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304/338

その304

 私と手と繋いでいるからか、それともうちにまた来る事ができたのが嬉しいのか、見るからに機嫌の良さそうなヘルミーネさんに手を引かれて五人で談話室に入るとそこには……


「おかえりなさいませ姫様、用意は全て滞り無く整え終えております。ヘルミーネさん、姫様をそちらのお席へご案内差し上げてください。マリーさんも隣のお席へどうぞ」


「は、はい」


「レンさん? な、一体何が始まるんですの……?」


「なんでしょうねー」


 にっこりと微笑み私たちを歓迎するシアさん、先生が待っていた。

 今日のシアさんは久しぶりにシアさん先生モード。例の丸眼鏡を掛け、手には金属製の指示棒のような物を持ち、壁にはこれまた久しぶりに見る大きな黒板が掛けられている。


 シアさんのただならぬ雰囲気にたじろぐ二人。キャンキャンさんは慌てず騒がず余裕そうだ。


 ヘルミーネさんは確かそうだけど、マリーさんもシアさん先生モードを見るのは初めてだったっけ? ううむ、覚えてないや。


「お姉さんもいるんだけどなー! 今日のメインは私の筈なのに!! ま、シアちゃんだから仕方がないかな。ふふふ」


「ああ、ジニーさんはシラユキ様に相談事をされに見えたんでしたね。さ、お嬢様、早く席に着いてしまいましょうよ。何か面白そうじゃないですか」


「アンタは立ってなさい! まったく、またシラユキ様にご面倒をお掛けになるつもりなんですのねこの方は……。本当に気に入りませんわ!」


 ふん! と可愛くそっぽを向いてしまうマリーさんにジニーさんも思わず苦笑い。

 キャンキャンさんの言っていた通り、嫌っているのではなく気に入らない、態度や言動に納得がいかない、どうしても馬が合わないんだろう。


 とりあえず、私がこうして立っていては話が始められないのでさっさと席に着こう。ジニーさんはその辺り気にしないみたいだけどマリーさんはそうはいかない。しかしその前にまずやっておきたい事が一つある。


「ヘルミーネさん、先に座って座ってー」


「え? シラユキ様のお席にですか? ですがそんな失礼な……」


 言われた意味が理解できずに渋るヘルミーネさんに、いいからいいから、と意味不明な説得をして先に座ってもらい。コレデヨイ、と背中を向ける。


「それじゃおねがーい」


「あ、ああ、なるほどそういう……、フフ。はい、では失礼をさせて頂いて……。如何ですか?」


 やっと意図を汲んでくれたヘルミーネさんは私を軽く持ち上げて自分の膝の上に乗せ、横抱きの姿勢に安定させると座り心地の感想を求めてきた。


「ふふふ、幸せだよー。ヘルミーネさんも了解なんて取らずに勝手に抱き上げちゃったり一緒に座ったりしちゃってもいいからね」


「あ、ありがとうございます。……何て可愛らしさ」


 答えは勿論最高に決まっています! ヘルミーネさんには一回しか抱き上げられた事はないし、一度こうやって膝抱きにしてもらいたかったんだよね。

 何がとは言わないけど母様やショコラさん並みのサイズでクッション性も抜群。思わず頬擦りをしてしまうのも無理はないよね? ふふふふふ。


「シラユキちゃんかーわいい!! 森の中だとホントにまた輪をかけて甘えん坊なんだから! 次はお姉ちゃんの所に来てね!」


「かかか可愛らしすぎますわ! わ、私の膝にも是非!」


「ホントですよねー。お嬢様は甘えて頂くには胸がちょっと……」


「うっ。キャンキャンは普通くらいはあるからいいわよね……」


「おっと、私が忘れられてしまっていますね、さすがは姫様です。本当に可愛らしい……」


 問題は、ニヤニヤニヨニヨしてるみんなの視線がちょっと気になる事だけど、家の中でくらいなら別にいいかなー、ってね。ふふふ。


 そういえば、シアさんはヘルミーネさんに対してはやけに寛容だね。ミランさんとかマリーさんとか、特にキャロルさんが私を構おうとすると露骨に邪魔してきたりもするのに、どうしてだろうね?

