その29
私たちは母様のいる部屋の前までやってきた。この国の女王の、と言っても、王座の間のような物があってそこに座っているわけではない。執務室みたいな感じかな。
本棚に大量の本や資料、書類。やっぱりのほほんとはしてても国は国、こういうところはちゃんとしている。
母様は大抵はこの部屋でお仕事をしている。もっと一緒に遊びたいんだけどね。おっと、子供みたいな考えが出てしまった。
まずはシアさんがノック。
「バレンシアです。少し、お話しする時間を頂いてもよろしいでしょうか」
「入ってくれ」
ん、父様いるね。これはみんないるかな。
部屋の中に入る。相変わらずこの部屋は、この国に合わないと言うか、ちゃんとしすぎて違和感が凄いね。
中には家族四人ともそろっていた。母様お付のメイドさんズも二人控えている。紹介は省く。
みんな、ぞろぞろと部屋の中に入ってきた私たちに、少し驚いているようだ。
「お忙しい中、申し訳ありません。ですが、どうしても早急に伝えなければ、片付けなければならない用件がございまして」
「ど、どうしたの? し、シラユキ、何かあったの?」
姉様が心配して話しかけてくる。何も無いから来たんだよ、姉様。
「どうぞ、姫様。私たちは控えています」
「うん。ありがとうシアさん」
さて、でも何から話した物かね。私こういうの苦手だよ……
「ゆ、ユー姉様が、みんながね? 変な勘違いしてるんじゃないかなーと思って来てみたの」
「勘違い?」
「俺たちもか?」
姉様と兄様が不思議に思い問い返す。
「うん。ちょっと説明しにくいなー。いっか、説明なんて無くても」
いいや、一言で表してしまおう。この一言で伝わるとは思えないけど、うまく言葉にできないんだからしょうがない。
「あのね、私ね。みんなのこと、家族みんな、大好きだよ。怒ってもいないし、嫌いになんてなるわけ無いよ」
だから変な事考えないでね? と、笑顔で言ってやる。
「シラユキ……!」
母様が泣き出して、私を強く抱きしめてきた。
「俺たちの勘違い、なのか? ユーネに言われて初めて、お前に酷い事をしていたと思ってな……。反省と話し合いをしていたんだが」
おお、よかった、やっぱり話し合いしてたみたいだね。これでしていなかったら、私変な子だよ。
「うん。だから、今まで通りでいいよ? あんまりからかって欲しくは無いけどね」
からかわれるのも、私が可愛いからなんだしね。
「やっぱりこいつ、十歳の考え方じゃないよなあ……」
「それはそうだよ。私前世の記憶も少しはあるもん。もう、薄っすらとしかないけど」
一部の記憶を保護する代わりに、大半の記憶は引き出しの奥に詰め込まれちゃった感じなのよね。知識はあるが、どう生活していた、とかは、実は殆ど思い出せない。
「お、そうなのか? なるほどな、前世の記憶か、なるほどな……」
「そうだったの? あらあら。あ、何歳だったのかしら?」
「うん? 十六だったよ。こことは別の世界で人間してたんだー……」
「十六か、それでもまだまだ子供だろう?」
「人間種族は十六で成人よ、ウル」
「ああ、そうだったな……。人間で十六か。エルフにすると……、六十過ぎか?」
「それくらいねきっと。子供ではないけど、大人でもないわ。やっぱりこの子は天才ね。ふふふ」
「みみみ、みんな。華麗にスルーしてるけどいいの?」
「うん? ああ、もう少し情報を引き出しておきたかったからな。もう十分か?」
「おう。俺もう限界」
「私も、まだ色々と聞きたいことはあるけど、後からでもいいわね」
「う、うん。そそ、そうだよね? あ、私、言う」
何か姉様大慌てだな。私また何か変な事……? 言ってるよ!?
「前世の記憶って何よ!!! 初めて聞いたわよそんなこと!!! 私たち今、今後のシラユキについてのお話してたのに、考えてたのに! それ全部吹き飛んじゃったわよ!!!」
「え? 聞き間違いじゃないかな? あ、私ちょっとお腹空いたから、おやつ食べてくるね」
い、一度撤退しよう。か、考えるんだ、うまい言い訳を……
振り返ると、ドアを塞ぐように並ぶメイドさんズが。しまった! 逃げられない!!
「シラユキ? こっち来なさい、こっちこっち」
母様が自分の膝の上を叩く。
メイドさんズはともかく、大魔王からは逃げられない。観念しよう……
「ご安心を姫様。私もですから」
え!? シアさんもって……?
「それも初耳よ!!! ああもう!! 今日は何なのよ!!!」
「一人慌ててると、他の皆は冷静になれるよな」
「う、うん。そうだね」
確かに姉様以外のみんなは落ち着いてる。私もだ。
「よく見ておけよシラユキ。あれがいつものお前の役割だったんだ」
「うわ! ホントだよ!! 私いつもあんな感じで突っ込んでたよ!」
いやいや、これはこれは。見てると面白いわ。私いつもこんな感じだったんだね……