その251
窓から飛び出して行ったシアさんを見送った後、キャロルさんは言われていたとおりに私のすぐ側、右隣へとやって来た。
ここ最近私との接点が減っていたように思えるので、実は内心結構嬉しかったりする。引き換えっぽくなっちゃったシアさんには悪いんだけどね。
「あの、お騒がせしてしまって本当に申し訳ありませんでした。ウルギス様から直接頂いた命令だったのでもう頭が混乱してしまって……」
改めて私たち全員に頭を下げて謝るキャロルさん。
「ふふふ、もう落ち着いた? 父様も命令のつもりじゃなかったと思うからそんなに気にしなくてもいいよー」
「はい、シラユキ様の可愛らしいお顔を見て落ち着きました。ありがとうございます」
いい笑顔で私をの頭を撫でながら言うキャロルさん。
なにそれ恥ずかしい。そこはシアさんの顔をって言っておこうよ、もう。でも嬉しいです。
「何を似合わないセリフを……。それで、キャロル? 一体何があったんですの? 落ち着いたならさっさと説明をしてくださらないかしら」
少し呆れ気味に、でも興味津々と話しかけるマリーさんだったが、
「あ、マリーいたんだ?」
キャロルさんにはまるで今気付きましたとばかりの反応を返されてしまった。
「ずっといましたわ! ……はっ!? し、失礼しました……」
「キャロルさんとでしたら軽い言い合い程度はしてもいいと思うんですけど、王族の方の前では控えましょうね、お嬢様」
「ううう……」
あはは。やっぱりマリーさんとキャロルさんは仲良し姉妹だねー。見てて楽しいからもっとやってもらっても全然構わないのに、ね? ふふふ。
マリーさんがしゅーんと縮こまってしまったところで話を戻すとしよう。私の未来の姿を幻視させられているようで、言い知れない不安を感じてしまうが……。
「キャロルさんキャロルさん、何があったか聞いてもいい? シアさんを呼びに来たのって、謎の動物とか侵入者の人とかのお話だよね?」
「あ、はい。ウルギス様からは特に口止めもされていませんからお話しても問題は無いと思います。ふふ、やっぱり気になっちゃいますよね」
マリーさんの方を見て意地悪そうにニヤニヤとしていたキャロルさんだったが、私の問い掛けにパッと素に戻り、にこやかに答えてくれる。
やっぱりシアさんがいない所だとキャロルさんは普通に優しいお姉さんだね。私はどっちのキャロルさんも大好きだからいいんだけど、マリーさんはからかわれちゃって大変かな? まあ、マリーさんも本当はお姉さんモードのキャロルさんの方が好きだと思うけどねー。にやにや。
キャロルさんはソファーで眠る兄様の方を見ながら、少し声を落として言葉を続ける。
「ですが、その、ルーディン様がお休みになられていますし、あまり長々と話をするのもお二人の邪魔になってしまうのでは? 場所をどこかへ移しましょうか」
「そうかなー? 大丈夫だと思うよ? ルー兄様はお酒が入ってるからそう簡単に起きないと思うし、ユー姉様だって寝顔を見るのに忙しそうだから全然気にしないと思うよ。多分何も聞こえてないと思う」
「聞こえてるわよー」
と、兄様から目を離さずに言う姉様。
勝手な事言ってごめんなさい。一応姉様も事の顛末が気になっているみたいだ。当たり前か……。
「私もシア姉様に膝枕してもらいたいなあ……。と、それでは、謎の大型の獣はまだ捜索中なので何も分かりませんけど、侵入者騒ぎの方を私の知っている範囲でお話ししますね」
「はーい!」
「か、可愛らしい……。ああ、やっぱりシラユキ様のお側は癒されるなあ……。ユーネ様が見ていない所なら膝の上に乗って頂くのに」
謎の動物とはやっぱり無関係だったかー。まあ、楽しみが増えたと思おう。ちょっと不謹慎かもだけどね。
「勿体ぶらないでほしいですわ、まったく……」
「キャンキャン、そのはしたない小娘に言ってやって」
「はいな。まったく、小さなお子様のシラユキ様が大人しくされてるのにお嬢様は……」
「あっ……。も、申し訳ありません……。く、くう、レンさんがいないとキャロルが手強いですわ……」
またもやキャンキャンさんのお説教が始まってしまった。マリーさん今日は災難続きだね。ふふふ。
まあ、私も大人しく待ってはいるように見えるけど、普通に超気になっているんですが! 早くお話してもらえませんかねえ……。
「ええと、驚かないで聞いてくださいね? 侵入者の正体はなんと、ウルリカだったんですよ。何故か全裸で発見されたらしくて」
「ウルリカさ全裸で!!?」
侵入者がウルリカさんだったっていう事だけでも驚きなのに、さらに全裸! 本当に何故の一言だよ!
