表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
257/338

その257

 マリーさんの恋のお相手……、一体何者なんだ……?

 しかし今日のさっきまで全く気付けもしなかった私が考えたところで答えが出る訳もなく、これは素直に本人に聞くしかないか、と思っていたのだが、恋愛話という物はデリケートな話題なのでそれも中々に難しそうだった。

 気にはなるけどとりあえずみんなには内緒にしておいて、キャンキャンさんから新しい情報が入ってくるのを待とうと思う。



「一番身近な保護者メイドのキャンキャンにすら言ってないとなると、やっぱりこれはまだ隠しておきたい事なんだよね。さすがに姫から直接聞かれれば素直に白状すると思うけど、どうする?」


「確かにマリーさんは姫様のお言葉に逆らってまで秘密を隠し通そうとする方ではありませんからね。しかし、お優しい姫様に他人ひとの隠し事について根掘り葉掘り聞く様な真似ができる訳がないでしょう? それとなく調査するか、キャンディスさんにマリーさん自ら打ち明けられるのを待つしかないのでは、と思いますよ。キャンディスさんが黙っていろに命じられてしまった場合はどうしようもないですが」


「調査って言ってもねえ、レンと違って私らはただのメイドだし、レンだってシラユキから離れて調査なんてする気はないでしょ? キャロルに頼もうにもさ、キャロルって聴いた瞬間その相手を消しに行きそうなんだよね……。なんだかんだ言ってマリーのこと凄く可愛がってるからね」


「なにそれこわい」



 メアさんに抱き上げられて、やっぱり誰かに相談した方がいいのか、それとも予定どおり気付いていないフリをしていた方がいいのかと悩みに悩みながら家に帰って来た私だったが、そんな私の心の内を知ってか知らずかメアさんが早速シアさんとフランさんにバラしてしまった。

 しかもご丁寧に談話室のドアまで閉めて、内緒話をしているから誰も開けるんじゃないぞ、というアピールまでした上でだ。どうしてこうなった。


 ちなみにキャンキャンさんは、家に帰ってすぐにマリーさんの元へと戻って行ってしまっている。かなりショックを受けてたみたいだし、心配だね。

 さらにちなみにキャロルさんも談話室にいたのだが、帰って来てすぐにメアさんに追い出されてしまっている。多分エレナさんかウルリカさんの尻尾に八つ当たりに行っているだろうと思う。こちらも別の意味で心配だね……。


「まあ、お茶のお供としての話題には丁度いいんじゃない? 現状私らにできる事は何も無さそうなんだから好き勝手に話してればいいって」


 フランさんはそう言いながら私を座っていた椅子から抱き上げ、そのまま一緒に座り直した。

 談話室の入り口のドアが閉められている時は、三人ともいつにも増して気を抜いてくれるので結構嬉しかったりもする。全力で甘えていても誰にも見られないのもいい。


 ううむ、気にはなるけど本当に今私たちが何を言ってもそれは想像でしかないからね。これは素直にお喋りの話題の一つとして楽しませてもらうとしようかな。ふふふ、マリーさんごめんねー。


「好き勝手って……。でも姫とこういう、恋愛関係の話って全然した事ないよね? 確かにたまにはいいかもね」


「う? うん。私の身近で恋愛してるっていう人自体全然いないもんねー。クレアさんと……、ルー兄様とユー姉様くらい?」


 あの二人はもう恋愛という段階を通り過ぎてしまっている気もするけどね。でも年中無休のラブラブカップル、やっぱり毎日恋愛しているんだろう。うん、自分で考えておきながら意味不明すぎる。


「そう言われてみるとそうかもねえ。うーん、後は……、キャロルとレンとか? 完全にキャロルの片思いでかわいそうだけど。ふふ」


「くっ、反論ができませんね……。キャロもいい加減諦めればいいものをと常々思っているのですが、こればかりは本人の自由ですからね、あまり強くは言えないのですよ」


 へー、やっぱりシアさんは優しいなー。ふふふ。シアさんってキャロルさんと二人っきりのときはどんなお話をしてるんだろう? マリーさんの恋愛話より気になっちゃうんですけど!


「一応エレナもじゃない? エレナはなんでかライスさんのことが好きなんだよね。好みは人それぞれっていうけどさ、悪いけど全く理解できないよあれは」


「まったくです。エレナはあんな男のどこがいいのか……、正直理解に苦しみます」


「あはは。レンとキャロルはホントにライスさん大っ嫌いだね、面白いわ。まあ、あの変にふざける性格が直れば普通にいい男なんじゃないの? 多分ね」


 ライスさんはあの性格だからこそ面白いのにー。

 エレナさんがライスさんに向ける、好き、という気持ちは、私が兄様に向けるものに近いんじゃないかなー、って思うけどね。ライスさんは結構面倒見のいいお兄さんだからね。


「クレアさんも早く結婚しちゃえばいいのにね。なんで恋人なんていないなんて言い張るんだろ……」


 週一デートは絶対に欠かさずしてるくらい大好きな人の筈なんだけどなー。相手の人、リューエさんもクレアさんが否定している間は本当の恋人じゃないって言うし……。さ、最後までしてるくせに! ぐぬぬ。


