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239/338

その239

 ウルリカさんとお友達になった日から数日後、今日はシアさんが一人で町へ出かけている。ショコラさんが次に遊びに来てくれる日取りを決めるのと、どんな物か分からないが、とある製作物の材料の入手、後は何か他にも色々と用事があるらしい。

 私は、「姫様にはお見せし難い、お聞かせできない様な用件も御座いますので? うふふ」、という怪しい理由でお留守番する事になってしまった。また何か良からぬ事でも企んでいるんだろうかシアさんは……。

 お留守番と言っても家で大人しくしているのはいつもと変わらない訳で、特に文句も何もないんだけどね。外は日差しが強そうだし、散歩に出るのもお昼寝をした後くらいでもいいだろう。


 とりあえずシアさんが帰ってくるか、何かイベントが舞い込んでくるまでフランさんとメアさんに甘えてよっと。


「なんかエレナが館の周りうろちょろしてたんで捕まえて連れて来ました」


「なんか館の周りうろついてたらキャロルに捕まって連れて来られたよ!」


 イベント舞い込んで来るの早いな!!




 どうやらエレナさんはシアさんに用事があるみたいだった。でも当人はお出掛け中なのでその予定がいきなり潰れ、さてこれからどうしたものかと考えながら、私の家の周りをふらふらと彷徨っていたらしい。

 キャロルさんはまた外のお掃除と見回りのお仕事に戻ってしまって残念だが、エレナさんといういい暇つぶし、いや、いい話相手が来てくれた事を素直に喜ぼう。


「エレナって最近よく来るようになったよね。それで、どう? 調子は。冒険者にはなれそう?」


 軽く話しかけながらも自然に紅茶を差し出すメアさん。素晴らしい仕事だと感心はするがどこもおかしくはないね。


「あ、ありがと。いーや、全ぜ……ん? そうでもないか? 冒険者になるだけだったら今日からでもなれるんじゃないの?」


「そうかなー。エレナさんのその自信は一体どこからくるの……」


 冒険者になるにはまず、色々な知識が必要だって前にシアさんから教えてもらったのに……。はっ!? まさかもう頭から抜けてしまったんじゃ……? あ、ありえる!


「なるだけならだってば。畑仕事とかの雑務依頼なら今でも充分やれそうじゃん? でもまあ、そんな地味ぃな仕事は態々冒険者になってまでやる事じゃないけどねー。そんなお手伝い程度の仕事なら今までもやってきてるしさ」


「ああ、そういう意味……」


 うーん……? なんかエレナさん、ちょっと前のやる気全開状態から一気に落ち着いちゃったね。やっぱり一般の、DとかEランクの冒険者の現状を知って気力が下がっちゃったのかな?


「そもそもエルフの冒険者の人ってさ、普通に雑務依頼とかやってるの? ソフィーは自分の趣味に合ったのをたまに受けてるらしいけど、実際は護衛とか何かやっつけに行くとか、町の外の依頼を主にしてるんじゃない? 人間種族の視点の話ばかり聞いてもそこまで参考にならないんじゃないかなって私は思うよ」


 何故か後ろから私の両頬を引っ張りながら言うフランさん。うにうに。多分手持ち無沙汰なんだろう。


「そう? エルフと人間ってそこまで大きく変わるもの? 寿命以外でそんな大きな差があるとは思えないけど。いや、あたしくらい才能に溢れてるとやっぱり……」


「はいはい」


 確かに一般の町の人同士ならそこまで大きな差はできないんじゃないかなー、とは私も思うけど、やっぱり魔法を扱う事にに秀でているっていうのはかなりの差になるのかもしれない。それが例えエレナさんでも……、あ、忘れてた思い出した。


 まだ私の頬をグニり続けていたフランさんの両手を押さえて一旦やめてもらう。話し難いからね。


「あ、痛かった? ごめんねシラユキ」


「ううん、大丈夫、痛くないよ。ちょっと私もお話したかっただけだから。えっとね、エレナさん、エルフの冒険者って登録するとすぐにCランクから始められるんだって」


「は? いきなりC? マジで!?」


 うん、マジで。

 あれは冒険者ギルドに初めて行った時だっけ? ミランさんから……、あれ? そうだったかな? ミランさんかラルフさんのどっちからか教えてもらったと思う。それで確か、Cランクから単独で討伐依頼を受ける事ができるんだったかな? この辺りはあんまり興味がなかったからうろ覚えだ。また今度ミランさんに一通り説明し直してもらおうか。


「それは随分と大盤振る舞い、と言うか特別扱い? やっぱり長く生きてるとそれだけやれる事が多かったり強かったりすると思われてるのかもね。ねえシラユキ、登録は成人してれば誰でもできるんだっけ?」


「うん、登録は成人してれば……、誰でも? 誰でもできるかは分かんない」


 押さえた両手をそのまま握り、真後ろにいるフランさんを見上げるようにして答える。これは意外と厳しい姿勢だ……。


 ううむ、どうだったかな? 才能がありそうな人は、ギルド側が確保したいから早めに登録させるとかあった様な……。実は体力試験とかあったりするんじゃないだろうか? この辺りも全部含めてまた教えてもらおう。


「うわ可愛い……! ほーら、そんなに可愛い見上げ方してるとキスしちゃうわよー」


「にゃわう!」


 椅子の後ろから抱きしめるように拘束されて、キスをされまくってしまった!


