしょうし」


 トントン拍子に説明が進み謎が明かされていく。クライドさんは何も言わず頷くだけだったが。


 変な事言わないでよもう! くう、クライドさんの前だと突っ込めない! 突っ込みにくい!!

 確かに男の人とお友達になるっていうのはちょっと難しいかもね。私ももう何にでも興味を持ちまくる程子供じゃないし? うんうん。


 少し悪い気はするけど、謎が解けてしまえばクライドさん本人にはあんまり、そして錬金ギルドにも全く興味は無い。シアさんの言うとおりおっぱいの大きな女の人だったら少しは興味を持ってたかもしれないけどね。

 エレナさんも完全に興味を失ったのか居心地悪そうにしてるし、後は適当に残った疑問や今の三人の言葉の引っ掛かりを消化してお暇させてもらっちゃおうか……。


 ……でも、何でか知らないけどこの空気と言うか居心地と言うか、何と言っていいか言葉が浮かばないけどこの雰囲気? 悪くは感じないね。むしろ懐かしい様なそんな気さえするわ。不思議な事もあるもんだね。



「ルー兄様がたまに一人でクライドさんに会いに行ってたのはどうして?」


「ん? ああ、酒に付き合ってもらってたんだよ、ユーネはあんま飲めないからな。後はまあ、男同士でしかできない話ってのもあるだろ?」


「自分もそんなには飲めないですから、どっちかと言うと男同士の話の方がメインじゃないですか?」


「どんな話なのかしら? まったく二人ともいやらしいわ……」


「ほう、猥談ですか」


「違……! わなくもないか? あれだ、趣味の話だよ」


 なるほど、クライドさんもおっぱい星人であったか。これからも兄様と仲良くしてください。



「逆にさ、あたしにはユー姉がそんな興味持つような人には見えないんだけど。なんでちょくちょく二人で会いに来てたのさ?」


 おや? エレナさんはまだ興味を失ってはいなかったのか! 確かに言われてみればその通りだね、そっちを疑問に思うべきだったよ。


「え? わ、私はね……、ええと……」


「姫様はご友人方に私共メイドを紹介なさりたいと思われませんか? ルーディン様も同じ理由ではないかと」


「私? 思ってるよー」


 自慢のメイドさんたちだもんね! メアさんとフランさんは森からあんまり出る事がないから特にそう思うかも。という事はつまり?


「ユー姉様を自慢したかったの? ルー兄様?」


「ん、そうだな、ただの自慢だな。んな細かい事気にすんなよエレナは……」


「はいはいごめんごめん。ふーん、自慢ねえ……」


 兄様ちょっとテレてる? ふふふ。エレナさんは納得したのかしてないのか微妙な反応だね。



「クライドさんがリーフサイドに来てからもう一ヶ月以上は経ってますよね。挨拶回りってそんなに時間が掛かるんですか?」


 ここ、冒険者ギルドと調薬ギルドと後は……、どこだろ? 商店街の店主さんたちにもかな。どれだけ回ってるのか分からないけど、一ヶ月以上も掛けてまだ終わらないの? っていう純粋な興味からくる疑問です。


「お? シラユキが敬語で話してるのはなんか久しぶりな気がするな。もっと子供の頃からその辺りはちゃんとしてるよなあ……」


「ふふふ。可愛くて礼儀正しくて頭も良くて可愛くて素直で可愛いいい子でしょ?」


「ええ、本当に可愛らしくて可愛らしくて可愛らしくて可愛らしくて……」


 は、恥ずかしいからやめてくださいませんかねえ……。うん? シアさんは可愛いしか言ってなくないか!?


「はは。ええ、話に聞いてた、いや、噂通りの方ですね」


 私の噂って言うと、おっぱいの大きなメイドさんが大好きな甘えん坊のお姫様、とかだったっけ? シアさん(メイドさん)を連れて来て姉様の膝の上に座る私。今のこの状況がまさにそのままじゃないか……。


「姫はお姫様なんだからもっと偉そうにしたっていいのに、ん? 姫は何で一ヶ月以上って知ってるん? 今日初めて会ったんじゃないの?」


 おおっと、エレナさんがハテナ顔になってしまうのも当然の事か。そういえばあまり思い出したくないからって、初めて見かけたあの日の出来事はメイドさんズにも話してなかったんだよね。

 ……うん? あ、ああ! 何やってるんだ私! まずはそれを聞かないと!!



