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263/338

その263

 今日もお仕事に向かうメアさんとフランさんを見送ってからカイナさんがお手紙を運んで来るのを今か今かと待っていたのだが、やって来たカイナさんは何故か手ぶらだった。


 あれ? 今日のお仕事は無し? まさかみんなもう飽きたんじゃないだろうな……。普通にありえる話なのが怖いよ。それとも私の返事の書き方が適当すぎたとか? でもシアさんがいいって言ってるんだからそれは無さそうだと思うんだけどねー。


 恐る恐る理由を聞いてみると、手紙はいつも通り沢山届いているのだけれど今日はそれ以外のお手伝いをお願いしたいんだとか。ちなみにこれはリリアナさんからのお願いであって母様は関与していないらしい。


「内容は聞いてる? リリアナさんのことだから難しいお仕事をさせられる事はないと思うけど」


 リリアナさんは母様には結構厳しく接しているけど私に対しては孫扱いで激甘だからね。でもどんなお仕事かは気になるもので……。


「あ、はい、いつもの軽いお仕事に散歩程度の運動を加えるとかなんとか言っていましたね……、でも詳しいお仕事の内容までは聞かされていませんでした。す、すぐに伺って参りますね!」


「わ、と、待って待って! 今から一緒に行くんだから態々戻らなくても大丈夫だよー」


 踵を返して部屋を出て行こうとするカイナさんを慌てて止める。


「はい、申し訳ありません……」


 もう、カイナさんは真面目すぎるんだから……。


「ふむ……、リリアナさんの居られる執務室へ行くのはあまり気は進みませんが、何やら面白い事になりそうな予感もしますね。では姫様、参りましょうか」


「うん、楽しみだねー。ふふ」


 楽しみにしてそうな、でもやっぱり嫌そうな、そんな複雑そうな表情をしているシアさんの手を取って椅子から下りる。


 私は純粋に楽しみなだけなんだけどね、シアさんはリリアナさんが苦手だからしょうがないかー。


「か、可愛らしいです姫様……。あの、私が抱き上げさせて頂いても宜しいでしょうか? 執務室の前までだけでもお願いします」


「そんなお願いなんてしなくて勝手に抱き上げちゃってもいいんだよ? 駄目なら駄目って言うからね」


「はい! ありがとうございます!! ああ……、姫様……」


「毎日隙あらば姫様と触れ合おうとしますね貴女は……。まあ、私も他人ひとのことは言えませんがね。ふふ」


 私を抱き上げて幸せそうに頬擦りをしてくるカイナさんと、それを微笑ましそうに見ているシアさん。

 二人は最近になって毎日一緒に私のお仕事を手伝ってくれるようになったので、以前までと比べるとかなり仲が良くなった様な気がする。この調子で森のみんなとも……、はさすがにまだ無理そうかな。


「可愛らしすぎます姫様……。きょ、今日はもうお休みを頂いてこのまま私のお部屋に……」


「あはは、冗談はこれくらいにして母様の所に……、? 本気の顔だ! シアさーん!!」


「またですか……。はいはいカイナ、正気に戻りなさい。後数年、せめて五十歳になられるまではお互い待ちましょう。そう、お互いに」


「そ、そうですね。もう成長は止まってしまわれたようですし、後は本当にもう少し様子を見るだけの辛抱ですよね……」


「私五十歳になったら何されるの!?」


「ふふふ」「うふふ」


 ひい! 妖艶な眼差しを送ってきながら微笑むのはやめてください!! 二人とも息が合いすぎ! 仲良くなりすぎでしょう!!



 まったくもう、シアさんは冗談だろうけどカイナさんは本気で言ってるみたいに聞こえるからちょっと怖いよ……。いや、カイナさんは本当に本気で言ってるのかもしれない……!!

 姉様は今の私と同じくらいの年に兄様と初めてしたっていうらしいけど、私は見た目も中身もまだまだ子供だと思うんだけどなー。五十歳になったところでそれは変わらないと思うんだけど?

