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211/338

その211

過去パート。前回の続きです。

「あー、その、下着くらいは着けてくれな? そっちから見たら俺なんて子供に見えるんだろうけどさ」


「えー」


 えー、じゃないよもう……。逆に兄様から見るとグリニョンさんはどう見えるんだろ? キャロルさんみたいに子供に見えるのかな? コーラスさんも周りの男の人は弟か子供にしか見えないって言ってたし……。


 とりあえず色々と危険そうなので立ち上がってもらう。ちょっと話を聞いてみると、このボロボロワンピースと足の布意外は何も身に付けていないらしい。なんという危険人物。ナナシさんとはまた違った方向の危なさだ。


 私も地面に降ろしてもらい、話しやすいようにグリニョンさんに近付こうとしたのだが、


「あ、姫様? ルーディン様も、それ以上この方の近くには寄らない方がいいと思いますよ? お互いのために」


 シアさんにやんわりと止められてしまった。

 そう言うシアさんは平然とグリニョンさんの近くに立っている。お互いのため? どういう意味なんだろう?


「ん、そうなのか? まあ、言いたい事は何となく分かるが、そこまでか……」


「なんで? 森の家族なんだから大丈夫だよ? シアさんは知らない人だからって警戒しちゃだーめ!」


「ふふ、申し訳ありません。どうぞ、姫様のお好きなように……」


 謝りながらも上機嫌なシアさん。また何か企んでいるんだろうか……。


 全てにおいて予測不可能なシアさんを警戒していても仕方が無い。今はグリニョンさんともっとお話して仲良くなろう、と数歩近付くと……、鼻にツンと刺激を感じた。


 ……? ……すんすん……、!!?


「くちゃい!!」


「!?」


 鼻と口元を押さえ、勢いよく元いた辺りまで下がる。

 グリニョンさんもいきなりな私の反応に驚いてしまったみたいだった。


 ななな、何今の匂い! 鼻が曲がると言うか、オエッてえずいちゃうところだった……。いや、まあ、考えるまでもなく匂いの原因は分かっているんだけどね……。


「はははっ、あ、悪い。こーらシラユキ、失礼だぞ。女の子……じゃないか、女に対してやっていい反応じゃないぞまったく……。ビックリしたのは分かるが、まずは謝れ」


 おっと、兄様に怒られてしまった。確かに今のは自分でもかなり失礼な反応だったと思う。


 むう、シアさんの言ってたのはそういう意味だったのね。兄様も分かって黙ってたな……。二人ともなんで先に教えてくれないかな!


「あ、あの、ごめんなさい! ええと……」


「いや……、いいよ……、自分が匂うっていうのは分かってたし……」


 落ち込んでるー!!!


 ずーんと目に見えて落ち込んでしまっているのが分かるグリニョンさん。こ、これはどうしたものか……。


「こんな所で寝てるからって訳でも無さそうだな。言っちゃ悪いと思うが、結構凄い事になってるぞ? その、色んな匂いが混じって、な。あー、風呂は嫌いなのか? せめて着替えるなり何なりしたらいいじゃねえか」


