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254/338

その254

 何故か無断侵入者であるウルリカさんの一日遅れの誕生日祝いのお祭りが開催される事になってしまった。それが何か悪い事な訳でもないし、深く考えたら負けなので私も喜んで参加する。

 飲めや歌えや踊れや父様に吹き飛ばされやの大騒ぎはいつもの事なので構わないのだが、主役であるウルリカさんが全く目立っていないのはどういう事なのか。みんな最初におめでとうとは言いに来るものの、その後はもう好き勝手な行動をし始めている。


 まあ、元々はみんな集まってて丁度いいいからからお祭りをしようという流れになって、ついでにウルリカさんの誕生日をお祝いするか、となっただけの事なんだからしょうがないとは思うけどね。


 お祝いの言葉の後もその場に残るのは、美人狐娘さんであるウルリカさんと一緒にお酒を飲みたいという男の人ばかりだろう。ちょっと下心の入った、ね。

 勿論セクハラでも働こうものなら少し離れたところにいる父様に文字通り吹き飛ばされてしまうのでみんな自重してはいるのだが、目線は大体あの柔らかそうな南半球に釘付け状態になっている。


 ウルリカさんは私の頭の中では既にお友達じゃなくて、一緒に住む家族になっているからいやらしい目で見るのは許せないね……。一触りでもしたら『スタンガン』の刑に処す! 見るならあの機嫌よさそうに動いてる三本の尻尾でしょう!?

 ま、まあ、私もあの南半球はちょっと触ってみたいけどね……。




 お祭り騒ぎは宴もたけなわ、どころかますます盛り上がりを見せているのだが、私の心は実は少しだけ曇り空。どうしてもウルリカさんについて気になる事がもう一つだけあるのだ。

 ウルリカさんの周りは本人を含めてとてつもなくお酒臭いけど、例の大型の獣騒ぎで急遽増員されてしまった見回りのみんなのためにも頑張って接近を試みようではないか……。よし!


「シアさんシアさん、ウルリカさんの所まで行こ。母様ー、少しお話したら戻って来るからまたお膝に乗せてねー」


 母様の膝の上で飛びつくように背を伸ばし、頬にキスをしてからひょいと飛び降り、シアさんの手を取ってクイクイと引っ張る。


「かかか可愛らしいです姫様!! 私にも是非お願いし……、は、これは失礼を致しました。こほん、ご無理をなさらないようお願いしますね」


 感極まってしまったのか私を抱き上げようとしたシアさんだったが、母様の前なのでさすがに思い止まったようだ。でも繋いだ手をさわさわと撫でてくるのでくすぐったい。


「あら嬉しい可愛い。ちょっと可愛すぎて放したくないから私も一緒について行くわね。はい、こっちに戻って来なさい? ふふふ」


「あ、はーい! ふふ、母様大好き!」


 母様に抱き上げられ、あまりの嬉しさに抱きついて頬擦りをしまくってしまう。


 横取りされる形になってしまったシアさんがちょっと寂しそうに拗ねちゃってるけど……、あとで膝の上に座ってあげるから今は我慢してね! キスはしてあげないけどねー。



「何あの子可愛い……、私も行こうかしら。お母様は簡単にシラユキの方からキスしてもらえるんだから、羨ましいわ」


「あはは。ユーねえだってたまにはされてるっしょ。でも、話を聞くとエネフェア様の次に多く姫からキスされてるのってフランらしいんだよね。やっぱエネフェア様以外は胸の順?」


「い、言われてみれば私にはまだ一度もしてくださってませんわ……。え? レンさんではないんですの? お二人は愛し合っているんですのよね?」


「こらこら。んー、私もシア姉様が一番されてると思ってたんだけどね、実際のところ反対に少ないらしいのよ。まあ、シア姉様はシラユキ様をからかいすぎてるからだと思うけどね、自業自得ってヤツ」


