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229/338

その229

「姫様……、姫様?」


 控えめに私を呼ぶ声と、ゆさゆさと軽く体を揺すられる感覚に意識を覚醒させられる。


「う……にゅ? シアさん……? ふわはふぅ……、おはよー……」


 目を開けて確認してみると、体を起こしたシアさんが覗き込むようにして私を見下ろしていた。


「おはようございます姫様。……なんという可愛らしさ、理性が飛んでしまいそうです。ふふ」


 うー、眠い、もう朝なのか。……うん? 起こされた? 珍しい事もあったものだね。


 いつもはメイドさんズ三人とも、私が自分から目覚めるまで頬を突付いたりして遊んでる筈なのだが……、今朝はいつもの時間に目が覚めなかったのか私は。心配させちゃったかもしれない。これはきっと、寒いせい、つまり冬のせいだ。やはり冬なんて無くなってしまえばいい。


「さむーい。シアさんもっとくっ付いてー。後もう少し寝かせてー」


 体を起こしているシアさんの腰に、抱きつくようにくっ付いて甘える。


 この暖かさと安心感、素晴らしいなさすがシアさん素晴らしい。うーん後五分、むにゃむにゃ……。


「ひ、姫様可愛らしすぎます……!! あ、いえ、すみません。至急お伝えしなければならない用件があり、少し早い時間なのですが起きて頂いたのです」


 そう言うとシアさんは丁寧に私の腕を解いてベッドから降りてしまう。温もりが離れて行ってしまった……。


 んー……? なんだ、寝坊した訳じゃなかったんだ。それならその伝えないといけない事を聞いて、それからまたもう一眠りさせてもらっちゃおうかな。……至急?


「何かあったの? 話して」


 至急という言葉に目が覚めた。でも寒いので毛布にくるまりながら聞かせてもらう。


「特に大事があった訳ではないのでご安心を……。あちら、窓の外なのですが、姫様のお友達がいらしてますよ?」


 ストールを羽織ながら、あちら、と、窓の方へ手を向けるシアさん。


 ほほう? 言われて見れば窓がカタカタと揺れてる音が小さく……。


「へ? ……え!?」


 お、お友達? 窓から? だ、誰なの!? そんなの全力で不審者だよ!! 不法侵入者だよ!!

 それに、小さなベランダがあるって言ってもここは三階だよ!? 危ないよ!! 玄関から来ようよ!!


 いくらお友達とは言え私の部屋に直接乗り込んで来ようとは、普通に侵入者扱いでいい筈だ。とりあえず起き上がって、カーテンの閉まってる間に着替えさせてもらおう。の、覗かれないよね?


「落ち着いてください姫様、寒い朝急に動かれるとお体に触ります。ふふ、まだ少し寝惚けられているのでしょうか……。姫様? お友達……、秘密の広場のお友達、ですよ? ふふふ」


 何やら楽しそうな声色で微笑みながら、起き上がった私の肩に自分のストールを掛けてくれるシアさん。今までシアさんが羽織っていた物なのでほんのりと温かい。


「う、うん……。ありがと」


 ありがたいけどシアさんにもまた何か羽織ってもらわなきゃ……、うん? 秘密の広場のお友達……? あ、ああ! なーるほどね。

 いやあ、寝惚けてた寝惚けてた。シアさんが全く動揺も警戒もしてないところから気付かないといけなかったね。つまり、現在進行形で窓を揺らす侵入者は、侵入者には変わりはないがそれは人ではなく……。


 寒さを堪えパッとベッドから降り、急いで窓の方へ向かう。まあ、ほんの数歩の距離なのだが。


 まさかまさか、まだ触る事すらできてないのに家に遊びに来てくれるとは!! もしかして冬場は遊びに行かないから私を心配して……? なんていい子なの! 感動した!!


 サーッとカーテンを一気に開けつつ、歓迎の言葉を口に出す。


「タイチョー! いらっしゃー」


「しししシラユキ、やっと来た。あああここ開けてててええええ……」


「い!? グリニョンさん!!?」


 しかしそこにいたのは、角リスの二代目タイチョー、ではなく、寒さに震えカタカタと窓を揺らすグリニョンさんだった。確かに秘密の広場のお友達だ。うん。


 な、なるほどね、寒さで窓ごと震えちゃってたのか……。考えてみたら結構大きめと言ってもリスだもんね、窓は揺らせないかー。……じゃなくて、どういう事なの……。




 ふむ、ここでいきなり請われるがまま窓を開けるような迂闊な真似はしない、まずは野生の生き物に対しての第一行動を行う。それは……、観察だ!