 ……はっ!? ロレーナさんにもそうだし、もしかして薬草茶友達にはかなり友好的になるんじゃないだろうか!? 今更ながら新発見だ。


 シアさんと森のみんなの溝を埋める突破口になりそうだけど……、森の中で薬草茶が流行るのは私が困ります! まさに諸刃の刃と言ったところか……。ぐぬぬ。




「では早速始めていきましょう。あまり時間を掛けすぎて昼食の時間にもつれ込んでしまって、続きはその後で、などとなってしまうのもキリが悪くなんですからね」


「早速も何も前置きが長……、なんでもありませんわ」


 さすがにキレのあるツッコミに定評のあるマリーさんもシアさん相手ではその力を発揮できないか。残念。


 シアさんの言うとおり早速今日の目的、ジニーさんの相談事とやらを解決、いや、問題が起こっている訳ではないからただの話し合いなんだけど……。何でもいいからとにかく始めてしまおう。


「私はお昼食べながらでも全然構わないんだけどねー。でもシラユキちゃんとマリーちゃんはそうはいかないでしょ? それじゃ、シアちゃんは長々と説明するのが大好きだから先にお姉ちゃんが今日の議題についてお話してあげちゃおっかなー!」


「む。ではお願いするとしますか」


「はあ、手短にお願い致しますわ」


 あんまり興味無さそうに素っ気なく返すマリーさん。私が関係している事だから念のため聞いておこうか、くらいの気持ちなんだろう。


「あ、私はシアさんから先に聞いちゃってるから説明はマリーさんとキャンキャンさんにだけでいいよー。ヘルミーネさんはお店の事だから知ってるよね?」


「…………はっ、あっ、はい、把握しています。し、失礼しました」


 反応がワンテンポツーテンポくらい遅れたね……。そんなに私のほっぺつんつんが楽しいのか! まったくニンマリしちゃってもう、嬉しいじゃないか。


 失礼しましたと謝りながらも指の動きは止まらない。止まるどころか今度はふにふにと摘み始めてしまった。うにうに。


「あはは、かーわいい! シラユキちゃんのことはミーちゃんに任せておけばいいね。えっとねマリーちゃん、キャンキャンちゃん、今日はお店の今後の相談をちょっとね! 所謂テコ入れっていうの? 何かいい案はないかなーってシラユキちゃんにお願いしようと思ってね。お姉ちゃんたちだけだとありきたりな物しか浮かばないけど、シラユキちゃんならこう、一風変わったアイデアが飛び出してきそうだよね! ね!?」


「シラユキ様にご迷惑を掛けずに済む方法を先に考えた方がいいのではないんですの!? ……え? お店を開いてまだ一月ですわよね? もう手を加えてしまうんですの? 私はあの店内の雰囲気は割と気に入っているのですけれど……」


 お、おやおや? ツッコミは入ったけど上手く興味を引けたみたいだね。マリーさんもなんだかんだ文句を言いつつも『踊る妖精』の常連さんになってるし。


「そんな今すぐっていう話でもないしお店の雰囲気をがらっと変えるまではしないつもりだけどね。それもシラユキちゃんの出してくれるアイデア次第かなー? ふっふふ」


「姫様に丸投げですかまったく……。しかしそのおかげで昨晩は、うつらうつらと睡魔にお耐えになられる姫様を充分に堪能させて頂けたのでよしとしましょう。ふふ。と、失礼、思い出してつい頬が緩んでしまいました」


「な、レンさんだけずるいですわ! 羨ましい……」


「お昼寝もあまりされなくなりましたからねー。またご一緒させて頂きたいですね、お嬢様」


 や、やめてくださいませんかねえ……。

 お昼寝が必須だった頃と違って今はもう体力的にも全く問題はないからね! でもお昼寝をする事自体は大好きだから今でもたまにはしてるんだけどねー。お付の三人以外と寝られるのはお昼寝の時くらいしかないもんね。……つまりメイドさんズや兄様姉様に甘えるのが目的という訳です。

 我ながら甘えん坊すぎるとは思うけどみんな喜んでくれてるからいいよねー? 私もみんなも幸せになれるんだから何も問題はないよ。多分。


 しかしヘルミーネさんが無反応すぎる。さっきから一心不乱に私のほっぺを弄りまくってきてはいるんだけど……。まあいいか。



 今朝のお手紙仕事の時間に眠ってしまったのはこれが原因です。昨日の夜は自分の部屋に行ってからもベッドには入らず、シアさんと今日のためにと案を出し合っていたのだ。昨日の今日という急な話だっただけにちょっと無理をしてしまったかもしれないね。


「ジニーさんは軽い思いつき程度の物が一つ二つあれば充分だと仰られていましたが……、ふふ、昨晩は姫様のご成長とご聡明振りと可愛らしさを再確認、思い知らされてしまいましたね。なんと驚く事に具体的な案が幾つも纏ってしまったのですよ。その一つ目がまずはこちらです」


 シアさんがカリカリと黒板に『ポイントカード』と文字を書いていく。初めてこれを見てから三十年以上、ついにこの黒板が役に立つ時がやってきた……!!