「かわいっ。ちょっと、フランばっかりずるい! 私も私も!」


「ふふふ。ちょっと膝の上に乗せちゃおうかな。お客様が来てるけど、エレナなら別に見られたって構わないでしょ? メアは後でね。順番順番」


 そう言うと返事も聞かずに私をひょいと持ち上げて、そのままの勢いで一緒に椅子に座るフランさん。


 いや、うーん……、まあ、いいか。おっぱい揉んだりスリスリしたり全力で甘えなければ、別に見られたって恥ずかしくも何ともないからね。お祭りとか大勢集まる場合でも、基本は母様か姉様の膝の上が定位置だし。

 しかし私から甘えなくても、フランさんから頬擦りやキスの嵐を受けまくってしまう。キスはさすがに恥ずかしいけど、頬擦りし返してしまうのは必然というものだよね。


「むう、すぐ代わってよ? ああもう、姫可愛いなあ……。エレナはその次ね」


「へ? あたしは別にいいよ」


「そう? 遠慮なんかしなくてもいいのに」


「いや、遠慮とかじゃなくて、なんであたしが姫乗っけないといけないのよ? それよりそのCランクから始まるってのを詳しく教え」


「ええ!?」「はあ!?」


「きゃう!」


 うわ! ビックリした!! いきなり大きな声出さないでよ二人とも……。特にフランさんは耳元近くで……、もう! 変な声出ちゃったじゃないか。


「お、おおう……、何?」


 エレナさんも驚いて、軽く引いてしまっている。


 な、何? 何がなんなの? 今の会話におかしなところでもあったっけ……?


「ちょちょ、ちょっとまって!」


 メアさんが焦った様に両手の平を前に突き出し……、なんだろう? 何かに待ったを掛けた後に話を続ける。


「Cランクからってのもちょっと気になるけど今は横に置いておいて……。何? エレナまさか、姫を膝の上に座らせてあげるのが嫌なの!?」


 おお、二人はその事を驚いた訳なんだ? エレナさんは私に甘えられるのが嫌なのかな? それは、まあ、うん、ちょっと寂しい気持ちになっちゃうけど、別に驚く事じゃないと思うんだけどな。


「え? 思い掛けない反応にこっちが驚くんだけど……。別に嫌とは言ってないじゃん、進んで乗っけようとは思わないってだけで」


「なんで思わないのよ!?」


「わあ!」


 また耳元で大声出してー!!


