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その269

 ジニーさんとお話するために場所を移そうか、となったのだけれど、午前中の冒険者ギルドは人で込み合っているらしいので、露店を巡って時間を潰しながら向かう事になった。しかしショコラさんは、先に一仕事済ませておく、と言ってジニーさんを引き摺って行ってしまったのでシアさんと二人でだ。多分到着するのはお昼くらいになるだろうと思う。


 ふむ、それならば色々と食べ物も買って行こうかな。私たちともう二人分、特にショコラさんのために多目にね。二人のお昼の予定は聞いていないけど、まあ、買っておいて損はないよね。


 さっきの鋭い膝蹴りで鬱憤は晴れたのか、また上機嫌に戻ったシアさんと手を繋いで歩く。午前中でデートは終わってしまいそうだけど特に文句も無いみたいなのでまずは一安心と言ったところだ。お買い物の間ジニーさんについて一切話題に出さないところを見ると内心では何かしら思っているのかもしれないが……。


 ジニーさんとはこれからまた会ってお話をするからそれはいいんだけど、実はギルド長さんについての興味は完全に薄れきっちゃってたんだよね……。前任のギルド長さんとの交代からもう三十年以上にもなるからしょうがない。ジニーさんとこれまで謎だったギルド長さんと結び付けて話すのは何となく難しそうな気がするよ。

 とりあえずは面白楽しそうなお姉さん、シアさんとショコラさんのお友達っぽい人として接すればいいよね。前は森に住んでたって言うし、あの軽い話し方から追放されたとかでもないと思う。普通に森の家族として話しちゃってもよさそうだねー。ふふふ。




 食べ物関係の露店の商品を買い占める勢いで買い進み、おかげで結構な時間を掛けて冒険者ギルドに到着する事ができた。


 よし、予定通り。しかし、私はもう安定のアイテムボックス扱いだね……。まあ、それももういつもの事なので気にしない。こんなお姫様がいたっていいと思うよ。うんうん。


 ギルドの中へ入るとショコラさんとジニーさんはいつものテーブルに着いて待ってくれていた。二人とも私たちに気付くと、ショコラさんは軽く、ジニーさんは元気よく、どちらも笑顔で手を振って歓迎してくれる。

 歓迎してくれるのは嬉しいが、その前にどうしても気になってしまう事が一つあった。カウンターにミランさんがいない。いや、ミランさんどころか冒険者の人もただの一人もいなく、ギルド内はがらんとしてしまっている。これはまた何かあったんだろうか? シアさんも同じ事を思ったのか怪訝な表情だ。


「ショコラさんジニーさんお待たせー。誰もいないけど何かあったの? みんな外にお昼食べに行ったのかな、と、シアさんお願い」


「はい、畏まりました」


 考えても答えは出る筈もないので、早速買ってきた色々をテーブルに出しながら聞いてしまおう。


「おお、飯か、ありがたい。別段何かがあった訳じゃないんだが……、まあ、半分は追い出され、半分は自主避難だな」


 半分は追い出されて、もう半分は自主的に避難? どういう事?


「きゃー! 首傾げちゃって可愛い!! あ、うんとね、私がこれからシラユキちゃんと楽しくお話するから出てけー! って追い出しといたの。なーんかショコラちゃんはシラユキちゃんの前だと結構大人しくなるんだねー、おもしぶふう!!」


 ショコラさんから無言で頭をはたかれて、勢いよくテーブルに突っ伏してしまったジニーさん。軽く叩いたように見えるのにかなりの威力があったらしい。


 な、なるほどね、並んで座ってると思ったらそういう事。いつでもすぐにツッコミを入れられる様に近くにいたんだね……。

 とりあえずジニーさんが私と話したいがために追い出した事は分かった。なんでみんなを追い出す必要があったのかと自主的に避難した人がいるっていうのはよく分からないけど……、まあいいか。何となくだけど巻き添えを恐れての事なんだろうと察してしまった。