「ふふ、シラユキ様落ち着いてください。ルーディン様が起きてしまいますよ」
「あう、ごめんなさい」
苦笑するキャロルさんに軽く注意をされてしまった。ちょっと嬉しい。
大声を上げて驚いてしまったのは私だけ。マリーさんは自爆を恐れてか両手で口を押さえてしまっていました。ぐぬぬ。
「はー、ウルリカさんだったんですかー。裸でって言うのが少し気になりますけど」
「あ、お兄様がウルリカの裸の一言に反応したわ。まったくもう……。それで、ウルリカに何があったの? 続けてキャロル」
眠っていてもそういう言葉にはきっちりと反応を返すいやらしい兄様の鼻を摘みながら、話の続きを促す姉様。
実は兄様と姉様、マリーさんとキャンキャンさんもウルリカさんとは既に対面済み。兄様はあの大きなおっぱいを、ほかの三人はあのもふもふな尻尾を一目で気に入りお友達となっている。兄様は絶対に一人で会いに行かないと誓わされてもいるが、その話は今は置いておこう。
「あ、すみません。見回りの誰かが迷子っぽいと言うか、何か情けなく助けを呼ぶ声を聞きつけてそっちに向かってみたらですね、裸で蹲っている狐族の女性を見つけたそうなんです。まあ、既に言っての通りウルリカだったんですけどね。それで目のやり場に困りながら話を聞くと、狐族は珍しいですからすぐにシラユキ様の新しい友人だと分かったみたいなんですが、裸のまま連れ回すにも目を離して他の誰かを呼びに行く訳にもいかずに、仕方なく煙玉を使う破目になってしまったという訳なんです」
それで合図を見た父様が飛んで向かって、この謎の動物騒ぎで私たち三人を呼ぶ訳にもいかないからシアさんを連れて来るようにキャロルさんに頼んだ、っていう流れだね。なるほど把握。
「なるほどね、だから赤と黄色の二色だったのね。一応侵入者がいたっていう合図だからしょうがないとは思うけど、ウルリカは裸のまま大勢に囲まれちゃって大丈夫だったのかしら?」
え? あ、そ、そうだよね? 裸のウルリカさんが見つかって、そこに煙玉を上げたとなると……。お、おおう、父様以外にもわらわらと見回りのみんなが集まってしまったんじゃないだろうか!? キャロルさんもその内の一人の筈だろうし……。
ううむ、見回りの人って男の人ばっかりなんだけどなー、そのせいでウルリカさんが泣いちゃってたりしたらどうしよう。中身はお婆さんに近いかもだけど外見はスタイル抜群の美人さんだし、チラチラと覗き見られちゃってたりしそう……。
「ああ、その辺りはご安心ください、あの太い尻尾で上手い事隠してたらしいですから。私が着いた頃にはもうローブみたいなのを着てましたしね」
ナイスもふもふ! やっぱり尻尾がないと駄目かー。凄いなー、憧れちゃうなー。
「尻尾で体を、ですの? 確かにあのサイズならそれも納得がいきますけど……、色々と際どそうですわ」
「あはは、確かに見つけた人には見られてたかもしれないね。まあ、次に会う時もそこは触れないでおきましょうか」
「う、うん。とにかく今はもうちゃんと服を着てるんだよね? それなら安心かなー、よかった。でもウルリカさんはなんで裸で森の中にいたんだろうね?」
経緯は何となく分かったけど、その原因、最大の謎は結局分からず終い? これは父様とシアさんが帰ってきたら聞かせてもらえそうだけどね。
