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287/338

その287

 そうと決まれば即座に行動! と兄様の膝の上から降り、シアさんと手を繋ぐ。


「今日はヘルミーネさんの右手を治すよー。ノエリアさんはまた何日か後でね、多分一週間も掛からないと思うけど」


 ちょっと疲れちゃったなー程度の魔力疲れなら、多目に見て三日も休めば充分全快すると思うからね。まあ、それもヘルミーネさんの右腕の症状の重さ次第で変わるかもだけど。


「その時はまた俺が連れて来てやるからな」


「はい! あ、いや、本当に治して頂かなくてもいいんすよ? そんなお小さいのに無理しちゃいけませんって」


 ぬう、黙って聞いていればさっきから人のことを小さい小さいと……。事実なので何も言い返せません! あと兄様は三人のおっぱいが目当てなのが丸分かりです! 一緒にお出掛けできるのは嬉しいから何も言わないけどねー。ふふ。


「姫様が治すと仰っているんです、そのお言葉に逆らうと? ほう、さすがは元とは言え二つ名持ちの冒険者、言う事が違いますね」


「なんでそうなるんすか!! 相変わらず意地の悪い言い方が好きなんすねバレンシアさんは……」


「失礼な」


 あはは、そこはシアさんだから仕方が無いね。しかし今初めて聞いたんだけど、ノエリアさんは二つ名持ちさんだったんだ? それでもシアさんにそこまで強く言い返せないんだね……。改めてシアさんの凄さを実感しちゃったよ。

 でも今日のところはそれは聞かずにおこうかな。まだまだこの先会おうと思えば何回でも会いに来れる筈だもんね。


「ノエリアさんも絶対治してあげるからね! それじゃヘルミーネさ、ん?」


「姫様?」「シラユキ様?」「シラユキちゃん?」


 名を呼ぶのが疑問系になってしまった私を、さらに三人が疑問に思って覗き込んできた。兄様は何も言わなかったがこちらを見詰めてきている。


 いや、別に何かあった訳じゃないんだけど……、ヘルミーネさんがやけにニヤニヤしてるんですけど! ニヤニヤと言うか、ニヘラ笑いって言う感じ。そんなに今の二人のやり取りが面白かったのかな?


「あん? 何ニヤついてんだよお前は。コイツはコイツで何考えてるんだかさっぱり分かんねえんだよなあ……」


「っ! いえ、別に? フフ、フフフフ……」


「あ、怪しい微笑み! どうかしたの?」


 ついつい突っ込んでしまったじゃないか……。まあいいや、何がそんなに面白かったのか聞いてみよう。


「は……、あ、いえ、ただ……。まさか目の負傷をしたノエルよりも先に私が選ばれるなど思っていませんでしたので……。フフフ」


 ああ、なるほど、ただ単に嬉しくて笑ってたんだ? 優越感に浸ってたとかじゃないよね!? 私もまだまだヘルミーネさんがどんな人か把握できてないから分からないなあ……。




 怪しく微笑み続けているヘルミーネさんの右手を取り、まずは診察? いや、観察させてもらう。

 ……長袖だった、何も見えない。さらに手の平部分も包帯が巻いてあって傷跡は見えない。意味が無かった……。指先までほっそりとしているな、というくらいしか分からなかった。


「傷跡の長さは確か、手の平から肘の内側の辺りまでだったよね。痛みはあるの?」


 指先で手の平をちょんと、そして肘の内側の辺りもつんつんと突付く。怪我自体は完治していると言っても痛みがあるかもしれないので軽く突付くだけに留めておこう。


「はい、丁度今の点を繋いだ直線に一本線が出来ている様な状態です。動かすと少し突っ張るような感覚があるだけで痛みは何も……。握力も重い物を持てないくらいで小さな子供並にはありますからそこまで不便さは感じていませんので、手の平部分の傷跡を消して頂ければ充分だと思います」


 そこは普通に答えてくれるんだ? くう、性格が全く掴めません! 面白そうな人だなーっていうのは何となく分かるんだけどね。


「うーん……、ちょっと待ってね、治し方を考えるから」


「はい。……フフフ」


 また怪しさ満載で微笑み出したヘルミーネさんはとりあえず置いておいて、どういった方法で治すかを考えよう。



 傷跡の長さは手の平から肘の内側の少し下辺りまで。これは状態こそ違えどキャロルさんの腕と同じくらいの範囲だ。

 キャロルさんの場合はそこまで深い傷っていうのは無かったから毎日少しずつ、私の手の平の面積分治していったんだったよね。ああ、シアさんが何となく今日はやめておこうって言った日はお休みだった。懐かしい。


 そうなるとヘルミーネさんの場合はどうだろうか?

