その23
「はいドーン!」
「わひゃあ!」
いつもの様に読書をしていたら、兄様がドアを開け……? 破壊して入ってきた。
「何でドア壊すの!?」
「破片が当たったらどうするおつもりです? ルーディン様」
「お前が止めるだろ、全部」
「それもそうですね」
「納得しちゃ駄目!!」
なんか少しズレてるよ二人とも!
「お兄様は大変怒っています」
「ルー兄様気持ち悪い」
「馬鹿な! あ、いや、普通に話そう」
最初からそうしてよ……
「お前引きこもりすぎだろ、外出ろ、外」
「あ、言われてみれば」
そういえば、ここ数日外出てないね。魔法の練習も全くしてないし。
だってねえ、本、面白いのよ。書いてある事のほぼ全てが未知の物なのよ。
「なんだ無意識か。そんなに気に入ったのか? 書庫の本」
「うん。色々な本があっていいね。シアさんに教えてもらいながら読んでたの」
最近は人種についての本かな。獣人の種類の本を、実際会った事のあるシアさんの感想を聞きながら読んでいる。
「すみません。私も言おう言おうとは思っていたのですが。姫様との二人きりの、至福の時間を失いたくはありませんでしたので、黙っていました」
「そこは言っとけ。ほれ、魔法見てやるから、外行こうぜ? あんまりこもってると伸びる背も伸びなくなるぞ?」
「行こう! すぐ行きましょう!!」
背! 今でも小さめなのに、さらに伸びなくなるとか嫌だ!
「いえ、是非このままで。背など伸ばす必要はありません。決してありません!」
「何でそこで力説!? シアさんも行こうよー」
「分かりました。姫様のお願いを私が断れるわけもありません。大丈夫です、いつも祈ってますよ。姫様の背がこれ以上伸びないように、と」
「私が小さいのってシアさんのせいなの!?」
何その祈り! 呪いでしょ!!
「んなわけあるか。バレンシアもあんまりからかうなって。見てて面白いからいいんだが……」
「ふふ。では、参りましょうか?」
「否定してよ!!!」
いつもお祭りをしている広場までやって来た。何かをするにはここは、確かに丁度いいスペースだ。
「シラユキはどんな魔法が使ってみたいんだ?」
「うーん? 急に聞かれても……」
私が使いたい魔法? 魔法、魔法ね。
攻撃魔法? 要らないよねそんなの。うーん、うーん……。
まずいな、特に何もいらなくね? 夜中使ってる明かりの魔法は便利だけどさ、それくらいだよね。
魔法と言えばやっぱり、攻撃系の魔法だろう。炎を出したり、水を出し、……水? 水って出せるの?
コーラスさんが使っていたのは、溜めてあった水をまく魔法、だからね。あれは水を自由に動かす魔法なんだろう。
ふむ、考えてみると、何か物理的な物を出す、っていうのは魔法で可能なのかな? 無から有をっていう感じの魔法。
あ、シアさんナイフ出したり仕舞ったりしてるよね。ちょっと聞いてみようか。
「ねえねえ、シアさん」
「はい? なんでしょう?」
「シアさんがたまに出すナイフって、あれも魔法で作ってるの? 魔法で作って魔法で消してるのかな?」
「いいえ?」
「え?」
あれ? 違うんだ。それじゃあのナイフはどこから?
「もう忘れたのか? 魔法はイメージを現象に変える技術だって教わったろ」
「あ、そっか。それじゃシアさんのナイフはどこから出してるの?」
現象、そうだったね。イメージが全てとはいえ、物理法則をそこまで無視はできないのだろう。軽めには無視してる気がするけど……。いいか、魔法だし。
「これですか?」
パっと左手にナイフを出すシアさん。嘘だッ!!! それ絶対魔法だろ!
「確かに魔法、と言えば魔法なのかもしれませんね。しかし、申し訳ありません。これは私にしかできないメイド技術、お教えすることはできないんですよ」
「世の中にはな、こういう一個人のみしか使えない、魔法のようなスキルがあるんだよ。バレンシアだからいいが、他の奴には聞くんじゃないぞ? 特に冒険者にはな」
「うん……」
固有スキルってやつ? か、カッコいい……。シアさんカッコいいよ! ナイフ出せるとか、絶対にメイドさんの技術じゃないよ!!!
「シラユキ、見てみな」
兄様はそう言うと、地面に手のひらをつける。何するんだろう?
「こういう事ならできる」
立ち上がった兄様の手には、いつの間にかナイフが。刃の部分は15cm程だろうか。うん? 全体的に茶色いな? 兄様の足元を見ると、小さな穴が開いていた。
「それって、土? で作ったの?」
「うーん。理解が早いのは助かるが、もう少し驚いて欲しいな」
「うわーすごーいどうやったのー?」
「すごいですねー? どうやったんでしょうねー?」
「くそう、こいつら……。ほい、持ってみろ。刃は潰してあるが、柄の部分を持てよ。あ、あと少し重いからな。気をつけろよ? 落とすなよ? 振り回すなよ? 人に向けるんじゃないぞ? 後は……」
中々渡してくれない兄様。なんという注意事項の数。なんだかなあ……
「どうしたの、ルー兄様?」
「んー、刃を落としてあるとはいえな? シラユキに刃物は持たせたく無いんだよな……」
またこんなところで過保護発動させて……。
「大丈夫だよそれくらい、偽者なんでしょ? 貸して貸してー」
「あ、ああ。バレンシア、目、離すなよ」
「承知しております」
「まったくもう……。そこまで子供扱いしなくても……」
ゆっくりとナイフを手渡された。
想像していたよりずっと重い。凄いねこれ、これを土から作ったんだ。重さからすると結構な量を固めてあるのかな?
こんな魔法もあるんだ。これは、力が強い人が大きさを変えて自由に作れるなら、立派な武器になるだろうね。
……武器?
「!」
「わ、っと……」
シアさんが急に私からナイフを取り上げた。どうしたんだろ?
「何も言わず取り上げなどしてすみません。ですが、姫様、ご自分が震えているの、分かります?」
「え? あ……」
震えてるね、何でだろう。いや、理由は分かるんだけどさ。
「果物とかさ、パイを切ってるナイフとは全然違うだろ? それは人を、生き物を傷つけるための武器の形状だからな」
「うん、だよね。怖い、ね。これも、魔法、なんだよね」
「こういった魔法は、あまり一般的に使われてはいません。魔力の消費の大きさ、維持できる時間の短さ、使用者の熟練が必要、と、かなりの上級な魔法の部類に入ります。冒険者で難なく、それも実戦で使うような者はいないと思いますよ。初めから武器を用意した方が……、すみません」
ちょっと続きが聞きたかったけど、いいか。焦らない、必要になったらまた話してくれるはずだ。
「ふう……。また泣き出すんじゃないかと思ってたが、大丈夫そうだな」
「うん。ルー兄様、ありがとね。父様の言葉、思い出せた」
魔法は、怖いもの。