その222
過去パートで、少し短めです。
「ねえねえシラユキ? いきなりだけど、私がシラユキのお世話役を辞めるって言ったらどう思う?」
「え……? え?」
朝食を食べ終わり、シアさんとメアさんがその片付けに部屋を出て行ったそのすぐ後。二人と入れ替わるようにして部屋に入って来たフランさんは、私を膝の上に乗せていきなりこんな一言を口に出した。
フランさんが私のお世話役を辞めちゃう? そんな……、そんな……!!
思えば今日のフランさんは朝から様子がおかしかった様な気がする。昨日寝るときはフランさんの当番で一緒に寝てた筈なのに、起きたら何故かシアさんと一緒に寝ていた、理由は教えてもらえなかったが。起きてから朝ご飯までの間も顔を見せず、食べ終わった今やっと会えたと思ったらこのセリフだ。
様子がおかしいと言うよりは、ただいつもより早く起きてシアさんと交代して裏で何かをしていた、という事なんだけど。まさか本当に家から出て行ってしまうつもりなんじゃないだろうか?
まあ、でも、考えてみたらフランさんも普通にこの森の住人なんだから、私のお付メイドさんを辞めるだけで二度と会えなくなる訳じゃない。旦那さんとの愛の巣もここからそう遠く離れていないしね。会おうと思えばいつでも会いに行ける範囲だ。
ちょっと、いや、かなり驚いてしまったが、それならば私の返答は決まっている。
「やだ……、絶対やだー……」
言いながら体を横向きにしてフランさんに抱きつく。
答えは「絶対にNO!」だ!!
フランさんが私の家から出て行ってしまう。そんな想像しただけで涙が出て来てしまった。この大好きなメイドさんであり家族のフランさんと毎日会えないのは耐えられない! 耐えにくい!! 会えないと言うか甘えられないのは、の間違いかもしれない。
ギュッと抱きつく力を強める。絶対に嫌だと行動で示す様に。
「わ、あ、ちょ……。ごめんねシラユキ、聞いてみただけだから泣かないで……。う、うーん、罪悪感が凄いったらないわコレ。例えばの話ってちゃんと付けるんだった」
優しくあやす様に私の頭を撫でてくれるフランさん。
私はそれに対して、グリグリと胸に顔を押し付ける様にお返しをした後フランさんの顔を見上げて、まずは今のセリフの理由を聞いてみた。
「聞いてみただけでも今のはひどいよ……。私が大人になるまではメイドさんでいてくれるんだよね? ……あ、もしかして、子供が欲しくなっちゃった?」
理由を聞いてみようとしたのだが、自分で思い当たってしまった。思い出した、と言った方がいいかな。
フランさんは私のあまりの可愛さ(?)に、自分でも子供を作ろうかな、なんて言っていた時期があった。でも私が寂しそうな顔を見せてしまったので、本当に自分の子供が欲しくなるまではメイドさんを続けてくれると約束、はしてないけど、そう言ってくれていたのだ。
「かっわいいい! あ、ごめんごめんね? ううん、そういう訳でもなくてね。えっと……、何て言ったらいいかな」
フランさんは少し困った様に、答えを探す様に悩み始めてしまう。それでも私を撫でる手は止まらないのがとても嬉しい。
なんだ違うのか。本当にただ何となく聞いてみただけなのか。それならば安心して甘えよう。
「とにかく私はフランさんがお付じゃないとやーだー。でも、その、本当に赤ちゃんが作りたくなっちゃったなら寂しいけど納得するからね。それまでは一緒にいてほしいなー」
ふにふにうりうりと、フランさん、のおっぱいに全力で甘える。シアさんとメアさんがいない二人っきりの今、思い切り、全力で甘えるチャンスだ!
「こういう場合だとちゃんと素直に自分の気持ちを言えるのねー、この子。それとも私は特別? なんて思っちゃうのはいけない事かな。はいはいシラユキ、甘えるのはちょっとだけ後にして今はこっち向いて」
私を軽く持ち上げて、お互いの額ががくっ付いてしまうくらいの距離まで顔を近づけるフランさん。
「シラユキは私にお付のメイドさんでいてほしい。これで間違いないわよね? あ、勿論私もシラユキのお世話役は続けたいからね? シラユキを毎日甘やかせないなんて、考えただけでも悲しくなっちゃうわ」
なんだろう? 最終確認っぽい。もしかしたら本当に何か大変な事でもあった? 人事異動的な。でも今の言葉はもの凄く嬉しいな。
「うん! フランさんが自分の子供を欲しくなるまでは、それか私のお世話なんてもういやーってなっちゃうまでは一緒がいいな!」
「嫌になんてなる訳無いじゃない! ああもう、可愛すぎ!! あ、キスしようキスするよキスさせて? んー、んっんっんっ」
「わ、わぷっ、くすぐったいよ! ひゃあ! 耳噛むのは反則!!」
キス乱舞のお返しに、私も胸を揉みまくってやる!!