「結婚と言えば、結構忘れがちですがフランは既婚者なのですよね」


「レンだって一応そうじゃない……。はあ、早くレンの昔話を聞かせてほしいね、シラユキ?」


「う? うん……」


 ここで紅茶を一口飲んで一息を入れる。

 ゆっくりとだがそれなりの距離を歩いてきたのと、フランさんの膝の上の心地よさが合わさって眠くなってきてしまった。もう少し力を抜いてフランさんのおっぱいに身を埋めるとしよう。


 うーん、ふかふかで幸せ! フランさんはメイドさんズの中で一番包容力に溢れてるよねー。ううむ……。


「少なくとも姫様が成人なさるまでは……、姫様?」


「ん? シラユキ眠い? 眠くなったら寝ちゃってもいいからね。ああ、そうそう、確かに私はもう結婚しちゃってるんだけど、メアとレンは、あ、レンはもうシラユキ以外眼中に無いか……、ふふ。メアは誰か気になってる人はいないの? ルーディン様以外で」


「あ、メアさんってルー兄様が好きなんだったよね? ふふふ」


「二人とも何言って……、もう! 恥ずかしいなあ……。まあ、正直に言うと全然なんだよね、はあ……。近くにウルギス様とルーディン様がいるからさ、他の男の人に全く魅力を感じないんだよね……」


 ため息を一つついて、がっくりと肩を落としてしまうメアさん。


 あはは。ちょっと安心しちゃったのは内緒にしておこっと。本気でルー兄様の愛人さんになっちゃえばいいのにね。


「ふふ、そんな事を気にする必要はありませんよ、メア。私も貴女も姫様の愛人としてお側に置いて頂けばいいのですから……、ね?」


 シアさんは私の頬をさわさわと撫でながら、妖艶な眼差しでこちらを見つめてくるのだが……。


「くすぐったいよ、もう……」


 久しぶりにシアさんが禁止事項に触れちゃってるけど、眠気と幸せ気分で頭がぼんやりとしてきてしまっているので放置します!

 シアさんのいる方向とは逆の右側に体を向けて、フランさんに抱きついておっぱいに頬擦りをさせてもらう。


「姫可愛い!! と、ごめん、ホントに眠そうだね。何より今のでツッコミが入らないとなると相当じゃないかな。ふふ、姫はこういう話にあんまり興味ないのかもね……、やっぱりまだまだ子供だよね。でも前にフランの結婚の話をしてた時は興味津々って感じだったのに、あ、あれはフランだからって事かな?」


「こ、これは寂しいですね……、しくしく、でございます。では、冗談はこれくらいにしておいて話を元に戻しましょうか。マリーさんが誰かとお付き合いをしているのではないか? とのお話でしたが、私はとてもそうとは思えないのですよね……」


「へ?」「うん?」


 なんですって?


 シアさんがわざとらしく話の軌道を正す、が、私の興味を引こうとしただけかもしれない。

 しかしそれは大成功と言っていいくらいの効果を上げた。眠気がスッと抜けていき、頭がはっきりとしてきたではないか。さすがはシアさんだね。


 体の向きを元に戻し、またフランさんのおっぱいクッションへと持たれ掛かる。

 今の言葉の真意を問い質さなければ……!!



「えっと、うーんと……、うー、メアさんフランさん、お願い」


 眠気がまだ完全に抜け切っていないのと、聞きたい事が多すぎて何から聞けばいいのか分からなくなってしまった。とりあえず頼りになるメイドさんズの二人に丸投げをして聞きに徹しようと思う。


「ふふ。無理して起きてなくてもいいからね、後でちゃんと纏めて話してあげるから。眠そうにしてるシラユキはホントに可愛いわよね……。メア、任せたよ」


「ええ!? まあ、私は今日は二人っきりで散歩したし、しょうがないか。シアはマリーが誰かと付き合ってる訳じゃないって、どうしてそう思うの? 私はキャンキャンに聞いた話だとそれしか思い当たらないんだけどさ」


 おお、それだ。まずはメアさんとカルディナさんの予想を否定する理由からだね。


「できましたら姫様からご質問を頂きたかったのですが、まあいいでしょう。マリーさんが一人で出かける事が増えた、物思いに耽る事が多くなった、この二点はとりあえず置いておきましょう、曖昧すぎる情報ですからね。最後の一つ、お一人で部屋に居られる筈なのに中から談笑するような声が聞こえてきた、これが一番の問題なのですよ。実際はお付き合いしているどなたかがその場にいて、キャンディスさんの気配に気付き窓から逃走を図ったのでは、との事なのですが……、これがまずありえないのです」