「あの! 初めて会った日の事覚えてますか? どうしてあんなにじっと私のことを見てたんですか?」


「なるほど、こうやって話したのは初めてって訳ね。で、何よ姫のことじっと見てたって、まさかアンタもバレンシアとカイナと同じで幼女趣味? うっわ……」


 ガタッと音を立てて露骨に椅子ごと距離を取るエレナさん。その表情は心底嫌そうだ。


 引いてる引いてる。そうだったらさすがの私もそれには引くわー。


「違いますよ!! あの時は……、ああ、あの時の事か……。いや、ええとですね、その、可愛い三人組が歩いてるな、と見入ってしまっていたんですよ。それだけで深い意味は無いです」


 何かクライドさんがやっちゃった感漂わせてるけど、もしかして聞かない方がよかった? でもこれだけはできたら解決しておきたかったからね……。


「姫姫、その時の三人って?」


「私とキャロルさんとマリーさんの三人だよ。キャンキャンさんも一緒にいたけどね」


「やっぱそうじゃん! コイツ幼女趣味じゃん!! ああ! だからルー兄もユー姉も姫を連れて来なかったんじゃないの!?」


 エレナさんは距離を取るどころか椅子から立ち上がり、兄様の後ろに隠れてしまった。

 さらにビシッと指を差して大声でのロリコン認定に冒険者の人たちの視線も集まる集まる。ミランさんの笑い声も聞こえる聞こえる。


 いやいやエレナさん? さすがにそれは失礼すぎるでしょう……。本当にロリコンさんだったら私に二度と会う事もなくシアさんに消されちゃってるよ。物理的にこの世から。


「だから違いますって!! ルーディン様とユーフェネリア様からも何とか仰って上げてくださいよ!」


「お、おお、俺か? ……よし分かった。そうなんだよ、コイツ幼い女の子、所謂幼女が大好きなんだよ。最低な奴だろう?」


「そうでしょう!? 俺は別に子供なんえええ!!? ちょ、何て事言うんですか!!」


「……ごめんねクライド。本当はそうなのよ、だからシラユキと会わせないようにしてたの。シラユキもこれからクライドを町で見かけても自分から近付いて行っちゃ駄目よ?」


「ユーフェネリア様まで!! ああもう全部ぶっちゃけますよ!? いいんですか!!?」


「待て待て落ち着け! お前が犠牲になれば全部丸く収まるんだよ! だからお前は今日から幼女趣味になれ」


「なろうとしてなれるモンじゃないですよ!! もう言いますからね!? 実は俺の両親」


「全部ぶっちゃけてしまった場合貴方の臓物も全てぶち撒けられてしまうのですが、それでも宜しいのですか? 私は構いませんが」


「ひい! じ、実は俺の両親の代からずっと幼女が大好きなんです! ……くっそう、何でこんな事に……」


 こわっ! シアさんが久しぶりに怖い! あと兄様はもう隠す気がまるで無いよね? 本当にどうしてこうなった!

 そしてやっぱりこの懐かしい空気、テーブルのせいだけじゃないよね? クライドさんは多分……




「クライドさんごめんなさい。あの、大丈夫ですよ? 私は信じてませんから」


「あ、ありがとうございますシラユキちゃ、んっんんっ! ……シラユキ様」 


「わっざとらしい咳しちゃって……。んじゃ姫、帰ろっか? それとも『転ぶ猫』か『踊る妖精』にでも寄ってく?」


「私はもうちょっとお話していきたいかなー。いい?」


「ん、りょーかい。あたしはもう興味ないからさっきから大笑いしてるミーランの所にでも行ってるわー」



「ルー兄様とユー姉様は、あ、あとシアさんも、私に何か隠し事してるよね?」


「ああ、してるな」「ええ、してるわよ」「はい、しています」


「正直!! むう、誰!? お父さんは想像付いちゃったけどお相手は誰なのー!?」


「何の事やら」


「私たちには」


「さっぱり検討もつきませんね」


 息ぴったり仲良すぎ!

 父親は絶対エディさんで間違いないでしょ! 何となく面影あるし!!


 はー、クライドさんはエディさんのお子さんですかー。私も年を取ったなあ……。

 うわあ! 何から話そうどうしよう! と言うか違ってたら大恥だし何も聞けないんじゃこれ!? ぐぬぬぬぬぬう。




 その後のお話で解消された疑問は、挨拶回りにやけに時間が掛かったのはジニーさんが逃げ回っていて中々捕まらなかったから、という結構どうでもいい物だけでした。

 ちなみにジニーさんが逃げていた理由は、飛び込みまくってくる商談に嫌気が差したからなんだとか。逃げちゃダメだ! 立ち向かわないと!


 クライドさんは数日中にカルルエラに戻ってしまうらしいので多分暫くの間、どれくらいになるか分からないけどもう年単位で会えなくなると思う。

 一応リーフサイドに来る時は連絡するようにと約束を取り付ける事はできたけど、それもきっと忘れた頃の話になるんだろうなあ……。


 もう何がどうしてこうなってしまったのか……。とりあえず三人は帰ったら質問攻め決定だからね!







クライドの両親……、一体何者なんだ……

続きません!



次回から新しいお話に入る、かもしれません。

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