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その249

新しい話に入りますが、年代的には変わらず前回のすぐ後くらいです。修行編のままですね。

「え? 外出禁止?」


「はい。昨日の夜、姫様がお眠りになられた後の事なのですが、見た事もない大型の獣が森の中で目撃されたと冒険者ギルドから緊急報告が飛び込んで参りまして……」


 手際よく私を着替えさせながらも、スラスラと淀みなく答えてくれるシアさん。


 大型の獣? 緊急報告? 穏やかじゃない話だね……。シアさんが全く動じていないところを見るとそこまで大事って訳でもないのかな?



 今朝、起きてすぐの着替えの時間、シアさんから急に今日から暫くの間外出禁止という連絡を受けた。

 今日は特に出かける予定は無かったのであまり気にしていなかったのだが、話を聞くと安全が確認されるまでの間、無期限での禁止令と言うではないか。それは基本出不精な私でも結構辛い、お友達の所に遊びに行けなくなってしまう。


 朝ご飯を食べながらさらに詳しく説明をお願いしてみると、目撃者は森の採取場までの護衛に雇われた冒険者の人と、その依頼人の二人。いつもの様に危険度の低い依頼だったのでのんびりだらだらと気を緩め、談笑しながら採取場へ向かっていたところ、急に目の前を見上げるほどの大きさの獣がかなりの勢いで横切って行ったんだとか。二人の目撃情報を合わせると、その獣は濃い黄色、金色に近い毛色の、恐らく狼に近いフォルムの四足の獣だろうとのこと。


 こちらへの報告が夜まで遅れてしまったのは、そう頻繁にではないけれどたまにはある事なのと、二人の見間違いや勘違いかもしれない事。それに、大型でも所詮獣程度にエルフがどうにかされる訳が無い、と偏見に近い信頼を寄せてしまっていたんだろう。エルフの冒険者の実力の高さが原因か……。


 ああ、もう一つ。連絡を入れてくれたのは、私に万が一何かあってはいけないと考えたショコラさんだ。ショコラさんの耳に入らなければここまでの騒ぎにはならなかったかもしれない。

 私を心配してくれたのは嬉しいけど、そのおかげで外出禁止になってしまうとは……。ぐぬぬ。


 その他私がスヤスヤと眠りについていた間に分かった事、決まった事は……。


 森への侵入者を襲う事もせずただ通り過ぎただけのところを見るに、元々森に住んでいた生き物ではないだろう。怪我人や先住の生き物が傷付けられた形跡も無いどころか、森の木々や草花が荒らされていたという事もない。大きいだけで臆病な性格なのかもしれない。何者かに追われて森の中に逃げ込んできたのではないだろうか。


 目撃地点は森の浅い部分だが、大型の獣という事で行動範囲が狭いとも限られないので、大事を取っての全域警戒態勢。見回りを増員して、可能なら極力傷を付けない様に捕獲してしまえと強気の指示が父様から出されたようだ。


 後は、見回り役の人たちが獣程度に後れを取るとは思えないが、どうしても不安なら館の一階と二階に集まっておくといい(にやり)、という事くらいか。



 それを聞いた森のみんなはこれ幸い、待ってましたとばかりに我先にお仕事を放り出して、早速私の家の周りで言い知れない不安を打ち消すかのような宴会騒ぎを始めたらしい。



 みんな絶対不安なんか覚えてないよ……、ただこういうイベントにかこつけてドンチャン騒ぎがしたいだけだよ……。


 そんな訳で、終わりの見えない二十四時間体制のお祭り騒ぎが始まったのだった。






 いつまで家に缶詰にされるかは分からないが、考えても仕方が無い。子供の私にできる事もある訳が無いので特にやる事は変わらない。談話室でみんなとお喋りをしたりだとか、一日中読書をして過ごすかだ。お友達の所に遊びに行けないのは確かに辛いが、向こうから来てくれると思うので大問題だと言う程でもない。大丈夫だ、問題ない。

