表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
280/338

その280

いつもより少し長めになってしまいました。

「ルー兄様、ユー姉様、行ってくるねー。ふふふ、シアさん早く早くー!」


「は、はい。なんという可愛らしさ……」


 ああもう、楽しみすぎて顔がニヤけちゃってるのが自分でも分かるよ。そのせいで朝からみんなに撫でられまくりだ。


「ご機嫌ねシラユキ。ふふ、可愛い。気を付けて行ってくるのよー? お兄様は今日はお留守番だからね」


「ぐう……、見に行くくらいいいじゃねえか……。シラユキ、帰ったら事細かく見たまま感じたままを詳しく話すんだぞ?」


「お兄様! まったくもう……」


「はーい! それじゃ、いってきまーす!!」


 兄様が一緒に行けないのは残念だけど、気にしたところで何にもならないので気にせずしゅっぱーつ!! 目指すは冒険者ギルド! 目的は新たなメイドさ、違った、ウェイトレスさん候補の人との顔合わせ!

 どんな人が来てるのかなー? 優しくて綺麗なお姉さんだといいなー。おっぱいはやっぱり大き、と、なんでもありません。



 今日は待ちに待ちに待ちに待ちに待ったくらい楽しみにしていたウェイトレスさん候補の人たちとの初顔合わせの日。夏の三月も終わり季節は秋になってしまったが、私のハートは震え、燃え尽きるほどにヒートしている。心が熱いわ。


 ……いや、新しいお友達ができるかも! と楽しみにしていた訳でありましてね? 別におっぱいの大きなお姉さんに会えるのが嬉しい訳じゃありませんよ? そこのところ勘違いしないで頂きたい。


 今日の顔合わせについては兄様も毎日まだかまだかと心待ちにしていたのだが、その理由がシアさん伝いで姉様に知られてしまい、残念ながら今回はお留守番という事になってしまった。

 それでも姉様も一緒に行けば問題ないかもしれないけれど、いきなり王族三人が会いに来るなんて恐縮とかビックリされるとかいうレベルの話ではないので、とりあえず初回の今日はお店関係で優先度の高い私だけが会いに行く事になったのだった。勿論シアさんも一緒にね。


 ちなみにシアさんも私が楽しみにしすぎていたせい露骨に拗ねたりもしていました。多分、おっぱいの大きなメイドさん、というのが気に入らないんだろうと思う。シアさんだって充分大きいよっていつも言ってるのになー……。

 拗ねる度に私がご機嫌取りをしていたのだけど、実はそのご機嫌取りを狙っての行動だった事が判明。シアさんは、姫様が可愛らしすぎるのがいけないんです! などと意味不明な供述をしており……、以下省略。






 町に着いたらまずは『転ぶ猫』へ。指定された場所が冒険者ギルドの例の奥部屋なので、ソニアさんとショコラさんへのお土産を買うためだ。ミランさんは今日はお休みらしいのが非常に残念だ。

 ハーヴィーさんと少しお話をしてから、私たちとジニーさん、あと一応ウェイトレスさん候補の人たちのお昼用にもケーキとパイも買っておく。何人来ているか分からないので少し多めにだ。余ってしまってもショコラさんさえいれば何も問題はないだろう。


 全て持ち帰り用に箱詰めしてもらい、それを能力でしまってからお店を出る。調子に乗ってあれもこれもと買い過ぎて箱詰めにやや時間が掛かってしまった。このままだと他にも大きな失敗をして恥ずかしい目に遭うかもしれない、ちょっとテンションを下げて落ち着かなければ……。素数でも数えよう。



 そしてあっという間に冒険者ギルド前へ到着。最後に軽く深呼吸をし、はやる心と少しの緊張を落ち着けてから中へ入る。そんな私の行動をシアさんは笑顔で眺めていたが、今は気にしていられない。

 入ってすぐにぐるりと中を見回し、カウンターにいるソニアさんと、いつものテーブルに突っ伏して座っているジニーさんを発見。しかしそのテーブルに着いているのはジニーさんだけだった。他のテーブルを見てもエルフは一人も見当たらない。


 ……ふう。多分奥の部屋で待ってるんだろうね。新しいお友達が増えるかもという期待はあるけど、やっぱり知らない人と会うのは緊張しちゃう。相変わらず私は小心者だなあ……、もっとお姫様らしく堂々としなきゃね!