 服装は、冬なのに相変わらずの可愛いワンピース一枚、可愛いけど超寒そう。足元は見えないけど、シアさんが渡した靴をちゃんと履いていると思う。髪も前に会った時と変わらず伸び放題だが、伸びるがまま放置している感じではなく、ちゃんと櫛で梳いて整えてありそう。これはシアさんの教育の賜物だね。目が隠れてしまっているのが何となく可愛く見える。


 上から下までざっと見た感じ、服にも髪にも肌にも、目立つ汚れは一切無い。私の家に来るからと綺麗にして来てくれたんだろうか? これなら開けても大丈夫そうかな……。


「は、はは、早く! 開けて! 外寒い!!」


 おっと、まじまじと観察していたら切羽詰った様な催促が飛んできてしまった。いつもののんびりとした余裕の構えが見る影も無い。窓の音もカタカタからガタガタに変わっている、もう猶予はあまり無さそうだ。


 ……しかし! まだ確認する事が、最重要事項が一つ残っているのだ!!


「パンツははいてる? ノーパンな人は部屋に入れてあげませーん」


「穿くから! 穿くから中に入れて!! バレンシアも笑ってないでたーすけてー!!」


 やっぱりパンツはいてないよこの人は!! まあ、きちんと穿いてくれるのなら入れてあげようじゃないか。



 止め具を外すと勢いよく窓を開き、私の頭上を飛び越えて部屋に飛び込んでくるグリニョンさん。そして私が驚くよりも早く、そのままの勢いでベッドに潜り込んでいってしまった。


「さ、寒い! 窓ちゃんと閉めてよ!! パンツは穿いてくれないの!?」


 部屋の暖かい空気が逃げてしまう! そこまで暖かく無いけど! 冷気が部屋に入って来る!! ああもう! シアさんも笑ってないで暖房の魔法使ってよ!!


 慌てて窓を閉め止め具をはめ直し、カーテンも閉める。そして脱ぎ散らかされたグリニョンさんの靴を揃えていたシアさんに抱きついて暖を取る。


「ううう、シアさんあったかーい。グリニョンさんだって言ってくれればよかったのに……」


 私の驚く顔がそんなに見たかったのか! これだからシアさんは……。


「ふふ、申し訳ありません。さ、ベッドに戻りましょう、これ以上お体を冷やしてはいけません、お風邪を召してしまいます。もう一眠り、とまでは参りませんが、暫く横になってお話でもしましょうか」


 私を抱き上げて、温めるようにギュッと抱きしめ、そのままベッドへ入るシアさん。捲られたフトンと毛布の下にはグリニョンさんが猫の様に丸くなっていた。可愛い。

 とりあえずど真ん中に居座るグリニョンさんをコロンと転がし、私とシアさんも横になる。私が真ん中になる並びだね。



「う、ベッドが冷たい……。グリニョンさん起きてる? 今日はいきなりどうしたの? シアさんもっとくっ付いてー」


「はい、姫様。ふふふ」


「うあー、ごめんシラユキ。冬はいつもこうやって人の家に勝手に上がり込んで過ごしてるんだけどさ。今年はいつもより寒さが強いのと、後なるべく体を洗う様にしたのがいけないね。凍えるかと思った。勝手に風呂使ってたら家主に見つかりそうになって逃げてきたんよー」


 勝手に上がり込んじゃうのはやめようよ……。泥棒か何かかと勘違いされちゃっても知らな、グリニョンさんは普通に泥棒さんだった……。


「湯冷めどころか凍死しちゃうよそれ。誰かの家で寒さを凌ぐのもいいけど……、よくないけど、まずはもっと服を着ようよ。厚着をするっていう考えは無いの? それにグリニョンさん魔法だって使えるんでしょ?」


 これでもかと厚着をして、さらに魔法で周りの空気を温めれば、寒い冬の夜も何とか過ごせるんじゃないだろうか? 寝ちゃったらアウトっぽいからやっぱり駄目かもしれないが。


