その22
今回は二話投稿です。
こっちを先に開いてしまった人は、先にその21の方へどうぞ。
分かりにくいタイトルですみません。
「素晴らしい説明だった! さすがはバレンシアだ。シラユキの反応の可愛い事可愛い事……」
「ええ、特に最後の一言の後のポカーンとした表情。いい物を見せてくれたわ」
「お褒めに預かり光栄でございます」
みんなからシアさんに、盛大な拍手が送られる。
こののほほん軍団は後回しだ! 頭の中を整理しよう。爆発するのはそれからでも遅くはない。
私が気軽に詠唱破棄で使っていた明かりの魔法は、いや、詠唱破棄で魔法を使う、という事は、通常難しいものなのか?
家族のみんなは普通に、全く普通に使ってるよね。お祭りの時とか、広場で父様と暴れてる人たちだってそうだ。
メアさんは得意、という訳ではないけど、別段苦手、という事でもないらしい。メイドさんだしね、あれくらいが普通、なんだろう。
その詠唱破棄、さらにノーモーションで使っていた私は、五歳で使いこなしていた私は、なるほど、天才か。
ほうほう、なるほどなるほど。まとまった。
「説明は分かった、けど、どうしてこういう事に、内緒にしてたかも教えて欲しいな」
「あら? 随分落ち着いてるわね。もっと慌ててくれると思ったのに」
「この子ホント頭良いわよね。十歳とは思えないわ」
コーラスさんと母様は仲良さそうだな。年が近かったりするんだろうか?
「あー、あれだよ。お前のためだ」
兄様が答える。
「私のため?」
天狗にしないためかね。わざわざ緘口令まで敷いていたんだっけ? 大袈裟な……
「ああ。あの夜さ、お前が初めて魔法を成功させた夜。シアに聞いて驚いたぜ?」
「そうそう。珍しくシアも慌ててたもんね」
あの時の事か、懐かしい。ホントに無意識で成功させちゃって、達成感も何もあったものじゃなかったよ。
「そこで俺たちは思ったわけだ。これを、五歳で詠唱破棄という異常さを、すまん、異常は言い過ぎた。五歳で詠唱破棄が使えるという事を、普通、だと思い込ませよう、ってな?」
普通に、思い込ませる? 私に? ちょっと分からないな。もう少し大人しく聞くか。
「ちなみに、俺、たち、などと仰っておりますが、発案者はもちろん、緘口令も全てウルギス様の仕業です」
「な!? 余計な事は言わないと約束したろう!?」
いきなり名前を出され慌てだす父様。ほほう……
「はい。余計な事ではなく、必要な事、ですから」
「しまった! 言い様で何とでもできたか!!」
犯人は父様。なるほど、覚えたぞ……
しかし、ちょっと話が逸れそうだな。修正しなきゃ。
「それで、私に内緒にしておくと、どうなるの? どうなったの?」
「うん? 分かりにくかったか?」
「分かりにくいと言うか、全然分かんないんだけど……」
「あれ? 珍しいな。いつもならちょっとした言葉からも全部理解しちまうってのに」
それは今までの経験と言うか、元日本人としての常識と照らし合わせてただけだからね。
「そうよねー。よし、それじゃお姉ちゃんが説明してあげましょうか」
「うん。お願いユー姉様」
さて、どんな理由があったんだろう。
えっとね? 全部シラユキのためだったのよ、さっきも言ったけどね? そのレベルを普通だと思い込ませようとしたの、これもさっき言ったわね。
酷い事言うみたいだから嫌なんだけどね、五歳で詠唱破棄とか本当に異常よ? あ! お母様ごめんなさい! シラユキも泣かないで!!
ふう……、続けるね?
私もお兄様も、天才って呼ばれる部類に入るんだけどね。私が詠唱破棄を初めて成功させたのなんて四十歳くらいの時よ? もちろん身振り手振りあっての事。ノーアクションで発動なんて今でも一部の魔法しかできないわ。
あの日、あの夜、お父様に、シアに、全員集められて言われたのよ。シラユキが初めて魔法を成功させました。ってね?
