その26
「はーい、シラユキ行きまーす」
「駄目だ! 足を挫きでもしたらどうする! ほら、降りなさい。お父様が抱き上げてあげるからな?」
「父様邪魔しないでー!」
最速で父様に阻止されてしまった。まったく、この人の過保護っぷりは衰えると言う事を知らないな。
今日から私の新魔法、『着地の衝撃を和らげる魔法』の練習が始まった。付き添いは父様と姉様、少し離れた位置にメイドさんズが待機している。
今私が乗っていた台は、高さ40cm程だろうか? 今の私の身長から見ると少し高く感じるね。でも、この程度の高さなら全く問題は無い。無いよね?
だ、大丈夫だよね? 父様の反応を見てると、私まで不安になってくるのよ。
「もう……。いくらシラユキがひ弱だからって、この程度の高さから降りたくらいで、どうにかなる訳ないでしょ」
「いや、しかし、しかしだな。もし、もし怪我でもしたら、もし、骨が折れたりしたら……」
折れるかーい! 父様の中では私はどれだけ虚弱体質なんだろう……
「この子昨日テーブルから降りたのよ? 今さらこの高さ」
「テーブルだと!? どこのだ! 談話室のか!? 一体何故そんな無茶を!! ああ、理由は分かってるんだ、着地の衝撃を知るため、だったんだろう? だが何故最初にそんな高さからなんだ!?」
「ひみつ!」
昨日のことは言えないね。言ったら父様の事だ、向こう千年は新しい魔法の使用を禁止しかねない。数字は決して大袈裟な物ではないはずだ。
「秘密……だと……? シラユキが、俺に、秘密……だと?」
「秘密くらい誰にだってあるわよ……」
そうそう、色々あるって。元日本人とか、女神様に会ってるとか、実は能力持ちとか。昨日父様の分のプリンを食べたのは実は私だったとかね。兄様は犠牲になったのだ。
「ま、ままま、まさか! 反抗期なのか!? いや違う! シラユキに限って反抗期などある訳が無い!!」
「確かにシラユキには反抗期なんて無さそうよね……」
「あ、そこは同意しちゃうんだユー姉様……」
確かに、実際無さそうだね。多分一生縁の無い言葉だよ。
私が、この人たち、この素晴らしい家族のどこに反抗することがあると言うんだろう。
「大丈夫だよ父様、私、みーんな大好きだよ」
「やはりシラユキは良い子だった!!!」
「うん! シラユキは世界一良い子よ!!!」
この二人似てるなー。
姉様は、見た目母様似なのに、性格は父様に似てるよね。ふふふ、面白い。
「それじゃ、改めて。シラユキ飛びまーす」
はらはらしている父様は無視しつつジャンプ。スタっと着地。
おお、この程度の高さでも結構衝撃は来るね。なるほどなるほど……
「どうしたシラユキ? 急に黙って……、まさか!!」
「何とも無いよ! ちょっと考え事してたの。このくらいの衝撃なんだなーってね」
「ふふふ、それじゃ、次、行ってみましょうか」
もう次なの!?
「シアー! ちょっとあそこの木から降りてみてくれるー?」
あ、なるほど、実演してくれるのね。これはしっかりと見ておかなきゃ。
シアさんはお辞儀を一つ、少しだけひざを曲げ、飛んだ!!
凄い速さで、木の上のほうの枝まで一気に到着、そして安定のメイド立ち。だからそれ怖いよ! どこかに手ついてよ!!
少し間をおいて、飛び降りた。飛び降りたと言うより、スッと落ちた感じだろうか。
落ちるシアさん、はためくスカート、しかし捲れ上がらない。そして、重力を感じさせない、ふわりとした、音も無い着地。
凄い……
「シアさんこっちこっちー」
シアさんをこちらへ呼ぶ。
「シアさん凄いすごーい!」
「さすがシアよね、綺麗」
「どうしてスカートは捲れないの? なんで何も音がしないの?」
「メイドですから」
「なるほどな」
「父様はそれで納得しちゃうんだ!?」
さて、冗談は置いておいて、シアさん本当に凄いわ。兄様とはまた違った着地の仕方だったね。
兄様の場合は、ジャンプの時も着地の時も音がしてたし、あんなふわりとした着地の仕方じゃなかった。普通に降りてた感じだったよね。スタッてさ。
私もシアさんみたいな綺麗な降り方がしてみたいな。私、女の子だし? あのふわりとした着地、あれには憧れちゃう。
あれは風を操ってるんだろうか? 自分の周りに風を纏う感じ? 風というより空気か? 難しいな。
兄様の場合は、衝撃を消すために、着地の瞬間足と地面をガードしているんだろうか? そうするともっと凄い音が出るな……
いやー、難しいわこれ。もう少しヒントを貰わなきゃ。
「私もシアさんみたいに綺麗に着地してみたい!」
「ふふ、無理よ」
「姉様ひどーい!」
「ははは。シラユキにはまだ少し難しいかもな」
「むー……」
どうやら今の実演は、超がつくほどの高等技術みたいだね。
ふわりと着地、ふわり? 浮く? 一瞬浮いてた? そういえばシアさんのジャンプって、飛んでるというより浮いてる感じだよね。ふわっと、飛ん、で?
重力を感じさせない着地? 重力? まさか、重力を操ってるのか!? ちょっとそれは高等技術すぎるでしょう!?
いやいやそれは無いよ! でも、あのジャンプってどこかで見たような? ああ、重力で思い出した。月面を歩く人の映像。なんかポンポーンって歩いてたよね。あれに近いわ。
そうなるとやはり重力なんだろうか? さすがに重力を操るとか、私の能力でも難しいと思うし。おっと駄目だ、考えを止めるな。
重力、下に、地面に、星の中心に引っ張られる力だよね。引力? うん? 引っ張られる力? それなら飛ぶ場合はその反対の力か? 押し上げる力? 飛ぶ力? 浮く力? 浮く!?
浮力か!!! 考え付く簡単なものは水に押し上げられて浮く力! 水は何? 水は流体!! 空気も流体!!!
ああ! できる! できそうだ!! 風を、空気を纏って飛ぶ。できそうじゃないか!!!
あれ? 着地じゃなくね? ま、いいか。
魔法の練習回になるとシラユキの脳内会議が凄い事に……
これでもかなり短めにしているんですが、長いですね。
飛ばし読み程度で全然大丈夫です。