表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
248/338

その248

 リリアナさんに抱き上げられて、優しく背中をさすられながら、くすんくすんとぐずり続けている私。自分にも全く、訳も分からずに流れ落ちる涙。本当に今自分がどうして泣いているのか分からない。


 悲しいから? 寂しいから? いや、そのどちらとも違うような気がするし、そのどちらにも当て嵌まるような気さえする。自分で考えておいてなんだけど意味不明すぎる……。

 とにかく今の私にできる事は、リリアナさんに抱きついて心を落ち着かせる事しかない、と、首に回した手の力を強める。


 苦しかったらごめんね。泣きじゃくってる事も合わせて後で謝らなきゃ……。




「姫様……。リリアナさん、貴女が姫様のお心を傷付ける様な方ではないと理解しても信じてもおりますが、その……、説明して頂いても?」


「ふぇ? シアさん……?」


 急に背後から聞こえてきた声に振り向くと、そこにはいつの間にここに来ていたのか、シアさんが心配そうに私を覗き込んでいた。


「ああ、姫様、お顔をこちらへ……」


 優しく丁寧に涙を拭ってくれるシアさん。なんという心配顔だ……。


「予定狂い」


 リリアナさんはそんな私たちを微笑ましそうに見つめながら、一言だけで答えた。


 私も今のこの感情を説明してもらえるなら、と思っていたが、リリアナさんの答えはやはり斜め上どころか理解の範疇に収まらない。シアさんの翻訳力が今、試される……!! ……シアさんの登場のおかげなのか、ちょっとだけ余裕が出てきました。


「予定狂い、ですか? それは姫様をここへお連れする事になった、いえ、私の問いに答えて頂けたものと考えますと……、泣かせるつもりはなかった、と?」


 リリアナさんは笑顔で頷く。どうやら正解のようだった。


 シアさんの翻訳力はまさに鬼の力といった感じかな? INT500くらいあるんじゃね?


 変なネタセリフが頭に沸いてきてしまったが気にしない。リリアナさんは笑顔で、シアさんは真面目にしているが翻訳は楽しそう。ここで私が泣いてばかりいる訳には参るまいよ!


 シアさんとリリアナさんのおかしな問答は続く。


「逢引」


「逢引……、ですって……? 姫様、私というものがありながら……!! と、冗談はここまでにしておきましょうか、申し訳ありません。内密に姫様と話されたい事があったと……、なるほど。つまり、詳しい説明をする事は叶わないが、姫様を泣かすつもりは微塵もなく、ただ二人きりで秘密のお話をしたかっただけだから心配や勘違いはするな、と仰られたいのですね? まあ、姫様は繊細な、感受性豊かなお心の持ち主でいらっしゃいますので、どんお話だったかまでは想像もできませんが泣かれてしまったのはそのせいかと思われます。貴女もさぞや驚かれたことでしょう。ふふふ」


「ふふ」


 と小さく笑い合いながら、またゆっくりと頷くリリアナさん。


 シアさんマジぱねえです……。逢引というたった一言の言葉からここまでの推測を立て、しかも正解して見せるとは……。そこに痺れる憧れる! 私はあいびきと聞いて、牛と豚? それとも鳥? とか考えちゃってたよ。これは一生心の奥底にしまっておこう。


「ふむ、とりあえず今はそれで納得しておくとします、エネフェア様へのご報告も見送る事と致しましょう。必要であればリリアナさんご自身からどうぞ。さて、お話の続きをされるにももう帰るにしても、まずは姫様をこちらへ……」


 自分一人で勝手に納得して仕切りだすシアさん。

 リリアナさんは特に言いたい事も、勝手に対する文句も無いのか、その言葉に従って私をシアさんへ手渡そうとする、が……


「や!!」


 ひしっ、とリリアナさんに抱きつき直す。


「ひ、姫様?」「シラユキ?」


 全力でお断りしてしまった私を、一体どうしたんだろうかと覗きこんでくるリリアナさん。


 ……? ……あれ?


 シアさんは驚きに目を見開きながら一歩二歩後ろへ下がり、ずしゃっ、と崩れ落ちる。両手両膝を地面に付き、項垂れてしまっている。


「そ、そうですよね……、私などよりリリアナさんに抱かれている方が姫様にとっては嬉しいのですよね……。ふ……、ふふふ……」


 下を向いてしまっているので顔は見えないが、恐らくもう何もかも諦めた様な表情をしているだろうと思う。


 ええい! 反応が大袈裟な!!


