その261
後半です。
またほぼ会話文のみになっています。
そんなこんなで楽しいお食事会は終わり、食後の休憩も兼ねてタイチョーにクッキーをあげていたのだが、急にタイチョーが何かに気づいた様に顔を上げて逃げ出して行ってしまった。
「あれ? シラユキ様のお言葉を待たずに行っちゃいましたね、珍しい」
私のお言葉とは、またね、の一言だね。
「どうしたのタイチョー? まだ二個残ってるんだよー?」
一応もう一度呼んでみたが反応は無し。もう自分の巣へと戻ってしまったのかもしれない。
いつもは五個くらいペロリと平らげてしまうんだけど……、先に何か食べてきたっていう事なのかな? それでも食べ終わってすぐに帰っちゃうなんて事は今まで無かったんだけどなー。ちょっと寂しい気分。
「今日は人数が多いですから気が落ち着かなかったのではないでしょうか? 大体はバレンシアとお二人でいらっしゃってましたよね」
「なんかキョロキョロしてましたしそうかもしれませんね。さて、それじゃもう少し休憩したら……、ええと、まずは花畑に向かいましょうか。フォルベーに会えるかもしれませんよ? ふふ」
「うん、そうだねー。またねー! タイチョー!」
「ひ、姫様可愛らしすぎます……」
また二人の手を取って、テーブルで食後のお茶とお喋りを楽しんでいた母様たちの所へ戻る。
さて、移動の前にこれを全部片付けないといけないね、魔力は問題ないと思うけど一応一個一個慎重にしまっていこう。魔力疲れなんてもう随分と感じてないんじゃないかな。
「ん? 誰だろ」
「バレンシアじゃないですか? 短時間でも姫様と離れ離れになるのは相当辛いと思いますし」
荷物が纏められていくのを眺めていたら、キャロルさんとカイナさんが私たちの通って来た獣道の方へ顔を向けて何やら話し始めた。
「誰か来た? って言うかキャロルも手伝え!」
キャロルさんの手は私がしっかりと捕まえてしまっているのでそれは無理な相談なのです!
「頑張れ。うん、二人こっちに向かって来てる。多分もうすぐ見えると思うよ」
「ふーん。しっかしよく分かるね二人とも、キャロルは人数までさ。あたしはそんなのさっぱりだわ」
うんうん、それが普通だよね。今更だけどカイナさんも結構凄い人だったんだね……。
「私も全然分かんない。母様とリリアナさんは?」
「私は何となく誰かが近付いて来てるって事くらいしか分からないわね。集中してないと中々気付けないものよ? 森の中で常に気を張っててもしょうがないのにね、まったくこの子たちったら……」
それもそうだよねー。キャロルさんもカイナさんももっと気を緩めてもいいのに。キャロルさんは家に帰ったらソファーでぐでんとしてもらおうか。
「マリーと、キャンキャン」
キャロルさんと一緒にソファーで寝転がる楽しみに思いを馳せていたら、リリアナさんがぽつりと二人の名前を呟いた。
「う? マリーさんとキャンキャンさん?」
あ、今のは私の質問に答えてくれたんだよね多分。そうなるとマリーさんとキャンキャンさんの二人がこっちに向かって来てるぞ、っていうところまで把握できてるっていう事か……。なるほどなるほ、ど!?
「リリアナさんは誰が来てるかまで分かっちゃうんだ!? え、えー? どうやって?」
「ふふ」
しかしリリアナさんは微笑むだけで教えてくれる気配はなかった。残念!
「いやー、さすがに誰かまでは分からないと思いますよ? シア姉様ならともかく」
「むむ、冗談だったのかな? まあ、シアさんはもう何でもありだからね、何ができても驚かないよ。……驚くけど」
私も多分能力でそういう魔法を作れば分からないでもないと思うけど、態々そんな事までする意味も理由もないからね。でもたまには能力を使ってあげないと女神様が拗ねそうだし、その内適当に悪戯にでも使えそうな魔法でも考えよっと。
「あ、いらっしゃったみたいですよ」
カイナさんの言葉のその直後、ガサガサと木の枝や草を掻き分けながら勢いよく一人、その一人を追いかけるようにしてもう一人が広場に飛び込んできた。
「シラユキ様!! 大変ですの!!」
「お嬢様、せめて服を払ってから……。ああもう、そんな汚れたままでは皆さんに失礼ですよ?」
「あ、ホントにマリーさんとキャンキャンさんだ。リリアナさんすごーい!」
「マジで!!? あ、失礼しました! リリアナさん本気で何物よ……」
現れた二人はリリアナさんの言葉どおりマリーさんとキャンキャンさんの二人だった。マリーさんは随分と慌てているみたいだけれど……?