 シアさんは一旦言葉を止め、私をじっと見つめてくる。多分今の説明に対する私たちの反応を待っているんだろう。


「ありえないの? シアさんはなんでそう言い切れちゃうの?」


 シアさんがここまではっきりと言うとなるとそれはほぼ間違いはないんだろうけど、一応そう言い切ってしまう根拠を聞いておくとしよう。


「ふふ、それはマリーさんのお部屋、客室のある階が三階だからですね。……ふむ、もう少し詳しくお話しするとしましょうか。館の三階より上の階には王族の方と私共住み込みのメイド、それにお客様のみしか自由に出入りする事が許されていませんよね? そうなるとマリーさんが自分の部屋にお客様を招くという事は、通常王族の方のどなたかに許可を頂かなければなりません。窓から隠れて招き入れるという手もありますが、私やキャロ、クレアが気付かない筈がありませんからね。特に三階は姫様のお部屋もある事ですし、ね」


 私からの質問だからと少し嬉しそうに話してくれるシアさん。さらに私の左手を取り、さわさわと撫でてくる。くすぐったい。


 なーるほどねー。その三人全員が館にいない状況っていうのは中々ある事じゃないし、突発的にそんな状況になったとしても、今の隙に! なんて急に行動を起こせる訳もないよね。


「レンだけ教えられてないっていう可能性も無い訳じゃないけど、キャロルとクレアが隠れて男を連れ込むなんて行為を許す筈がないか……。二人ともマリーのこと妹みたいに見てるもんね」


「あ、ああ! それ以前にさ、マリーがそんなコソコソとした真似、私たちはともかく姫やウルギス様エネフェア様に隠れてすると思う?」


「ああー! 確かに! マリーって結構ノリがよくなってきたけど基本は真面目でハイエルフ第一っていう考えは抜けてないからねえ」


「ええ、長々と説明してしまいましたがそれが一番の理由ですね。例え相手の方から秘密にしてくれと頼まれていたとしても、マリーさんがその方をどんなに想っていようともそれに素直に応じるとはとても思えませんからね。まあ、色々と要因を挙げていってはキリがありませんが、どこをどのように見ても、ありえない、という答えしか導き出されませんでした」


 なんかちょっと照れちゃうような根拠だったけど、うん、納得しちゃうね。マリーさんがそんな大切な事を私たちに黙ってるとは思えないよねー。


「これは多分の話なのですけど、三つの特異な行動を一つの理由から来るものと決め付けてしまっていたのがそもそもの間違いだったかもしれませんね。一人でお出掛けになっているのも、物思いに耽っていられるのも、もしかすればそれぞれ別の理由から、と考えるとまた違った見方ができるのだと思います」


 ふむふむ、さすがシアさんださすが。それでそれで?


「部屋の中で一人寂しく架空の人物像を作り上げ、一人二役で楽しく談笑していたとしましょう」


「なにそれこわい」


「物思いに耽っていられるのはそんな自分の行動を省みて、馬鹿な事をしてしまったな、そんな友達が欲しいな、などと考えられているのかもしれません」


「なにそれ切ない」


「そうなると一人で遠出されているのは新たな友人との出会いを求めて、という事になりますか。ふむ、結局繋げて考えてしまいましたね」


「あ、ホントだ、上手く繋がったね……、じゃないよ! シアさんは私に関係しない事でももうちょっとくらい真剣に考えてほしいな! もう!!」


「ふふふ、申し訳ありません。可愛らしいです姫様」


 なんの悪びれも無く笑顔でそう謝ると、私をフランさんの膝の上から優しく抱き上げて頬擦りをしてくるシアさん。


 くう! シアさんが上機嫌だし私も抱き上げられて幸せだし、これ以上怒れない! 怒りにくい!!




「さて、もう一秒たりとも体を離したくはありませんのでこのままお昼寝と参りましょうか。メアとフランはその間にマリーさんから全て聞き出しておいてくださいね。強制的に白状させてしまって結構ですから」


「結構じゃないよ! でもちょっと眠くなっちゃったのは確かだからお昼寝はするけどねー。起きたらお話を聞こうと思うから、マリーさんには家にいる様に言っておいてね」


「うん、りょうかーい。結局それが一番確実で早いよね。でも答えは姫が起きるまでお預けかー……。焦れちゃうね、ふふ」


「ま、楽しみにして待ってましょうか。それじゃシラユキ、一旦おやすみ。起きたらまた私にも甘えてよー?」


「うん! ふふ、おやすみなさーい。また後でねー」


「なんて可愛らしさ! 瞬きの一瞬でさえも目を離すのが惜しまれてしまいますね……」


「あはは。まったく、シアは大袈裟なんだから。姫、おやすみー」




 相変わらず燃費の悪い体のままで困っちゃうね……。まあ、お昼寝しなくても大丈夫な日も増えてきているし、もうちょっとの間の事だと思うけどね。

 メイドさんズとのお昼寝は凄く幸せで大好きな時間だから、やめたいどころかむしろやめたくないって思ってるんだけどねー。ふふふ。


 マリーさんに恋人が出来たっていうのもただの勘違いっぽいし、余計な事を考えずにシアさんにたっぷりと甘えるとしよっと。







もう数話続く予定です。

その後『裏話』の方に修行編までのキャラ紹介纏めを投稿しようかな、と思っています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