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270/338

その270

 その後もお互い軽い質問の様な他愛のないやり取りを続けながらお昼を食べ終わり、ギルド内にもそこそこの人が戻って来た。今日の受付はミランさんではなくソニアさんだった。

 ソニアさんはウルリカさんと二人で冒険者業を続けていたのだが、今ウルリカさんは一時的に故郷に帰ってしまっているのでまた臨時のギルド員として確保されてしまったらしい。なんという万年人員不足のギルドなんだ……。

 私とジニーさんが一緒にいる所を見ても驚かないところを見るに、多分ソニアさんも追い出されたか自主避難した口なんだろうと思う。お騒がせしちゃってごめんね。


「はー、もうお腹いーっぱい! 食べ飽きたのばっかだったけど今日はいつもよりなんか美味しく感じたねー。ふふふふふ、やっぱりシラユキちゃんが一緒にいるからかな? ただ食べてるだけなのにホントに可愛いんだから!!」


 ええい、そ、そんなに褒めないでもらえませんかねえ、恥ずかしい。……褒められてるのかちょっと疑問だけれど。


「何年経っても可愛らしいままだからなシラユキは。森の中でなら膝の上に乗せてやるんだがなあ……」


「そうですね。まあ、私は町中であろうとも構わず抱き上げさせて頂きますが」


「頂かないで! 構って!」


 思わず入れてしまった私のツッコミに対して、ニヤニヤと嬉しそうな表情をする三人。


 むう、やっぱり仲が良いねこの三人は……、シアさんとショコラさんはともかくジニーさんまでもがニヤニヤしてくれちゃって! まあ、ジニーさんも森の家族なんだから全然嫌じゃないんだけどね。

 あ、そうだそうだ、森の家族で思い出した。ギルド長さんのお仕事関係の話ばかりで忘れちゃってたよ。


「ジニーさんは前に森に住んでたんだよね、確か。それっていつの話なの? シアさんは知ってて黙ってただけだと思うけど、ほかのみんなは知らないみたいだったからちょっと気になっちゃって」


 そう言ってシアさんの顔を見てみたら、ぷいっと背けられてしまった。わざとらしいが可愛かったので許します。


 マリーさんとキャンキャンさんは知らなくて当然だけど、兄様も会った事があるだけで森の住人だとは一言も言ってなかったもんね。知ってたら教えてくれた筈だよ。


「そういえばお前は全く森に入ろうとしないな。バレンシアが恐ろしいのは分かるが森で出会ってしまえばシラユキもすぐに興味を持って近付いていただろうに」


 シアさんはたまに怖いけど恐ろしくまではありません!

 こほん。確かに森の中でジニーさんと出会ったらすぐに話しかけて行ってたと思うよ。


「あー、うん、それは確かにそうなんだけどねー。実は私、森にちょっと苦手な人がいるんだよね。シアちゃんに聞いたらまだ館の周りに住んでるって言うし……、鉢合わせしちゃったら絶対苛められちゃうもん!!」


「苦手な人? 苛められちゃうの?」


 誰だろう? こんな面白いジニーさんを苛めるなんて……。まさかシアさんじゃないだろうな! さすがに冗談だけどね。


「そ、それは一旦置いとこ! ええっとー、私が森を出たのってどれくらい前だったかなあ……? 成人してちょっとしたくらいだから二百もいってない頃だよね。……私って今何歳だっけ?」


「私が知りますか、そんなどうでもいい事」


 何故かシアさんに自分の年を尋ねるジニーさんだったが、シアさんからは呆れた様に突き放されてしまった。でも冷たさは無く冗談半分と言った感じに近い。


 むう、これは面白いね。あのシアさんが完全に気を許していると言うか、普通にお友達感覚っぽく接しているのが凄いね。シアさんとジニーさんは性格が合わなさそうな感じなんだけどねー。

 もしかしてジニーさんも元冒険者でシアさんの昔のお友達だったりするのかも? あ、だから私と会わせない様にしてたんだ! ふふふ、なるほどなるほど、今日の私は冴えてるわ。