「じ、ジニーさんこんにちわー。起きてる?」


 突っ伏していると言うか、ぐでーんと倒れ込んでしまっているジニーさんに恐る恐る話しかけてみる。


「あー、シラユキちゃんいらっしゃーい……。ごめんねー、お姉ちゃんちょっとお疲れなんだー……」


 ガバッと起き上がって驚かしてくるかもと構えていたのだが、ジニーさんは体を起こさず顔だけこちらに向けて、いつもの有り余る元気さが全く感じられない声で挨拶を返してくれた。


「お疲れ? だ、大丈夫?」


「あんまり大丈夫じゃないかもー。あ、シラユキちゃんがほっぺにチュッとしてくれたら元気が出るかも!」


 倒れたまま自分の頬をつんつんと突付いて示してくるジニーさん。疲れていても相変わらずのようで安心だ。


「ギルド長の仕事と喫茶店の開業の準備を平行して進めていればそうなってしまうのも無理はないでしょう。まったく、いつもは平気で他人に迷惑を掛けているというのに、いざ本当に大変な目に遭った時には誰も頼ろうとしないのですから……。それも貴女の悪い癖ですよ? ジニーさん」


「ふふふー、ごめんねごめんねー。今回はガトーちゃんがいたからそこまで大忙しって訳でもなかったから大丈夫! ミランちゃんも他の皆も色々と手伝ってくれたからね。このギルドはいい子ばっかりでお姉さん感動しちゃったなー!!」


 シアさんの呆れたような言葉に謝りながら体を起こし、やっといつもの調子が戻った様に見えるが……、まだまだお疲れなのか空元気に見えてしまう。


 ふむ、ジニーさんがシアさんに信頼されている理由も、サボり癖があるのにギルド長なんて重要な役職に就けている理由も何となく分かった様な気がするね。やっぱりただ仕事ができるだけの人じゃなかったかー。

 でも自分が楽するために喫茶店を開こうなんて考えちゃう人だからね……。あ! 考えてみれば自業自得じゃないか!? 見直して損をした気分だ……。


 さて、冗談半分本気半分はここまでにして、っと。


「ねえねえジニーさん、メイ、ウェイトレスさん候補の人は? あ、ルー兄様はユー姉様に捕まって来れなくなっちゃったよ」


 本命の本題! お疲れのジニーさんには悪いけど、早速会わせてもらいたいのですが! ジニーさんのおかげか緊張なんてどこへやら、だね。 


「あはは、ユーネちゃんは焼きもち焼きだからねー。可愛い可愛い。シラユキちゃんもおっぱいの大きなお姉さんに会うのがそんなに楽しみなんだ? かーわいい! 三人とも別の部屋で待って、あ、今日会ってもらう子は三人いるんだけどね? 私としてはその三人にメインで入ってもらって、あと足りないところは雑務依頼で募集するつもりなんだー。でもねでもね? その子たちを採用するかしないかはシラユキちゃんに決めてもらおうかなーなんて思ってたりするんだよねー? ふっふふー!」


 ほほう? 候補者は三人であるか! お店の運営関係は正直全く分からないからどうでもいいとしても、採用を決めるのは私? なんでだろう?

 ジニーさんが選んだ人なら大丈夫だよね、多分。別に気にしなくてもいいかな。それより私イコール大きなおっぱい好きという認識を改めてもらいたいね。


「まだ何か企んでいる様ですね……。まあ、ここで長々と話していても時間の無駄です。姫様、参りましょうか」


「あ、うん。奥の窓が無いあの部屋だよね? ジニーさん」


「待って待って! 置いてかないで!! お姉ちゃんも一緒に行くからー!!」


 私の手を引いて歩き出すシアさんと、慌てて椅子から立ち上がってついて来るジニーさん。


 採用の合否は私が決めていいみたいだし、何か怪しい企みをしている人は置いて行っちゃいまーす! ふふふ。



 ソニアさんにお土産のケーキが入った箱を渡してからカウンターの中に入り、奥の廊下に続くドアへ向かう。

 それを見たジニーさんが、私のは? 私の分は!? とうるさかったのでちゃんと用意してあると伝えておく。そんな大人気ないジニーさんをジト目で見やるソニアさんが面白かったね。


 ドアを開けてすぐの所で今日はお休みの筈のミランさんと遭遇した。驚き戸惑いながらも思いがけず会えた事は純粋に嬉しいので、喜んで挨拶をしてからどうしてここにいるのかも聞いてみた。