「そうそう、ウルリカ本人は自分がいる場所がどこなのか、どうして自分がそこにいるのかも把握してなかったみたいですよ。昨日は誕生日だったらしいですから、酒に酔って騒いで暴走したんじゃないかって皆で噂してました」
「え?」「え?」
私とマリーさんの声がハモる。顔を見合わせてお互い苦笑いだ。
一つ言いたい事は……、ウルリカさん本気で何やってるの!? 酔うと全裸になるとかソフィーさんじゃあるまいし、そんなはしたない! まあ、裸だったら何が悪い!! とか開き直らなかっただけよしとするべきか。しかし噂はあくまで噂、それが真実でないと祈るばかりだね。
あ、もう一つあった……。昨日が誕生日ってどういう事!? 二百歳丁度の誕生日なんて、先に教えてもらえてれば盛大にお祝いしたのに!! これは大好きなウルリカさんといえども許されざるよ……。
「ちょっと、それって……、きゃ、キャロル? ウルリカは……」
「へ? ……あ、すみません!! 何も無かった筈です! 怪我一つありませんでした!」
「そう、よかった……。もう、キャロルったら、脅かさないで」
「まず何より先にそれをお伝えするべきでしたね。すみませんでした……」
今の姉様とキャロルさんとのやり取りを聞いて、マリーさんと顔を合わせてお互いハテナ顔をするが……、まあ、怪我一つ無かったというならそこまで気にする事もないだろう。
「それで、ウルリカさんへの沙汰はどうなるんですの? 森の奥への無断侵入は重罪ですわよね……」
「ですよねー、そこもちゃんと聞いておかないと。国外追放くらいでしょうか?」
「え……? え!?」
わわわ忘れてた! 全裸に気を取られすぎて肝心な事が頭から抜けちゃってた!!
「ウルリカさん捕まっちゃったの!? ユー姉様ぁ……」
「ああもう、そんな不安そうな声出さないの。うーん……、国外追放はちょっと大袈裟だけど、いくらわざとじゃないとしても何かしらの罰を受ける事になるかもしれないわね。お父様のことだからシラユキのお友達にそんなに重い罰は与えないとは思うから大丈夫よ、きっとね」
「え、ええ。一体何がどうなって森にいたのかその辺の裏が取れるまでは、その、ちょっと不自由をしてもらう事になると思いますが」
それってつまり、暫く身柄を拘束するぞ、っていう意味ですよね? やっぱり捕まってるんじゃないですかー! やだー!!
「うう、謎の動物騒ぎが収まったら差し入れを持って面会に行かなきゃ……」
「あ、その時は私もお供致しますわ。またあの尻尾を触らせてもらいたいですわー」
「お嬢様? 不安に思われてるシラユキ様の心境をもうちょっと考えましょうね。さすがに今のは見逃せませんから、ここ最近の失礼な言動も全部纏めてアリア様に報告しちゃいますからねー」
「お母様に!? そ、それだけは許してキャンキャン! シラユキ様も申し訳ありません!」
「あっはは! いい気味いい気味」
「キャロルも相変わらず一言多いわよね……。シラユキが多分シアに言い付けると思うわよ?」
「うん」
「はっ!? あ、いやっ、すみませんでした……」
まあ、シアさんはキャロルさんを苛めて楽しんでるだけだから、多少の失礼で本気で怒ったりはしないんだけどね。シアさん本人の方がよっぽど失礼な言動が多い人だし。
とりあえず誰かに何かを聞かれたら、あんな事をしでかす人ではなかったのに……、と、友人を代表してインタビュー風に答えておこう。
侵入者の正体はなんとウルリカでした。
これは誰も想像もしていなかったでしょう……。(ドヤ顔)