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284/338

その284

 さあ、これからまた大忙しよー!! という元気なのかお疲れなのか分からないジニーさんに別れを告げ、タチアナさんを我が家へ招待するために森へと向かう。あれだけ買い込んだケーキ類は一つも残らず、全てショコラさんとノエリアさんの胃に収められてしまったのでお土産も買い直しながらだ。ノエリアさんも中々の健啖家のようで……。

 私としてはできたらノエリアさんもヘルミーネさんも一緒に連れて帰りたかったのだが、早速今日から今後の打ち合わせやお仕事のお手伝いをさせられるらしいのでまた今度、となってしまった。とても残念。

 しかし、右足の不自由(?)なタチアナさんを長時間歩かせる訳にはいかないと、本日お休み予定だったミランさんが同行を申し出てくれたのでよしとしよう。


 ちなみにこういう時にこそ手を差し伸べるべき筈のメイドさんであるシアさんは、私と手を繋ぐ事に忙しいと言ってミランさんに全部丸投げしてしまいました。そこは逆でしょう……。



 父様と兄様、さらにシアさんもお気に入りのオレンジブランデーケーキをお土産に、あとはタチアナさんの好みを聞きながらもう幾つか買っておく。

 どうやらお酒は結構好きな方らしい。兄様のいい飲み友達に……させる訳にはいかない! 絶対揉まれまくるわ……。


 基本的にメイドさんズが作るおやつがあれば大満足の私なんだけど、それでもやっぱりハーヴィーさんの作るケーキは別格の美味しさだよね。さすが本業の人は違う。まあ、どちらが好きかと聞かれてしまえばそこはメイドさんズの方に軍配が上がってしまうけどね。ふふ。



 森に入る事を渋る、と言うか恐れ多いと遠慮するタチアナさんを三人で、まあまあ、と意味不明に説得して引きずっていく。その足では碌に抵抗もできまい、フフフ……。一名様ご案内だ。


「姫、バレンシア、あとミーランもおかえり。また新しい奴連れて来たな」


「わぅ! た、ただいまー、急に降りて来ないでっていつも言ってるのに!」


 またもやスティーグさんに驚かされてしまった。驚いているのは毎回私だけなのだけど、結構ビックリするからやめてもらえませんかねえ……。


「こんにちはスティーグさん。こちらはソフィーさんの妹さんのタチヤーナさんですよ」


「は、はじめましてこんにちは。あ、あの、タチアナで結構です」


 私に続いて二人も挨拶を返す、が、やはりシアさんは会釈で返すだけだった。むう。


「へえ、ソフィーティアの妹……。それって大丈夫なのか?」


 なんて正直で失礼な! でもきっと、ソフィーさんを知っている人ならみんなこんな反応を返すんだろうね……。


「何がどうとは言えませんけど大丈夫ですよ。そうですね……、ソフィーさんから例の部分を抜いた感じじゃないでしょうか? 私も驚いちゃいましたよ」


 マジで!? それって普通にいい所のお嬢様的なお人じゃないですか。

 ミランさんのこの言い切り方を見ると、タチアナさんがリーフサイドに来てから既に何日か経っていて、その間に何度も会ってお話してたっていう事かな? ずるいずるーい!


「例の部分……。あ、姉がご迷惑をお掛けしているみたいですみません」


「いやいや、まあ、ソフィーティアはアレな所があるだけでいい奴なのは間違いないから気にすんな。折角の美人が勿体無いとは思うけどな」


「うんうん、ソフィーさんは私も大好きだよー。たまーにアレだけど」


「ふふ、はい。本当にアレさえ無ければ誰にでも自慢できるくらいのいい姉なんですけど……」


 そう言えば、ソフィーさんが私の家でメイドさんをしてるっていうのは手紙で知ってるんだよね? なるほど、森の外のエルフからすると自慢できちゃうくらいの事なのか。どうしてもこればっかりは慣れないなあ……。

 私は普通に誰にだって自慢できる素敵なメイドさんだと思うけどね! たまにアレなのも個性だよ、個性。




 進入禁止ラインを超えてしまえばもうこちらのもの、タチアナさんはミランさんに背負ってもらって家路を急ぐ。何故か私もシアさんに抱き上げられてしまったが、まあ、いつもの事なので気にしないでおこう。

 そして景色を楽しむ猶予もなく、あっという間に家の前に到着した。二人ともお疲れ様。タチアナさんもミランさんの背中できゃーきゃー騒いでお疲れ様だ。ふふ。


 タチアナさんは息と髪と服装を整えてから辺りをくるりと見回し、私の家、一際大きな大木を見上げるとそのまま固まってしまった。


 ふふふふ、面白い家でしょー? 一見するとただの大きな木に見えても、所々に窓が付いてたりベランダがあったり、さらには洗濯物が干してあったりメイドさん(グリニョンさん)が壁、幹? にぶら下がっていたりと一風変わった……? !?


