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289/338

その289

「ノエリア・アルベニスっす。よろしく!」


「はいはじめまして。メアリー・ハーハニです、よろしくー。私たちに敬語とかは必要ないよ」


「ん? あ、ああ、了解。ありがとう」


「フラニーハナルスヒアメアロ・ウインドウインドよ、よろしく。長いからフランでいいからね」


「ながっ! フランだな、こっちも了解」


「はじめまして、キャロル・ウインスレットです。どうぞよろしく」


「ああ、よろし……ん? キャロル!!? お、おまっ、今までどこ行って……、はじめましてじゃねえよ!!!」


 きゃー! 凄い大声!

 しかし、まさか本当に気づかないとはね。くふふふふ……、大・成・功!!




 今日は前回の治療の続きのためにノエリアさんが家にやって来る予定、だったのだが、それにあたって一つ悪戯を仕掛ける事になった。勿論発案者は私ではなくキャロルさんです。シアさんは早朝からジニーさんに呼び出されてしまったので決定的瞬間を見逃す事になってしまって残念だけど、帰って来たら膝の上でお話してあげよう。


 まずこうなった事についての経緯を簡単に。

 実は前回だけではノエリアさんの右目を治しきる事はできなかったのだ。原因は私の魔力不足だね。

 ヘルミーネさんに約三秒間分使ってしまっていたので、残りの使用時間も同じく約三秒しかなかったのがいけなかった。傷跡は綺麗サッパリ消す事ができたから失敗したという訳ではないのだけれど、視力を取り戻すまでには至らなかった。

 そしてあの日から三日後、お姫様に何回も足を運ばせる訳にはいかないっすよ! と、ノエリアさんの方から治療を受けに来てくれる事になったのだった。ここまでで半分。


 次に今めでたく大成功を収めた悪戯。これは態々説明する事もないだろうと思うけど一応。

 ノエリアさんとキャロルさんは実は喧嘩友達的な仲で、シアさんとはその繋がりで知り合ったんだとか。なんとなく納得だ。

 そこで可愛いメイドさんへと変身を遂げたキャロルさんが、もしかしたら大人しくしてたら気づかれないんじゃね? と悪戯心を持ちだし、私もメアさんもフランさんも面白そうだと乗ってしまった、という流れ。


 いやあ、ノエリアさんもヘルミーネさんも、ジニーさんの言っていたとおり本当に面白いいい人たちだなー、と思うよ。ふふふ。




 驚きやらツッコミやらで、キャロルさんの可愛いツインテールを掴んでしまっているノエリアさんにはとりあえず落ち着いてもらって、それから席に着いてもらう。

 今日も私のためなのかメイド服で来てくれたノエリアさん。嬉しいけどちょっと複雑な思いだ。右目の傷跡は綺麗に消えているので包帯ではなく眼帯をしている。細かいけれどそこだけは前と変わっているね。


「いたた……。ありがとうございますシラユキ様。髪の毛引っ張るのはやめてよね、シア姉様にセットしてもらってんだからこれ」


「バレンシアさんといいお前といい、何がどうしてどうなったら冒険者からメイドになるってんだよ! つか連絡くらい寄越せよ!! いきなり辞めていなくなるんじゃねえよ!!!」


 ひゃあ! 全然落ち着いてませんでした。キャロルさんはもしかして失踪扱いだったのか……!? 似たもの師弟すぎるよまったく。


「いや、アンタだってメイドさんになってんじゃん」


「ああ、確かに。……ってそういう事じゃなくって! あ、そういう事なのか? でもお前はともかくバレンシアさんが大怪我するなんて思えないんだけどな……」


「アンタと一緒にしないでよ。シア姉様が引退した理由は教えられてないしこっちから聞く気もないけど、私はただシラユキ様のお側でメイドさんやってんのが楽しいから辞めただけだって。アンタに伝えなかったのは悪かったけど、ここにシア姉様がいる事をあんまり広めたくなかったからね。それはホントにごめん、悪かったわ」


「うお、普通に謝んなよ。やっぱバレンシアさんはまだ身を隠してんのか……、ホントなんでだろうな。姉御からも余計な詮索は死を覚悟してからって言われてるからこれ以上は何も聞かねえよ、こっちこそ怒鳴って悪かったわ。シラユキ様、ええと、メアリーとフラン? も、いきなり騒がしくしちまってすんませんした」


 まだ納得はいってないだろうけど、一応色々と察して理解できたのか素直に頭を下げるノエリアさん。

 私たちは特に何かされた訳でもないので、いいよいいよー、と軽く返すだけにしておく。


 うーん、なるほどねー。キャロルさんが自分のお友達とかに、今冒険者辞めて王族の館で住み込みメイドさんやってるんだ、とか近況を送っちゃうと、そのお友達が遊びに来たり様子を見に来たりしちゃう可能性がある訳か。ノエリアさんみたいにシアさんと共通のお友達もいるとなると、うん、何も言えなかったのも仕方のない事なのかもしれないね。


 うん? つまり悪いのは全部シアさんなんじゃないか……? まったくもう、多方面に心配と迷惑を掛けまくっちゃってるんだからシアさんはー!!


