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219/338

その219

過去パートです。

「ではまずは……、ふむ、何からがいいでしょう? 私はこういった基本的な物をお教えするのはあまり得意な方ではないのですよね……」


 パーフェクトメイドさんのシアさんが悩んでいる。


 確かにシアさんは何でもできる凄いメイドさんなんだけど、基礎の基礎、まずはここから始めよう、っていうのは専門的な人でない限り中々思いつけなさそうだよね。普段何気なく使っている物なら尚更だと思うよ。

 しかし美人さんは悩む姿も様になるなあ、羨ましい。私も将来的にはこんな風に……、なれるとは思えないね。くそう。


「日常生活で使えておいた方がいい物を一通り、か? ユーネにはどう教えたんだったかな……。ま、実際色々見せてやってみるか。あー……、何からって言うのはホントにパッと思いつかないもんだな」


 シアさんの隣で兄様も悩む。


「はい……。それでは姫様が既にお修めしているものの復習から……、まずはこれですね」


 そう言うとシアさんは左手の平を上に向けて前に出し、光の玉を魔法で作り出す。


 あ、『ライトボール』ね。はいはい、ポンッと。


「それは今更復習するようなモンでもないな。次は風だ。これも前に何度かやってただろ?」


 右手で軽く何度か、扇ぐ様に手を動かす兄様。そのすぐ後にそよそよとした心地良い風が流れてきた。


 うーん、涼しい、さすが兄様風量が適量すぎる、制御が上手だね。それじゃお返しに……、はっ!? あそこだ! あそこを狙うんだ!!


 シアさんの足元、膝元か? そのあたりを狙って少しだけ強めに風を送ってみる。名付けるなら、『スカートめくり』の魔法。セクハラ魔法だ。


「シラユキ?」「ひ、姫様?」


 ハタハタとはためくシアさんのスカート。しかし押さえている訳でもないのに一向に捲れ上がる気配はない。ミニスカートなのになんという手強さだ……!!





 十歳になって町にも自由に行ける様になってから約一年。そろそろ新しい魔法、これを覚えておけば日常生活において便利だと思われる魔法をいくつか教えてもらえる事になった。

 場所はいつもの広場で、先生は兄様とシアさんの二人。シアさんの全力の甘やかしに兄様がやんわりとストップをかける。素晴らしい先生コンビだと関心はするがどこもおかしくはないね。

 見物人の周りのみんなに笑われないように、しっかりとやる気を出していこう!



「もっと頑張れと言いたいところだがその辺にしとけ。慣れない魔法はいきなりそう何度も使うもんじゃないぞ? 今日はまだまだ色々教えてやるつもりなんだから最初っから疲れちまう様な真似はすんなって」


「そうですよ、姫様。私のスカートでしたら、この後二人っきりになった時にでもお好きになさって頂いて結構ですから。うふふ、勝負下着に穿き替えておかなければ……」


「あ、うん、ごめんなさい。でも別にシアさんのスカートの中身に興味がある訳じゃないからね? 嬉しそうに言わないの!」


 一回思いっきり手で捲った事はあるけど、私以外に誰も見ていなければ全く抵抗する気配さえ見せないんだからシアさんは……。抵抗どころか逆に大喜びされちゃう始末だよ。

 まあいいや、この魔法は他のメイドさんズのみんなに使おう。メアさんくらいの長さなら多分普通に捲れるだろう。うん、楽しみだ。


「後シラユキが使えるのは、『落下の勢いを抑える魔法』だったか? 少ないな……。しかも一つだけ中級者向けと言うか、どっちかつーと上級者向けの魔法だなこりゃ」


「使えるって言っても、使えるだけで実際に使う機会は全く無いけどねー」


「明かりの魔法も姫様のお使いになっているものになると、どちらかと言えば中級者以上向けになるのではないでしょうか? 大抵の方は熱を無くす、とまではいかないものです。まあ、態々光を作り出さなくとも魔法で小さな火を出し、ランプに灯す……、ああ、火がありましたか」


「おお、基本だな。火は一応見せてある、のか? 父さんがよく祭りのときにでかい火の玉出してるだろ。あんなのはできなくていいけどな。ほれシラユキ、こんな感じでどうだ?」


 右手の人差し指を立て、その少し上に2,3cmくらいの小さな火を燃やす兄様。


 おお、こうやって実際に目の前で火系の魔法を使ってもらったのは初めてかもしれない。しかし、どこからどう見てもライターだねあれは……。どれどれ、私もやってみよう。


 兄様の真似をして右手の人差し指を立て、心の中でライターのスイッチを思い浮かべてから、そのスイッチを押すイメージ。すると、ポッと小さな音を立て、兄様が出した物と同じくらいのサイズの火が指先少し上に出現する。……あっさりと成功してしまった。


「コイツはまた……。もう消しとけ、次々行くぞ」


 何やら呆れられてしまったみたいだ。でも次の魔法が楽しみなので、言われるまま素直に、息をふっと吹きかけて消しておく。


 ふふ、燃えたろ? なんちゃって。


「姫様、こちらのコップの水を冷たく冷やしてどうぞ。少し前にかき氷を皆で楽しみましたアレの要領です。夏場にはとても便利な魔法になりますよ」


 はーい。コップごと冷やしちゃうイメージでっと……。冷えた冷えた、一口飲んでみよう。……う、冷やしすぎた。頭にキーンときちゃうよ。

 うーん、外出先で冷たい飲み物を飲む事ができるのは本当に便利だね。残ったのは凍らせて後で溶かして飲もう。一気に温度を下げてカキーンと。


 一瞬でコップに残った水を凍らせる。

 冷やすのはともかく凍らせるのは初めてだったが上手くいってよかった。冷やすのは『クーラー』の魔法で結構慣れていたから簡単にできたのかもしれない。


「マジか。なんだコイツすげえ」


「もう呆れると言いますか、笑いが込み上げてきてしまいますね。さすがは姫様です」


 うん? 何が? と、冷たすぎて手が痛くなってきた……。




 その後簡単に、教えてもらった魔法の応用的なものをさらにいくつか教えてもらい、それを全部軽くやって見せたら兄様からこんな一言を頂いた。


「さてシラユキ、もう教えるものは何もない。よく頑張ったな」


 グリグリと兄様に強めに撫でられる。


 わーい、褒められ……、なんですって?