「あ、ごめんね。今から大事な確認を、お話をしないといけないからもうちょっと大人しく座っててね」


 にっこり笑顔で私の頭を撫でながら言うフランさん。

 もう、何がなんだか分からない。どういう事なの……。


 とりあえず言われたとおりに大人しく、二つのあったかふわふわクッションにもたれ掛かって黙っておく。今はまだ口を挟むのは早い、じっくりと経過を観察しよう。



「ええと、エレナ? 今からちょっとした質問を私とメアがするから、深く考えずにパッと答えて」


「えー? なんか面倒そう……。ま、今日は暇だからいっか。よっし! なんでも来いよ!! あ、なんでもって言ってもスリーサイズとかはなしね?」


「はいはい」「聞かない聞かない」


 いつぞやの心理テストもどきを思い出すね……、懐かしい。これは面白そうだ。


「それじゃまずは私から、いっちばん大切な確認を取るからね。変な嘘とかはいいから普通に答えて」


「何よその思わせっぷり! ふふ、なんか面白くなってきたじゃなーい? 嘘なんて吐かないとあたしの名に懸けて誓うわ!!」


 エレナさんの名前にそこまでの重みが!? ……無いんじゃないかな。


「はいこの子、シラユキのことなんだけど……、可愛いよね?」


「一番大切な質問がそれ!? あ、っと、大人しくしておくね……。あはは」


 ついつい突っ込んじゃったけど笑って誤魔化す! どういう趣旨の質問なんだろう……。


「んー? あー……、うん、そりゃ可愛いんじゃない? それが何?」


「よかった……。ふう、まずは一安心だね、メア」


「うん。シアに変な修行つけられて精神が壊れちゃったのかと思ったよ。ホントによかった……」


 これはツッコミ待ち? 突っ込んでもいいんだろうか……? いや落ち着け、まだあわてるような時間じゃない。


「それが何なのよ、って! まさかこれで終わり?」


「ああ、ごめんごめん、ちょっと安心しちゃってさ。それじゃ次は私から。さっきと同じ事聞くけど、姫を膝の上に座らせてあげたいって思わない?」


「うん、別に? 乗せろって言うなら乗せてあげるけど」


 エレナさんの答えにハッと顔を合わせる二人。

 面白いは面白いけど、質問の内容的に素直に楽しめないんですけど!? でも、エレナさんに嫌われてたりしてた訳じゃないから私も安心だ。


 そして矢継ぎ早に質問は続く。


「頭撫でてあげたいとか思わない?」


「んーん、思わない」


「な!? じゃあ、ほっぺをこう、ウリウリしたいとかは?」


「べっつに? 変な事言い出したときにお仕置きっぽくはたまにするけど」


「優しく触らないと駄目だって! そうなると頬擦りも?」


「思わない思わない」


「嘘……。あ、ほっぺと言えば、キスしたいとは思わない?」


「思う訳ないじゃん。膝に乗っけるのもそうだけど、キスしろって言うなら別に、ほっぺにくらいならしてあげてもいいけどね」


「く、唇には?」


「誰がするか!! あたしそっちの趣味はないから! ……え? まさか二人とも……!?」


「私結婚してるって」


「そだったね。という事はメアリーは……!?」


「シアとキャロルの二人と一緒にしないでよ……。そうじゃなくてさ、姫の可愛さに感極まる? 我慢できずに可愛がったりしたくならないの?」


「なる訳無いじゃん、こんな可愛いだけで生意気で甘えん坊な子供。……師匠ってそっちの人だったのか……」


「レンは怪しいところだけど、キャロルは完全にあっち側だからねってそうじゃなくて!! シラユキが生意気ってどういう意味よ!?」


「今のは聞き捨てならないよ! こんなに可愛くていい子の姫を……、生意気!? 甘えん坊なのもむしろいい事であって、全然悪い事じゃないじゃない!!」


「おおう、ちょっと落ち着いてよ二人とも。姫、そろそろいつもみたいに突っ込んでよ」


「どうやって!? と、とりあえず二人とも落ち着いて!!」


 落ち着きたまえ、の一言で場を鎮められるエース的なスキルが欲しいです!!




「おかしいよ、おかしいってこの子。シラユキが生意気とか何をどう受け取ればそう思えるって言うの……」


「やっぱりシアに何かされちゃったんじゃない? 姫のことを可愛く思えなくなる様に洗脳されたとかさ。かわいそうに……」


 確かに二人とも落ち着いたは落ち着いてくれたのだけど、今度は逆に気持ちが落ち込んでしまったみたいで、エレナさんをかわいそうな人を見る目で見ている。


「その目やめてよ……。はあ、何なのよ一体。姫、分かる?」


 もう二人の相手に疲れてしまったのか、私に聞いてくるエレナさん、なのだが……


「う、うーん? 分かんない。エレナさんは私のこと嫌いじゃないんだよね?」


「そりゃ当たり前でしょ。ちょっと生意気だけど素直で可愛いと思うよ。でも猫っ可愛がりしたいとは思わないって」


 うんうん。それだけ分かれば私的には大満足で大安心だ。



「ふふ、嫌われてたらどうしようかってちょっと驚いちゃった」


「別に好きな訳でもないけどね、あたし子供は嫌いな方だし。でも姫は町にいる人間種族の子供みたいにギャーギャー騒がないから、どっちかって言うと好きな方に入るかもね」


「じゃあ、お膝に乗せてほしいなー? ってお願いしたら?」


「甘えん。……ほれ、おいで」


「やった! あ、降りるねフランさん」


「え、あ、ちょ……、あれ!?」


「ど、どういう事? あ、次は私の番だってば! おや? エレナ照れてる? ふふふ。 やっぱりエレナだって姫のこと大好きなんじゃない」


「いやー? 大好きではないわー。ほーれほれ」


「いはいいはーい!」


「やめて!」「コラー!!」




 エレナさんが家に帰り、シアさんが帰って来た後に、今日の一連の出来事についての小会議が行われた結果……、多分エレナさんは子供を可愛がれるまでに精神が成長してないんだろう、つまりまだまだ子供だなあ、という結論に落ち着いた。なにそれひどい。せめて子供心を残したまま大人になったとでも……、大差無いか。


 年齢的に近いところだと、姉様、エレナさん、マリーさんの順番かな。

 エレナさんがマリーさんよりほんの数歳年上で、姉様はそれよりさらに二十歳くらい上だったと思う。メアさんも近いと言えば近いかもだけど、姉様よりさらに三十歳以上年上なので今回はちょっと除外させてもらおう。


 つまりマリーさんの方が精神的には成熟しているという事なのか……? エレナさん見た目は三人の中で一番年上に見えるのに……。

 百歳を超えた、成人したエルフの年齢は結構どうでもいい部類に入っちゃうものだし、名実ともに子供の私にはさっぱり分からないね。


 今日分かった事は、いつも私に対してそっけない態度のエレナさんは、別に私のことを嫌っている訳ではない、むしろ好感を持ってくれている。

 後は、膝の上に乗せてもらってもほっぺを引っ張られまくるので意外と居心地が悪い、という事だけだ。




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