それにしては、お父様もお母様もシアも浮かない顔してるな、って思ったのよ。そしたらね? 初めて発動させたのが詠唱破棄でって言うじゃない? みんな固まっちゃったわよ。
五歳で魔法を成功させるのも凄いのに、さらに詠唱破棄よ? 天才とかそういう一言で済ませられるレベルじゃないって。
シアが言うにはね、お兄様が詠唱破棄で手本を見せていたのが原因じゃないかって。それを普通レベルと思い込んじゃってるんじゃないかって。
そこで、お父様が思いついたのよ。もう一回言うわね。お父様! が! 思いついたのよ。はいお父様逃げようとしなーい。
このまま思い込ませていたら、勘違いさせたままなら、どうなるか? ってね。どうなると、どうなったと思う?
あれ? 分かんない? おかしいな……
シラユキの今のレベルが普通なら、練習すればもっと、もっと上のレベルになると思わない? それこそ世界一、くらいのね。お父様越えも夢ではないわ!
あー、そういうことね。普通のレベルを思い込みで上げて、伸びしろを伸ばした感じか。
エルフの四十歳は人間に換算すると……、十三歳くらいか? ほうほう。兄様姉様は天才少年少女だったと。
でも、それってさ?
「それ、今言っちゃったら駄目なんじゃないの? 私もうこれが普通じゃないって分かっちゃったよ?」
元に戻っちゃうんじゃないの? 元、と言うか、普通にさ。
「ないない。魔法っていうのはイメージが全て。もうシラユキには、詠唱破棄が普通だって言うイメージが根付いてるはずよ。それに……、あ、こっちの理由はいいか」
「そのためにわざわざ緘口令まで敷いて、お前の前では詠唱なんてしないように気をつけていたんだよ。国民全員でな」
「はー」
過保護ってレベルじゃねーぞ!! ……失礼。
「む、娘の魔法のために国一つがかりとか! 父様やりすぎよ!! 五年もみんなに迷惑掛けて!!」
「やりすぎではない! 普通だ!!」
「娘の教育のために緘口令敷く普通がどこにあるのよ!! ここにあるぞ! とかは無しね!」
「ここに、うお! 心を読まれた!?」
お約束よ!
「まあまあ、お前にとっては五年も、だけどな。俺たちにとっちゃ、たった五年、だもんなー」
「そうよ? まさか、内緒にしてた事じゃなくて、国民に迷惑を掛けていた事の方を怒るのは、さすがに予想外だったわ」
「ああ。なんて優しい、なんていい子なんだシラユキは……」
そんな事で褒めたってごまかされないわよ!
「本当、いい子に育ってくれて嬉しいわ」
「ユーネより大人なんじゃないか? もう」
「うう……、お姉ちゃんとしての威厳が……。そうね! そうかもね!」
「ホントホント、十歳には見えないって。さすが姫。やっぱり私も子供欲しくなったわ」
そ、そうかな……。なによ、もう、みんなして。えへへ……
「ちなみに、姫様がホイホイと詠唱破棄で使っている明かりの魔法ですが、それなりに難易度の高い魔法だったりします。熱も質量も持たない光源、と考えれば姫様にならお分かりになられるかと」
!?
全員超反応。
なんですって!?
「こ、こら! バレンシア! いま折角ごまかされかけてたのに!!」
「何でそれを、しかも今のタイミングでバラす!?」
「申し訳ありません。メイドの勘が、今だ、ここでバラせ、と告げていましたので……。それと、この件については、ウルギス様、ルーディン様の共謀、と、付け加え説明しておきます」
「や、やめろ!!」
「それ以上言うなバレンシア!! はっ!? いや! もう無いぞ? もう何も秘密になどしていないぞ!!」
「ねーさまねーさまー」
「な、なあに?」
「前に言ってた魔法、教えて欲しいなー」
「え? ど、どんな、魔法だったかな?」
「超広範囲を? 無差別に? 殲滅する? 魔法?」
「逃げて!!! お父様お兄様全力で逃げて! 今のこの子なら教えなくても成功させちゃいそうだから!!」
なあに、教えられなくても今なら簡単にできそうさ。父様がお祭りの時に暴れてるのは、記憶に強く残ってるからね……
父様兄様は一瞬で窓から飛び出して行ってしまった。速いなー、あれ。私もやってみたいな。
何か、何でもできそうな気になってきちゃったよ。でも焦っちゃ駄目、まだ十歳になったばかり、ちょっと前に町で感じた、思ってしまったことを思い出そう。
ゆっくり、ゆっくりね。のんびりと、のほほんと進んで行こう。