「それじゃ早速だけど治しちゃおっか。今日は椅子に座ってるから膝の上に座らせてもらえば届くね」


 話に一段落付いたところで本題に入ろう。

 前は抱き上げてもらって手をあてたのだが、膝の上に乗れば充分届く高さなのでそうさせてもらおう。屈んでもらえばいいのでは、とかいう意味不明な申し出は却下します。


「はい、お願いします。あ、胸は好きにしてもらってもいいすよ」


「う、うん、ありがとう……」


 もう否定するのも面倒なので素直にお礼を言っておこう……。メアさんとフランさんが焼きもちを焼いちゃうから全力で甘えにはいかないけどね。



 ノエリアさんの膝の上に座らせてもらい、体を右に向ける。そして目の前の素晴らしい膨らみに頬ずりしたいのをぐっと我慢してから左手を上に伸ばす。


「あ、今朝店を出る前にバレンシアさんが言ってたんすけど、三秒だけなんすよね? 三秒ですよ! 三秒!! って無茶苦茶不機嫌そうに言ってたんすよ」


 眼帯の上から目を覆うようにして手をあてたら、今思い出しましたとばかりに止められてしまった。どうやらシアさんはノエリアさんにも伝えていたらしい。


「うん。一応五秒くらいなら大丈夫だと思うけど最近使いすぎだからって心配されて……、お店?」


「例の姉御の店っす。まだ外観しか出来てないすからシラユキ様にお見せできるのはもう少し先になると思いますけどね」


「ふーん、楽しみだね! 完成したらみんなで遊びに行くからねー」


「はい! かっわいいなあ……」


 私の可愛さ? に気が緩んだ隙を狙って癒やしの魔法を発動!


「っ! 前も思ったんすけどなんで光るんすかね、これ」


「あはは、眩しくてごめんね。ってもう終わってた」


「あ、もうっすか? やけに短かったっすね」


「え?」「は?」「はやっ」


 メイドさんズの面々の驚きも当然のこと、たった三秒を数えるまでもなく光は消えてしまっていた。



「どう? ちゃんと見える? あ、シラユキはそのまま座らせたままでいいからね」


「ちょい待って。……? すっげ、呼び捨てかあ」


 何故か感慨深げに眼帯を外すノエリアさん。フランさんは特別偉い人だと勘違いされたかもしれない。が、面白そうなので黙っておこう。

 眼帯を外し、閉じていた右目を開け、何度か瞬きを繰り返すと表情が驚きと喜びの笑顔に満ちてきた。それはつまり?


「おお、すっげえ……、あれだけ滲んでた視界が綺麗にってか元に……。ああ、やべっ、タチアナとヘルミーネの気持ちが理解できちまったわ」


 ふむ、悪戯に続いてこちらも大成功! だね。目は本当に大切でデリケートな器官だからその感動もひとしお、というものなのかもしれない。


 ふふふ、よかったよかった。これでまたまた自信が付いちゃったかもね! しかしタチアナさんたちの気持ちっていうのは気になるね、どういう意味なんだろう?


「タチアナさんとヘルミーネさんの気持ち? それってどんな?」


「タチアナの気持ちって、ああ、姫のためならなんでもするっていうあれ? まあ、目と足と利き手だもんね、その気持ちもなんとなくだけど分かるかな」


「心から感謝してしっかりご恩返ししなさいよ。シラユキ様のためなら命張るつもりでね」


 あ、ああ、そういう事か。確かにタチアナさんはもうシアさん並に私至上主義というか、私のことが大好きになっちゃってるんだよね。ヘルミーネさんも私を見る目がなんとなく変わったような気がするかな。

 まあ、人に好かれるのはいい事だし嬉しいから問題はないね。でも気軽に命は懸けないでね! 命はもっともっと、比較できないくらい大切なものだよ?


「そりゃ元々って言うかエルフなら当たり前だろ。シラユキ様、本当にありがとうございます! 姉御の店が潰れたら本気でお仕えさせてもらえないっすかね? あ、どうぞどうぞ、お好きなだけ揉んでくださいよ」


「お仕えするとかじゃなくて普通にお友達感覚でいいよ……」


 ノエリアさんも根は真面目な人みたいだから慣れるまで大変だろうなあ。キャロルさんを見習ってもっと軽く接してもらえるようになってもらわないといけないね。まあ、今はとりあえず、その柔らかクッションにもたれさせてもらおうかな!


 しかし、ジニーさんのお店は開店前から潰れた後の事を考えられるとは不憫な……。あはは。




 あっさりと今日の目的は達成してしまったので、後はお昼までこのまま雑談を続ける事にした。

 ノエリアさ、いや、ノエルさんにも食べていってもらいたかったが、あまり戻るのが遅くなるとシアさんに殺されかねないらしい。残念だけどお店が開店するまでの辛抱だと引き止めるのはやめておこう。


 シアさんはお店関連のお話があって呼び出されたんだね。これは相当機嫌が悪くなってると見た! 帰って来たらご機嫌取りをしなければならなくなってしまったじゃないか……。


「そういや姉御に聞いたんすけど、シラユキ様ってもうすぐ五十歳になるんでしたっけ?」


 ノエルさんは私の頭や耳を撫でたり、さらには頬を突っついてきたりと自然体で構ってくる。これならキャロルさんよりももっと早く慣れてもらえそうだ。こちらからも甘えやすくていい。


「うん、あと四年くらいかな。それがどうかしたの?」


「ああ、マジなんすね。へえ、五十歳。へー……」


 何が言いたいんですかねえ……? 言いたい事があるならはっきりと言えばいいじゃないか!


「にしてはちょっと小さすぎるし軽すぎるんじゃないっすか? ちゃんと肉も食べないと駄目っすよ」


「はっきり言った!!」


 ぐぬぬぬぬぬ……。メアさんもフランさんも笑いを堪えなくていいんだよ? む、キャロルさんもか! まったくもう、悪気ゼロだから怒れないよ。


 しかし、やっぱりお肉をもっと食べないといけないのか。お肉は嫌いじゃないけどあんまり量は食べれないんだけどなー。







ついに三人の治療が完了! 今回もあっさり目でした。

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