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207/338

その207

 マリーさんたちにこの人はこんな変な人だよと軽く紹介した後、ライスさんは見回りの交代時間までの暇潰しに私たちについて来る事になった。

 いつも思う事なんだけど、ライスさんは私を監視でもしているのか、いいタイミングで出て来る事が多い気がする。シアさんが何も言わないしまずあり得ないだろうなとは思うのだけれど、この人はシアさん並に油断のならない人なので気は抜かない方がいいだろう。


 四人プラス飛び入り参加一人でまずは広場方面へと向かう。どうせなら道すがらついでに広場の案内も、という考えからだ。その先にコーラスさんのお花畑もあるが、あそこに森の外の人を連れて行くのは断りを入れてからの方がいいので今回はやめておく。ショコラさんと一緒に行ったときは大変だった……。



「なあなあ、マリーベルさんや。何でそんな微妙な距離空けてるん?」


「ひっ。い、いえ……、そんな事はありませんわ。き、気のせいではありませんの?」


 マリーさんは私たち三人の少し後ろを、キャンキャンさんの背中に隠れる様にしてついて来ている。


 いつぞやの、初めて町に行ったときの私を思い出すね……。マリーさんももしかして、男の人が苦手なのかな? やはり親近感を覚える人だね。


「お嬢様、私に隠れながら言っても説得力はありませんよ? すみませんライスさん、お嬢様はこの通り臆病な性格でして……。エサでもあげれば警戒を解いて懐くかもしれませんよ」


「私はどこの野生動物よ!! ……はっ!?」


 警戒しながらもツッコミは忘れない。マリーさんは凄い人だ……。


「なんか姫とバレンシアっぽいなこの二人……。んー、干し肉ならあるぞ? でもこれ喉渇くからなあ……」


「い、いりませんいりません! 懐きませんわ!!」


「いやいや餌付けしようって訳じゃ……。くう、なんかオレって女の子には嫌われるなあ……」


 大人の女性には結構モテてるみたいなのにねー。ちょっと理解できないけど。


「不用意に近付くと警戒心がさらに強まってしまいますよ。見ていて大変面白いのですが、多少離れたところで会話に支障が出る訳でもありませんしその辺りで。しかし、お二人とも警戒を解いてはいけませんよ? いつお体に手が伸びるのか分かりませんからね」


「はい! や、やっぱりシラユキ様の仰ったとおり……」


 私の言ったとおり? 別に変な紹介した覚えは無いんだけど……。


「お嬢様は狙われないんじゃないですか? ぺったんこですし。私の胸もそこまで大きいとは言えませんけど、触られるなら私だと思いますよ」


「そ、そうよね、胸の無い事に安堵する日が来るなんて夢にも思わなかったわ……。でも、森の住人の方なんだから触られても払い除けちゃ駄目よ? ごめんねキャンキャン……」


