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230/338

その230

「ああ、そうです。エネフェア様? ついに……、ついに例の物が完成致しました。特に問題が起こらなければ明朝にはお見せできると思います」


「そう……、楽しみだわ。ありがとうバレンシア、本当にどれだけこの時を待ち望んだか。長かったわね……、この二日間」


「う? シアさんが何か作ったの? って短いよ!! たった二日で出来た物でそのやり取りはないよ!!」


「あはは。気にしちゃ駄目だよ、姫」


「そうそう。シラユキのツッコミは可愛くて見てて楽しいからいいんだけど、疲れちゃうだけだって」


 ぐぬぬ……、確かに。しかし、この私がツッコミを放棄する訳にはいかない!! どうしてエルフはみんなツッコミを疎かにしてしまうのか……、コレガワカラナイ。




 今私がいるのは談話室、さらに言うなら母様の膝の上だ。

 寒い冬は外に出かける気にもならず、だらだらとおやつを食べながらメイドさんズと楽しくお喋りをしていたら、突然母様がやって来て私を膝の上に乗せ寛ぎ始めた。あまりのさりげなさに、何か用事でもあるのかと聞くタイミングを完全に逃してしまった。いや、用事は何となく見当は付いている、多分私に会いに来てくれたんだろう。母様はたまにだけどこうやって、何の前触れもなく私を可愛がりに来てくれる。


 普段はお仕事の邪魔になりたくないので私から執務室に向かう事はあまり無い、個人的には毎日でも母様に甘えたいのだけどね。母様もそれは完全にお見通しのようで、お仕事に一段落が付いた時や休憩時間に甘えさせに来てくれるのだ。ちょっと恥ずかしいけど、私はこれが最高に嬉しい。

 いつも甘えさせてくれる、可愛がってくれているメイドさんズには悪い気もしてしまうけど、やっぱり母様は特別だね。



 そして母様に可愛がられ、甘やかされながらお喋りの続きを始めようとしたら、シアさんから今思い出したかのような何かの完成報告が出て今に至る。


 ええいもう、芝居がかった話し方で何かと思えば……、たったの二日! まあ、母様がそれだけ楽しみにしていたっていう事かな……、うん? まてよ? 反対に考えるんだ、あのシアさんですら作るのに二日掛かった、とてつもなく凄い物とも考えられないか!? ふうむ、ふむふむ……、これは気になる、気になってきてしまったね……、ふふふ。まあ、私のお世話をしながらの二日だからそうじゃない可能性の方が高い気もするけど……、そんな事はどうだっていい、重要な事じゃない。


