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その302

「いらっしゃいませー! ってシラユキ様すか、ようこそー。ついでにキャロルとマリーとキャンディスと……、あれ? バレンシアさんはどうしたんすか? いないみたいっすけど」


 『踊る妖精』の店内に入るとすぐにノエルさんが元気よく出迎えてくれた。ニカッと爽やかな笑顔を見せて嬉しそうにしてくれるとこちらも嬉しい気分になってしまう。

 しかし私の隣にシアさんがいない事を確認すると不思議そうな顔をされてしまった。シアさんが一緒じゃないのがそんなにおかしな事なんだろうか?


 確かに今日の護衛、と言うか付き添ってくれているのがキャロルさんだけなのは少し珍しいかな? でもそれも今だけの話なんだけどね。


「ノエルさんこんにちわー。シアさんはちょっと用事があって別行動してるけど、もうちょっとしたらここに来ると思うよ。待ち合わせに使わせてもらうねー」


「なるほど安心したっす。それじゃ席に案内しますね。……はは、小さくて可愛い三人組だなこりゃ」


「うっさいわ」「聞こえてますわよ!」


 ぼそっとした呟きも聞き逃さない二人。キャンキャンさんも苦笑いだ。


 キャロルさんはそうでもないけど、マリーさんは自分の低身長をかなり気にしているらしいので背の高さについては触れないようにお願いします! 私はもう全く気にならならなくなっちゃったなあ……。




 案内された席にマリーさんと二人で座り、メニューを流し見しながら店内を見回してみる。

 時刻はお昼のピーク時を過ぎた辺りなのでお客さんの入りはもうそこまで多くはない、空席も目立ってフロアの二人、ノエルさんとヘルミーネさんは少し暇そうにしている。タチアナさんが見当たらないのは休憩に入っているかららしい。

 開店から約一ヶ月経っていてさすがにあの大賑わいは鳴りを潜めてはいるが、ピーク時にはそれなりに混雑するのでやはりこの時間帯を狙って正解だった様だ。


「あ、タチアナさんだ。休憩は終わったのかな?」


「どっちかが交代でまた休憩に入るんじゃないですか? 多分。私が手伝いに来てた時は休憩なんてとてもじゃないですけど入れなかったですから、それに比べたら随分と楽になったみたいで安心ですよ」


「なるほどねー」


 キャロルさんの言ったとおりに次はノエルさんが休憩に入るみたいで、タチアナさんと一言二言言葉を交わすと私たちに向かって軽くお辞儀をしてからお店の奥の方へと姿を消してしまった。三人の働く様子を眺めたかっただけに少し残念だ。

 タチアナさんはフロアを見回し私と目が合うと、ぱあっと花が咲いたような満面の笑顔を見せて真っ直ぐ一直線にこちらへやって来た。


「シラユキ様いらっしゃいませ! ああ、嬉しいです、お会いしたかったです……」


「わぅ。た、タチアナさんこんにちわー」


 椅子に座ったままの状態でギュッと抱きしめられてしまった。さすがに抱き上げられたりはされなかったがこれでも充分に気恥ずかしい。

 タチアナさんは挨拶が終わっても身を離す気配が全く無く、頬擦りをしてきたり首元で大きく息を吸うなどといつぞやのシアさんを思い出す行動を繰り返してきている。くすぐったい。


「ちょ、タチアナ! シラユキ様がお困りになられてますわ、離れなさい!」


「もう少し、もう少しだけこのまま……。ああ、シラユキ様……」


 マリーさんが少し言葉強めに窘めるが効果は今ひとつの様だ。私としては抱きしめられるのも頬ずりされるのも大好きだから困っているという訳ではないのだけれど。ちょっと恥ずかしいくらいだね。