 ジニーさんとマリーさん、キャンキャンさんも揃って『ポイントカード』? と首を傾げる。ヘルミーネさんはまだまだ私のほっぺにご執心みたいで無反応だったが。


「簡単に説明しますと、お店に来店してお食事をしてくださったお客様へのちょっとしたお返しの様な物ですね。細かい数字は適当にあてただけのものですが、例えば5cのお支払いにつき1ポイントをカードに、そうですね、分かりやすい形状のスタンプを押させて頂いて、それが一定数貯まったら次回ご利用時にメニューから一品無料でお出しして差し上げる、といった感じのサービスの形の一つになります。常連の方にはそれだけお返しをする事ができ、そうでない方にも、ポイントが貯まるからまた行こう、という気持ちを持って頂く事ができるのではないかと私は思います」


 見事な説明だと関心はするがどこもおかしくはないね。この世界にはこんなサービスは無さそうだからさすがのシアさんにも理解し難いかなとも思ったけど、全然そんな事は無かったぜ!


「……え? あ、うん、具体的すぎてお姉さんちょっと驚きなんだけど……。ホントにシラユキちゃんがこれを?」


「ええ、まさに驚きでしょう? 姫様のご成長を喜ぶと共に少し寂しさを感じてしまうくらいでしたよ」


「さささささすがシラユキ様ですわ! 私本当に感動で、尊敬してしまいます!」


 ふふふ、人様のアイデアで尊敬を得る卑怯な私。でも黙っていればそんな事分かりません! 汚いなさすが転生者きたない。


 さて、質疑応答のお時間に入ろうか。


「ポイントの発行数とか、カードの所有者の把握と管理は? 喫茶店のマスターさんには結構大変そうに思えるんだけど」


「しなくてもいいよ? ポイントの有効期限だけ決めてがんがん配っちゃっていいんじゃないかな。無くしちゃったらまたゼロからですよー、くらいの感覚でいいと思うよ」


「いいの!? あ、考えてみればそれでいいんだ……。なるほどこれは……」


「スタンプの偽造が唯一の懸念ではありますが、まあ、たかが料理一品程度の金額ために不正を働くというのもそうある事ではなさそうですからね。逆にお客様同士でポイントカードの譲渡も自由にしてくださっても構いませんよ? 程度の軽い扱いで充分だと思います」


「ポイントを合わせる事もできるんですね。確かに無くしたと思ったらここにあっただとか、どうしても続けて通おうと思えない方やそう頻繁に行く事ができないという方も出て来てしまいますからねー。とりあえず貰っておこうくらいに思ってもらえればいいんですね」


「あの、考える限り問題点が一つも無いのですけれど……」


「うんうん、即導入してもいいくらいだねこれは。お姉ちゃんまだまだシラユキちゃんを甘く見てたかなー! 凄い凄い!!」


「う、うん……」


 だってこの形になるまでに問題点は全部潰された後の完成されたシステムだからねこれ。私はただそれを丸パクリしただけでありまして……。



 しかし、シアさんのおかげか凄くスムーズに理解されて受け入れられてるね。この調子で次々行ってみようか!


「続けて参りましょう。二つ目はこちら、『メンバーズカード』です。ポイントカードと似た様な名称となっておりますが……」


 また『メンバーズカード』? と揃って首を傾げる三人にシアさんが詳しく説明をしていき、私を交えての質疑応答の後に次の案へ、とこれが昼食の時間まで繰り返して続けられるのだった。

 ……ちなみに、ヘルミーネさんはその間もずっと私のほっぺを無心で弄くり倒し続け、時間が飛んだ!? と驚いていました。あはは。



 勿論お昼までの一、二時間程度では全部説目しきれなかったから、食べ終わった後も話し合いはまだまだ続いたんだけどね。さすがに少し疲れちゃったかな。

 それとシアさんが一つ説明する度に驚かれたり褒められたり尊敬されるものだから、疲れの他に誰に対してでもないちょっとした罪悪感が胸に溜まっちゃったよ……。後でシアさんにだけは白状してしまおう。







これでお店関連のお話は一段落です。

おまけ的な話がまだ数話続く予定ですが……

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