 今日は初日という事もあるので謎の獣についてはいい話題になる、お喋りをして過ごすとしよう。


 朝食の間に私の様子を見がてら集まって来たメンバーは、兄様と姉様、マリーさんの三人だ。シアさんとキャンキャンさん以外のメイドさんズはお祭り騒ぎの裏方や、実際に騒ぐ側として参加している。でもキャロルさんは見回り組に回されてしまったらしい。最近のキャロルさんは結構忙しなく働かされているみたいなので、今度シアさんと三人でどこか、ピクニックにでも出かけようと思う。

 ちなみに兄様は、早速昨晩からみんなとお酒を飲んで騒ぎまくっていたらしく、既に完全に出来上がってしまっている。私を膝の上に乗せてかなりの上機嫌だ。



 ……兄様お酒くさーい。でもその内にソファーに転がっていびきをかき始めるだろうと見た、それまでの我慢だね。でもその前にっと。


「ねえねえルー兄様、こういう事ってよくある事なの? こんな風に外出禁止までされるのは初めてだと思うんだけど」


 兄様は酔っ払っていても周りにお酒を勧めまくる以外は素面とそう変わらないので、眠ってしまう前に聞いてみる事にした。


「ん? ああ、そんなによくは無いけどな。たまに普段見かけない魔物を見たぞっていう情報は入ってくるけどなあ、大体勘違いだったり、ただでかく育ちすぎただけの森の生き物だったりするんだよな。今回はちょっと大袈裟な伝わり方をしただけだと思うぞ?」


「そうなんだ? ショコラさんが念のために、っていう事なのかな」


「多分な。ガトーはまだその辺り慣れてないんだろうな。ま、そう何日も掛かる事でもないさ、気にすんな」


 私が不安を感じていると思ったのか、優しく頭を撫でながら話してくれる兄様。


 なるほど、稀によくある事なのか。しかし、やっぱり兄様は酔っ払ってても普通だなー……。悪い事ではないからいいんだけどね、お酒くさいから甘えにくいのだけが問題だ。でも膝の上から降りるという考えは絶対に出て来ないです。ふふふ。


「それでも冒険者の方には普通に危険なのではないんですの? 森の住人の方々でしたら襲われる心配もないんでしょうけど」


「あ、だよね。ちょっと大き目の犬くらいのサイズなら簡単に追っ払えちゃうと思うけど、今回みたいに見上げるくらいの大きさって、やっぱり危ないよね?」


 私は森のエルフなので、それが森の生き物なら本当に心配はいらない、一度会いに行ってみたいと思えるくらいの余裕はある。でも森の外から迷い込んできた大型の魔物だとしたら……、おお、こわいこわい。


「うーん……。シラユキにはこういうのはあんまり話したくないんだけどね、護衛として森に入る冒険者の人達って、本当に襲われてるのよ? 多少の怪我は日常茶飯事ね。まあ、私たちにとっては平和な森にしか見えないからピンと来ないと思うけど……」


「うん。狼みたいなのとか、大きな鹿みたいなのはたまーに見かけるけど、近付きすぎるとどこか行っちゃうだけだもんねー」


 冒険者の人は、あの動物達と出会ってしまったら戦うしかないんだろうか? 中には普通に可愛い小動物もいるのに……、タイチョーとか。森の生き物を傷付けるのはできたらやめてもらいたいけど、向こうから襲い掛かられたのなら対処しない訳にはいかないか……。


「私とお嬢様だけの場合はどうなるんでしょう? 私たちは森の出入りを認められてからまだ日が浅いですし」


「いえ、エルフでしたら襲われる事はまずありえませんよ、ハーフエルフの方がどうかまでは分かりませんがね。私もこの館に住まわせて頂く様になってからまだ三十年そこそこですから」


 キャンキャンさんは普通に会話に入ってくるので、シアさんも結構率先して話に加わってきてくれる。父様と母様の前だと未だにお控えモードが多いのだけど。

 しかし、三十年が、まだ、ね。私も百歳を過ぎたらそういう風に感じるんだろうか? 全く想像もできないね。


「あ、そういえばそうだったわね。シアが来たのって私が成人した頃、シラユキが生まれてすぐの頃だったもんね。ふふ、もう馴染みすぎちゃってもっとずっと前からいたみたいに感じちゃうわ」