 兄様も私と同じ様に、少し近付いたと思ったらすぐに私のいる安全圏まで避難して来た。さすがに女性に対して直接色々と聞けないみたいで、やや遠回しな質問をしている。


「別に嫌いじゃない……。服もこれしかない。……子供に臭い臭い言われるのって結構ショックが大きいんだな……」


 あらら、さらに落ち込んじゃってる。お風呂嫌いじゃないなら毎日入ればいいのに……、って服はそれだけ? それはもう服って言うかただのボロ布に近いよ……。


「着替えが無いからって事か? よく分からん理由だな……。着る物ならいくつか用意してやるから風呂入って着替えろ。……下着も着けろ」


 ちょっと恥ずかしそうに言う兄様。面白い。

 今までこういうタイプの人には会った事がないんだろう。こんな人がこの森に何人もいたら怖いわ。


 兄様はこういう人……、なんて言えば……、ああ、羞恥心の無い人? は苦手なのかな。いや、誰だって苦手だよそんな人は。おっぱいポロンは大喜びしそうだが……。


「ワンピースなら一着貰うよ。でも下着は邪魔になるからいらない。一々脱ぐのメンドクサイし」


「なんでだよ!? 女なんだからもうちょっと自分に気使えよ、使ってくれよ……」


 脱ぐのって……、ああ、トイレとか? なんという面倒くさがりやさんだ。

 うーむ、兄様にこの人の対応はちょっと難しいのかもしれない。姉様だったら同じ女性だしそうでもなさそうだけど、今日は別行動だからしょうがない。よし、ここは助け舟を……、シアさんに出してもらおう。……アイコンタクト!!


「まあ、試しに何着か頂いてみるのもいいのではないでしょうか? 箪笥の肥やしにするなり知人に贈るなりすればいいでしょう? 施しを受けるようで抵抗感はあるでしょうが……」


 通じた!? さ、さすがシアさんだ……。このままお任せしちゃおう。


「タンスなんか無いし、何着も持ち歩くのも荷物になって邪魔だからいらない。んー、別にこんな臭い女、無理に構わなくてもいいんよ?」


 ちょっといじけちゃってる? やっぱり何となく可愛い人だなグリニョンさん。


「アホか、森の家族が何言ってんだ。嫌じゃねえならどこまででも構うぞ。つーか持って歩けないなら家に……、あ? ああ!」


「ああ、なるほど。どうも話が噛み合わないと思ったらそういう事でしたか、すみません。納得しました」


「にゃる、まずはそこからか。うん、家無いよわたし」


 何かに納得した二人に、あっけらかんと答えるグリニョンさん。……え?


「ええ!?」


 家が無い!? ホームレス? い、家なき子!?




 いきなり公開された衝撃の事実に三人で色々と突っ込んで聞いていくと、グリニョンさんの生態が明るみに……、こほん、失礼。どう生活しているのかが分かってきた。


 どうやらこのグリニョンさん、見たままの野性的な人らしい。

 まず住む家が無い、無いと言うか必要がない。眠くなったら今日みたいに適当な場所を見つけて転がって寝る。お腹が空いたら川で魚を取ったり、木の実を齧ったり、魔物を狩ったり(!?)、民家から盗んだり(!!?)。実際今着ている服も何年か前にどこかの家から拝借してきた物らしい、なんという自由な人だ……。本当の意味で自由な人だ。

 別にそれが趣味という訳でも、誰かから逃げて姿を隠している訳でもない。それがグリニョンさんにとっては普通の事、自然な生き方なのだそうだ。個人個人に考え方、生き方があるのは分かるが、これはちょっと理解するのは難しい。私だったら半日と持たない自信がある。


 グリニョンさん本人の持ち物は、ドミニクさんから貰ったというナイフ一本のみ。後は全て拾うか盗むかした物みたいだった。ここでドミニクさんの名前が出てきた事に少し驚いたが、まだまだグリニョンさんについての興味の方が強いので流しておいて、次は交友関係について聞いてみる事にした。


 交友関係と言ってもどうやら人付き合いが苦手と言うか面倒らしく、何となく人に会わない様にして生活していたら自然と知らない人ばかりになっていたそうな。なにそれこわい。

 私の家の周りに住んでいる人たちでグリニョンさんの事を知っているのは、まずは父様母様、ドミニクさんカルディナさんクレアさんと、その繋がりでカイナさん。後はコーラスさんとライスさんくらいのものらしい。しかも知っているだけで会おうにもどこにいるか分からないし、グリニョンさんの方からも滅多に会いに行かないせいで忘れられているかもしれないとの事。ぶっちゃけ会いに行くのが面倒くさいんだとか。


 かなりの面倒くさがりやな人みたいだが、サバイバル生活はいくら大変でも面倒とは思わず、逆に楽しくて仕方が無いみたいだ。



「何と言うかアレだな、随分レアな奴に出会っちまったな。運がいいのか悪いのか……」


「私は運が良かったと思うな! ふふ、グリニョンさん、たまには家に遊びに来てねー」


「あん? どこ……、ああ、ウルギス様んとこか。あー……、うーん……、めどい」


 めどい!? くう、可愛い言い方!