「何してるのグリニョンさん!?」


「え? ……あ!!」


 どうやらミランさんも気付いたみたいだ。タチアナさんが固まってしまった原因は、変わった作りの家ではなくてグリニョンさんだったのか……!! シアさんだけは、なんですかそれくらいで、といった感じで無反応だった。

 位置的に三階のメイドさんズの部屋の少し上辺り。多分自分の部屋の窓から壁を這い伝って行ったんだろう。しかし何故!


「むん? おー、シラユキおかえりー。何って、暇だったから運動がてら登ってたんよ」


 どんな運動!? と言うかですね……。


「登るならせめてパンツ穿いてからにして! 見えちゃう見えちゃう見えてるから!!」


「し、シラユキ様? 可愛らしいですけど大声ははしたないですよ?」


「あう、ごめんなさい……」


 私が怒られちゃったじゃないか! くそう……。

 真下から見上げないとスカートの中までは見えないと思うし、わざわざ家に入る前に見上げる人も少ないと思うけど、広場から見かけてここまで来る人だっているかもしれないのに! まったくもう!


「あん? ああ、忘れてた。そいじゃ仕方ない」


「あ……、え? あっ!」


 軽く壁を蹴って自由落下を始めたグリニョンさんに驚き、タチアナさんもやっと言葉が出たみたいだった。まあ、言葉と言うよりは驚きに声が出てしまっただけだろうと思うけど。

 しかしグリニョンさんは普通のメイドさんではないので心配は要らない。空中でくるっと回転して体勢を整え、私たちのすぐ前に音も無く降り立つ、と思ったら、両手両足でズシャッと降り立った。


 な、なんて野生的な降り方をするメイドさんなんだ……。カッコいいじゃないか。これだからグリニョンさんは大好きなんだよ。


「改めておかえり。そっちのおっぱいでっかいのは? パンツはめんどいから要らないよん」


 ゆっくりと立ち上がり、両手の平に付いた土を払いながら気だるそうに話すグリニョンさん。


「ただいま! ソフィーさんの妹さんのタチアナさん! お願いだからパンツは穿いて!!」


「ふーん」


「自分で聞いたのに全然興味なさそう! パンツ穿いてない人にはお土産のケーキはありませーん」


「ああん? めどいなあ……」


 渋々、嫌々、そして面倒くさそうに手渡したパンツを穿いてくれた。

 まだまだ食べ物で釣らないと穿かせられないが、とりあえず今のところはこれでよし。多分お土産を食べ終わったら勝手に脱いでしまうと思うけど……。




 ここまで連れて来られておきながら、今度は家の中に入るのを渋るタチアナさんを三人で、まあまあ、とまたもや意味不明に説得して引きずって行く。ちなみにグリニョンさんにはケーキというエサをちらつかせてソフィーさんを呼びに行ってもらっている。


 まずは頑張って談話室に入ってもらい、足を休めながらソフィーさんと、ついでに母様も待つ。まあ、主に頑張ったのはミランさんなんだけどね。今も何故か母様を呼びに行くという大役を任されて頑張っている最中だと思う。

 二人が来る間にメアさんとフランさんにも自己紹介をしてもらう。タチアナさんは素性を知った二人の質問攻めに目をくるくるとさせて答えていたが、多分緊張で何を話していたか、などは後になったら覚えていないかもしれない。


 そんな面白そうな時間はほんの五分ほど、すぐにソフィーさんを連れたグリニョンさんと母様を連れたミランさんがやって来た。

 しかし、母様はニコニコ笑顔なのだが、ソフィーさんは妹さんが遊びに来たというのに無表情。まさかタチアナさんの前では凛々しいお姉さんを演じて……、いる訳もないか。


「あ、そのまま座っていてね? 話は聞いているわ、今日は少し無理をさせてしまったかしらね。まあ、初対面ではあるけれどお互い名前も知っている事だし、特に自己紹介の必要もないわね。はじめまして、よろしくねタチアナ」