「いえいえそんな、お嬢様をお守りできるのでしたら胸を揉まれてもお尻を撫でられても……、やっぱりイヤですね。やっぱりここは可愛らしいお嬢様が狙われるべきですよ!」


「どこに主を盾にするメイドがいるってのよ!! わ、ちょっ! 押さないでったら!!」


 ひょいっと横に避けて、マリーさんを前に押し出すキャンキャンさん。

 二人とも言葉とは裏腹に、少し楽しんでやっているようにも見える。



「楽しそうだな二人とも。女の子がキャッキャ騒いでるのは見てて楽しいからこのままでもいいっちゃいいんだけど、やっぱ姫の紹介の仕方が悪かったんじゃねえの?」


「そうかなー? ライスさんだって否定しなかったよね?」


「まあ、事実だもんな」


 うんうんと頷くライスさん。


「ええ。まあ、ライスさんのありのままの人柄をお伝えするとああいう反応をされてしまう、と一つ勉強になりましたね」


「うん。次はルー兄様の真実を知ったマリーさんの反応が楽しみになってきたかも。ふふ」


「お嬢様の夢を壊してやるなよ姫……。んじゃ、ちょっと誤解を解いてくるかね」


 まだ楽しそうに騒いでいる二人にライスさんがスタスタと歩み寄っていく。そして悲鳴を上げて後退るマリーさん。


 そんなに怖がらなくてもいいのに。ただおっぱい好きお尻も好き、女の子が大好きな明るくて面白い人だよって紹介しただけなのになー。




 ライスさんの弁解の甲斐あってか、なんとか私たちの横に戻って来たマリーさん。しかしライスさんとの間にキャンキャンさんを挟み、警戒を解き切ってはいない。

 まあ、警戒はしておいた方がいい人なので、これはこれで別段何か言うほどの事でもないだろう。気を取り直して広場へと再出発だ。


 まったく、変な所で時間を使っちゃったよ。今日の予定はカルディナさんに会いに行くだけだからいいんだけどね。


「ふーん、マリーちゃんはカルディナさんの姪っ子かあ、確かに将来凄すげえ美人になりそうだよな。今はまだ可愛いって感じだけど」


「ま、マリーちゃん……。そんな呼ばれ方をしたのは初めてですわ……。あ、いえ、私もまだ百になったばかりの子供ですからそれで構いません。改めて宜しくお願いしますわ」


 歩きながら軽くお辞儀をして、少し嬉しそうな表情を見せるマリーさん。


「え、もう成人してるのか……。にしては小さくてかっわいいなあ……。つーこた姫も成人したらこんな感じになるって事か? ……なあなあ姫ー」


「しないよ」


 何か聞きたげにこちらに顔を向けるライスさんに、最速でお断りを入れる。


「はやっ。まだなんも言ってねーじゃんかよう」


「どうせマリーさんくらいになったら結婚しようぜーって言おうとしたんでしょ? ライスさんと結婚するなんてあーりえーませーんー」


「かわえっ! 姫かわええ!! 撫でてえええ!!! でもバレンシアに刺されるしなあ……、くそう」


 撫でるくらいなら別にいいけど……。まあ、シアさんがいいって言ったらね。


「私予想ですと、姫様の成人時の身長はキャ……、こほん。マリーベルさんより低めに、具体的に言いますと20cm程低めになるのではないかと……、? どうされました?」


 やめて!! シアさん予想は本当に当たっちゃいそうだからやめて!!! マリーさんより20cmも低いとか今と殆ど変わらないじゃない!! ……って、なに?


 シアさん予想に驚愕させられながらも釣られて顔を向けると、俯くマリーさんとニヤニヤ笑顔のキャンキャンさん。何があったんだろう?


「な、なんでもありませんわ……」


 マリーさんは何でもないと言うが、顔が少し赤くなっている様に見える。


 もしかして、疲れちゃった? いやでも、私より体力がないなんて事がある訳ないし……。


「ああ、お嬢様は照れちゃってるだけですよ。お客様が見えたときなどによくお綺麗になられたと慣用句の様に言われて、そちらは慣れてはいるんですけど、さっきみたいに可愛い可愛いと身内以外に褒められる事はあまりありませんからねー」


「やめてよキャンキャン……。うう、恥ずかしいですわ」


 両手で頬を挟んで、イヤイヤと首を振るマリーさん。


 なんだ照れてたんだ? 私も可愛い可愛いって一日に何十回も言われてるからもう慣れちゃったよ。確かに綺麗って言われたら照れちゃうかもしれない、なるほどね。

 マリーさんは大きな町の代表の家のお嬢様だから、そういう……、何て言うんだろう? 偉い人、かな? そういう人が度々家に来るのかも。社交辞令っぽい挨拶に含まれてそうだよね。いやあ、また一段とお美しくなられましたな、とかね。

 ふむ、それはちょっと気になる話ではあるね。森の案内ばかりじゃなくて、マリーさんのお話も色々と聞かせてもらいたいなー。フェアフィールドはどんな町なのか気になってきた。


「おお、可愛いな。でも可愛いと言えば姫だよな。な?」


「う? ……え? なにいきなり」


「ええ。貴方に同意するのは癪ですが、姫様が世界一愛らしいのは事実ですからね」


「身内贔屓の目を抜いたとしても、やっぱりシラユキ様の方が可愛らしいですよねー」


「やめて! ベタ褒めは慣れない!!」


「ふふ、子供の頃を思い出してしまいますわ……。ふふふ」




 私とマリーさんを程よくからかうことでライスさんと打ち解ける事ができ、楽しい気分のまま広場まで来る事ができた。私たち二人にとってはちょっと納得がいかないが……、まあ、よしとしよう。


 広場の説明のために休憩所に入り、ライスさんに私と姉様用の椅子を持ってきてもらい、マリーさんと並んで二人で座る。シアさんとキャンキャンさんは立ったままで、ライスさんは大テーブルに腰掛けてしまっている。お行儀悪い。

 姉様用の椅子だとは言わずにおいたので普通に座ってもらえたのだが、これは家に帰ってから教えようと思う。ニヤニヤ。


「ここがよくお祭りに使われる広場だよ。お祭りがない日は一般開放って感じかな? 大人数で集まるにはいい場所だから毎日って言っていいくらい宴会してる人がいるねー。お祭りも月に一回は必ず、多いときは週一ペースで開いてるよ」


 ほらあそこに、と指を差した先には、五、六人で集まってお酒を飲んでいる人たちがいる。他にも体を動かしに来ている人もちらほらと。

 森っていう自然の中だから運動なんてどこでもできるのだけど、やっぱり他にも誰かいた方がいいと思う人は広場まで出て来ているのだ。運動の後に宴会にそのまま参加する事もできるからね。


 ……演説台の近くに落とし穴を掘っている集団はスルーしておく。ほほう、今回は水も入れるんだ? それは楽しみだ。


「はー。アリア様の仰ってたとおりなんですねー」


「そうね……。何て言うんだろう……、凄く……、素敵だわ」


 私の説明を聞いた二人にはそれぞれ、感心したような、納得したような、よく分からない反応をされてしまった。

 それと、初めて聞く名前。アリア様? アリア様が見てる?