「ち、違うから! シアさんよりリリアナさんの方がいいとかじゃなくて今のは……、う? 今のはー……。うーん?」


「っと、冗談が過ぎました、申し訳ありません。姫様に拒絶された絶望感により現実逃避をしてしまっていました。姫様にも今のご自分の行動が理解できないのでしょうか?」


 スッと立ち上がり、手と膝の汚れを軽く払いながら聞いてくるシアさん。相変わらずの切り替えの早さだ。


「うん、分かんない……。リリアナさんと離れちゃ駄目、とかそんな感じに思ったのかも」


 今この手を放してしまうとどこか遠い所へ行ってしまう様な……。

 まあ、その場合は私を降ろすか、抱き上げたまま一緒に連れて行ってしまえば済む話なのでありえないが。


「ふむ……。まあ、分かりませんが分かりました。では、他に用事がなければそろそろ館へ戻ると致しましょうか。リリアナさん、姫様をお願いしますね」


 無言で頷くリリアナさん。心なしか嬉しそうにしている様な気がする。

 他に用事と言うか、まだここに連れて来られた本当の理由の把握すらできていないんだけどね……。



 帰りの獣道、シアさんが前を進み、リリアナさんは私を抱え、その後をついて行く。


 私はさっきのリリアナさんの言葉を思い出して、また寂しいような悲しいような、複雑な感情が湧き上がってきてしまっていた。

 泣き出すほどではないが、何となく甘えたい気分。リリアナさんに強く抱きついて、スリスリと頬擦りを開始する。


「ふふ」


 リリアナさんはくすぐったそうに笑い、頬を擦り返してくれる。


 シアさんのせい、いや、私が泣き出してしまったせいで有耶無耶になってしまったが、結局リリアナさんは私に何を伝えたかったんだろう?

 とりあえず考えられる事は一つ。リリアナさんはもしかして、自由に喋る事ができない何かしらの制限を何者かから受けているのではないだろうか? ……そんな事をする理由も強制できる方法もある訳が無いし、ありえないか……。あったとしたらそんな物、呪いとしか言い様が無い。


 あ、もう一つ疑問があった。


「シアさんはどうしてあの広場に私たちがいるって知ってたの? エレナさんにはどこに行くか教えてなかったのに」


「愛のなせる業です」


 足を止めて体ごとくるっと振り返り、にっこり笑顔で即答するシアさん。


「答えになってないよ! あ、勘って言いたいの?」


 やはりこの人はニュータイプか……!!


「いた」


 リリアナさんは楽しそうな笑顔で、軽く首を振りながら言う。


 首を振る……、否定、つまり私の推測は間違い、と。ここまではよし。そして、いた、という事は、シアさんは私たちより前にあの広場に来ていたという事か、なるほど。私の翻訳レベルも少しは上がってきているね!


「む、お気づきでしたか……。ふふ、やはり貴女はよく分からない方ですね」


 そう言うとシアさんは進行方向に向き直り、また歩き出した。リリアナさんもにこやかな笑顔のままそれに続く。


 なーんか私、置いてけぼりになってる? シアさんが広場にいた理由も聞けて無いし、二人だけで通じ合っちゃってるみたいでずるいずるーい!!



 黙々と歩き続けるシアさんと、リリアナさんプラス私。リリアナさんがほぼ無言なので、シアさんも私もそれに釣られてか口を開きにくい。


「はふ……」


 おっとはしたない。体を揺られる心地よさとリリアナさんに抱き上げられている安心感で、急に眠気がやって来てしまった。

 少し歩いた程度で眠くなるとは、なんという燃費の悪い体をしているんだろうか私は……。


 私の欠伸に気付いたリリアナさんは、完全に力を抜いても大丈夫な様に抱え直してくれる。

 こういった行動からでもリリアナさんの面倒見のよさ、子供の扱いの慣れが窺える。いやしかし、私はもう三十歳過ぎなのにこの扱いでいいんだろうか……。エレナさんが言った事をもう少し考えないといけないね。


 でも今はそれは忘れて目を瞑り、体の力を抜き、リリアナさんに全体重を委ねる。この安心感は父様と母様に近いものがあるかもしれない。

 噛み合わない会話にばかり気を取られて勝手に苦手に思っていた私だが、今までなんて勿体無い事をしてきたんだろうと絶賛大後悔中だ。これからはもっともっと積極的に甘えるようにして、翻訳無しでもお話しできる様にしっかりと慣れていかなければ、ね!


 手始めに今日のお昼寝に付き合ってもらおうかな? ふふふ。






 案の定と言うか何と言うか、私はそのすぐ後に眠ってしまったらしく、目が覚めたら自分のベッドの上だった。

 どうやら誰かに抱きしめられる様にして眠っていたようで、目の前にはあったかくて柔らかそうな、ふかふかのクッションが迫っている。まだ眠気は残っているので早速顔を埋めさせて二度寝といこうじゃないか。


 ポフッと頭を預け、そのまま落ち着ける位置を探してグリグリと顔を押し付ける。この感触は私お付の三人の物でも、母様の物でもない。恐らくリリアナさんだろう。


「吸う?」


 頭上から小さく訊ねる声が聞こえ、同時に頭を撫でられる。


 今の声は……、うん、リリアナさんだね。よし、合ってた。

 リリアナさんのおっぱいは全然揉んだ事がなかったから、ちょっとだけ合ってるかどうか不安だったんだけど、どうやらそれも杞憂だった様だね。

 勿論リリアナさんとエレナさん以外のメイドさんズと、母様と姉様とカルディナさん、それにコーラスさんとショコラさんのおっぱいはたった一揉みするだけで誰のものか確実に正解できる自信がある。褒めてもいいのよ?


「吸わないけど……、枕にさせてねー……」


「ん」


 よし、いい位置を発見。揉みまくりながら寝させてもらおう。おやすみなさーい……。







もうちょっと掘り下げる予定でしたが、リリアナについてはここで一区切りにします。

謎に明確な答えは出なかったにしても、ある程度は予想できるんじゃないかなー、と思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