キスとおっぱい揉みの応酬も一先ず落ち着き、ゆったりとフランさんに持たれ掛かって甘えながら朝食後の休憩を続ける。ご飯の後のいい運動になったよ。
「さて、もう一回だけ謝らせてね、シラユキ。不安にさせて、泣かせちゃって、本当にごめんね」
後ろから私を少し強めに抱きしめながら、耳元ではっきりと聞こえるように謝るフランさん。
もう、確かにショックは受けちゃったけどこれくらいで謝らなくてもいいのに、と、顔が丁度いい位置にあるのでフランさんに頬擦りをしたその時、頬が少し濡れたような感触がした。
指先で自分の頬に触れ、見てみると、確かに濡れている。水がほんの数滴付いてしまったくらいだが間違いない。
……まさか! フランさん泣いてるの!? お、大袈裟すぎるよ気にしすぎだよ!!
「うん? どうしたのシラユキ? 私の顔に何か付いてる?」
あれ? 泣いてない、よね? ううむ、私の気のせいだったか……。でも確かに濡れた感触があったのと、実際私の頬が濡れてるんだよねー、って! 私の涙かこれ!? 安心しすぎて無意識の内に泣いちゃったのかまさか。は、恥ずかしい勘違いをしてしまった……。
ぐしぐし、と頬と目の辺りを袖で拭った後、もう一度フランさんの顔を見上げる。
「め、目と鼻と口と……。う、うん、いつもの美人さんの私の大好きなフランさんだね!!」
「あーら嬉しい。ちょっと誤魔化しが入ったような言い方だったけど……、ね?」
何故ばれたし!!
ううむ、なんだろうこの、嬉しくて楽しい気持ち。とりあえずフランさんは何となく聞いてみただけで、まだずっと私のお付メイドさんでいてくれるのは間違いないんだよね?
よし、あまりに嬉し楽しすぎるので今日は特別に……。
「フランさんちょっとこっち向いてー」
「なあに? シラユキー。あー、何この可愛さ、食べちゃいたい」
ずずいっと身を乗り出し、気が緩んでいるフランさんにキスをひとつ、してみた。……唇に。
「おおお思ったより恥ずかしいいいいい……」
してみるまではいつもと同じ感じだったのだが、驚いた様な表情のフランさんと目が合った瞬間、一気に恥ずかしさが膨れ上がってしまった。
「う、わ……、嬉しい……。もう子供なんていらないわこれは……。シラユキ、ありがとね。私も大好きよ、ふふふ」
フランさんはとても嬉しそうに、恥ずかしさに縮こまる私を後ろから抱きしめて頬擦りをしてくれる。
考えてみたら自分から唇にキスするのなんて初めてじゃないか!? 本当の意味でのファーストキスだったんじゃないのか今のは!? ……フランさんならいいか、大好きだし。
「フランずるい!!」
「さすがに今のは許せませんよ! 姫様の方から唇になど私も一度も無いというのに!!」
唐突に、何の脈絡もなくメアさんとシアさんが乱入してきた。
「二人ともいつからいたの!? 隠れて見てたの!?」
「あはは……、二人ともありがとね。それと、ごめんね?」
「ごめんで済みますかまったく!! 姫様! 私にもお願いします!!」
「いいよいいよこれくらい。あ、私にもお願いねー、ひーめ?」
「流された! ずっと見てたの二人とも? は、恥ずかしい!!」
どうやらフランさんが二人にお願いして、私と二人っきりの状況を作ってもらっていたみたいだった。
さっきの質問の真意は分からないまま終わってしまったけど、フランさんがこのまま一緒にいてくれればいいや、と悪い考えは全て吹き飛ばしておく。肝心のフランさんはまた二人と入れ替わるようにして、何故か晴れやかな、すっきりとした表情で部屋から出て行ってしまったので聞こうにも聞けないのだが……。
「私も好きな人が出来て、恋人になれるくらいまでは姫のお世話役でいるからねー。だから私にもキスして!! 舌も入れていいから!!」
「私の愛する方は姫様です、一生お側を離れませんから……。なので私にも! 唇に! 是非!!」
「何その本気の目! もう! ほっぺで我慢してよほっぺで!!」