 まあ、カイナさんは単に子供好きで私を可愛がりたいだけなんだよね。……子供好き? はっ!? まさかカイナさんにもロリコン疑惑が!? そういえばキャロルさんとグリニョンさんに可愛い服を着せようと頑張ってたっけ。シアさんに続いてカイナさんまでそんな……!!!


 さて、本当に冗談はこれくらいにしておいて、成長と言えば身長は二十歳前頃から全く伸びなくなっちゃったままなんだよね。これが私の成長限界だとするとかなり悲しいものがあるんだけど……。

 せめてキャロルさんくらい、いや、せめて後10cmくらい欲しいです! ホントに女神様が止めてるんじゃないだろうなこれ……。ぐぬぬ。




 シアさんのノックの後、カイナさんに抱き上げられたまま母様の執務室に入った。部屋の前までという約束はどこに行ってしまったんだろうか……。

 そこに待っていたのは母様とリリアナさんとクレアさん。母様とリリアナさんは笑顔で私を迎え入れてくれるが、カイナさんに抱き上げられてという状態なのでクレアさんは何となく機嫌が悪そうだった。


「母様ー、リリアナさん、クレアさん、来たよー。新しいお仕事があるの?」


「うん、リリーがシラユキに頼みたい事があるって言い出してね。私も詳しくは聞いてないから何をさせられるかまでは分からないわ。こんな小さな子供にお仕事をさせてしまうなんて、無力なお母様を許してねシラユキ……」


 朝から元気の無い母様が謝る、やっぱりかなりお疲れのようだ。でも、小さな、を強調しないでくださいませんかねえ。実際小さいんだけどさ……。


「ううん、リリアナさんが私に辛いお仕事をさせるなんて思えないから大丈夫! 母様はやっぱり大変? 私ももっとお手伝いするよー?」


「ああ! いい子すぎるわこの子!!」


「ええ、姫様は本当にお優しいお方です。カイナ、いい加減降ろして差し上げたらどうだ」


 クレアさんが睨みつけながら言うが……


「そんな……、私はもうずっとこのままで、一生このままでいたいです……」


 カイナさんは反対に身を寄せてさらに頬擦りを始めてしまう。


 残念! 半暴走状態のカイナさんには通じなかった!

 ええい、もう、カイナさんは私が大好きすぎるでしょう……。嬉しいけど母様の前だとちょっと恥ずかしいよ。


 ここで今まで無言だったリリアナさんがカイナさんと私の前に歩み出て来た。早速お叱りが始まるのかもしれない。


「はいはい、カイナはまず落ち着く、クレアもその程度で睨むんじゃないよ、大人気ない。二人ともシラユキが可愛くてしょうがないってのは私にも分かるけどね。ほら、独り占めしてないでちょっとこっちに寄越しなさいな」


「わぅ!」


「あっ……、姫様ぁ……」


 リリアナさんは私をカイナさんの腕から奪うようにして抱き抱え、そしてそのまま軽く頬擦りをしてくれる。


「ふふふ」


 リリアナさんに抱き上げられるのはなんでか凄く嬉しい、幸せな気分にさせられてしまう。思わず笑みが漏れてしまうね。


「まったく可愛いねえこの子は、皆がおかしくなるのも無理はないね。それじゃお仕事って言うかシラユキにお願いしたい事の話、の前に……」


「う? の前に?」


 私の問い掛けには答えず、リリアナさんは頬擦りを繰り返しながら母様の方へと歩き出した。


 なになに? お話の前に何するの? リリアナさんは普通に喋れるようになっても相変わらず予想ができない人なんだから、もう!