「もうないの!?」


 早い! 早すぎる!! もっと他に色々あるでしょ? ええと、アレだよ、アレ。……思いつかないけどさ!


「だってなあ、教えるまでもなくできちまうんだからしょうがないだろ? 次に新しく教えるのは五十くらいになってからだな。これだって普通は何年もかけて使えるようになっていくのが当たり前なんだぞ?」


「ええ。後はもう魔法を使う事自体に慣れて、効果の調節をもっと細かくできるようになって頂ければ充分ですね。王族の方や私の目の届く範囲でしたらご自由にお使い頂いて結構ですよ」


「う、うん……」


 えー、もう終わりなのー? 折角今日は色々魔法を教えてもらえると思って楽しみにしてたのに。私らしくなく張り切ってたのに! 後は自主練習だけとかやる気でないよ……。


「……では、姫様? お使いになられたい魔法は何かおありでしょうか? このまま終えてしまうのもなんなので、何かお一つお二つくらいでしたら……」


「え? いいの?」


「おいバレンシア、魔法に関しては甘やかすなって。またコーラスが怒鳴り込んで来たらどうすんだ……」


 私の残念そうな空気を気取ってかシアさんが提案してくれたのだが、兄様に注意されてしまった。


 ああ、うん、あの時のコーラスさんは本当に怖かったね……。


「勿論そのまま乞われるがままお教えするなど致しませんよ。まずは姫様からどんな魔法をお使いになられたいのかをお聞かせて頂いてから、実際にお教えするのかどうかはその後決めましょう」


「ん、まあ、それならいい、のか? お前に任せておけば問題ないっていうのは分かってるんだがなあ。いや、逆に何でも教えそうで不安でもあるな」


 いいの? 駄目なの? むう、どっちなの!?


「ありがとうございます。ルーディン様にもこのまま指導監督役としてこの場に居て頂ければ、と思うのですが」


「面倒そうだから任せて帰る、とでも言うと思ったか? なんか企んでいそうだからな、さすがに目は離せないぜ」


「いいえそんな滅相もありません。信用ありませんね私は……、悲しいです。嘘ですが」


 何やら楽しそうに、トントン拍子に事が決まっていく。とりあえず私が使いたい魔法を聞いて、それが安全そうな魔法なら教えてもらえるみたいだ。兄様とシアさんはこういう時は凄く仲が良く見えちゃうね、ふふふ。



 さて、使ってみたい魔法と言われても……、ううむ、いざ急に何かないかと聞かれても出てこないなー。


「うーん、使いたい魔法、魔法……? 特に無い、かも?」


 考えてみると、別に無いんじゃね? それより別の意味で使いたい魔法ならあるんですが! 『スカートめくり』の魔法を早速試しに家に帰りたいんですが!! とか言ったら怒られそうなのでやめておく。


「なんだ無いのかよ。別に言ってみるだけならなんでもいいんだぜ? そんな程度で怒ったりしないから安心しろ」


 優しい笑顔でポンポンと軽く叩くように撫でてくれる兄様。この撫で方は大好きだ。抱きつきたくなってしまうじゃないか。


「そう言われても無いものは無いんだからしょうがないよ。今思いつかないだけで後々になってアレやってみたいなーって思うしれないけどね。今日はこのままどこかお散歩にでも行こっかー」


 頭の上にある兄様の腕を両手で掴み、軽く振るように動かしながら聞いてみる。

 別に兄様に甘えまくりたくなった訳じゃありませんよ? 散歩途中すれ違う人にセクハラ魔法を試してみるのもありかもしれない、なんて事も微塵にも思っていませんよ?


「お? それもいいな。んじゃどっか適当にブラつくか。バレンシアは先帰っててもいいぞ」


「そんな! 私も同行致します! ああ、やはりルーディン様にとっては私など邪魔な、目障りな存在なのですね……。私はこんなにも(姫様のことを)お慕い申し上げているといいますのに。しくしく」


 両手で顔を覆い隠し、わざとらしく嘘泣きを始めるシアさん。


「何か一言聞こえた気がするけど……。わ、わー、るーにいさまがしあさんをなかせたー。ひどーい」


「しくしく、でございます」


「なんだよしくしくでございますって! 後シラユキはもうちょっと演技力を身に付けような? ……いや、やっぱりそのままでいい、バレンシアは見習うんじゃないぞ。分かったな?」


「しくしくー」


「うおお、可愛いな……。こらこら、可愛いけどバレンシアの真似だけはするんじゃない」


「あまりの可愛らしさに攫って逃げ……、いえ、姫様は以前、高速で移動する魔法をお使いになりたいと仰られていましたよね? これからマンツーマンでご指導致します!!」


「はっきりと攫って逃げるって言った!! ルー兄様助けてー!!」


「昼飯までには戻って来いよー」


「あっさり見捨てられた!? きゃー!!!」




 そんなこんなで基本的な魔法の修行はあっさりと終了。そして跳躍魔法の水平版、名前は特に付けていないが、『早く走れるようになる』魔法の修行が新たに始まったのでした。







こうして過去話を書いていると、今のシアさんは随分と落ち着いた感じになったと思います。か?(疑問)



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