 ミランさんが言うには、ギルド長権限で強引にお休みを奪われてしまい、無理矢理今日のお手伝いに駆り出されてしまったらしい。しかもその件を伝えられたのは昨日の帰り際だったというあまりにもひどい話だった……。


 何故か、本当に何故かドヤ顔をしているジニーさんはとりあえず放っておいて、ミランさんにもお土産のケーキをお詫びも兼ねてプレゼント。ジニーさんの分だったけど全部食べていいからねー、という一言を添えておくのも勿論忘れずに。

 半泣き状態で謝るジニーさんを見るに見かね、ちゃんとジニーさんの分もあるから! とつい許してしまった。


 あっさり許してしまった事にシアさんは不服顔だったけど、ここでミランさんに会えたのは本当に嬉しかったからね。先月もなんだかんだで殆ど遊びに来れなかったし。ああ、だからドヤ顔をしてたのか……。まったくもう。ふふふ。




 そのままミランさんに例の会議などで使われる奥部屋に案内されて、用意されていた長テーブルの二つの椅子の右側に私が、左側にジニーさんが座る。勿論私の左隣、ジニーさんとの間にはシアさんが立っている。


 部屋とテーブル位置関係は、入口のドアが私たちの正面にくる様な配置だね。一見すると面接会場みたいだけど、相手側の椅子が無くてもいいのかな?

 ……う、うん? そうか、今から面接をするのか! そして私が面接官なのか!! なにこれ面白そう……。でもそうなるとちょっとだけ緊張してきちゃうね。居住まいを正さなければ!

 しかし、真ん中にシアさんが立っていてもいいんだろうか……? こんな恐ろしい面接官が真正面に立っていると圧迫面接どころの騒ぎじゃなくなってしまうのでは!? さすがに言い過ぎか……。


「では一人目の方を呼んで来ますね。……バレンシアさん、その……、誰が出て来ても怒らないでくださいね!」


 なにそれこわい。


 不穏な一言を残し、ミランさんはササッと逃げるようにして部屋から出て行ってしまった。


「あ、ちょっ! ミランちゃん余計な事言わないの!! し、シアちゃーん? ミランちゃんは多分休日出勤のせいで少し気が立ってるだけだからね!!」


 なんてひどい言い訳だ! ミランさんがそんな嫌がらせみたいな事する訳がないのに!! 真に遺憾である。


「ジニーさんの人選でしたら間違いはないだろうと安心していたのですが、やはり楽観が過ぎましたか。姫様、ここはもう帰ってしまいましょう」


「うん、ミランさんも連れて行っちゃおうかなー」


「いやーん!! 待って! 二人ともお姉ちゃんを信じてー!!!」


「あ、もういらっしゃったみたいですね。ジニーさんは煩いですから黙っておいてください」


「ぎゃうん!!」


 一人できゃいきゃい騒ぐジニーさんを眺めて楽しんでいたら、いきなり強烈なシアさんチョップがジニーさんの脳天に炸裂した! いつもキャロルさんが受けている物の何十倍もの威力があるように見えた。

 そしてジニーさんがバッタリとテーブルに倒れ込むと同時にドアがノックされた。今日もメイドスキルは冴え渡っているようだね。


「…………姫様?」


「あ、私? ど、どうぞー!」


 変なところを感心していたら返事を返すのを忘れてしまった。いや、忘れていたんじゃなくてジニーさんが死んだフリをしてるのが悪いんだと思うな! くう、変な間が空いてしまったじゃないか……。



「失礼します」


 ドアを開けて入室の挨拶をした後、一歩部屋に入るとまずは深くお辞儀をする……、ええと、候補の人その1さん。早く名前を知りたい。先に三人とも名前だけ聞いて置けばよかったと今更ながら後悔だ。

 そしてゆっくりと顔を上げるとある一点を見つめて固まってしまった。そのある一点とは、テーブルに倒れ伏すジニーさんその人である。シアさんのせいで早速出鼻を挫かれてしまったみたいだった。ごめんなさい。


 心の中で謝りながら、でもいいチャンスなので今の内に観察させてもらおうかな。



 背はシアさんと同じくらいで160cmに届かないくらい。ウェーブがかった金色の髪は長くボリュームもあり、長さは腰を過ぎたくらいまであって全体的にふんわりと広がっている。驚きでぱちくりと見開かれている瞳の色は緑。綺麗と言うより可愛らしい印象を受ける美人さんだ。実際年齢もそんなにいってないだろうと思う。