「はいはい離れなさいって。シラユキ様分の補給はまた今度森に来た時にしなさい。まったく、たった二週間くらいでそんな大袈裟な……」


「は、はい……、すみません。もう嬉しくて嬉しくてつい……」


 キャロルさんの言葉には何故か素直に従うタチアナさん。先輩メイドさんの言う事だからかもしれない。


「むう、私だって年上なんですのよ? 背だってキャロルより高いのにどうして……」


「ふふ、お嬢様はまだまだ子供っぽさが抜けてませんから仕方ありませんね。キャロルさんは落ち着いた大人の女性の雰囲気が……、バレンシアさんが側にいなければしていますからね」


「はいそこうっさい。それじゃ丁度いいですからこのまま注文しちゃいましょうか? シラユキ様」


「うん! 私はね……」


「あ、ま、もう少し待ってくださいませ!」


 あはは。確かにマリーさんはそこまで大人っぽくなくていいよね。そんなに急いで大人にならないでほしいなー、なんてね。




「それでたった一ヶ月しか経ってないのにもうあちこちからそんな話がきてるの! 大体予想通りの展開なんだけど人間種族って本当にせっかちなんだから!」


「まあ、こういった物は流行り廃りが早いですからね。そうでなくとも初動が遅れてしまえばそれだけ周りと差が付いてしまう世界でしょうし」


 シアさんを待ちながら軽く休憩するだけの予定だったのだが、合流していざ出発、といったところでジニーさんに捕まって長いお話を聞かされる事になってしまった。一応私もお店の関係者の一人なのでしっかりと聞いておかなければいけないらしい。ぐぬぬ。


 別に急いでる訳でもないし、あとは冒険者ギルドに寄りつつゆったりと露店を見ながら帰るだけだったからいいんだけどね、ジニーさんはお話が急にあっちに飛んだりこっちに戻って来たりでついていくのが結構大変なんだよね……。興味深いお話もあるけど疲れちゃうよ。



 私に関係しているという本題のみを抜き出して要約すると、お客さんの入りが落ち着いたら今度は色々なお店から商談を持ちかけられて、また別な意味での忙しさに追われているみたいだった。

 簡単なところだと、自分のお店でもおっぱいパンを扱いたい、だとか、ウェイトレスさん用のメイド服のデザインをお願いしたい、などなどだ。

 メイド服のデザインは難しいとしても、おっぱいパンなら自分たちで勝手に作って出してしまえばいいのでは? とも思ったけれど、詳しく聞くとどうもそう簡単にはいかないんだとか。


 まあ、自分で言うのもなんだけど、『踊る妖精』の一番の要である私の存在が大きすぎるらしい。

 おっぱいパンやハンバーガーをメニューに、ウェイトレスさんにメイド服を、程度の事ならどこのお店だって簡単に真似ができるが、それが一国のお姫様の公認が必要となると話が急に難しくなってしまう。

 そこでジニーさんを通じて何とか自分たちのお店にも許可、認可を頂けないかと商談というか相談を持ちかけられまくっている、という訳だ。


 リーフサイドの大通り商店街の店主さんたちなら好きにやってもらっても構わないと思うんだけどね。でもこのお話は主に他の町からきてるみたいだから、はいどうぞ、と簡単に許可を出す訳にはいかないよね。

 しかし他の町々のお店からのお願いとは意外だったね。秋祭り初日開店で注目を集めて、それが一気に口コミで広まったのかな? 冒険者さんが主な情報源なんだろうなとは思うけど凄い話だよ。



「そういう難しいお話は全部ジニーさんにお任せしちゃうねー。頑張って!」


 とりあえず私から言える事はこれくらいで、できる事も応援くらいだね。うん。


「あはは。まあ、そうなっちゃうよね。シラユキちゃんにはなるべく迷惑が掛からないようにするつもりでいるけど……、今後暫くお店に来た時は今みたいにお姉ちゃんのお話を色々聞いてもらっちゃう事になるかもね! ごめんね!」