「本当に意外ですねー。そう言えばキャロルさんも小さい頃のお嬢様には結構キスしてましたよね、頬にむちゅっと。今はもうしないんですか?」


「するかっ!」


「こっちからお断りですわ!」



 何あっちの会話面白楽しそう。ウルリカさんとのお話が終わったらマリーさんへのツッコミも兼ねて混ざりに行こうかな。ふふふ。



 そんな興味深い面白会話を耳に入れつつ、母様に抱き上げられてウルリカさんの元へとやって来た。


 やって来たとは言っても10mも離れてなかったんだけどね……。まあ、気分の問題だよ。


「はいはい、皆ちょっと場所を空けてね。こんにちはウルリカ、楽しめているかしら? あ、そのままでいいわよ、少しお話をしに来ただけだから」


 母様が人だかりを軽く掻き分け、地面に座って飲んでいたウルリカさんに声を掛ける。

 ウルリカさんはいきなりの女王様の接近に驚いて腰を上げようとしたが、母様にやんわりと止められてしまった。


「これはこれはエネフェア様、態々ご足労を掛けてまで儂などにお声を掛けてくださるとは……、恐縮ですのう。いやいや、皆十年来の友の様に気さくに接してくれてますでの、心から楽しませてもらっておったところですじゃ。此度シラユキには、あ、いや、シラユキ様には大変ありがたいお話を聞かせてもらいましての、それも合わせてお礼を言わせてくだされ。本当にありがとうございますじゃ」


 ウルリカさんが見た目完全に土下座をする様に深々と頭を下げ、シアさんがどこからか拝借してきた椅子に母様が座り、話を続ける。


「どういたしまして、ふふ。固いのか柔らかいのかよく分からない口調で面白いわ。ああ、それとね? この子に様なんて付けると拗ねちゃうわよ? ねえ? シラユキ」


「う? うー……」


 とりあえず母様のおっぱいに顔を埋めてノーコメントをアピールします。二人のお話に一段落付くまではこの状態で待機!


「あ! ああー……、拗ねてしまいおったか。ほほ、可愛らしいのう。しかし一国の姫を女王の御前おんまえで呼び捨ててもいいんですかいの? と、それよりも儂の今後の扱いについてなんですが、お咎め無しというのは本当にありがたいんですがの、その……、ですな、他の者に示しがつかんと思うんですがのう……。本当に宜しいので?」


「宜しいも何も、ウルがそう決めたのなら私から言いたい事は何も無いのだけれど? まあ、気になるのなら一応緩い罰を考えておくわね、……あの子が。うーん、ウルリカはウルと名前が近くて呼びにくいわ……。これからはリカって呼ばせてもらうわね」


 少し離れた所からカイナさんの悲鳴が小さく聞こえてきた、様な気がした。


 カイナさん頑張って! 私も一緒に考えてあげるから!

 それは一旦置いておいて、確かに二人の名前って似てるよね。私は父様って呼んでるから全然気にならないけどねー。ちょっと困ってる母様が面白いね、ふふふ。


「おお、言われてみればですの。どうぞお好きに呼んでくだされ」


 ほほほ、ふふふ、と笑い合うウルリカさんと母様。そして私はむむむと唸る。


 むむむ? 口を挟むのはこのタイミングか!? 顔を出すのは必要最低限に留めなければ!


 ぶはっと母様のおっぱいから顔を放す!


「えっとね、ウルリカさんの尻尾のお酒臭いっ!!」


 またぼふっとおっぱいへ避難し、ぐりぐりと顔を押し付け、大きく息を吸って母様のいい匂いに癒される。


 無理! このお酒臭さは無理! 匂いだけで酔っ払っちゃう!!


「儂の尻尾が!? あ、ああ、この場の事かの。なんじゃ、シラユキは酒の匂いが苦手なのかの? ははは、子供じゃのう」


 ウルリカさんを初めとして、周りに集まっていたみんなからもどっと笑いが起こる。


 くうー、笑われたー! みんな私がお酒の匂いに弱いって知ってるのに! ぐぬぬぬぬ……。


「この子は鼻の刺激に弱いみたいなのよね。大丈夫? シラユキ。でも、ふふふ、可愛いわ……」


 ぎゅっと自分の胸に押し付けるように抱きしめてくれる母様。幸せ!


