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205/338

その205

 私の森のみんなへの正式なお披露目の日、五歳の誕生日の盛大なお祭りの日から数日経ったある日のこと。兄様の提案でコーラスさんの管理している花畑に遊びに行く事になった。


 兄様はどうせコーラスさんのたわわに実る、どころじゃないなあれは……。悠然と聳え立つ双峰を見に行きたいだけなんだろうに……。でも兄様とお出掛けするのは正直なところかなり嬉しいから反対はしない。やっぱりお兄ちゃんお姉ちゃんがいるのって最高ね! 今日はちょっと甘えちゃおうかなー。まだ五歳なんだからいいよね? よね?


 兄様と手を繋いで上機嫌で歩く私。兄様もそんな私を見てか、機嫌よさ気な笑顔だ。


 機嫌がいいのはコーラスさんのおっぱいを見るのが楽しみだからじゃないよね……? まあいいか、私もアレを見るのは楽しみだしー、? うん? 後ろから笑い声?


 後ろから聞こえてきたクスクスと小さな笑い声に振り返ってみると、そこにはニコニコとしながら私たちの後を付いてくるメイドさんが三人。私お付のメイドさんズの三人だ。


 むう、三人ともニヤニヤしちゃって……。全く話し掛けてこないから忘れちゃってたよ。甘えまくってるところを見られちゃったじゃないか……、恥ずかしい。


「ははは、照れるな照れるな。子供は素直に甘えて来いって」


 兄様にグリグリと頭を撫でられてしまった。


「にゃっ! あう。ルー兄様力強いよ! もう!!」


 くう、頭が取れる! 取れる訳ないけど!! ええい、噛み付いてやろうか!?


「ふふふ、シラユキかーわいい」


「姫ってルーディン様大好きだよね。ルーディン様いいなあ……」


「ええ、本当に……。ふふ」


 ああもう! また笑われちゃったじゃない!! くそうくそう……、もっと撫でて!!




 そんなほのぼのとした雰囲気で歩くこと十数分、私のはるか頭上からガサガサと物音が聞こえてきた。

 葉擦れの音にしては大きいから鳥でもいるのかな? とそちらに目をやると、大きく枝を揺らして降りてきたのはエルフの男の人だった。


 うわ! あんな高い所から降りて足は大丈夫なの!? ……じゃなくて、知らない人だ!!


 慌てて兄様の後ろに隠れる情けない私。初対面の人と話すのは緊張しちゃう! それに、男の人は何となく苦手。父様と兄様は大好きなんだけどねー。まあ、それは家族だからか。


「お、おい、隠れるなよシラユキ。はは。まったく、恥ずかしがりやめ」


 そうは言いながらも私を前に押し出す事はしない優しい兄様。大好きです。


「あっ、わり、驚かせちまったか? そんなつもりは無かったんだけどごめんなー姫ー」


 謝りながらゆっくりとこちらに歩み寄って来る。


 ひい! 話し掛けて来ないでください!


「おっとと……。こらこらしがみ付くな危ない。……で、どうした、何かあったか?」


「ん? いんや? 上からルーディン、様と姫が見えたからちょいと顔を出してみようかなとね。姫はどしたー?」


「お前に様付けされるとくすぐったいからやめろって言ってるだろ。ああ、シラユキは恥ずかしがってるだけだな、結構人見知りするんだよ。んでもライスは祭りの日はいた筈だよな? 確か休みだったろあの日。まあ、直接話してないからか」


 ら、ライスさん? この人の名前? 兄様のお友達かなー。……お米さん? お祭りのときにいたって……。


「いやいや、オレは祭りに出れなかったんだって。あの親馬鹿親父に吹っ飛ばされて気付いたら次の日の朝だったんだぜ? ひでえよなあ……。しかも目え覚めたら木の上! ビックリして落ちたわ!」


