その21
十歳になれば町に行ける。それにいきなり躓いた私は、次の楽しみへ移行しようとしていた。
町には行けるのよ? でもちょっと怖いかな。
そう、もう一つの楽しみ、魔法の作成だ。今日から私の、大魔法使いへの道が……? 別に大魔法使いに興味は無いな……
とにかく、それなりに凄い魔法使いへの道のスタートラインに立ったのだ。締まらないわ……
その事をシアさんに話してみたら。
「ああ、そのような事もありましたね。すっかり忘れていました。姫様は最近魔法の話すらしていませんでしたし……。それでは、暫くお待ちくださいね」
待つ? 何か大掛かりな用意でもあるんだろうか。確かに魔法は、暴走でもしたら危険だしね。何かしら対策を立ててから練習するんだろう。
獣人の種類の書かれた本を読んで待っていたら、シアさんが戻ってきた。やっぱり尻尾あるよね。今度獣人の人に会ったら聞いてみよう。
シアさんにしてはやけに時間がかかったね。やっぱりそれだけ危険なんだろう。これは気を引き締めないとね。
戻ってきたシアさんと一緒に、父様、母様、兄様、姉様、ん? それに何故かコーラスさんまで、みんな部屋に入ってきた。コーラスさん何か、髪乱れてない?
「いやあ、忘れてた忘れてた。魔法、うん、魔法な」
「そうよね。魔法よね」
「ど、どうしよっか?」
「バラすしか無いだろ? このまま自由に使わせてたら、多分そう遠くないうちに暴走するぞ」
「なるほど、急に連行されたと思ったらあの話ね。私もすっかり忘れてたわ」
なんだろう、みんなの様子がおかしい。
「で、誰が言うよ?」
「お父様お願い」
「何!? いや、確かにシラユキの反応は楽しみだが、言った本人には、一番多く怒りが向けられそうなんだよな……」
「ふふ、シラユキがこんな事で怒るわけ無いじゃない」
「そうですよ。ウルギス様気にし過ぎですって」
「うむ、そうだな。それじゃあ、コーラス、頼んだ」
「何でそうなるんですか!」
「それでしたら、僭越ながら私が」
「バレンシアか、余計な事は言うんじゃないぞ」
「はい、約束します」
どうやらシアさんが何かの説明をしてくれるみたいだ。一体魔法の練習はどれだけ大変な事なんだろう。
「さて、まずはどこから説明しましょうか……。そうですね、説明に入る前にまずは一つだけ。ここにいる私たち、いえ、リーフエンドの国民全てが、姫様にある隠し事をしていたんです」
「隠し事?」
それが魔法と何の関係があるんだろう? まさか今まで見てきた魔法は偽者よー、とか言うんじゃないだろうな。それは無いか、私も使ってるし。
「その隠し事に付いてですが、悪意の無い物、と、まずはそれだけを述べておきます。全て、姫様のためを思っての行動でした。それを、信じてください」
私を思っての隠し事か……。まったくみんな過保護なんだから。
「うん、信じるよ。続けて?」
「はい、続けます。それでは、まずは見てもらいましょう。メア、こちらへ来てもらえます?」
「ちょっと! 私を巻き込まないでよ!」
「ここで例になれるのは、あなただけですからね」
「うう……。分かったよう」
メアさんが、嫌々といった感じにシアさんの横に並ぶ。
「では、明かりの魔法、姫様が使える物と同じがいいですね。出してみてください。ああ、身振りは無しでお願いします」
「うん、それじゃいくよ。ライト!」
メアさんが元気よく魔法名を叫び、頭の少し上に光の玉を出す。わざわざ魔法の名前言わなくても……
「消してください」
「うん」
魔法が消える。
「もう一度」
「はいはい。ライト!」
もう一度メアさんがを出す。うん? 何か今引っかかったぞ?
「それでは消して、次は詠唱破棄でお願いします」
「詠唱破棄ね……」
詠唱破棄。全くの無言の状態で魔法を行使する技術、だよね。魔法は心で撃つのよ。
私もこの魔法程度なら、身振り手振り無しで使える。それでも数個が限界だが、手振りも合わせればほぼ詠唱有りと変わりなく使えるくらいだ。ちなみに詠唱はその場その場で適当。光れー、とか、点けー、とかね。イメージしやすいものなら何だっていい。
メアさんは右手を前に出し、手のひらの上にライトの魔法を出した。
あれ? 身振り無しじゃ? あ、ついやっちゃったのね。分かる分かる。つい体が動いちゃうんだー
「その手の動き、無しでいけます?」
「無茶言わないでよ。私には無理よ」
「え!?」
「という事なのでした。隠していて申し訳ありませんでした」
シアさんがペコリとお辞儀を……、え?
え? だって、これ簡単な魔法よ? 私程度でもポンポン出せちゃうのよ? あ、そっかそっか。
「メアさんって、魔法苦手なんだ?」
「ううん? 苦手って程でもないよ? そこまで練習やら勉強やらはしてないんだけどさ。言ったでしょ? 日常生活に困らないくらいは使えるって。ま、普通、かな?」
普通? メアさんくらいが普通ってこと? 家族+コーラスさんの方へ目をやると、みんなニヤニヤしていた。露骨に目を逸らすな!
「ありがとう、メア。元の位置へ戻ってもいいですよ」
「うん。あー、よかった。姫が爆発する前に離れれるわ」
メアさんは元いた辺りにに戻る。
言いたいことはなんとなく分かったが。ここらでひとつ、所謂、トドメ、というものが欲しい。
「シ、シアさん。簡単にまとめて。で、できるだけ簡潔にね」
「はい、少しだけお待ちください。言葉を選びます」
1・2・3・4・たっぷり五秒。
「姫様天才じゃね?」
素敵な笑顔で、素敵にお辞儀されてしまった。