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その200

「私は反対です!! フェアフィールド家の者を館に招くなど……、断固反対致します!!」


 お、おおう……、クレアさんが興奮していらっしゃるわ……。クレアさんだってお母さんがフェアフィールド家の出身じゃない……。




 家に帰り部屋着に着替え、シアさんとワクワク気分で母様にお願いをしに来てみたら、まさかのクレアさんから大反対を受けてしまった。自分の従姉妹が遊びに来るのだから喜んでくれると思ったのに、本当にまさかの展開に驚いている。シアさんと私の説明の間もいつもの無表情で、特に何事も無いかの様に、むしろどうでもいいと無関心にも見えていたからそのせいもあって尚更だった。


 かなり近い血縁のクレアさんですらあの昔話のせいでマリーさんにいい感情を持てないみたいだね。まあ、あれを好意的に受け止める方が難しいか……。私たちのことを本当に想っての反対なんだと思う。


「お、落ち着きなさいクレア。バレンシアが直接話をして問題ないと感じたのよ? その判断を信じてあげられないかしら」


 にこやかな会話に急に大声で割り込んできたクレアさんに母様も驚いてしまっている。膝の上にいる私を撫でる手が止まってしまった。むう。


「う……、申し訳ありません。しかし、フェアフィールド家のあれは教育などという生易しいものではありません、一種の洗脳の様なものなのです。私も母様に連れられて一度だけ顔を出しに出向いたのですが、正直胸く……、失礼。気分を害されすぐに帰る事になったのです」


「胸く?」


 今何て言い掛けたんだろう? むなく、ムナック……、これは違うな。


「ふふ、気にしないの。クレア、もうちょっと言葉を選びなさいね。……ね?」


 表情は笑顔だが、背景にゴゴゴ、と擬音がつきそうな圧力を感じる。何だかよく分からないけど早く謝っテ!!


「はい! か、重ね重ね申し訳ありませんでした!!」


 全力で頭を下げて謝るクレアさん。


「よろしい。次からは気をつけなさい、ふふ」


「はい……」


 クレアさんが母様に怒られるとか珍しい物を見ちゃったね。クレアさんには悪いけどちょっと得した気分。

 でも私が母様の膝の上にいる事を忘れてもらっては困るな! 超怖いんだからね!



「ほ、本当に気をつけてねクレア、生きた心地がしないから……。ええと、マリーベルだったわよね、クレアの従姉妹の。確か世話役の方にしっかりお願いしてきたって言ってたじゃない」


 世話役の人にお願い? キャンキャンさんの事? カイナさんは親友だし、当時のお話もクレアさん本人から色々聞いてるのかな。


「お願い、ですか?」


「あ、ああ、アイツはいい奴だったな。メイドになりたてで失敗は多かったんだが、明るい性格で恨めない奴と言うか、咎める毒気を抜かれると言うかな、何故か許せてしまう奴なんだ。私も子供が教育という名の洗脳を受けているのは忍びなくて、そのメイドに気をつけて見てやってくれとだけ、な」


 ほほう、さすがクレアさん。嫌な気分にさせられてもしっかりとマリーさんの未来を考えてたんだね。ツンデレだよねー。私の周りはツンデレな人が多いな……。

 それと、明るい性格で失敗が多いメイドさん、やっぱりキャンキャンさんの事だね。今でも失敗は多いみたいだけどね。


「なるほど、マリーさんがああなってしまっていたのはキャンディスさんのおかげ、そして貴女の手引きでしたか」


 ああなってしまったとか……。まあ、うん、ツッコミ気質にさせられちゃったのはそうかもしれない。私としてはツッコミのできるエルフは大歓迎なので何も問題はない。


 キャンキャンさんはマリーさんがハイエルフ至上主義に浸かりきらないようにしっかりと見てて、軌道修正してくれてたんだね。悪影響だって辞めさせられなくて本当によかったよ。

 マリーさんはキャンキャンさんの事を大切な家族だって言ってたし、辞めさせられそうになっても反対してたと思うけどね。もしかしたらお姉さんみたいに思ってるのかも?