 腕を動かすと突っ張る感じがするくらいの大きな傷跡が一直線に走っているみたいだし、それに加えて握力の低下、普通に大怪我どころか重症だったに違いない。……考えると腕がムズムズしてきてしまうので元の怪我についてはこれくらいにしておこう。

 キャロルさんと同じ様に手の平をあてて、光が消えたら移動を繰り返す? 確実だけどちょっと面倒そうだし時間も掛かりそうだねそれは……。

 それならいっその事、魔力全開状態でゆっくりと上から下に手の平を移動させていく? 大丈夫だと思うけど途中で魔力が尽きる可能性も無きにしも非ずだし、傷跡が消えたかどうか把握できない。これは駄目か。

 さらに言うと、どちらの場合も傷跡は消えても握力が戻るとは思えないね。軽い気持ちで来てみたが、これは意外に難しいかもしれないぞ……。



 ふむ、こうなっては例の手段しかあるまい。実に、ええと……、約三十年ぶりのあの方法を試してみようではないか。


「ヘルミーネさん、少し屈んでー」


「? はい」


 くいくいと腕を下に引いて、少し腰を折ってもらうようお願いする。そうしないと高さが合わないからね。

 ヘルミーネさんの顔と、その存在を大いに主張する巨大な二つの物体が目前に迫る。


「どうぞお好きな様に……。フフフ」


「うおおぉぉ、羨ましいぜ……」


「ちがっ、おっぱいを触ろうとした訳じゃないから!」


 まったくもう、ジニーさんから私のことをどういう風に聞いているのか……。あとできちんと話し合わなければならないね!


 おっぱいではなく右腕が目の前に来るように体勢を変えてもらい、本当は触らせてもらいたかったのを我慢して右腕全体に体を押し付けるようにして抱きつく。あとはこの体勢のまま……。


「姫様!!」


「きゃぅ! う? あ、シアさん?」


 癒しの魔法を発動しようとしたまさにその一瞬前、シアさんに体を剥がされる様にしてして止められてしまった。


「何があった!?」


「どうしたんすかバレンシアさん? ヘルミーネが何かしようと、ってのは無いか、コイツも驚いてるみたいだし」


「え、ええ、私は何も……。シラユキ様のあまりの可愛らしさに言葉が詰まっていたくらいで……」


 は、恥ずかしいからそういうのはやめてくださいませんかねえ……。と、そっちよりまずはシアさんだった。


 シアさんは私の正面に立つとその場にしゃがみ込み、真っ直ぐに見詰めてきた。その目は怒っているように見える。ちょっと怖いが両肩を押さえられてしまっているので逃げ出せない! 逃げ出しにくい!


「ど、どうしたのシアさん。なんで止めたの?」


「どうしたのではありません! 姫様、今あの時と同じ方法をお取りになろうとなさっていましたね? またお倒れにでもなられたらどうするのですか!」


 きゃあ! 怒られた!

 あの時って言うと、うん、ナナシさんの体内の異常をとりあえず何でも治してしまえ! とハイテンションで魔法を使って三日も寝込む羽目になってしまった時の話だよね?


「ちゃ、ちゃんと加減して使うから大丈夫だよ? ただ右腕全体を一気に治そうとしただけだから。それにあの時とは魔法の使い方も違うんだから本当に大丈夫だよー」


 治ったら自動で効果が切れる設定にしてあるし、タチアナさんの時を踏まえて五秒でやめようって思ってたのに。まあ、何も言わなかったのが悪かったのかな?


「は……、はい。申し訳ありません、取り乱しました。ルーディン様、皆さんも、お騒がせして申し訳ありませんでした」


 スッと立ち上がり、私とこの場にいるみんなに向かって頭を下げるシアさん。どうやら納得してもらえたみたいだ。


「いや、何もなければそれでいい……んだが、よく分からんな」


「す、すげえ、あのバレンシアさんが頭下げて謝るなんて……。あ、姉御? やっぱ結構変わっちまったんすかね?」


「失礼よノエル。あの、私は気にしていませんので……」


「うん? シアちゃんはシアちゃんよー? シラユキちゃん、今のはちょーっと軽率だったかもね! 大切なお姫様がまた目の前で倒れちゃったりしたら、いくらシアちゃんでも、ね?」


「やめてください、姫様は何も悪くありません! 私が少々過剰に反応してしまっただけの事ではありませんか」


 …………はっ!? そうか! あの時の、その後の話か!!


「ごごごめんねシアさん! 私そんなつもりじゃ、あ、本当の本当に今はもう大丈夫だから! ちょっとでも疲れたらすぐ止めるから! ううぅ、ごめんなさーい……」


 シアさんに正面から抱きついてきちんと謝る。本当になんて事をしてしまったんだ私の馬鹿!!