「ジニーさんが頑丈な人でもいきなり叩いたりしちゃ駄目だよ。大丈夫? ジニーさん」


「シラユキちゃん優しい!! このギルド、あ、この町に来てから初めて優しくされた気がする!! うーん! シラユキちゃん! お姉ちゃんのお膝においでおいでー?」


 私の言葉に反応してがばっと起き上がり、自分の腿の辺りを叩きながら私を呼ぶジニーさん。やはりとても頑丈な人の様だ……。


「姫様はこちらへどうぞ。さ、準備も整いましたしお昼にするとしましょう」


 そしてそれを軽く無視して向かい側の椅子を引いてくれるシアさん。


「う、うん。ありがとシアさん」


 ジニーさんは森の家族らしいけど、さすがに今日やっと話せるようになったばかりで早速膝の上に座らせてもらうのは抵抗がある、と言うか少し恥ずかしい。とりあえずシアさんの引いてくれた椅子に腰掛けるとしよう。

 何やらわざとらしく、しくしくと声に出して嘘泣きを始めてしまったが、シアさんもよくやる事なのでスルーします!


 ショコラさんは食べる事に集中してしまっているのでジニーさんをメイン相手としてお話しよう。元からそのつもりだったし、食事中にお喋りするなんてお行儀が悪い、なんて言われそうにもないからね。


「んー……。シラユキちゃんとお話したい事はたーくさんあったんだけど、いざこうしてみると何から話していいものか悩んじゃうね。ふふ」


 私と話せるようになった感動(?)からようやく落ち着いたのか、少しテンションが下がったように見える。こっちが普段のジニーさんなのかもしれない。


「あ、私も私も。ジニーさんとじゃなくて、ギルド長さんに会ったら色々と言いたい事があったんだった。えーっと……」


「うふん? なになに? 何でも答えてあげちゃうよー? ふっふふ」


 ギルド長さんにはギルド長さんに、自警団の人疑惑があったお姉さんにはそのお姉さんにと、それぞれ別にお話したい事言いたい事があった筈なんだけれど……、私はこういう急な展開に弱いからパッと出てこないね。


 シアさんはにこにこと少し機嫌よさげ、ショコラさんは黙々と料理を口に運んでいる。

 まあ、焦っても仕方がない。ゆっくりとお昼を食べながら、思い出したらその都度聞いてみよう。



 早速一つ思い出した、しかも結構重要な事だ。重要な筈なんだけど忘れてしまうのは不思議だね。


「そうだ。えっとね、ショコラさんを補佐に選んでくれてありがとうってお礼を言いたかったの。ありがとうジニーさん」


 おかげでショコラさんはリーフサイドに滞在する事ができるようになったんだもんね。


「どういたしまして! って返したいところなんだけど……、ショコラちゃんを選んだのも連れて来たのもイグナちゃんなのよねー。あ! 黙ってればよかった! 痛い!!」


 ショコラさんの握っていたフォークがジニーさんの頬に突き刺さる!

 正直すぎるジニーさんにまたもやツッコミが入ってしまった。あ、実際のところ刺さっていないので安心してください。


「イグナシオさんは前任の補佐役の方ですね。結婚して退職されて、今は……、ええと、どちらでしたか、どこか遠くの町で幸せに暮らしているのではないでしょうかね」


「幸せそうな人にはとことん興味を持たないねシアさんは! まったくもう……。それじゃどうしてショコラさんが選ばれたのかは分からないんだねー」


 これもちょっと気になってたんだけどなあ……。


「確かー、ある程度以上に腕っ節が強くてそれでいて情け容赦の無い人、だったかな? イグナちゃんもとんでもない子連れて来てくれちゃって……、おかげでお姉ちゃん大困り! あいたっ! 痛い! 刺さないで!!」


 再び情け容赦の無いツッコミがチクチクザクザクと突き刺さる。納得しました。


「私も何を任されるのかと構えていたらまさかこんな奴の世話だとはな。あー、シラユキ? 私の仕事はだな、コイツを捕まえて机に着かせて仕事をさせる、とまあ、子守みたいなものなんだ」