「シーアさん、母様ー?」


 母様の顔を見上げるようにして、まずは二人の名前を呼んでみる。


「秘密です」「秘密よ」


「早い!! まだ聞いてすらいないのに!」


 何を作ったの? とその先を続けるまでもなく即却下されてしまった。……む? フランさんメアさんも笑わないの! ぐぬぬぬ……。


「むう、気になるー。シアさんが何かを二日も掛けて作ったんだよね? 料理……、はないか。新しいぬいぐるみとか?」


 もふもふシリーズは一つ作るのに一週間以上掛かるらしいからそれもないか。それに、出来たら母様にじゃなくて真っ先に私に見せに来るだろうし。ううむ、後は何があるかな。

 あ、私には見せられない様な危険物という可能性もあった! そうなるとあまり突っ込んで聞かない方がいいのかもしれないね。もう少し二人の反応を確かめてからにしよう。


 とりあえず一旦考えるのをやめて、体を横に向けて母様に抱きつく。

 メイドさんズ三人の手前恥ずかしさも結構あるけど、母様に甘えられるチャンスはなるべく逃さないようにしたいからね。


「あら可愛い。シラユキはバレンシアの作る人形は大好きよね……。そうね、また新しく何か作ってあげて頂戴」


「畏まりました。王族の方は一通り作ってしまいましたし、次はそろそろメアかフランでも作りましょうか。メイドが私だけでは姫様も遊び難いでしょうから」


「メアさんとフランさん両方欲しいなー。メイドさんズのみんなが終わったらコーラスさんのも作ってね!」


 やった! もふもふシリーズにまた新たなお友達が加わるよ! 今までメイドさんはシアさんのしかなかったからちょっと寂しかったんだよね。

 家族のと一緒に並べてるとシアさんのだけどうしても浮いちゃうし、私のの隣に並べようにもシアさんが自分の部屋に飾っちゃってるからそれもできない。シアさんの部屋に並べて飾ってもらうのもありだけど、『もふもふシアさん』はできたら自分の部屋に置いておきたい、それもやっぱりなしだね。

 でも、ついにこれでやっと三人並べて飾れる! 嬉しすぎる!! ……普通にもっと早くお願いしておけばよかったんじゃね? ま、まあいいや、深く考えない様にしよう。


「ふふふ、はい。私もまさか姫様にここまで喜んで頂けるとは思わず、とても嬉しいです、幸せです。あ、二人とも? 後で古着をいくつか頂きますね。勿論下着も」


「シアは変な方向に拘るよね……。お古のメイド服は別にいいけど、下着は洗ってあってもちょっと恥ずかしいってば」


「渡さないとノーパンの人形が作られちゃうから観念するしかないよ。ま、私はそんなの気にしないけどね。……匂いとか嗅がないでよ?」


「誰が嗅ぎますか誰が、失礼な。姫様の物ならともかく……」


「私のも嗅がないで!! え? シアさんそこまで変態さんじゃないよね?」


 無言で顔を横に向けるシアさん。


 め、目を逸らさないで!! 信じさせてー!! やっぱりシアさんはロリコンなのか!?


 母様は元気にツッコミを入れる私を優しく撫で、シアさんは幸せそうな笑顔で満足そうに、どちらもとても上機嫌。メアさんとフランさんもそれにつられてかいい笑顔だ。家族がにこにこと楽しそうにしていると私も嬉しくなってくるというものだね。でもこういう冗談は勘弁してください!


 そんなこんなで、その日は結局何が作られたのかは教えてもらえず……、と言うか、完全に忘れてしまっていたのでした。






「さ、姫様、寒いですが早くお着替えしてしまいましょう。もうそろそろ皆さん揃ってしまわれる頃だと思いますので……」


 眠さでうつらうつらとする私の寝巻きを容赦なく剥ぎ取っていくシアさん。


 うう、眠いよ、寒いよ……。寒さでちょっとだけ眠気も薄れてくるからいいんだけど……。多分部屋を充分温めないのは、私の眠気を晴らすっていう狙いもあるんだろうね。



 今日はいつもより早めに起こされてしまったのでまだかなり眠い。横になれば数秒で眠りに落ちる事ができるくらいだねこれは。

 早く起こされた理由は、今日の朝食は家族全員揃ってにしよう、と今朝急に決まったからなのだそうだ。そういうのは前の日に決めてくださいと心から思うよ……。


 私は目覚めるのが少し遅めで、その頃にはもう全員朝食は済んでしまっている。お昼もバラバラだ。みんなが揃うのは夕飯だけなので結構嬉しかったりもするのだが……、できたら冬場はやめてほしい。もっと暖かい季節に思い付いてもらいたいものだね。 