「姫様のお誘いに対してなんという……!! しかし、面白そうな方なので、できましたらでいいです、たまには姫様に顔を見せにいらしてくださいね」


 シアさんが友好的すぎる……。まあ、女の人だもんね。しかも多分綺麗にしたら凄く可愛らしい人だと思うし、シアさんはこういう手の掛かる人のお世話をするのは大好きそう。それに……、シアさんはロリコンだもんなー……。



 その後も、失礼な話だけどちょっと距離を開けていろいろとお話を聞かせてもらった。あ、年は九百近くらしい。シアさんよりはるかに年上だった!!

 グリニョンさんは久しぶりに紅茶とクッキー、甘いものを食べれて嬉しそうにしていた。シアさんもお世話する人が増えて機嫌良さげ。匂いはする筈なのに一切顔に出さないシアさんはさすがの一言だね。


「ふむ……、来ませんね……。いつも姫様がいらっしゃったときには五分と待たずに気配を感じるのですが」


 シアさんがキョロキョロと辺りを見回しながらそう呟く。


「あ、タイチョーのこと? そういえば今日はまだ来てないね。結構経ってるのに」


 タイチョーはシアさんや兄様たちだけだと絶対に出てこないらしい。他の場所で別のツノリスは見る事はあるみたいなのだが、タイチョーに会えるのはそこがどこだろうと私がいるときのみ。不思議だね。ここで必ず会えるっていうのも多分この近くに巣があって、私の気配を感じると出て来てくれるんだと思う。


「タイチョー? 誰?」


「ああ、シラユキが飼ってる、じゃないか、コラコラ怒るな、ちょっといい間違えただけだろ。シラユキの、あー、あれはなんて言うんだ? 友達か?」


「むう! 飼ってる、なんて言っちゃ駄目だ! 言われてみればなんだろね? お友達でいいと思うよ」


 お友達に対して飼うとか失礼だよ! もう!


「なんだろねって、だから何よそれ?」


「あ、ごめんなさい。えっと、ツノリスのことだよ、ここに遊びに来ると私に会いに来てくれるんだ。それでいつもシアさんが作ってくれたクッキーをあげてるんだけど……、今日は来ないみたいだね」


「ツノリス……? ほほうツノリス、ツノリスかー……。いや、うん、まさかね」


 ツノリスと聞いて、考え込む仕草を見せるグリニョンさん。何か思うところでもあったんだろうか?


「……? グリニョンさんを警戒しているのでしょうか? まあ、最近は太りすぎですしたまにはいいのではないでしょうか?」


「はは、確かにな。ん、シラユキが調子に乗ってエサを、って怒るなって。クッキーをやりすぎちまったんだよ。おかげでブクブク太っちまってな、あれは見ると笑えるぜ?」


 まだ考え込んでるグリニョンさんに説明してくれる兄様。しかし!


「エサじゃなくてご飯! もう!」


 兄様はまったく! エサなんて言っちゃ駄目って何回も言ってるのに直らないんだから!


