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250/338

その250

 そんなこんなで和やかなお喋りを続けていたのだが、いきなり何の前触れもなく外から、パーン、という乾いた音が響き渡ってきた。かなり遠くからの音の様に聞こえるが、まるでテレビドラマで聞いたような銃声の効果音その物、火薬の炸裂音か何かだろうか? 不吉な。でも最近でもないが、前にも聞いた覚えがあるような気もする。


「早いな、もう見つかったのか。てっきり何日か掛かるもんだと思ってたんだけどな」


 その音を聞いて、誰に向けた訳でもなく兄様が呟いた。


「そうですね、やはり温厚な生物だったのではないでしょうか。一応色の確認を、と、ルーディン様は姫様とそのままでいらして結構ですよ、私が見て参りますので」


「お? ああ、悪いな。頼んだ」


 私を抱えたまま腰を上げようとした兄様をやんわりと止め、音が聞こえて来た方向の窓の方へ向かって歩き出すシアさん。


 見つかった? 色の確認? ……思い出した!


「今のってあの大きな音が出る煙玉の音だったの? 例の生き物が見つかったよーっていう合図かな、なーるほど。ホントに随分あっさりと捕まえちゃったんだね」


「さすがはリーフエンドの森の皆さんですわ。詳しく聞いてみて、本当に大人しい動物でしたら見に行くのもいいかもしれませんわね。ふふふ」


「見上げるほどの大きな生き物なんて早々間近で見れないと思うし、それもいいかもしれないわね。でも安全が確認されたらよ? シラユキはともかくマリーはそこまで魔法の、!?」


 姉様の言葉を遮るように、シアさんが、バンッ、と勢いよく音を立てて窓を開けた。


「どうした!?」


 姉様もみんなも、勿論私も驚いて、シアさんの方を向いて固まってしまっている。唯一即座に反応を返せたのは兄様だけだった。


「ルーディン様! 赤です!! 赤と黄色の二色!!」


 窓枠に腕をかけ、上半身を外に出しながら大きめの声で簡潔に伝えるシアさん。視線を外から戻さないところから相当の焦りが窺える。


 赤と黄色の二色? 音は一つしか聞こえてこなかったのにね、ふっしぎー。じゃなくて、どういう事? 見つかった合図じゃなかったの?


「侵入者だあ!? どこの命知らずだおい!! ん? 黄色って事は敵対する意思は無いって事か……、驚かせるなよバレンシア」


 ひゃあ大声! 驚かせないでよ兄様……。


 申し訳ありません、と体を部屋の中へ戻し謝りながらも、視線だけは外から戻そうとしないシアさん。あっさりと落ち着いた兄様と違ってまだまだ警戒中のようだ。


 それはいいとして、兄様? 頭の上で大声を上げないでもらえませんかねえ……。しかし侵入者とは、謎の大型の獣以上に穏やかじゃない話だね。


「ほれユーネ、シラユキを頼んだ」


「あ、うん。はいシラユキ、こっちおーいで。ふふ。侵入者なんてどれくらいぶりなのかしら? 私が産まれてからは一度も無かった筈だし……」


 ひょいっと私を姉様に預け、シアさんのいる窓の方へ歩いて行く兄様。最後に一撫でする事も忘れない。


「侵入者って……、今の音は動物が見つかった合図じゃなくて、森の奥に勝手に入ろうとした人がいたっていうお知らせ? 私、煙玉の色分けはまだ教えてもらってないんだけど……」


 お知らせと言うか、今回の場合だと警報かな? 私の一人でお散歩迷子事件の時に使われたのも確か黄色だったね。懐かしくも恥ずかしい思い出だ。


「赤は侵入者発見の色なんだけどね、黄色と合わせるとちょっと意味合いが違うの。どうしても緊急に私たち王族に直接伝えたい事があるとか、そんな感じで見回りの皆の手に負えない時の使い方かしら? 多分それくらいしかないわよね。あんまり無茶な言い方だったり横暴な態度だったら、赤一色だったり合図も無しに捕まえちゃうらしいから、今回は本当に切実なお願いでもあるんだと思うわよ。でも煙玉自体滅多に使われる物でもないからよく分かんないわよね……」


「へー……。今度父様に詳しく教えてもらおっと」


 そこは私に聞きなさーい、と、私のほっぺを引っ張りまくる姉様。ごめんなさうにょーん。


 なるほどなるほど、侵入者の合図でも色の合わせ方で意味が変わってくるんだね。今回は危険は無さそうだけど、でも煙玉を使うくらいの緊急度合いっていう事なのかな? 難しいねー。