「厚着をしたら負けかなと。魔法に頼るのは逃げかなと。冬でも全裸で過ごすのがわたしの生き方。この服一枚が最大の譲歩」


「そんな生き方捨てて! 何と戦ってるの!? その内に本当に死んじゃうよ、もう……」


「あはは、今日はさすがに死ぬかと思った」


 何百年もこんな生活をしてきてるんだから大丈夫だとは思うんだけどね……。心配だよ。


 む、グリニョンさんの側から冷気が漂ってくるような気配がする。まだ体は冷え切ったままか。


 寒いのは嫌なので、逃げるようにしてシアさんに抱きつく。


「ふふ、この方はやはり面白い方ですね、かなりの年上の筈なのにお世話のし甲斐がありそうな……。グリニョンさん? 冬の間の最終避難場所としてここを選んだのは確かにいいお考えなのですけど、姫様の添い寝当番は日替わりですので、次の私の当番は三日後なんですよ? 今日はたまたま運良く私だったからよかったものの、次からはお気をつけくださいね。勿論ウルギス様エネフェア様に急遽変わられる場合も……、ああ、そちらは逆に問題はありませんか」


 別にメアさんフランさんと、後姉様にも見つかってもいいと思うんだけどね。グリニョンさんは知らない人と新しいコミュニケーションを築くのを相当面倒くさがってるんだよね……。私は小さな子供だから話しやすいのと、兄様は昔一度会った事があるからまだ話しやすいのかもしれない。まあ、兄様の前には全然顔を出さないみたいだけど。


「ほいほい了解。んー、まだちょい寒い。……お? いい物があった」


「いい物? ……!!? 冷たい!!!」


 抱きつかれた!! 冷たい!! ひゃああああ!! 体温が一気に奪われていくー!!!


「さすが子供、ぬくいぬくい」


「ひい! 足絡めないで!! つーめたーいー!!」


「な、なんという可愛らしい反応。見ていて大変微笑ましいのですがあまりお暴れにならないように……。ふふ、姫様、グリニョンさんの体が温まるまでもう暫くご辛抱くださいね。さ、どうぞ、もっと私に強く抱きついてきてください」


 ううううう、シアさんあったかーい。でも背中側がつめたーい。




「あ、三人とも裸になるか。こういう時はやっぱ人肌で直に温め合うのがいいんよ」


「それはとてもいいお考えですね! ささ、姫様、お脱がせ致しますよ」


「やめて!! 確かに裸でくっ付くと温かいとは思うけどやめて!! ……う? グリニョンさん既に全裸!?」


「いや、だってわたしは元々一枚しか着てなかったし。ほれほれ脱ーげ脱げ」


「シアさんだけならいいけどグリニョンさんはまだだーめー! 恥ずかしいよ。あ、今度一緒にお風呂入ろう? まずはそれからね!」


「めどい! けどシラユキとなら入ってもいいかもに」


「では私は次の当番の日を楽しみに待つことにします。うふふふふ」


「ひい! シアさんとはお風呂に毎日一緒に入ってるから平気な筈なのに、何故か口走ってしまった感が……」


「そうだ。ほーれ、おっぱい吸う? シラユキおっぱい好きなんよね? 出ないけど」


「吸いませんー!! グリニョンさんって背は低いのにちゃんと胸は膨らんでるんだよね……。なんで!?」


「なんでと言われても。まあ、勝手に? 自然に? こう見えても大人だって何回も言ってるじゃん」


「大人ならもっと大人らしく生きて!」


「大人らしく自立してるよん」


「確かに! でも何となく納得できない!」


「グリニョンさんはあまり年齢相応には見えませんよね……。まあ、可愛らしくていいと思いますよ。姫様も自然と近い年のお友達のようにお話しされていますし……、ふふ、ありがたい事ですね」




 確かにグリニョンさんってなんでか凄く話しやすい人と言うか、話してるだけでも楽しい人だよねー。たまーにしか会えないけど、本当に大好きなお友達だよ。


 でも相変わらず野生全開、なのはまあ、いいとしても……


「次来る時は、あ、来る時だけじゃないや。パンツはいつも穿いてね! そうしないともうクッキーあげないよ!」


「めどい! クッキーは勝手に持って行くから別にいいよ。んじゃおやすみ」


「自由すぎる!!」


 パンツだけは絶対に穿かせてみせる……!!







二代目タイチョーが就任した頃のお話でした。

グリニョンは本編には殆ど出てきませんが、こうやってシラユキとシアさんの前にだけはちょこちょこと顔を出しにやって来ています。

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