「う? 捕まえて? ……子守?」


 ショコラさんとジニーさんを交互に見る。ショコラさんは心底嫌そうに、ジニーさんは照れくさそうな笑顔だ。


「まあ、やる気を出させるのが一番の大仕事でしょうね」


「だな。今日みたいにやる気を出せば一日分の仕事なんぞあっさり片付けてしまうのに、普段は逃げ出す事しか考えてないような奴だからなコイツは……。複雑な思いだが今日は助かったぞ、シラユキ」


「あ、うん。……うん?」


 ショコラさんのお仕事、ギルド長さんの補佐って……、逃げ出したジニーさんを捕まえる事なの? 聞いても教えてくれなかったのも頷けるね。そんなお仕事にある程度以上の強さが必要っていう事は、きっとジニーさんはもの凄くフットワークの軽い人なんだろうなー……。

 ふむふむ、森から離れて暮らしているとは言っても、ジニーさんはやっぱり典型的な森の住人みたいだね。でもお仕事はちゃんとしないといけないと思うな! お祭りのときはしょうがないけどねー。


「実際変に有能なのが困りものなのですよね。無能なら切ってしまえば済む話なのですが……」


「だがまあ、それで給金を貰えているからこそこんな平和な土地で暮らしていける訳だからな。複雑な思いだが辞める訳にはいかん」


 やれやれといった感じでため息をつきながら言うシアさんと、なんだかんだ言いながらも少し楽しそうなショコラさん。ジニーさんは、えへっ、と軽く笑い、またもやツッコミを入れられた。


 ……うん? 何かちょっと違和感があるような……。なんだろう? ちょっとだけ引っ掛かる感じがする。もやもや。

 と、それは一旦置いておいて、もう一つ思い出せた。こっちはそこまで気になってる訳じゃないんだけどね。


「もう一つ聞いてもいい? 私ばっかりごめんねー。ジニーさんがギルド長さんになってすぐの頃の話なんだけど、私がギルドの中を自由に行動してもいいっていう決まりを作ったのはどうしてなの?」


 カウンターの中や奥の部屋に勝手に入ろうが書類に触れようが、それこそ何をされても誰も止めてはならない! とかそんな決まりを真っ先に作ったんだったよね確か。


「あー、それね。だってシアちゃんから、絶対に姫様に話しかけるな、気安く近付こうものなら叩き潰すぞ! って脅されちゃっててさー。そうしておけば好奇心旺盛なシラユキちゃんの方から会いに来てくれるんじゃないかなーって思ってね。うん、そんだけ。結局覗きに来てくれなかったけどね!」


 ご、ごめんなさい? はー、そんな裏があったとはねー。なるほどなるほどねー……。


「シアさん!? そういう怖い脅し方しちゃ駄目だっていつも言ってるのに!」


「そこまで直接的な物言いをした覚えはないのですが……。まあ、確かにそれに近い脅しを入れたような気がしますね。何となくですが」


 脅した本人がうろ覚え!! まったくもう! まったくもうだよシアさんは! そろそろ父様と母様からお叱りを入れてもらわないといけないね!



「そもそも冒険者ギルドを作ったのがルル様とネネ様なんだから、その孫のシラユキちゃんを自由にさせない方がおかしいのよ! ま、皆知らないだけなんだろうけどねー」


「え? ……ええ!?」


「じ、ジニーさん、話しすぎです! そういった事情はもっと小出しにして頂かないと……」


「ほー、それは私も初耳だな。シラユキも知らなかったのか? バレンシアは知っていた風な感じだが」


「あ、シアさんは知ってたんだ? むう。なーんで教えてくれないかなー」


「聞かれなかったからです」


「そう言うと思ったよ!!」


「ふふ、可愛らしいです姫様。はあ、まったく、今後の楽しみが一つ減ってしまったではありませんか。ですから当分の間お会いして頂きたくなかったのですよね……」


「そんな理由だったの!? 三十年だよ三十年! 充分すぎるよ!!」


「姫様、ここは森の中ではないのですよ? もっとお淑やかにして頂かなければなりません」


「あう、ごめんなさーい。シアさんのせいなのにー」


「ふふふ、シラユキちゃんかーわいい!」


「可愛いなあシラユキは……。ふふ」







話が思うように進まず……、もうちょっと続きます。

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