「ん? キャンキャンの奴は今でもマリーの世話役に就いているのか?」


「ええ。さっき従者の方も一緒に、と言ったでしょう? 貴女の見る目は正しかったようですよ」


「そうか……。ああ、スマン、お前の判断を疑っていた訳じゃないんだが、どうしてもあの家の現状を見た身からするとな……。姫様、エネフェア様、申し訳ありませんでした。もう反対はしません、バレンシアの判断、姫様のお目を信じます。……そうか、姫様がそう仰っていたんだ、何も警戒する必要はなかったのか……」


 クレアさんは少し気落ちしてしまったみたいで、カイナさんが苦笑しながらフォローを入れている。


 シアさんはともかく、私の見る目をそこまで信用しちゃ駄目だと思うな……。嬉しいんだけどね、ふふ。



「えっと、それで……、いいの? 母様」


 話が纏まったかのように見えるが、実際は振り出しに戻っただけだ。母様が駄目だと言えばそこまでだからね。

 まあ、さっきまでの話の流れからすると……。


「勿論よ。ふふ、シラユキからのお願いだもの、余程の事でなければ何だって聞いてあげちゃうんだから。今回はちょっと、その余程の事に入りかねなかったんだけどね。ルーもユーネも特に何も言ってこないし、何よりシラユキがお友達になりたいって思ったんでしょう? そんな子が悪い子の筈はないわ、いい子に決まってるからね」


 見上げる私を、優しい笑顔で撫でながらそう言ってくれる母様。やっぱり断られたり叱られるような事は無かった。


「ありがと母様! ふふ、母様だーい好き!」


 体を横に向けて母様に抱きつく。そして胸へ頬擦りを開始。

 母様に全力で甘える姿を見られるのはちょっと恥ずかしいけど……、やめられない! やめにくい!!


 うーん、母様大好きすぎる……。マリーさんとお友達になれなくても、母様の膝の上にいられるならもう何でもいいやと思えてしまう。これは世界から争いを無くす事ができてしまうんじゃないだろうか!? っていうくらいの幸福感だね。決して大袈裟な話ではないと思う。


「ああ……、可愛いわ、可愛すぎるわこの子……。あ、迎えはクレア、行ってもらえる? 見知った顔の貴女が行けばその子たちも余計な緊張をせずに済むでしょ? それと、バレンシアはフランにお客様が来る事を伝えて頂戴、必要なら手伝いもお願いね」


 私を可愛がりながらも的確な指示を出す母様、カッコいい。そこに痺れる憧れる。


「はい! カイナ、お二人のことは頼んだぞ」


「畏まりました。姫様、メアかキャロを呼び……、ふふ、失礼しました、必要ありませんね」


「ええ、エネフェア様がいらっしゃいますからね。ふふふ、姫様可愛らしい……。ああ、頬が緩んじゃう。私ももっと姫様に甘えられるようになりたいわ……」


 やっぱり恥ずかしい!!




 シアさんとクレアさんはそれぞれのお仕事へ。執務室には母様と私、カイナさんが残された。


 マリーさんが家に着くまで母様に甘えながら色々とお話を聞かせてもらっちゃおうかな。父様も早く帰って来てくれると嬉しいんだけどなー。今日はどこに行っちゃってるんだろう?

 まあ、晩御飯はみんな一緒だろうから、父様からはその時にまた聞けばいっか。父様はお爺様から当時の事をもっと詳しく教えてもらっているかもしれないから楽しみだね。


 とりあえずは母様から簡単に何か……、ん、あ、そうだそうだ。


「ねえねえ母様。ルー兄様に聞いたんだけど、カルディナさんも元はフェアフィールド家の人なんだよね?」


 元はっていうのも変な言い方だったかな? まあいいや。


「うん? そうよ。シラユキはどこまで聞いたの?」


「えっとね、シアさんから……、あ! お仕事はいいの?」


 しまった気が緩みすぎてた!


 母様はまだお仕事の途中だった筈。机の上には文字がたくさん書かれている書類がいくつか、そこまで多くはないと思うけど積まれている。どう見てもまだ仕事が残っています、っていう感じだ。


「いいのいいのこんな物。カイナ、捨てておいて頂戴」


「よくありません! 駄目に決まってますよ!! ……はぁ、今日だけですよ? 後は私が片付けておきますから、エネフェア様は姫様とお寛ぎください。ですが、簡単な報告書を作りますからちゃんと目を通してくださいね! 私だって姫様と楽しくお喋りしたいのに……」


 そう言って書類を纏めて自分の作業机に持っていくカイナさん。ブツブツと不平不満が聞こえてくる。申し訳ないことをしてしまった……。


「はーい。ふふ、やっぱりカイナは頼りになるわね。ねえカイナ、そろそろ女王、代わってみないかしら? 私より貴女の方がずっと向いてると思うわよ?」


「代わりませんし代われません!」


「あらあら怖いわ、ふふふ。あ、シラユキ? 母様はいつもはちゃんとお仕事してるからね? 今日だけよ今日だけ」


「うん、それは分かってるから大丈夫だけど……、母様はもうちょっとカイナさんを労わってあげないと駄目だよ?」


 そうじゃないともうこんな仕事やってられるかー! って出て行かれちゃうよ。そうならないためにも、頑張っている人には頑張っただけの報酬を用意すべきそうすべき! 出て行かれたくないのならそうするべき!