 うん? そうなると、私の発見時にシアさんが使った黄色の煙玉、あれを使ったっていう事は、もしかしたら私の迷子事件ってかなりの大事だったりしたのか!? まあ、話を蒸し返すにも今更すぎるけどね……。


「ふふ、シラユキ様ってばにこにことしちゃって可愛らしいですね。皆さん落ち着いてらっしゃいますし、そんなに一大事っていう訳でもないみたいですねー、よかったです。でも、お嬢様は急なイベントが起こったからって露骨に目を輝かせすぎですよ?」


「え!? そんな目してた? も、申し訳ありません……、なんて不謹慎な……」


 あはは、してたしてた。ウキウキワクワクとね。


「いいのよ、気にしないで。下にいる皆だってきっと同じ様な事考えてると思うから、ね? きっといいお酒の肴が出来たって喜んでると思うわ。ふふ」


「は、はい……」


 まあ、のんびりと変わらない毎日を過ごしてると、みんなそういう刺激に飢えちゃうんだろうね。それだけマリーさんも森での生活に慣れてきたっていう事かな? そうだったら嬉しいね。


 その時また、例の乾いた音がもう一度鳴り響いた。音の響きからするとかなり近そうだ。ビックリしちゃったのは内緒。


「今のは……、ああ、真上ですね。青一つ、ウルギス様が向かわれる……、いえ、向かわれた様です」


「お、見えた見えた。なんだ、父さん家にいたのか」


 窓からかなり身を乗り出して真上を確認している兄様とシアさんの二人。見ていて落ちないかとハラハラしてしまう。例え落ちたとしてもこの二人なら全く問題はないんだけどね。

 シアさんに至ってはスカートの中が見えてしまいそうで、別な意味でハラハラドキドキさせられてしまった。こちらは見えてしまったら大問題だ。


 今なら『スカートめくり』の魔法が成功するかもしれない……!! が、自重しておこう。



「どんな用事か気になるけど、父様が行ったならもう安心だねー。もしかしたら謎の動物関係のお話なのかもね」


「ああ、確かにそれ関係かもしれないな。ま、何にしても報告待ちだな。はあ、シラユキをちょっと可愛がったらそのまま朝寝しようと思ってたんだけどなあ……」


 机に突っ伏して眠そうにしている兄様。マリーさんの前なのになんてお行儀の悪さだ。

 暫く窓の外を見ていた兄様だが、事態の進展も続く合図も無いので飽きてしまったのか、また元いた席まで戻って来ている。シアさんは未だに外の警戒を続けているのだけど……。ちなみに私は姉様の膝の上のままだ。


「ふふふ、夜通し飲んでたお兄様がいけないのよ。シア、貴女もずっとそんな所にいないでこっちに戻って来てもいいのよ?」


「いえ、私はこのままで。ありがとうございますユーフェネリア様」


 姉様はそう勧めるが、やはりこちらに視線を向けず、外の警戒を続けたままでお礼だけを返すシアさん。


 兄様と違ってなんて真面目なメイドさんなんだ……。もうみんな完全に気を抜ききっちゃってるんだから、シアさんもそんなに気を張り詰めたままでいなくてもいいのにね。

 よし、後でちょっと甘えてあげる事にしよう。私はシアさんに甘える事ができて、シアさんは私に甘えられて、どちらも大満足という一分の隙もない完璧な作戦だ。うんうん。


「それじゃ、皆さんのお世話は私にお任せくださいねー」


「そこは私が代わりますとか言うところでしょう!? ああもう、失礼な主人と至らないメイドで本当に申し訳ありません……」


「誰も気にしてないのにー。ふふふ」


 マリーさんはマリーさんで本当に真面目なお嬢様だね。毎日のんびりだらだらと過ごしているだけの私とは大違いだ。だが反省はしない。




 それからまた十数分くらい後、兄様は我慢の限界がきたのかソファーまで這うように向かい、横になってすぐに寝息を立て始めた。姉様はそんな兄様に膝枕をしてあげて幸せそうだ。

 私を膝の上に乗せていた二人が席を離れてしまったのでシアさんも外ばかり気にしている訳にもいかず、定位置である私の左隣に戻っている。


 このラブラブカップルめ! 姉様の膝枕とか羨ましい妬ましい。ぱるぱる。私も後でシアさんにお願いしてみよっと。マリーさんが見てなかったら兄様のお腹の上にでも乗っかってやるのにね。

 あ、マリーさんの膝の上に座らせてもらうのもありかな? 体のサイズ的に厳しいかもしれないけど、マリーさんよりほんの少しだけ背が低いキャロルさんだって何の問題もなかったんだから大丈夫だよね? いや、ここはキャンキャンさんに、という手もありなんじゃないだろうか!? キャンキャンさんのおっぱいにはまだ数える程しか甘えさせてもらってないしね。


 と、この辺りまで考えたところでシアさんに生温かい目で見られている事に気付き、私はすぐさま考えるのをやめた。すぐ誰かに甘えたがるのも、おっぱいを触りたがるのも私の悪い癖だ……。だが直せない! 直しにくい!!