「シアちゃんのいーじわるぅー。えーと、うーんとー……、ああ! あれから五百年くらいだから九百くらいだね! 私もそろそろ千歳かー」


「九百!?」


 そんな遥かに年上の人だったとは! という事はグリニョンさんと同年代なんだね。み、見えないなあ……、メアさんと同じくらいかもっと下に見えるよ。それこそエレナさんくらいに。


「だからと言って中身が伴っていなくてはな。これが本当のただの年取りという物だぞシラユキ、ウルリカとは大違いだ」


「ええ、エレナさんくらいの方と思って接して頂ければ充分ですよ。勿論今後一切無視でも構いません」


「私が構うー! 二人とも私より年下なのに酷い! そんな意地悪ばっかり言ってるとお姉さんシアちゃんとガトーちゃんの恥ずかしい秘密を暴露しちゃうよひい!!」


 ショコラさんが手を伸ばすよりも早く、シアさんの投げたナイフがジニーさんの目の前に突き刺さった! またテーブルに穴が増えてしまった……。


 二人とも何気にひどい事を言っているけど、私も全く同じ事を考えていたので注意できません! しかし、冒険者ギルドでシアさんがナイフを投げるところを久しぶりに見たね。いや、いつもの如く投げる瞬間は見えなかったんだけど……。もうシアさんにナイフを投げられるような冒険者さんはいないからちょっと寂しく感じちゃうね。


「ひゃあ、怖い怖い。シアちゃんごめんねー、冗談だから許してねー」


「あ、いえ、私も反応が過ぎました、すみません」


 ジニーさんがかるーく謝ると、シアさんもナイフを抜きながら素直に謝った。


 おや珍しい、シアさんがこんなに簡単に謝っちゃうなんて。やっぱり森の住人でさらに年上の人だからかな? でも膝蹴りとか入れてたのにね。もやもやとした違和感が強まってきちゃったよ。ぐぬぬ。



「シラユキちゃんとシアちゃんはこれからどっか行くの? それとももう森に帰っちゃう?」


 食後の休憩も終わり、さて次はどうしたものか、ジニーさんとショコラさんの予定は? と考えたところで先制して質問をされてしまった。


「今日はシアさんと町を歩くのが目的だったからどこに行くかは決めてないけど、ジニーさんとショコラさんは?」


「私? 今日のお仕事は大体片付けちゃったしどうしよっかなー。ショコラちゃんを置いて二人について行こっかなあ」


「私が待機か? まあ、今日くらいはいいか。適当に菓子を摘んでるとしよう」


「今食べたばっかりなのに! ……あれ? いいの?」


 まだ食べる気なの!? というツッコミがつい先に出てしまったが、ショコラさんは置いていかれる事に対しては文句はないみたいだった。ちょっとしかめっ面になってしまってはいるが。


「いいも何もそれも私の仕事の内だからなあ。それにやるべき事を終えた奴にああだこうだと言う事はせんさ。シラユキと出かけるというのは気に食わんがな」


 ジニーさんの代わりにギルドに残るのもお仕事の一つなのかな? 今度もっと詳しく教えてもらおう。


「ひい! その目で睨まないで怖い!! でも……、ふふ、ぬふふ。やーっぱりガトーちゃんってシラユキちゃんの前だと大人しっあー!!!」


 ガタンッと激しい音を立てて椅子から転げ落ちるジニーさん。そのまま右足を押さえてゴロゴロとのた打ち回っている。

 ショコラさんはいい気味だとばかりにその光景を見下ろし、シアさんは、よくやりました、とばかりのいい笑顔だった。


 ああ、足を踏まれたのね……。ジニーさんもわざわざ突っ込まれる様な事を言わなければいいのに、と思いつつもやっぱり言わない。言わないけど、軽く注意だけはしておこう。


「ショコラさんもシアさんもあんまり暴力的なツッコミは駄目! その内大怪我しちゃうよ、もう」


「おお、シラユキに叱られてしまった。これは可愛いな……」


「ええ、本当に……」


 二人とも全く反省の色が見られない! ショコラさんは本当に父様そっくりの反応するんだから!