 あの時、全力全開で癒しの魔法を発動させた私は魔力を使い切って倒れてしまった。私が知っているのは、私に分かるのはそこまでだったから仕方が無いとはいえ軽率すぎた。

 問題はその倒れた後、いや丁度その時か。その場にいたのはラルフさんナナシさんエディさんと、それにシアさん。その四人の前で真っ青になって倒れてしまったんだったね。ほかにも冒険者の人たちや受付にミランさんもいたけれど、目の前にいたのはその四人だけ。


 つまりは、だ、私は知らない内にその四人にちょっとしたトラウマを植え付けてしまっていたんじゃないだろうか? いや、シアさんは間違いなく、比喩でも何でもなく死んでしまうほどの衝撃を受けてしまっていた筈。



「ふふ、可愛らしい……。姫様、ありがとうございます、軽率と言えば私の方こそ軽率な行いだったかもしれませんね。あれから三十年、姫様もご成長なさっていられるのですから……。まあ、身長は変わらずお小さいままなのでそれで思い違いをしてしまっていたのかもしれません」


「むう、また人が気にしてる事をはっきりとー! ヘルミーネさん、また右腕下げて! パパッと治しちゃうからね!」


「はい! す、拗ねられてるわ、可愛い……」


 シアさんからパッと身を離し、ヘルミーネさんの右腕に飛びつく様にして抱きつく。


 今のは拗ねてたんじゃなくて、お互い照れ隠しに近いものが入ってたみたいだけど……。うん、帰ったらもう一回しっかりと謝って、その後思いっきり甘えてあげようかな。ふふふ。


 ラルフさん、ナナシさん、エディさんか……。三人とも見た目はもうすっかり変わってしまっているだろうけど、また会いたいなあ……。




「はい終わりー。大丈夫だと思うけど、なんかやけに早く終わっちゃったから握力は戻ってないかも。ちょっと動かして試してみて」


 光が消え、治療はこれで完了。たった二、三秒しか掛からなかったので失敗してしまっている可能性もあるが、能力で治りきるまでと設定してあったのでそれは無いと思う。


「え? は、はい。……もう?」


「はやっ、すげっ! ま、マジっすかシラユキ様」


「うん! 包帯も取っちゃっていいよー」


 うん、マジなんだ、あっさりしすぎですみませんね! でもこの反応にももう慣れました。


 ヘルミーネさんは軽く腕を動かすと、ハッと顔をこちらに向ける。とりあえずにっこりと微笑み返してみる。

 続いて包帯を指で引っ張って傷跡の有無を確かめると、またハッとした顔をこちらに向けてきた。とりあえずうんうんと頷いておく。

 さらに右手を強く握り、開くを繰り返すと、またまたハッとした顔を見せてくれた。私も同じ顔でお返ししようと思ったが、さすがに恥ずかしいのでやめておいた。


 なにこれ楽しい。ヘルミーネさんはやっぱり面白い人なんじゃないですかー!



 元々あった傷跡は見せてもらってないけれど、袖を捲ってもらったら傷一つ無いつるつるな肌だったので問題なし。綺麗さっぱり消えたみたいだね。

 握力も椅子を片手で持ち上げられたところを見るとちゃんと戻っている筈。これは大成功と言ってもいいんじゃないだろうか!?



「あ、ありがとうございます、ありがとうございますシラユキ様!!」


「わぅ! う、うん!!」


「なっ!? 勝手に姫様を抱き上げないでください! 今以上の大きな傷が欲しいのですかそうですよね……?」


「ややややめて!!」



「マジかよ、あのでかい傷跡があんな簡単に……」


「そんなに酷かったのか? いや、あの喜び方からするとそうだったんだろうとは思うけどな」


「あ、はい。もう傷跡って言うか肉が削ぎ落ちちまっててホント酷かったんすから」


「うは、女の手にそれはキツイな……。まあなんだ、よかったな」


「うんうん! 目の前で見るのは初めてだったけど、シラユキちゃんは本当に凄い子だね! もうお姉ちゃん感動しちゃった!!」



「なんだ騒がしいな……、とりあえずジニーは黙れ。シラユキ、来たら私を呼べといつも言ってるだろう? ほら、こっちに甘えに来い来い」


「ショコラさん? はーい! ……!?」


「お待たせしましたシラユキ様。ふふ、どうですか? 少し恥ずかしいですけど」



 ショコラさんの声に顔を入り口に向けると、そこにはふんわりとしたドレスの様なメイド服を身に纏ったタチアナさんが立っていた。


 こここ、これはどちらに飛び込めば……!? ショコラさんかタチアナさんか……、はっ、ノエリアさんという手もあった! しかしヘルミーネさんもさっき抱き上げられた時は素晴らしい感触だった、こちらも捨てがたい。


 四人が四人とも私と兄様が大好きなサイズで、さらにその内の三人はメイドさん……。本気で四人とも連れて帰りたいんですけど! いや、連れて帰ります!!







無事に開店できるかどうか、また怪しくなって参りました!

そんなところで続きます。

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