「太りすぎ? 太ったツノリス……?」


「? 心当たりでも?」


「あ、グリニョンさんも見た事あるの? カッコいいよね? ね?」


「どこがだよ。ただでさえ変な見た目のリスだってのに、太ってさらに酷い事になってんじゃねえか」


「なってまーせーんー! あれは可愛くなったって言うんだよ! ね? シアさん?」


「ソウデスネ。……と、すみません、ええと、グリニョンさん?」


「ああ、うん、太ったツノリスね、うん。まあ、うん、あれか、あれだね。あれは……」


「あれは?」「なんだ?」「まさか……」


「お、美味しかった、よ?」



 しーん……、と、辺りが静まり返る。静かになった事で風が木々を揺らす音が耳に届き、みんなの心に安らぎを与えてくれる。


 何羽もの鳥達が羽ばたく音と共に、最初に口を開いたのは兄様だった。


「落ち着けバレンシア! わざとでも悪気があった訳でもないんだ!! 知らなかったんだからしょうがない! 言うなれば自然の摂理ってヤツだろう!?」


「うわ凄い殺気、怖。いやあ、死にたくないわ、謝るから助けてシラユキ」


「あ、うん。落ち着いてるねグリニョンさん……。もしかして結構強かったりするの?」


「まあね。でも勝てる気はしないわ」


「? 姫様? あの、大丈夫、なのですか?」


「あ、うん、ショックはショックだけど、驚いちゃったに近いかな。大丈夫、そこまで悲しかったりはしないよ、残念だとは思うけどね。だから怖い顔はしないでほしいな」


「は……。も、申し訳ありません!」


「本気で焦ったぞコノヤロウ……。まあ、あれだ、ツノリスもタイチョー一匹じゃないだろ、その内別のがやってくるさ。それに、ツノリス意外にもこの森にはああいうのが色々といるしな」


「うん。次の子に会ったときのために名前を考えておかなきゃね。でも、うーん……、そんなにお腹空いてたの? リスだよ?」


「丸々太っててねー、美味しそうに見えたから。おかげで動きも鈍臭かったし捕まえるのも楽でね。ああ、角がリュックの中にあるよ。見る? 欲しい?」


「出さないで! 見せないで! ……!? 私のせいだ!! ごめんねタイチョー!!」


「あはは、ごめんごめん」




 みんなで広場の隅に穴を掘り、グリニョンさんから(シアさんが)受け取ったタイチョーの角を埋めて、簡単にだけどタイチョーのお墓を作ってあげた。さよなら、タイチョー。


 結構なお年の老リスだったからそう遠くない内にお別れの日が来るとは思っていたけど、まさか森の住人に食べられるとは思わなかったよ。しかもご飯をあげすぎちゃった私のせいっぽい。ううむ、大ショック!! ショックの方が強すぎて悲しめない。ああ、こうやって命は廻っていくんだね……。(?)


 その後のちょっとした話し合いで決まった事は、今回の事件を反省して、小動物にあげる木の実クッキーは一度に五個まで。どんな生き物でも今回みたいに不意な別れがある事を改めて覚悟しておく事、の二点。

 もう一つ別に、グリニョンさんはこれまでどおり狩を続けても構わない、というのもあったが、これは改めて言うほどの事でもない。丸々太っていなければ小さな生き物に手を出す事はないだろうからね。


 そして最後に、このままお咎め無しでまたね、とお別れするのもなんなので、グリニョンさんには兄様とシアさんからちょっとした罰が贈られる事になった。


「お風呂? めどい……」


「めどい言うな。とりあえずドミニクの家に連れてくぞ、カルディナに可愛がられるがいい。さらに洗い終わったらその胸揉みまくってやるから覚悟しとけ」


「ぅえー、川でいいじゃん川で。胸? ああ、揉むくらい別に構わんよ」


「そっちはもうちょっと嫌がろうよ……」


「今度から着る物と、後は石鹸も盗むようにしてくださいね。できましたら下着も」


「へいへい。ま、パンツはともかく子供に臭い臭い言われるのは精神的に辛いし、そうするよ」


「家に来てくれればあげるから! 何で盗む事が前程になってるの!? 後パンツは絶対はいてね!」


「めどい!」


「めどくないのー!!」


「何だコイツら面白おもしれえ」


「ふふ、お二人とも可愛らしいですね」




 これが父様母様にも内緒にしている秘密のお友達、グリニョンさんとの初めての出会いと、初代タイチョーとの永遠のお別れでした。

 他のツノリスにもまたすぐに出会う事ができ、名前が考え付かなかったのでまたタイチョーでいいや、と二代目タイチョーも無事に就任。また捕食者に狙われないように祈りながら秘密の広場に通う事になりましたとさ。


 めでたしめでたし。







9/14 5/20

少し修正しました。

話の流れは何も変わっていません。

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