「本日はいつもより寒さも厳しい、かもしれませんから、少し厚着をしましょうか」


 眠気でぼーっとした頭で色々と考えていたら、いつのまにか着替えは終わっていた。

 ううむ、なんという手際のよさ。シアさんはやっぱりすごいメイドさんだと改めて感心させられてしまうね。そこに痺れる憧れる。


「うん、おねがーい」


 あんまり厚着をしすぎちゃうと動きにくくなっちゃうから苦手なんだけどねー。でも寒いのはもっと苦手、本当に嫌な季節だよ冬ってやつは……。


 シアさんは私の返事を聞いてすぐに、テキパキと重ね着を追加していく。


 まあ、全部シアさん任せで私はこのままぼーっと眠気と戦おう。ああ、ベッドが私を呼んでいる気がするよ……。



「では、参りましょう、皆さんもうお待ちだと思われます。少々動き辛そうなので抱き上げさせて頂いての移動としましょうか、その方が早く着きますしね」


「うん、分かったー。寝ちゃったら起こしてねー……」


 ん! と素直に両手を上げてシアさんにお願いをする。眠すぎて恥ずかしさもあまり感じない。


「か、可愛らしすぎます姫様……!! ああ、もう、このまま攫って逃げ……、こほん、失礼しました。さ、参りましょうか」


 感動しすぎて涙が出てしまったのか、目尻を拭う動作の後、落ち着きを取り戻して歩き出すシアさん。


 なんていう大袈裟な人……、母様でもここまでの反応はしないよ……。たまにはするけど。

 しかし、確かにシアさんの言うとおり、ちょっと動き難いねこの服、なんか全身ゴワゴワするし。まあ、頭もすっぽりとフードで隠れて温かいからいいんだけどさ。でもシアさんに抱き上げてもらえるなら厚着じゃなくてもよかったんじゃね? とも思ってしまう。あ、そうなると動き難いから抱き上げてもらうっていう前提が崩れてきちゃうな……。


 と、割と、いや、かなりどうでもいい事を考えながらシアさんにダイニングまで運んでもらう。服とシアさんの温かさで本当に眠ってしまいそうだ……。




「皆様お待たせしてしまいまして、誠に申し訳ありません。早速ですがどうぞ、ご覧ください。エネフェア様のご提案に限りなく近付いた仕上がりであると自負致しております」


 ダイニングに着いてすぐ、既に席についているみんなによく見えるように私を降ろし、朝の挨拶もなしにいきなり変な宣言をするシアさん。


「シアさん? 母様の提案ってなんの」


「可愛い!! 可愛すぎるわシラユキ!! なんて素晴らしい出来栄えなの……、完璧だわ。よくやったわバレンシア!!」 


「ふふ、お母様ったらはしゃいじゃって……。でも本当に可愛いわ、さすがね、シア」


「こ、これほどまでとは……!! い、いかん! これは森の家族といえども攫って逃げようとする者が出て来てしまうかもしれんぞ……」


「大袈裟な。まあ、確かに可愛いんだけどな。父さんと母さんはこういうの好きだよな……」


 シアさんに質問しようとしたらみんなに大絶賛されてしまった。なにがなんだか分からないよ……。



「ここは最後まで悩みに悩んだのですが、やはり猫らしさを前面に押し出すよりも姫様本人の可愛らしさにお任せする事で落ち着きました。この判断に間違いはありませんでしたね、さすがは姫様です」


 私の被っているフードの上の部分を摘み上げて、何やら説明を始めたシアさん。引っ張られているらしい感覚はあるのだけれど、何故かフードがずれるような事はない。どこを摘み上げているんだろうか? ……猫らしさ?


「なるほど、耳部分のみを……。ええ、私もその判断に誤りは無いと断言できるわ、顔を細かく作るとどうしてもそちらに目がいってしまうものだからね。あ、続けて頂戴」


「はい、ありがとうございます。次にこちら、胴体部分なのですが、いえ、ここは全身と言うべきでしょうか。ゆったりとした、まあ、言い方は悪いですが少しだぶついた感を出しています。おかげでかなり動きを阻害してしまうのですが問題はありません、理由は後で説明致しましょう。姫様はほっそりとされていらっしゃいますので、こういった感じを出すとまたいつもより違った可愛らしさを出せるのではないかと思いまして。それに、季節柄防寒機能にも優れているという、まさに一つの石で二羽の鳥を落とす様な機能美がここにあります」