「はいエネフェア、これで元気を取り戻しなさい。この程度で参っちゃって情けないったらありゃしない……。娘の前でくらいはシャキッとしなさいシャキッと!」


 かるーく怒りながら私を母様の膝の上に降ろすリリアナさん。


「ありがとうリリー! ああ、シラユキ可愛いわあ……、癒されるわ……。ふふ」


 私が膝の上に乗った途端に撫で、頬擦り、キスをしまくってくる母様。残念ながらシャキッとはしなかったけど元気は出たみたいだ。勿論私の幸せゲージもグングンと急上昇しています。


「ふふ、ふふふ。母様だーい好き!」


 母様は私を可愛がれて、そして私も母様に甘えられて大満足で幸せです! さっきのカイナさんじゃないけど一生このままでいたいくらいだねー。


「姫様可愛らしすぎます……。はあぁ……」


「ああ、本当にだな……、? だから何故泣く!?」


「姫様のあまりの可愛らしさに涙が出てしまうくらいで何を驚きますか貴女は」


「驚きゃしないけど泣きもしないって、まったくこの子らは一々大袈裟な……。さて、と、ほらアンタたち、ボケーっと突っ立ってないでお茶でも淹れる! はいはい! 言われる前に動いた動いた!!」


「は、はい! すみません!」


「私はエネフェア様の、皆様の護衛なので……」


「わ、私も姫様のお側に在らなければ……」


「口を動かしてる暇があったら手を動かす! ここに護衛が要ると本気で思ってんのかいまったく……。メイドが三人もいりゃそれだけ早く終わるってもんだろう? エネフェアとシラユキには私が付いとくから何も心配しなくていいから、ほらほら、行った行った」


「む、むう……。はい」


「はい……」


 指示を出すと、しっしっと追い払うようにして三人を動かすリリアナさん。

 カイナさんは即座に、クレアさんも渋々ながらに、そしてシアさんは泣きそうになりながら動き始める。


(リリー怖いわ……)


(いつものんびりしてて優しいのに、お仕事の時間だけは厳しいよねー)


「聞こえてるよ」


「きゃあ!」「ひゃあ!」


 リリアナさんこわーい!!



 はい、これが本性(?)を現したリリアナさんです。


 リリアナさんは何と言うか、言葉がはっきりと通じるようになってからは随分とアグレッシブな人へと変貌してしまった。

 今までは色々と注意をしようにも上手く伝わらず、その分余計な手間と時間が掛かるから黙っていただけみたいなので実際のところ変貌したとは言えないのだけれど……。


 でもおやつの時間や一緒に散歩に出たりすると本当にのんびりゆったりとしていて、別段時間に厳しかったり無駄が嫌いな人という訳でもない。むしろ率先して楽しむ方だ。

 一見すると孫には激甘でもお嫁さんには厳しいお姑さんの様にも見える。それもお仕事の時間、執務室にいる間だけ。多分オンとオフの区別がはっきりとしているだけなんだろうと思う。

 基本的に明日できる事は明日やればいい、とりあえず適当でいいさ、そんな事よりお祭りしようぜ! なリーフエンドの森の住人の中では、働く時は働く、休み時は休む、そして遊ぶ時には思う存分遊ぶというはっきりとした切り替えができるリリアナさんは異色の存在なのかもしれない。……ちょっと大袈裟に言い過ぎたかな?


 そこで気になるのは森のみんなの反応なのだけど、外では本当にのーんびりのほほんとして、それでいて面倒見のいい美人のお姉さんなのでファンがさらに激増したらしい。かく言う私もさらに大好きになってしまったね。

 ああ、意外にも言葉遣いはお姉さんどころかちょっとおばさんっぽかった。そのせいかお婆さんの様な喋り方をするウルリカさんとはとても仲がいい。多分二人とも精神年齢が高いんだろう。


 ちなみにシアさんは以前までは不意打ち的に笑わさせられる事を苦手としていたのだが、今では純粋にいつ怒られるのかと戦々恐々の毎日だと言ってかなり本気で苦手に思っている。

 リリアナさんからすると一番仕事ができるシアさんが率先してサボっているのが納得できないんだろうね……。私のお付メイドさんなんだからここでは別に何もしてなくてもいいと思うんだけどねー、と思うだけで言わないのが私。