 第一印象は、凄く可愛らしい人、かな? 本当に可愛いまま大人になったという感じだ。……だがしかし! 胸のサイズが驚きの母様やショコラさんサイズ!! この可愛らしさでその胸の大きさは反則でしょう! なんとなくメアさんを連想させられるね。採用決定です。



 そのままジニーさんをたっぷりと数秒間見つめた後、ゆっくりと顔をこちらに向けると私と目が合い、さらに1、2、約3秒後、


「し、失礼しました! 申し訳ありません! シラユキ様の御前でなんて失礼を……」


 ぶんっと音が鳴りそうな勢いで頭を下げて謝ってしまった。


 どうしてこうなった……。多分一瞬自分がここに何をしに来たのか忘れちゃったんだね。それだけ緊張していたっていう事かな?


 この微妙な空気をどうしたらいいものかとシアさんを見てみると、とてもいい笑顔でニヤニヤとしていた。他人ひとの失敗(?)を見てニヤつくなんてなんてひどいメイドさんだ!

 さらにその奥、未だに倒れ伏したままのジニーさんも見てみると、こちらも僅かに体を震わせて笑っていた。なんてひどいお姉さんだ! まさにこのジニーさん)にしてこのシアさんありだね、まったくもう!


 このままでは泣かれてしまうかもしれないので急いでフォローに入るとしよう。私もエルフが相手なら初対面の人でもそこまで話しかけるのに抵抗はない。勿論まだ少しの緊張は残っているけれど。


「き、気にしなくてもいいからね! シアさん! ジニーさんも笑っちゃ駄目だよ! それとジニーさんは早く起きて!」


「申し訳ありません」


「ふふふ、ごめんねシラユキちゃん! タチアナちゃんもごめんねー? それじゃこっち来て二人に自己紹介してして!」


「は、はい!」


 へー、タチアナさんっていうんだー、って自己紹介してもらうより先に名前が分かってしまったじゃないか!! 先に教えてくれないと思っていたらこんなタイミングで暴露するとは……。ジニーさんめ、これは許されざるよ……。



 タチアナさんはゆっくりとした動きで数歩前に出て、改めてお辞儀をしてから胸に手を当て、深呼吸を一つした後真っ直ぐに私を見詰めて自己紹介を始める。


「初めましてシラユキ様、わたしはタチヤーナ・セルシェルと申します。家族や友人、よく知っている方からはタチアナと呼ばれています。本日はわたしなどのために大切なお時間を割いて頂き誠にありがとうございます。しかしご足労をお掛けしてしまう事になってしまい、こちらはどうお詫びしたらいいか……。本当に申し訳ありません」


 ここで言葉を一旦区切り、ふう、と軽く一息つくタチアナさん。なんとなく口元が笑顔になっている様に見える。


 あ、今のは用意してきたセリフを上手く言えたぞって嬉しくなっちゃったかな? よし! やった! っていう感じで心の中でガッツポーズを取っちゃってたりして。私も秋祭りとかで大勢の前に出て挨拶する時に毎回やってるから合ってると思うよ。

 タチアナさんはやっぱり第一印象どおりの可愛い人だね! 私も釣られて笑顔になっちゃう。ふふふ。


 でも、なーんか今のセリフの中に違和感があったような気がするんだよね。言葉としては素晴らしい礼儀正しさに感心はするがどこにもおかしくはないんだけど……、ううむ……。

 まあいいや、気のせいという事にしておこう。次はこちらの番だね!


「はじめましてー、シラユキ・リーフエンドです。ええっと……、こっちのメイドさんはシアさんっていって……」


 ししししまった! 私って自己紹介の時に名前以外で言える事が全く無いよ! 地味にショックだ……。

 ついシアさんの名前を出してごまかそうとしちゃったけど、シアさんについても元Sランクの冒険者なんだよーなんて言える訳もないし、いきなり話題に出させられたシアさんもなんでか知らないけど機嫌が悪くなっちゃってるし……、これは詰んだか!?