 なにその波乱万丈。しかし、親ばか親父? 最近聞いた気がするねその単語。


「マジか、見たかったなソレ。しっかし父さんも大人気ないよな、冗談で求婚したくらいでそんな目に会わされてちゃ堪らんだろ。いつか死人が出るぞ」


「いやまあ、思いっきり手加減はしてくれてるしな。それでも命の危険はそれなりに感じるが……。姫が産まれたせいか? ユーネちゃんにはお前がいたから何もなかったもんな」


 冗談で求婚? それも最近、しかも見に覚えが……。ユーネちゃん? お前!? なにそのフレンドリーさ。


 会話を聞く限りは兄様と軽くお話が出来るくらいの人みたいだし、怖い人というのはありえないだろう。ちょっとだけ顔を出して覗いてみよう。何となくこの声にも聞き覚えがあるような、ないような。



 ええと、身長は結構高め、でも兄様よりは少し低いかな? 薄い金色の髪を兄様と同じ感じで適当に縛って背中に流してる。エルフだからっていうのもあるかもしれないけど、この人かなりカッコいいんじゃ……? んー……、父様と兄様の方がもっとカッコいいや。


 容姿以外に目を引くのは、背中の大き目の弓と腰に下げている短めの剣。それに、矢筒かな? 長い筒状の入れ物も腰の後ろに提げている。


 ああ、カッコいいと感じたのはそのせいもあるのかも。ゲームからそのまま出て来た様な見た目、まさにエルフ! っていう感じの人だね。



 ジロジロと観察していたら、視線に気付かれて目が合ってしまった。

 ライスさんは軽く体を屈め、話し掛けてくる。


「うっわ、やっぱ可愛いな姫。なあなあ姫ー、大きくなったら俺と結婚しようぜー?」


 いきなり求婚された!! 何なのこの人!! でもやっぱり何か引っ掛かる……。この声、求婚……。


「ううう、うー? !! あ! 父様に火の玉ぶつけられてた人!?」


「お? あ、気付いてなかったのか。俺ってそんな影薄いか……? むう、髪型変えるか……。丸坊主とかどうよ?」


 あ、いや、そんな事はないと思うんだけどね。……丸坊主!? その発想は無かった! 勿体無さすぎるわ! でも記憶には強く残りそうだからありと言えばありなのか……?


「やめとけやめとけ、お前黙ってりゃいい男なんだから。後シラユキはやらん」


「えー、くれよー、絶対幸せに……、ん?」


 ライスさんが何かに気付いて、私の後ろの方へ視線を動かす。私も思わずそれに釣られて振り返って見てみると、シアさんが丁度私と兄様を追い越したところだった。


 シアさんはライスさんに近づくと軽く頭を下げてから、


「剣を……、弓もお預かりします。姫様が怯えていらっしゃいますので……」


 それだけ言うと返事を待たずにひょいひょいとライスさんから剣と弓を奪い、


「失礼しました」


 丁寧なお辞儀を一つ、また後ろの方へと下がって行ってしまった。この間一分にも満たない。


「お、え? あ、あー、ごめんな? わりわりい、考え無しだったわ。ほーら姫ー、オレは怖くないぞー。だから結婚しようぜー」


 ヒラヒラと手を振って、おどけた様に言ってくれるライスさん。


「だからやらないって言ってるだろ。悪いなバレンシア、俺も気付かなかった。ほらシラユキも出て来な、コイツは変な奴だけど怖い奴じゃないからさ」


「う、うん……」


 兄様が横にずれて、軽く私の背中を押す。


 怖い人じゃないっていうのは兄様の反応から分かってたからいいんだけど、まさか武器を見て怯えていると思われていたとはね……。

 キャー、ファンタジーよー、とか思ってたのは内緒にしておいた方がよさそうだ。あはは。



「こいつはライス。前に森を巡回して見て回る仕事があるって教えたろ? その内の一人だ。こんな軽い性格だけど俺よりもずっと年上だしな、結構頼りになる奴なんだぜ?」


「おお、結構まともに紹介してくれるんだな」


 兄様の普通にまともすぎる紹介に驚きを見せるライスさん。


 まあ、うん、何となく面白い人だっていうのはよく分かったよ。

 今度は私の番かな? でも今更自己紹介する事もないよね。挨拶だけにしておこう。


「えっと……、初めまして、じゃないや……、こんにちわ?」


 兄様と繋いだ手は放さずに、軽く頭を下げるだけの挨拶をする。


「かわえっ! うっひょー、近くで見るとまっすます可愛いな!」


 ライスさんはただの挨拶に大喜びして、私の頭を撫でようと手を伸ばしてくる。


 ひゃー! 撫でられる!? おおお男の人に撫でられるのは緊張しちゃうううぅ……。


 ……、……? あれ?