「シア姉様!!!」


「わぅ!」「きゃあ!」


 おおう! 何かと思ったらキャロルさんか、本気で驚いた……。

 あのー、ここは四階なんですけど……。まあ、さすがはキャロルさんという事かな。


 さっきまでの緊張感はどこへやら、まったりとした平和な空気に浸っていたら、突然キャロルさんがシアさんの名を叫びながら談話室に飛び込んできた。文字通りの勢いで窓から。

 声を上げて驚いてしまったのは私とマリーさんだけで、今の姉様には兄様しか目に入っていなかったのか無反応だった。シアさんは呆れているだけで全く驚いていないように見える。


 シアさんはともかくとして、姉様の兄様に対しての集中力は地味に凄いね……。これが愛の力か。


「どうしましたキャロ? 騒々しい。窓から入るなど不躾の極みですよ」


「お騒がせしてすみません!! シア姉様、ウルギス様がお呼びです! 説明は向かいながらしますからついて来てください!」


 キャロルさんはこちらに背を向け窓枠に手をかけて、いつでも飛び出せる姿勢のまま顔だけ振り向いて大声を出す。

 いつもならシアさんのお小言に対してはちょっと嬉しそうに謝るキャロルさんなのだが、どうやら今回は相当余裕が無いみたいだった。


 焦ってる焦ってる、面白い。父様からの直接の命令、と言うかお願いに大焦りしちゃってるみたいだね。ふふふ。


「ウルギス様が私を? ああ、嫌な予感がひしひしと……。私は姫様と愛を語り合っていて、とても邪魔できる雰囲気ではなかったとお伝えしておいてください」


「シア姉様!? あの! 真面目にお願いします!!」


 窓枠に手を掛けたままぴょんぴょんとその場で軽く飛び跳ねるキャロルさん。なにこの人超可愛い。


 緊急事態、かどうかはまだ分からないけど、それなのにキャロルさんをからかいにいくシアさんは別の意味でさすがだね……。勿論悪い意味で。

 まったくシアさんは……。ふう、仕方がない、ここは私がキャロルさんに手を貸すとしようじゃないか。そろそろキャロルさんの胃に穴が開いてしまいそうだからね。


「シアさーん?」


「はい姫様、勿論冗談です。キャロ、説明も案内も必要ありませんからあなたは姫様のお側に、どんな事があっても決して離れる事のないように。場所は先程の煙玉の位置で合っていますよね?」


「え? あ、はい!」


「姫様、ユーフェネリア様、マリーさんにキャンディスさん、暫く席を外させて頂きますね」


 兄様はこの騒ぎでも眠ったままなので普通に除外されてしまいました。


「うん、気を付けてねー。帰ったらお話聞かせてね」


「いってらっしゃい」


「あ、はい。今のキャロル……、ふふふっ」


「はいな。お嬢様? ちょっと失礼ですよ?」


 綺麗なお辞儀を一つ、シアさんはキャロルさんが飛び込んできた窓の方へ歩き出した。


 シアさんも窓から出て行くつもりなのね……。もう何も言うまい。


「キャロ、くれぐれも頼みましたよ? それでは皆様、失礼致します」


「はい!」


 キャロルさんの返事とほぼ同時に、窓枠に手も足も掛けずにそのまま外へ飛び出して行くシアさん。器用な人だ。




 ううむ、今日は一日中家でゆったりする予定だったけど、何やら慌しくなってきたね。まあ、これはこれでいい話題になりそうだからいいんだけど。

 それじゃ早速、色々と事態を把握してそうなキャロルさんに質問を浴びせかけまくるとしようかな。ふふふ。







まだまだ続きます。


侵入者……、一体何者なんだ……



また一つ連載を始めてしまいました。


『VR世界で現実的な生活を』

http://ncode.syosetu.com/n2191bo/


『シラユキちゃんのVRMMO体験記』の元になったお話で、こちらはおまけではなく普通に新作(?)です。

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