「この酔っ払い共が、姫様の邪魔をするだけでは飽き足らず笑い者にするとは……、と、これはまた失礼を。さて皆さん、姫様とウルリカさんのお話の邪魔です。死にたくなければさっさと散ってください」


 集まっていたみんなはシアさんの勝手な言い草に文句を返しながらも、私のためを思ってなのか素直に離れてくれる。純粋に自分達を有象無象としか見ていないシアさんが怖いのかもしれないが……。

 そして母様とシアさんの二人で駄目押しにと風の魔法で一帯の空気の入れ替えを済ませ、これでやっとここに来た目的を果たす準備が整った。


 風下(?)にいた姉様から文句が飛んできたが……、聞こえなかった事にしよう。



 シアさんにお礼を言ってから母様の膝の上から降りて、はしたないかもしれないけどウルリカさんのすぐ隣にぺたんと座り込む。まだウルリカさん本人からお酒の匂いが漂ってくるが、父様や兄様一人分と考えれば耐えられない事はない。

 しかし、よく考えたらあまり大勢に聞かせる話ではなかったかもしれない。人払いは二重の意味で助かってしまったね。もう一度シアさんに心の中で感謝をしてから話を切り出す事にする。


「ごめんねウルリカさん、お祭りなのにちょっとだけ真面目なお話なの。えっとね、ウルリカさんの尻尾の事なんだけどね。多分一本目が腕力とか魔力とか、そういう基本的な体の強化の能力で、二本目が収納と保存の能力だと思うんだ。これで多分合ってると思うよー。次の三百歳の誕生日が楽しみだね。ふふふ」


 ウルリカさんの尻尾の内二本を手元に寄せ、簡単にだけど説明をする。


 さっきは真面目すぎるお話の途中だったので言えなかったのだが、尻尾の数が増えるのはこういう意味なんだろうと思う。

 どの尻尾ががどの能力、なんて分け方はないと思うけど、尻尾の数と体に備わった能力の数は同じになる筈。百歳で二本目の尻尾が生えて、丁度その頃に収納と保存の能力に目覚めたのだというウルリカさんの言葉が正しければの話なのだけど、恐らく間違ってはいないだろう。


「つまり昨日また尻尾と同時に新しい能力までもが増えたのではないか? という事かの。ふぅむ、物をしまっておける能力に気付いたのは本当に偶然じゃったし、一概にそうとは言い切れんと思うんじゃがの、昨日から体に……、いや、体の内に何か違和感を覚えておるのは確かなんじゃよ。……ぬ? 次じゃと?」


 三本目の尻尾で丸出しのおへその辺りを撫でながら言うウルリカさん。これはやはり間違いなさそうだ。


 まだ生まれ変わる前の話だけど、私も女神様から能力をプレゼントされた時は体がムズムズしたからね。体に全く新しい機能を追加される感じなんだろうと思う。

 ウルリカさんの場合はそれが見た目にも分かりやすく、尻尾という形となって現れているという事だ。……なにそれ羨ましい! 女神様私にもお願い!!


「なるほど。姫様の予想どおりだとするとウルリカさんは百年毎に一本尻尾が生え増えて、さらに新たな能力をも手に入れるという事ですか。それはなんとも末恐ろしい事ですね……。しかしそうなると長く生きれば生きるほど尻尾の数が増え、日常生活もままならなくなってしまうのでは?」


「そうよねえ。千年後には十三本になるの? それは見てみたい気もするわね。ふふ」


 それこそ毛玉妖怪になりかねないね、ふふふ。


「まあ、切り落とせば済む話ですか」


「それだけは勘弁してもらいたいんじゃが!」


 わざとらしくナイフをちらつかせるシアさん。ウルリカさんの尻尾をまるで獲物を狙うかのような視線でみている。


「絶対にだーめ! あとね、尻尾は九本で打ち止めになると思うよー。それでも充分凄い事になっちゃいそうだけどね」


「それは残ね、こほん、でしたら安心ですね」


「そ、そうですの。あ、いや、九本ともなると普通に安心できんのじゃが……。はは、間間に百年もの時があれば慣れていくものかの」


「九本揃う日が楽しみだわー」


「う、うん」


 安心安心楽しみだ、と、のほほんとした空気が流れる……、が!


 だからもうちょっと疑問に思うとか! どうして九本で揃うって言い切れるのか突っ込もうよ!! 突っ込まれてもはっきり答えられないんだけどさ……。

 むう、それならば……、もう事今回の問題に関しての私の言葉は全面的な信用を得ているという前提で話を進めていくよ!