 勿論リリアナさんはメイドさんのお仕事についてはシアさん以上にできてしまうので誰も文句は言えない。

 高速移動以外の魔法はさっぱりで戦う事なんて一切できない人なんだけど、父様と母様も含めてやっぱり誰も文句は言えない。


 やはりリリアナさんこそがリーフエンドの森で最強のお人だという説がどんどん信憑性を帯びてきている。お爺様とお婆様にはまだ一度も会えていないので、確定まで後一歩と言ったところか。



 ううむ、ここはもう少し柔らかく言うように私からお願いをするべきなんだろうか? リリアナさんは私のお願いはなんでもって言っていいくらい聞いてくれるし……。いつも余裕の構えのシアさんが泣きそうな表情でお仕事をしているのは見ていて忍びないもんね。


「リリアナさんリリアナさん」


「んー? なあにシラユキ? もっと柔らかい口調で注意しろとでも言いたいのかい? ふふふ、優しい子だねえ」


 厳しい目付きで三人を監督していたリリアナさんだったが、私の呼びかけに一転してにこやかな表情になってしまった。


 ……あれ? 私そこまで言ったっけ? 言ってないよね?


「ふふ。シラユキは表情に出やすいからね、誰だって何となく分かるものよ? まあ、そこまで詳しく分かるのはバレンシアとリリーだけかもしれないけどね」


 そんなに分かりやすい顔してたのか……。あ、シアさん悔しそう。ふふふ。


「私のはただの年の功ってモンだね。と、でもねシラユキ? そうは言うけど私が煩く言うのもここだけなんだよ? 周りの皆の気が緩んでるとどうしてもこの子、エネフェアまで緩んできちまうもんだからねえ……」


 まだ何も言ってないけど、ああ、なるほどそういう……。全ては母様のサボリ癖が原因でしたか。


「でも今は? 母様ゆるーんとしてるよ?」


「ま、たまにはね。シラユキのいる時くらいは気を抜かせてあげようじゃないの、最近ちょっと参ってたところだしねえ……。ホントに七百にもなってこんな程度でへばっちまうなんて情けないったらありゃしない」


「うう、そんなに苛めないで頂戴……」


 ああ、さらになるほど。お仕事のお話ついでに母様を労ってあげようとしたんだね? なんという合理的な考え……、さすがリリアナさんだ。


「私としては苛めてるつもりはこれっぽっちも無いんだけどねえ……。とりあえずグリーが来るまでは休憩時間、それからシラユキにお願いしたい事を話すからそれまで甘えてなさいな」


「はーい! なんだろ楽しみ、ふふふ」


「お仕事の話を楽しみにするなんて……。リリーみたいになっちゃ駄目よ? シラユキ」


「どういう意味の言葉なのかねそれは。エネフェア、アンタは自分の仕事がどれだけ大切な物かまだ分かってないのかい。公務だよ公務、女王だろう? そもそも仕事っていうのは後に回したりやらずに置くなんて事は……」


「それはもう聞き飽きたからいいわ! やめて頂戴!! そ、そうよ、そんなに言うならリリーが女王をやればいいじゃないの。ねえシラユキ? そうすれば私も毎日いつだって甘えさせてあげられるのよ? シラユキもその方がいいわよねー?」


「それは確かに嬉しいけど……、リリアナさん本気で怒っちゃうよ?」


「え?」


「エネフェア……、母親に甘えたい子供の気持ちを利用しようとしたね? アンタはいつからそんな汚い真似ができる子になっちゃたのかねえ……」


「あ、リリー? 違うのよ? 今のはね」


「言い訳しない!!」


「ははははい! ごめんなさい!!」


 リリアナさんの怒りが……、有頂天になった!!

 いやー、怒ったリリアナさんは本当に怖いわー。母様が可愛く見えちゃって面白いわー。ふふふ。



「ななななんて恐ろしい……」


「バレンシアは本当にリリアナさんが苦手なんだな。くくっ、面白い」


「エネフェア様も本当のところ内心では楽しんでいられるんですけどね。ふふ」







ちょっと長くなりすぎてしまったので二つに分けます。

次回もまた一週間以内にはなんとか……

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