 立ち上がりかけたタチアナさんを手で制止して、簡単に挨拶を済ませる母様。やはりソフィーさんから色々と聞いていたらしい。ずるい。


「はは、はい! よ、よろしくお願いします! あの、ほ、本日は急にお邪魔してしまいまして、その、ももも、申し訳ありません!」


 おおう、緊張でガチガチになってしまっているね。ソフィーさんが目の前にいればある程度はとも思ったんだけど、全く効果は無かったみたいだね。ふふ。


「エネフェア様、私からも少しよろしいでしょうか?」


「え? ええ、私の前だからって控えなくたっていいのよ? 貴女はこういうところだけは真面目なんだから。ふふふ」


 こういうところだけって……、まあ、そうなんだけどさ……。妹さんの前なんだからもう少し言い方があるよねー。まったくもう。


 とりあえず母様とミランさんには席に着いてもらう。勿論私は母様の膝の上です。幸せ。

 初対面のタチアナさんは仕方がないとしても、ミランさんまで未だに緊張気味なのは一体どうしてなのか……、コレガワカラナイ。


「タチアナ、まずは久しぶりですね、元気そうで何よりです。でも、その足でなんて無茶をするんです! しかも私に何も相談も無しに勝手な行動を取って、どういうつもりなんですか!!」


 ひゃあ! ソフィーさんが怒るところなんて初めて見た!! こうしてると本当にお姉さんっぽくていいなー。


「ご、ごめんなさいお姉ちゃ、姉さん。あの、ジニーさんから急にお誘いがあって、誰にも言ってはいけないと言われてて……」


「まったく……。今はこれだけでいいです、詳しくは今夜にでもベッドの中で聞かせてもらいますからね」


 そう言うとあっさりと怒気を収め、いつものにこやかな表情に戻ってくれた。これで一安心だ。


 ふむふむふむむ。色々と突っ込みたいところはあるけれどどうしたものかな。あ、ベッドの中でっていうのは多分、今夜は一緒に寝よう、っていう意味だと思うので突っ込みません! 突っ込んで聞きたくありません!



「ソフィーは妹相手でも敬語が基本なのね。育ちの良さを感じるけれど、どうしてたまにああなのかしら。不思議ね。貴女もそうなの?」


「え? わたしが……? あ、はい! で、でもわたしの場合は姉の口調が伝染うつってしまっただけで……」


 あはは、なるほどね。タチアナさんはお姉さん大好きと見た!

 さて、と、このメンバーだと気軽に話に参加できる人が誰もいないから、早速本題に入ってしまおうかな。


「ふふふ、二人とも私よりずっとお嬢様っぽいよねー。ねえねえ母様、母様はタチアナさんの右足の事は聞いてるの?」


「それは一応ね。治してあげたいんでしょう? ふふ、今日はよく我慢したわね、偉いわ」


 いい子いい子、と撫でられまくってしまった。実際のところ我慢できていた訳ではないんだけど、黙って撫でられておこう。


「これは独り言なのですが……、冒険者ギルドで二回ほど、ここまでの道中にも一度止めに入りました」


「シアさん!?」


 何故バラしたし! そんな大きなわざとらしい独り言があってたまるかっ!


 そして私を撫でる手がピタリと止まる。ガクブル。


「ありがとうねバレンシア。……シラユキ?」


「ご、ごめんなさい母様。でも、タチアナさん歩くのが凄く辛そうだったから……」


 ミランさんに支えられて歩いてたんだけど、一回声を上げて痛がっちゃって……。シアさんに止められちゃったけどあれは我慢できないよ。


「申し訳ありません! シラユキ様はわたしのことを思って……。怒らないで差し上げてください! どうかお願いします!」


「もう、これじゃ私が悪者みたいじゃないの。今日一日は一切魔力を使わず過ごして、明日バレンシアがいいって言ったらよ? 分かった? お願いだからあまり心配させないで頂戴。ね?」


「うん!! ありがとう母様! だーい好き!!」


「ありがとうございます!!」



「ひ、姫可愛い! 可愛い!」


「うんうん。これは後でたっぷり可愛がってあげなきゃね」


「私は町までお供しましたし、二人を優先してあげますか。ふふ、本当に可愛らしいです……」


「私もシラユキ様をお膝に乗せて全身を撫で回して可愛がって差し上げたいのですけど……。早く見習いを卒業したいですね」


「ソフィーさんはもう少し言い方をね……。はあ、言うだけ無駄ですか」


「そんな事よりケーキまだ?」







今回は結構サクサクと……、進んだかどうかは分かりません。



どうやら予約投稿の日付を間違えたみたいですね。

まあ、特に問題はないのでこのままで!

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