「あ、アリア様は、アリアドナ様、お嬢様のお母様ですよ」


 おっと顔に出ちゃってたか。マリーさんのお母さんの名前だったんだね。


「ふーん。それでその、マリーちゃんのお母さんのアリアさんはなんて?」


 露骨に笑みを消して訊ねるライスさん。どうやらマリーさんのお母さんは要注意人物の一人らしい。


「えっ!? あ、す、すみません!! アリア様のお名前は出してはいけませんでしたか!? ごめんなさいごめんなさい!!」


「うおっ!? ちょ、キャンディス落ち着けって! どうした一体……」


 急に謝り出したキャンキャンさんに慌てるライスさん。私にも何がなんだか分からない……。


「キャンキャン落ち着いて……。ええと、この子は謝り癖があると言うか、その、何かしてしまったと思うとすぐにこうやって過剰に謝ってしまうんですの。煩くして申し訳ありません」


「うう……、申し訳ありませんでした……」


 さすがは長年の付き合いのマリーさん。キャンキャンさんは落ち着いたいたいだけど、少し落ち込んでしまったみたい……、うん?


「はあ……、お嬢様にまたご迷惑を……、メイド失格ですね。でも私ってメイドと護衛で半々なんですから、メイド部分が多少拙かったとしても、まあ、そこまで問題は出ませんよね!」


「こうやってすぐに開き直って立ち直りますから、次からは放置で構いませんわ……」


 疲れた様に言うマリーさん。

 お互いメイドさん関係で色々と苦労してるみたいだね。またさらに親近感を覚えてしまう。


「なるほど、聞いていたとおり面白い方のようで……」


「あはは。今のはライスさんの聞き方が悪いと思うなー私」


 ジト目で見てやる。


「いやっ、まあ、悪かったって。んーでもなあ、この森じゃフェアフィールドにいい感情持ってる奴はほっとんどいないぜ? マリーちゃんの母親を悪く言うつもりはないんだけどな、ごめんな?」


「いっ、いいえ! 母が、その、あの……、ハイエルフの方々に、リーフエンドの森に狂信的な事には違いはありませんから……」


 あー、なんかいやーな空気に……。自分の母親を悪く言わせるなんて、もの凄くひどい事しちゃったよ……。謝りたいけどまた恐縮されちゃいそうだし、難しいなあ……。ごめんねマリーさん、心の中でくらい謝らせてね。


「マリーベルさんのお母様はマリーベルさんのお母様、マリーベルさんはマリーベルさん、キャンディスさんはキャンディスさんですよ。それで、何と仰られていたので?」


 そんなのどうだっていいと言わんばかりに切り捨てるシアさん。

 いや、今の言葉にはもっと別の何かがあったと思う、思いたい。


「あ、ええとですね。ハイエルフの方はエルフ全てを家族の様に想い、地位に拘らず皆で騒ぐのがお好きで立派な方。でも庶民的とはまた違って、まさに人の上に、全ての上に立つに相応しい方々なのですよ。ってちょっと省略しちゃいましたけど、これはもうお嬢様毎日聞かされてましたよね」


 どこをどうしたら今の説明でそうなるの……。どう聞いてもただのお祭り好きだよ。


「一緒に聞いてたあなたが覚えちゃうくらいにね。キャンキャンがいなかったら私も、何の疑問も思わずにそうなっていたかもしれませんの。でも、実際にお会いしてみるとやっぱりお母様の言葉どおりの素晴らしい……、はっ!?」


「やっぱマリーちゃんもちょっと危ないなあ。姫、早いうちにエネフェアさん、様以外はどこにでもいるエルフだって見せつけてやれよ?」


「うん、まずはルー兄様からかな。ライスさんは母様に弱いよねー」


「いやー、エネフェア様怒るとめっちゃ怖いしなあ……。ぶっちゃけエネフェア様とカイナがいないとこの森はただの森だろ」


「ええ、まあ。ギルドとの書面のやり取りでさえ滞ってしまいそうですね……」


「もうカイナさんが女王様になればいいんじゃないかな」


「それでエネフェア様にたっぷり甘えるってか? やっぱ可愛いな姫は!」


 何故バレたし。



「ふふ。お嬢様、責任重大ですよ? ふふふふ」


「な、何の責任よ? ありのままをお母様に話せばいいんでしょ? キャンキャン、ありがとね」


「お礼はおやつ一つで構いませんよ?」


「意地汚い! フランとメアの作るおやつは渡せないわね……、ふふふ」







一週間かかってしまいました。

次回もまた一週間以内にはー、と思っています。

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