「それでねそれでね? 私、ウルリカさんの三個目の能力に心当たりがあるんだー。ふふふ。何だと思う?」


「ほう? いやいや、儂にはさっぱり見当もつかんのう。本当にシラユキには驚かされてばかりじゃの」


「なになに? クイズかしら? もう! 焦らしちゃって可愛いわね! 可愛い意地悪しないで教えて頂戴? シラユキ」


「ふふふー、どうしよっかなー?」


 ちょっとくらい焦らしてもいいよねー? 何となくウルリカさんに甘えたい気分だし、抱きついちゃおうかな? くふふ。


「巨大な狐の姿に身を変える事ができる能力、ですか。一向に見つかる気配がないのはやはりそのせいだったという訳なのですね。あ、私のことは構わずどうぞ、お続けください」


「あ、こらバレンシア! 答えを言うのはまだ早いわよ、まったくもう……」


「ひょ? 儂が狐の姿に?」


 またもやわざとらしく母様とウルリカさんの耳に届くくらいの声量で呟いたシアさんなのであった。




「ふんだふーんだ、もうシアさんなんて知らないもーんだ。母様ー、ウルリカさーん、姉様たちの所に行こー」


「もう、バレンシアったら……、本当に拗ねちゃったじゃないの。いくらそれまでのやり取りで答えが分かりきってても、そこは分からないって言ってあげないと駄目よ? 今回はいつも以上に大人気なかったわね」


「も、申し訳ありません! 少し調子に乗りすぎた様ですね……。しかし、拗ねられる姫様も大変可愛らしいです……!!」


「反省の色が見られない! ……う? 母様も分かってたの?」


「ほう! 儂には本当にさっぱりだったんですがの。お二人はさすがですのう……」


「ふふ、昨日の貴女の失踪の直後くらいの時間にね、森で大型の獣を見たっていう情報が入ってきていたの。その目撃情報の姿と貴女の発見のされ方にシラユキからのお話を合わせると、もうその答えしか出てこなかったわ。それに最近私たちには竜人種族の友人が新しくできたばかりで結びつけもしやすかったのよね」


「能力の使用方法は、まずは自分にはそういう力があるんだと自覚するところから始まります。恐らくもう暴走するような事にはならないでしょう」


「そう言われてみると何となくそんな気もしますのう。……ぬ? ふむ、何となく体の違和感が無くなった様な……? どれ、ここは一つ試してみるとしようかの!」


「!? 見てみたい見てみたーい!! あ、乗せてほしいな!」


「お待ちください」「あ、駄目よ」


「もう二人ともキラーイ……。くすん」


「ち、違うのよシラユキ!!」「誤解です姫様!!」




 さらにわざとらしく拗ねに拗ねまくってしまった私のご機嫌を取りながら、母様とシアさんは変身という能力について詳しく教えてくれた。

 まあ、拗ねてしまったのは確かなんだけど、母様に抱き上げられればそんな気持ちは一秒と掛からずに吹き飛んでしまうんだけどね。なんという単純な私。


 変身の最大の注意事項は、自分の今の姿より変身後の姿が大きくなる場合、当たり前の事だが着ている服が破れてしまうらしい。あまりにも丈夫すぎる服、鎧などの場合は考えるだけでも恐ろしい結果が待っているのだとか……。ガクブル。

 つまりは、仮に今問題なく変身できたとしても着ている服は全て千切れ飛び、その後元の姿に戻ったら全裸で恥ずかしい目に遭うという訳だ。ウルリカさんの発見時の状態がまさにそれだったじゃないか……。本当にバレバレだった訳だ。


 ああ、なるほどなるほど、竜人種族の竜化のプロセスを知っている二人だからこそ簡単に答えに行き着いちゃった訳なんだねー。……くそう。


 ちなみにショコラさんのドラゴン形態は私がいくらお願いしても見せてもらえない。多分私に怖がられるんじゃないかって心配してるんだろう。

 まあ、十中八九大泣きして、もしかしたらあまりの怖さに漏らして気絶、なんて事も無きにしも非ずなので我侭を言ったりはしない。



 大きい狐姿のウルリカさんをモフらせてもらえるのは、今後能力の使用が安定したらという話だから暫く先の話になりそうだけど……、うん、楽しみだね!!







これで修行編は終了です。

次回からすぐ新しいお話に入るかどうかは不明です。(意味深)


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