「エネフェア様、お寛ぎのところ騒ぎ立ててしまい申し訳ありません! ど、どうしても早急にシラユキ様にお伝えしなければならない用件がありまして……」
はあはあと肩で息をしているマリーさん、どうやらここまで走って来たみたいだ。
キャンキャンさんは呆れた風にしながらも、少し楽しそうに服に付いた葉っぱや汚れを払っている。
「落ち着いてマリーさん、何があったの? 私に用があるみたいだけどシアさんに頼んでもよかったんだよ?」
「い、いいえ! こればかりはシラユキ様に直接お話しなければなりませんの! それであの、少し離れた所へお願いしたいのですけれども……」
マリーさんはそう言ってキョロキョロと辺りを見回すが、ここはそこまで広い広場でもないので隠れられるような場所は無い。
「なになに? 内緒話? 気になるじゃない」
「私にもお話してくれないんですよ? 怪しいですよねー」
「キャンキャンにも話してないの? それは確かに気になるわね……」
このままでは野次馬根性全開のエレナさんと母様に無理やり白状させられてしまいかねないので、マリーさんの手を引いて広場の端の方へと移動する事にした。
ちょっとした事だけど、マリーさんとはあまり手を繋いだ事がなかったから地味に嬉しかったりもする。
「ここでいいかな? ちょっと小声で話そっか。ふふ」
声を落とした途端にわざとらしく聞き耳を立てる仕草を始めた母様たちは、とりあえず見なかったことにしておく。
実は内緒話は私も大好きなんだよねー。どんなお話なのか楽しみだね。
「は、はい、お手数をお掛けしてしまって申し訳ありません。早速ですけどこれは嘘でもシラユキ様をからかおうとしている訳でもなく、全て本当の事なんですの、どうか信じてくださいませ」
「うん、信じてるよ、大丈夫。マリーさんが私に変な嘘をつくなんて思ってもないからね」
「ありがとうございます! か、感激ですわ……。は、そ、それでですね、とあるお方からシラユキ様宛てに伝言を頼まれまして、そのとあるお方というのが大問題で私自身も信じられないんですの」
「うんうん、誰誰? 私の知ってる人なのかなー」
くう! 中々焦らすのが上手いねマリーさん! まあ、マリーさん本人には焦らしているつもりは無いんだろうけどね。
「お、落ち着いて聞いてくださいましね。そのお方はなんと……、め、女神様なんですのよ! 私もう驚いて焦ってしまって大変で……」
「あ、女神様から? という事はフォルベーに伝言を頼まれたんだね。ふーん……、何て言ってたの?」
「……あら? あのー、シラユキ様? 確かに私は落ち着いて聞いてくださいとお願いしましたのですけれど……、落ち着きすぎではありませんの!?」
うわあ、突っ込まれた! マリーさんのツッコミは緩急があると言うか、キレがあっていいね、うん。これは見習わないと。
女神様からの伝言っていうのは気になるけど、その前にマリーさんにはもう一驚きしてもらっちゃおうかな? フフフ……。
「マリーさんには内緒にしてたけど、実は私って女神様には何回も会ってるんだよねー。ふふふ、嘘じゃないよ」
「シラユキ様のお言葉を疑うなんてそんなつもりは……、はい?」
「向こうにいるみんなもキャンキャンさん以外は全員知ってるよ。隠しててごめんね」
「いえいえそんな……。はあ……、はい、ええと……」
マリーさんはゆっくりと母様たちの方へ顔を向け、軽く頭を下げてからまたゆっくりと私の方へと顔を戻すと、
「なんっ! ですのっ! それっ!! えええええ!!!?」
目論見どおりに盛大に驚いてくれて、
「お嬢様!! なんてお声を出してるんですか! しかもシラユキ様に向かって!!」
そしてキャンキャンさんに怒られてしまった。ごめんなさい。
もう離れて内緒話をする理由も無くなったのでまたマリーさんの手を引いて母様たちの所まで戻り、怒って待ち構えていたキャンキャンさんに引き渡してから母様の膝の上に座らせてもらう。
マリーさんは椅子に座り紅茶を一口飲んで少しは落ち着いたみたいだけれど、そわそわと私に視線を送り詳しく聞きたそうにしている。しかし母様と怒り状態のキャンキャンさんの手前大人しくしているしかないみたいだった。
「それで、肝心の女神様からの言伝って何よ? 落ち着いたんならさっさとお伝えしなさいって」
キャロルさんもやや機嫌が悪い。私の前で大声を出したくらいでそこまで怒らなくてもいいと思うのに。
「そ、そうでしたわね、あまりの驚きに忘れてしまっていましたわ、すみません。ええとですね、何についてのお話なのかよく分からないお言葉でしたのでそのままお伝えしてしまいますわね。『リリーの声が気になるなら試してみなさい、あなたにならできるわ』、との事でしたの。私には何がなんだか……」
「私?」
「リリアナさんの声? 試す? 私にならできる?」
リリアナさんと顔を見合わせて、お互いハテナ顔で首を傾げる。意味が分からない。
「フォルベーはシラユキ様にお伝えすればそれだけでいいと言っていたのですけれど……、シラユキ様もお分かりにならないんですの? い、色々と気になりますわ……」
気になる、気になる? リリアナさんについて私が気になっている事? 家族とか恋人とか? さっきどうやってマリーさんたちが向かって来てるって把握できたのか、とか? でも声限定なんだよね? 声……?