「は、申し訳ありません姫様。しかしどうかあちらをご覧ください」


「う? あちら?」


 シアさんに促されるままに視線を動かすと、そこには床に蹲っているジニーさんがいるだけだった。


「むう、ジニーさん大丈夫?」


「シラユキちゃんやっさしいー!! ほーらほら、私に何かするとシラユキちゃんに嫌われるよー?」


 全然元気そうだこの人! もの凄く痛そうにしてたんだけどなあ……。


「とまあこの程度でしたらものの数秒で持ち直しますのでお気になさらずに……。姫様もご遠慮なく魔法の的にでも使ってあげてください」


「遠慮します! もう……、とにかく私の前ではだーめ! 分かった?」


「はは、分かった分かった」


「畏まりました」


「はーい! 何が?」


 ジニーさんも口には気を付けてね!!




 ジニーさんはショコラさんを連れて奥の部屋へと入って行ってしまった。ギルド員さんたちに後の仕事の指示を出したり、出かける事について伝えに行ったんだと思う。

 私たちはジニーさんが戻って来るまでここで待っているのだが、少し気になる事が一つある。いや、かなり気になる事、だね。


 シアさんが、不機嫌になっていないのだ……!!


 あのシアさんが私との二人きりのデートを邪魔されて黙っているとは思えず、文句を言ったり直接ジニーさんに何か仕掛けたりするんじゃないかと思っていたのだが……、全くそんな素振りもなくむしろ機嫌良さげにしている。これは何か裏があるのではないかと勘ぐってしまうのも無理はないだろう。うん。


「どうされました? 姫様。私が姫様とのデートを邪魔された事に腹を立て何か企んでいるのでは? というお顔をされていらっしゃいますが」


「具体的過ぎる! あんまり心を読まないでよ……。それでシアさん、怒ってないの?」


 ううむ、全く以っていつものシアさんだなー。心を読んでいるかのような指摘もいつもの事だよ。


「ふふ、可愛らしいです姫様。と、すみません。まあ、全く思うところが無いという訳ではありませんが、怒るとまでは至っておりませんよ。午前中は充分過ぎる程楽しませて頂けて幸せでしたし、姫様もジニーさんとのお話はまだまだされたいご様子。そこまで強く妨害する理由もないのではと思いまして……」


 一目で機嫌がいいと分かるくらいの優しい笑顔ではっきりと答えてくれるシアさん。

 この笑顔をもっとみんなに見てもらえれば、と一瞬思ったのだけれど、今考える事ではないので振り払っておく。


「それじゃなんで今まで私をジニーさんと会わせない様にしてたの? やっぱり何か企んでるんじゃ……」


「あらら、信用ありませんね私は、悲しいですね。しくしく、でございます」


「口元が笑ってるよ! まったくもう、その内教えてね!」


「はい、可愛らしいお優しい姫様。ふふふ」



 まあいいや、とりあえず今は誤魔化されておこうじゃないか。きっと私には会わせ辛い事情や問題が何かしらあって、それが少し前に解決したんだろうと勝手に予想してるんだけど……、これに限らず色々と内緒にされている事を教えてもらえる日はいつになったらやって来るんだろうか……。



「シラユキちゃんおっまたせー! あれ? どしたのシアちゃんにこにこしちゃって可愛痛い!!」


「なんでもありません」 


「ふふ、シアさん照れ隠し? それじゃどこに行こっか? 私もなんとなく満足しちゃったかもだけどねー。ふふふ」


「きゃー! 可愛い!! 私がいない間に何かあったー? と、えっとそれじゃねシラユキちゃん」


「秘密! あ、なあに?」


「どこにも行く予定が無いなら、お姉ちゃんシラユキちゃんのお家に行きたいな?」


「え? 私の家に?」







続きます。



前回と今回分は纏めて一話にできそうでしたね。

やる気ゲージが溜まれば修正するかもしれません。

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