 目を瞑って待ってるのに一向に撫でられる気配がない。

 不思議に思って顔を上げてみると……、ライスさんは少し離れたところで、飛び下がった様な姿勢で固まっていた。


「バレンシア……」


 兄様が呆れた様にシアさんの名前を呼ぶ。何がなんだか分からない……。


「……申し訳ありません。つい」


 シアさんは謝っているが、何をしてしまったのかは不明のままだ。


「お、おお……、ひっさびさに緊張したぜ……。ああ、バレンシア、だったっけか、ちょいと過剰反応しすぎだな」


 ライスさんは何事も無かったかの様にまた私たちの近くに戻って来た。

 シアさんは軽く頭を下げるだけで答える。


 なになに? なんなの一体! 誰か説明して!!




「悪い、後できつく言っておく」


「いや? 別にいいぜこんくらい、何かされたって訳でもないしな。しかし、メイドさんにきつく言うとか……、ほほう? なんかエロイ響きでいいな! お仕置き的な? こう……、なんだ、使用人の分際で! とか鞭振るったりしそうだよな!? 鞭と言えばさらにアレだな、尻を出せ! とか言ってみたいぜ」


 !? なにそれいやらしい……。


「同意を求めるな! つーかアレだ、お前はシラユキの教育に悪そうだな……」


「ライスさんはあいっ変わらずだねえ。レンとはちょっと気が合いそうにないかもね」


「姫はこんな人相手にしちゃ駄目だよー? 悪い大人の見本みたいな人なんだからね?」


「ええ、ウルギス様にお願いして森から追放して頂きましょう」


「なんかひでぇ言われようだな……。でも三人とも美人だしおっぱいもでかいから許す! 許した!」


 ああ、うん、やっぱり誰から見ても大きいよね?


「……これから交代なのでしょう? あまり待たせすぎてしまうのもどうかと思いますよ? どうぞ、お返しします」


「そだな、んじゃそろそろ行くわ。っと、投げんなよ危ねえ、痛い!!」


 剣は上手く受け取れたのに弓の方が綺麗に顔面ヒットしちゃってるよ……、面白すぎる人だ……。


「あたた……。くう、メイドさんに虐げられるオレ、何かに目覚めそう……!! あ、石はやめてくださいお願いします」


「あはは。あ、全然お話できませんでしたけど、また今度……、ええと、お仕事頑張ってください」


「おおおお、姫かわええええ!! って何で敬語なん? ちょっとショックなんだけど……、姫が怒るような事なんかしたか? オレ」


「え? あ……、う?」


 え? 私怒ってるように見える?


「はは、可愛い反応だな。シラユキは俺たち以外には基本敬語なんだよ。ま、その内直るだろ」


「ほー……。ん、そだな。そんじゃ次会う頃までに直しといてくれな。まったなー!!」


「おう、またな」「はーい。またー」




 いやあ、いきなりの遭遇でビックリしちゃったね。あんな風に面白い人なら敬語も無しで気軽に話せるかも。でも男の人だもんなー……。

 まあ、家族の誰かかメイドさんズが一緒なら話せない事もないかな? あ、メイドさんと言えば、シアさんは一体何をしちゃったんだろうね? 気になる気になる木……。


 おお? コーラスさんのお花畑までのいい話題ができたと思えば得した気分。それじゃ早速聞いてみちゃおうかなー。ふふふ。







その1ぶりの登場でした。名前だけは出て来てましたけどね。

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