「わ、分からないなら分からないでいいんじゃないかしら? また次にお会いできた時にお伺いすればいいのよ。本当にいつどこでお会いしてるのかしらこの子……」
「ふふふ、秘密だよー。考えても答えが出ないし、本当に重要な用件なら多分私に直接言いに来ると思うからとりあえず今は忘れておこっか。ありがとねマリーさん。折角急いで来てくれたのに分からなくてごめんねー」
「いえいえ、私の方こそ団欒の場を掻き乱してしまい申し訳ありませんでした」
丁寧に頭を下げて謝るマリーさん。もうすっかりと気持ちも体も落ち着いたようだ。
「それじゃ、手早く片付けてしまいましょうか。マリーさんとキャンディスさんのお二人はどうされますか? これからコーラスさんのお花畑へと向かう予定なんですけど」
「あ、私は失礼させて頂きますわ。焦ってフォルベーを部屋に放ったままにしてしまっていましたの。さすがにもう帰っていると思いますけれど一応ですわ」
多分隠れてついて来てるかどこからか覗き見してると思うけどね。この広場にも白雪草は沢山生えてるし。
「その事も含めて帰ったらお説教ですからね、お嬢様」
「うっ……」
あはは、と一同に笑いが起こる。
マリーさんは最近こんな役割ばかりで損をさせてしまっている気がするね……。これは女神様に一言文句を言っておかなければ!
「その女神様のお言葉とやらの意味は気になるけどあたしも帰ろっかな。姫にできる事なんて物をしまうか怪我を治すかしかないってのにね」
他の人から見ると結構凄い能力らしいんだけどねー。……私にできる事?
「リリアナさんの喋り方を癒しの能力で治せとでも言いたいのかね。中々無茶振りするね女神様って……。あはは、そんな訳」
……そそそそそれだ!!!
「ちょ、二人ともやめなさい!! シラユキ駄目よ! リリー、悪いけど少し離れて頂戴」
「へ?」「はい!?」「ん?」
突然の母様の制止に驚くエレナさんとキャロルさん。リリアナさんは言われた意味は分からないと思うのだが、素直に席を立って数歩距離を置いてしまった。そして私は……
「母様放してー!」
「だーめ! また無茶する気でしょう? ああもう、折角黙ってたのにこの子たちは……」
母様にがっちりと捕まってしまっていた。体を揺すって振り解こうとしてみたりもしたが、腕が緩む事すらなく全く抜け出せる気配は無い。
「何か知らないけどごめんなさい?」
「私も分かりませんけど申し訳ありません!!」
「エレナとキャロルはまだお教えして頂いてなかったんですね。姫様、今は落ち着いて堪えてくださいね。後でゆっくりとお話し合いをしてからでも遅くはありませんから」
「やー! 母様はーなーしーてー!!」
「ああ、可愛いすぎるわこの子……。でもね、可愛いけど駄目なものは駄目なの! また倒れでもしたらどうするの……。自分を大切にしなさいって皆から何度も叱られているでしょう? ウルが帰ってから話し合って決めるからね、今は我慢するのよ? 分かったかしら? 私の可愛い可愛いシラユキがそんな事程度も分からない聞き分けのない子の筈はないわよね?」
あ、やば! 我侭が通るかとも思ったけど母様怒りかけてるわこれ。ししし失敗した!!
「ご、ごめんなさい母様! 我慢します!」
「あら? 随分素直に諦めたわね……。でもウルが帰るまで私から離れちゃ駄目よ? バレンシアにも言っておくからね」
「は、はーい……」
まあ、完全に自業自得だけど、こういう問題に関しては全く信用が無いな私は……。
「ええと……、キャンキャン? この惨状は私のせいかしら?」
「だと思いますよ? これはバレンシアさんからのお仕置きは確実ですね、楽しみです!」
「楽しみにしない! ああ……、どうしてこうなった! ですの……」
女神様ももっと分かりやすい言葉で伝えてくれるか直接言ってくれればよかったのに……。くそう。
多分私がリリアナさんとこの広場に来た時のあの日の事だね。大泣きしちゃったから女神様が詳しく調べてくれたのかもしれない。相変わらず贔屓しまくりな神様だね……。
つまり私の予想通りだとするとリリアナさんの一風変わった話し方は……、何者かから呪いを掛けられた様に強制させられてしまっているという事だ。
どうしてもそれが気になるのなら能力を使って治してしまえばいい、私にならそれが可能だと女神様は言いたいんだろう。
だとするとこれはいくら平和主義の私と言えども絶対に許せないね、あの時のリリアナさんの切なそうな表情を思い出すと……。
私の怒りが……、有頂天になった!!
実はこれで修行編のおまけ話(?)は終わりだったりします。
次回からは新しいお話に入る予定なのですが……、投稿は一週間以上、もしかしたらもっと時間が掛かるかもしれません。
数日内にこれまでのキャラ紹介を『裏話』で投稿予定です。今回もネタバレが入っているかもしれません。