「む、娘に諭されてしまったわ……。この子はやっぱり優しくて可愛らしくて小さくていい子ね。そうね……、カイナには後でシラユキからご苦労様って笑顔で言ってあげて? それだけで充分よ」


「なにそれひどい」


 そんなので今までの苦労が報われちゃうのはシアさんだけだよ!! ……小さくて?


「姫様から笑顔で……? 頑張ります!!」


「カイナさん!? カイナさんはもっと色々と要求してもいいと思うな! 私!」


「要求……、求婚しても宜しいのですか?」


「何でそうなるの!? あ、冗談だ! カイナさんにからかわれるなんて珍しい……」


「あら? 元気なツッコミね。今日は町に行かせて正解だったみたいね……、ふふふ」




 母様の膝の上のまま、手を持ち上げて振ってみたり、抱きついたり、胸を軽く揉んでみたり頬擦りしてみたり。全力で甘えながら今日町で何を見たのか、誰と会ったか、様変わりした町並みを見てどう思ったかなどと、あとはシアさんから聞いた昔話を簡単に話していく。

 母様はそんな私の話を笑顔で嬉しそうに聞きながら、相槌を打ち、その時の事について質問をしてきたりする。


 途中何度か感極まってしまったのか、不意にぎゅっと抱き締められたり顔中にキスされたりしながらも、マリーさんと別れるところまでは何とか話し終える事ができた。

 カイナさんもお仕事をしながらだけど、そんな私たちを見て終始にこにことした笑顔だった。



「カルディナが森に来たのは私が産まれるよりも前の事なの。当時はフェアフィールド家のエルフだからって厳しい目で見られちゃったらしいわね。でも、カルディナはフェアフィールド家では変わり者だったみたいでね? すぐに皆に溶け込んだって私は聞いてるわ」


 変わり者……。ハイエルフ至上主義とか時代遅れよー、とか言っちゃうような人だったりしたんだろうか? って、母様が産まれる前!? カルディナさん結構なお年なんだね……、コーラスさんくらい? い、意外すぎる。

 そうなるとドミニクさんも母様より年上なのか……。まあ、エルフは百歳以上になると本当に年齢とかどうでもよくなっちゃうんだけどね。


「ルー兄様はドミニクさんが攫って来ちゃって大騒ぎだったって言ってたよ? それはまた違う意味でなの?」


 また私を撫でる手がピタリと止まる。聞いてはいけない事だったのかもしれない。


「簡単に言えば駆け落ちかしらね……。私も聞いた話だからこれ以上は何ともね。まったくルーったら、ウルに似て口が軽いんだから……」


 駆け落ち!? く、詳しく聞きたい!

 詳しい経緯は分からないけど、何かの用事でフェアフィールドの町に行ったドミニクさんと、当時はお嬢様? だったカルディナさんが出会って恋に落ちた、っていう事かな? なにそれすっごく気になるんですけど……。


「興味津々っていうお顔ですね、可愛らしいです」


「ふふ、ホントにね。でも詳しく聞こうとしちゃ駄目よ? もう少し大人になってから、ね?」


 私の頬を両手で挟み、軽くこね回しながら言う母様。


「にゅにゅにゅ……、ふぁーい」


「可愛いわ、可愛すぎるわシラユキ! ほーら、キスしちゃうんだから! んー、んっんっんっ」


 母様のキス乱れ撃ち。こうかはばつぐんだ!


「くすぐったいよ母様ー。でももっとして!!」


「いいわよー。ふふふ、ずっと甘えん坊の子供のままでいてね、シラユキ」


「子供のうちはね! ふふ、あはは、母様大好きー!!」



「ああ、姫様もエネフェア様もお幸せそう……。でも私は書類仕事……、ううう……」







ついに200話に到達してしまいました。今回も特に特別編などは考えてないですけど……

代わりという訳ではないですが、教シアのその11を近い内に投稿予定です。

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