 今度は肩部分を摘み、上げたり下ろしたりして詳しく説明をする。

 確かに結構だぶついてると言うか、ダボダボしちゃってるよね。腰部分が膨らんでる感じがしてけっこうな違和感だ。でも温かいからよし。


「そうよね、いつもスカートだし、こういうのもまた新鮮さがあっていいわ。色は白一色みたいだけど、それにも理由があるの?」


「そこまで大きな理由があるという訳ではないのですが、やはり姫様と言えば白色なのではないかと。単純な理由で申し訳ありません。そこは他の色も作り確かめていくという事で解決を目指したいと思います。続けて宜しいですか? 手は手袋になっていて自由に着脱が可能です。手の平部分には模様で済ます事無く、肉球をあしらったクッションを入れてあります。寒い冬、手がかじかんでいるときはちょっとした刺激も強く、痛みも感じてしまう事もありますからね、それからの保護にとも考えております」


 私の左手を持ち上げ、手の平をみんなに見える様に固定しながらまた意味不明な説明を続ける。


「ピンクで可愛らしいわ……。物が持てなさそうだけど、それはこの可愛らしさの前では何の問題にもならないわね。足、その靴、と言うよりはスリッパかしら? それもそうなの?」


「はい、こちらは大変残念なのではありますが、安定のために肉球は模様のみとなっております。足首まですっぽりと覆われる、靴やスリッパと言うよりは……、毛皮のブーツに近いかもしれませんね」


 言われて見ると足も温かい。もこもことした厚手の生地で覆われていて、先端部分は丸く球状に、四つに分かれている。まるで猫の足だ。


 ……うん? 猫?

 今更だけど両手を見てみると、こちらも猫の手っぽい作りの手袋。手の平にはぷっくりとピンクの肉球付き。なにこれかわいい。


「こちらも胴部分と同じくかなりの動きの阻害になってしまうのですが、そこは抱き上げさせて頂く事によって全て解決させる事ができます。これからの朝食のお時間も手袋は勿論着けたままで、どなたかのお膝の上に座って頂き……、ふふ、もう細かい説明は必要ありませんね。ご清聴ありがとうございます。長々とお耳汚しをしてしまい、大変失礼致しました」


 そう言うとシアさんは一歩後ろに下がり、綺麗なお辞儀で発表会(?)を締めた。



「いや、素晴らしいの一言だ! これは何か褒美を取らせなければならないな……。何でも言うといい、考えておいてくれ」


「そんな事言うとシラユキが欲しいとか言い出しちゃうわよ? だからそれ以外でね。……あ、残念そう、ふふふ」


「改めてお礼を言わせてもらうわね、バレンシア、本当にありがとう。まさかここまでの出来になるとは思ってなかったわ……。絵にして残しておこうかしら?」


「本人がいるんだから見たかったらいつでも着せればいいだろ? ああ、他の季節用も作っておいてくれな。さすがに全身は冬場だけになっちまうなあ」


「畏まりました。それでは朝食に移りましょう。姫様はエネフェア様のお膝へどうぞ」


「え? あ、うん? それは嬉しいけどその前に……」


 やっと目が覚めたよ! 鏡じゃ! 姿見を持てー!! 私今どんな格好してるの!?




 鏡で見た自分の姿は、案の定真っ白な猫のきぐるみだった。なにがどうしてこうなった……。

 私の冬場だけのこの全身きぐるみ仕様は、シアさん曰く『フルアーマー姫様』と呼ぶらしい。とってもどうでもよかったね。


 ちなみシアさんの部屋の『もふもふシラユキちゃん』も冬場はこの仕様にアップグレードされます。器用な人だよホントに……。







具体的に何歳の頃、とは決めていませんが、まだ十歳になるより前の話ですね。


もう一話冬のお話が入る予定です。

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