「はい、バレンシアさんですよね? 姉からの手紙のとおり本当にお綺麗な方で……、はっ!? す、すみません! 忘れていました! あ、姉がいつもお世話になっています、おります!! あ、あああ……」


 折角上手に言えたと安堵していたタチアナさんだったのだが、どうやら言い忘れが一つあったみたいだった。

 もう完全にオロオロアワワと慌ててしまい、ジニーさんに助けを求めるかのように視線を送っている、が、ジニーさんはニコニコとしているだけで何のフォローも入れようとはしなかった。これはひどい。


 慌てるタチアナさんを見てるのも結構楽しいけど……、お姉さんからの手紙にシアさんの事が書いてあったってどういう事? まさかシアさんのお友達の妹さんなのかな。


 そしてシアさんはこの有様を見ても機嫌が直らずに無表情のままで……


「やはりですか、はあ……。ジニーさん、一体どういうつもりなのかお答えしてもらっても構いませんか? まあ、悪気あっての事ではないという事だけは分かりますが。しかし私に一言の相談も無しにこう勝手な行動を取られるのは……、いえ、私が貴女の行いにどうこうと口を挟むのは筋違いだというのも理解しています。せめて、本当にせめて一言だけでも先にあればと……」


 ジニーさんに向かってそう淡々と言い放った。


 うあー、なんだろう? シアさん怒ってる? 困ってる? 悲しんでる? とりあえずもの凄く複雑な心境だっていうのは分かるよ。本当にどうしちゃったんだろう?


「どういうつもりも何も、私はただウェイトレスのメイドさん候補の子たちをシラユキちゃんに紹介したかっただけなんだけどねー。この部屋に来る前にも言ったけど、あくまで候補だから採用するかしないかはシラユキちゃんにお任せしちゃうからね!」


 対するジニーさんはそんなシアさんの表情を見ても普段と全く変わらず、特に裏は無いといったスタンスを崩さない。


「採用するもしないもこの方はあ……、!? なっ! あっ、貴女という方はどこまで……!!」


 ジニーさんの今の返答に裏を感じたのか、ワナワナと体を震わせて怒るシアさん。今にも左手にナイフが握られそうだ。


 ひい! 言葉が出ないくらい怒るシアさんなんて初めて見た!! マジ震えてきやがった……、超怖いです。


「そういう事になるね! ふっふふー、さっすがシアちゃん頭いい!! でもね、怒るのは後にしてまずは落ち着いて落ち着いて! シラユキちゃんもタチアナちゃんも怖がってるから、ね? そもそもお姉さんがシラユキちゃんに率先して無茶させると思う? それにシラユキちゃんがシアちゃんの意見に耳を貸さない訳がないでしょ? シアちゃんはもう少し大人になりなさい!」


 私に無茶? シアさんの意見は耳を貸すどころか完全に信頼してるよ? と言うかなんで私の話に!?


「くっ、……ふう。姫様、タチアナさん、お騒がせして申し訳ありませんでした」


「う、うん。私は大丈夫だけど……、タチアナさんは大丈夫? なんでこんなに怒っちゃったかは分からないけど、シアさんは凄く優しい人だからね」


「はい! 存じております!」


 タチアナさん半泣きになっちゃったじゃないか! こんな恐ろしい目に遭ってもメイドさん、じゃなかった、ウェイトレスさんになってくれるかなあ……。

 しかし、大人になれだなんてジニーさんには一番言われたくないセリフだと思うなー、私。本当に何か企んでるみたいだし、私の中で評価がどんどんと下がっていってるよ。




 シアさんは一応表面上は落ち着いている様に見える、が、私には分かる、あれは有頂天とまではいかないけどかなり怒ってるね! キャロルさんがもふもふシラユキちゃんを落としてしまった時と雰囲気が似ている。

 そんな怒り心頭のシアさんのプレッシャーをすぐ近くで感じている筈なのに、余裕の態度でニコニコ笑顔のままのジニーさんは肝が据わっているのかそれともただ単に鈍いだけなのか、とにかく凄い人だ。


「ええと、どうしよっか? し、シアさーん?」


 もう何がなんだかわからないよ状態なので、まだ声を掛けるには早いと思うのだけどシアさんを頼らざるを得ない。面接なら質問をしたり受けたりするんだろうけど、完全にそんな空気ではなくなってしまったからね。


「この調子では続くお二人にも何かしらあるのでしょうね……。ああ、姫様、申し訳ありません。彼女、タチアナさんはソフィーさんの妹さんなのですよ。私も直接お会いするのはこれが初めてなのですが、ね」


「……う? え? ええええ!? ほ、本当に!?」


「ははははい! 本当です! ソフィーティア・セルシェルはわたしの実の姉です!」


 あ、それだ!! 自己紹介の時に感じた違和感の正体は、セルシェルっていう姓に聞き覚えがあったからだ! すっきりしたー!!


 すっきりしたところで……、どうして私に妹さんがいるのを内緒にしていたのか、そこのところ詳しく教えてもらえませんかねえ……。







続きます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