 姉様の言葉にシアさんは、ありがとうございます、と綺麗なお辞儀で返す。


 お礼を言ったっていう事は、今の姉様の言葉はシアさんにとって嬉しい一言だったって事かな? ふむ、私も何となく嬉しい気分だからきっとそうなんだろうね。



「バレンシアも随分変わったよなあ……。ここに来た当事なんてシラユキ以外とは目を合わそうともともしないくらいの無愛想な奴だったってのに」


「え?」「え?」


 兄様の何気ない一言に、私とマリーさんの驚きと疑問の声が重なる。


 そういえば昔はメアさんとフランさんともそんなに仲が良くなかったんだっけ? 今では超仲良し三人組なのにね。


「お、お止めくださいルーディン様……」


 あ、シアさん恥ずかしそう。ふふふ。


 恥ずかしそうに、控えめに兄様を止めようとするシアさん。私が膝の上にいるので睨んだり殺気を飛ばしたりはできないみたいだ。命拾いしたね、兄様。


「駄目よお兄様。シアの過去は詮索したり話したりしちゃいけないってお母様からも言われてるのに」


「そうなんですの?」


 はい、そうなんですの。

 シアさんは超恥ずかしがりやさんなので、昔の事を話したがらない。勿論恥ずかしいからだけが理由じゃないと分かっているけどね。多分私が成長するにつれて色々と少しずつ話してくれるんじゃないかなー、と勝手に思っている。今の所ほぼ何も教えてもらってないに等しいけど……。


「でもそれって森に来る以前のバレンシアのことだろ? シラユキのメイドになってからの話なら大体誰だって知ってるし、問題ないんじゃないか?」


「あ、それもそうね。さっすがお兄様」


 ポン、と両手を叩きながら納得し、兄様を褒める姉様。


「うんうん、ルー兄様は、ええと……、ずる賢いよね!」


「褒めてるのかそれ? まったくシラユキは、バレンシアみたいに皮肉が上手くなったりするんじゃないぞ?」


 がーん! 猛反省します!!


「あのー? それで、レンさんが森にいらした当事のお話の続きは……」


「その綺麗に切り揃えられた前髪をジグザグに整え直して差し上げましょうか?」


「ごめんなさい!」


 シアさんの一睨みにビクッと体を震わせ、前髪を両手で隠しながら謝るマリーさん。


 なに今のやり取り面白い。マリーさんの綺麗な姫カットが乱されては困るので、シアさんのちょっと昔については言及しない事にしておこう。ふふふ。




「ああ、怖かったですわ……。キャンキャンもフォロー入れるなりなんなりしなさいよ、まったく」


「今のはお嬢様の自業自得だと思いますけど? ちょっと調子に乗りすぎちゃいましたねー」


「うう、キャンキャンって私が成人してから少しだけ厳しくなったわよね……。お母様に何か指示されたの?」


「いいえ? まあ、お嬢様も見た目は可愛らしいお子様ですけど、もう成人されたんですからね。しっかりと立派なご令嬢の振る舞いを心掛けてもらわないと、ですねー」


「うっ」「くっ」


「はははっ、なんでユーネまで反応するんだよ。ま、森にいる間は気を抜いててもいいと思うけどな」


「そうですね、その方がからかいやす……、こほん。姫様はまだまだ当分気にされる必要はありませんからご安心くださいね。もっともっと子供らしく我侭を仰ってください、私だけに」


「また露骨に自分だけを押すんだからシアさんは……。マリーさんの反応がいいからってあんまりからかいすぎちゃ駄目だよ? もう!」


「ふふふ、申し訳ありません。それではマリーさんの分と合わせまして、姫様へのからかいを平生の五割増と致しましょうか」


「ごめんねマリーさん! 諦めて!!」


「いえいえ、シラユキ様の代わりなんて私程度には到底勤まりませんわ! ふう、これで安心ですの」


「ついにマリーさんにまで見捨てられた!!」


「言った側からまったく……。でもお二人ともお元気で可愛らしくていいですねー」


「ふふ、そうね。マリーも私たち三人に対してはかなり慣れたわよね。妹が増えたみたいで嬉しいわ」







長くなってしまったのと、いい区切りが見つからなかったのでここでぶつ切りしてしまいます。

続きはまた一週間以内には、なんとか!

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