 それくらいは問題ないどころか望むところです。ジニーさんのお話は疲れさせられるけどそれだけ楽しいし、普通の人は知りもしない情報を教えてもらったりもできそうだからね。


「それってシラユキ様に直接物申してくる図々しい奴が出てくるんじゃない? さっきのアレもそうだったりして……。そんな訳ないか」


「さすがにいきなり王族に話を持って行く様な馬鹿はいないと思いたいけどね。……ん? さっきのアレってなーに?」



 それは私からお話しよう。

 キャロルさんの言うさっきのアレとは、ここに来る前に冒険者ギルド前で見かけた男の人のことだね。見かけただけで話したりはしていないのだけど、その人のせい、って言うのも悪い気がするけどおかげで冒険者ギルドに入りそびれちゃったんだよね。どちらかと言えば入れなかった理由は私の方にあったと思う。


 その名前も知らない初めて見た多分人間種族男の人は、冒険者ギルドの入口前に立ってずっとこちらを見つめてきていた。しかもあんぐりと口を開けて微動だにせずじーっと、だ。

 私が動くとそれに合わせて首だけは動かしていたからずっと目が合った状態で、しかも無言無表情でこっちを見てくるものだから怖くなってその場から逃げ出してしまったのだった。


 情けないしその人にはとても失礼な話だけど実際怖かったのだから仕方がない。時々振り返ってみるとその度にまた目が合ったから多分私たちの姿が見えなくなるまでああしていたんだろうと思う。ガクブル。



 という感じの説明をキャロルさんがしてくれました。


「へー、そんな事があったんだね。で、正体は分からず終い? お姉さんちょっととそれは心配になってきちゃうんだけど」


「うん、分からず終い。何見てるんだって文句付けようにもシラユキ様が気味悪がっちゃって近付きたくないって仰られるんでそのまま通り過ぎたって訳よ。私だけで行こうにもシラユキ様の側を離れるなんて真似絶対できないからさ」


「見た感じ冒険者といった風でもありませんでしたよね。気にはなりましたけどお嬢様はともかくシラユキ様の身に何かあったらと思うと……」


「コラ! あ、シラユキ様を優先するのは当然の事でしたわね。し、失礼しました」


「ふむ、確かにそれは少し気になりますね。そういった重要そうな事柄は合流してすぐ報告なさい。まったく……」


「う、す、すみませんシア姉様」


 シアさんとジニーさんにその人の特徴だけ伝えて、とりあえずこのお話は早くも終了ですね。正直あんまり思い出したくありません! 夢に出そうだよ……。



「あ、そだそだシラユキちゃん! お店についてまた相談したい事があるから……、明日はお店も休みだしお昼前くらいに遊びに行くからね! 楽しみにしてお昼ご飯とおやつを沢山用意して待っててね!!」


「相談? 私とメイドさんズにかな? うん、楽しみに待ってるねー。ふふふ」


「こんな奴のこと楽しみにしなくてもいいですよ。ホントガトーといいこの人といい図々しい奴が多いわ」


「まったくです」「まったくですわ」


「ひどい! キャロルちゃんも構ってあげるから! ほーらお姉さんがなでなでしてあげるからねー」


「うざっ、やっぱこの人うっざ! 撫でるな!!」


「ふふ。こうして見てる分には面白い方だと私は思いますけどね」




 ジニーさんは面白楽しくていい人なのに、なんでみんなそう邪険に扱うんだろうね。不思議だね。マリーさんなんて帰り道に、どうにもあの方だけは好きになれませんわ、なんてはっきりと言っちゃうくらいだし。私は大好きなのになー。


 ああ、帰り道と言えばさすがにもう例の男の人の姿はどこにも見えず、無事にお土産を手渡す事ができました。結局あの人はどうしてこっちを見つめてきてたんだろうね? 気になる気になる木……。







今回はちょっとあっさり短めでした。

次回も一週間以内には投稿したいですね。

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