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その198

 シアさんは二つ簡単な質問をすると言った、それでマリーさんの人柄を確かめでもするんだろうか? 結構前にカイナさんに出題してた心理テストを思い出すね。

 でも、たった二つの質問で一体何が、どこまで分かると言うんだろう? まあ、シアさんの事だから私には全く思いつかない事を平然とやってのけてしまうと思う。そこに痺れはしないが、憧れはする。


「こ、拘束もあり得るのですか? もしかして、私たちが何か粗相を……?」


 粗相ときた、随分と仰々しい物言いだね。母様じゃないけど、できたら変に畏まらず、マリーさん自信の言葉で話してもらいたいよ。


「いえ……、まあ、お気になさらずどうか肩の力を抜いてください。脅しすぎましたか、すみません。ふむ……、まだ成人されたばかり、今のところ五分と言ったところでしょうか。できましたらそうであって欲しくはありませんね……」


「あの、それはどういう……」


 分からないのも当然だよね。でも大丈夫、私にもさっぱり分からないから!


 今からどんな質問をされるのか、さらにその答え方によっては拘束されてしまうかもしれない。とても不安そうな表情をしているマリーさん。声にも全く元気が感じられない。

 ちょっと可哀相に思えてしまってどうにかフォローを入れてあげたいんだけど、この質問はマリーさんが私とお話をする前提条件らしいからそれもできそうにない。


 何か大きな問題があるのならまずそれを片付けてしまって、すっきりとした気持ちでお友達になろう。

 シアさん宜しく! マリーさん頑張って! ……ミランさん完全に空気だけどごめんね……。居心地悪そうだ。




 シアさんの表情は真剣そのもの、当事者の二人以外は口を全く挟めない状況だ。私も当事者の一人に含まれる筈なんだけどね……。


「質問の前に一つ、誓いを立てて頂きましょうか。マリーベルさん、決して嘘は吐かぬとお三方に」


 そう言うとシアさんは一歩横にずれ軽く頭を下げ、私たちの方へ手を向けて、どうぞ、と示す。


「は、はい! 勿論です! 当然の事ですわ!! ……誓います。もし、少しでも私の言葉に怪しさを感じましたら……、どうかこの首、お刎ねくださいませ!」


 多分空元気だろう。不安な心を打ち消すかのように、誤魔化すかのように、胸に手を当て大きな声で誓いを立てるマリーさん。


「……ありがとうございます。これはもう即拘束でも構わないのでは?」


「ええ!?」


 折角の命を懸けてまでの誓いをあっさり台無しにしてしまうシアさん、と驚くマリーさん。


 このままではシアさんのペースのまま、言葉巧みに拘束しようそうしよう、という流れになりかねない。姉様の腕を軽く引き、フォロー、と言うか、ツッコミを入れてもらえるようにお願いをしてみる。

 私が直接言ってもいいとは思うのだけれど、多分私は当事者の一人だからこそ口出しをしてはいけないんだと思う。そんな空気を感じ取ってみました。


「何? シラユキ」


 にっこり笑顔で嬉しそうに私の顔を覗き込む姉様。本当にやけに嬉しそうだ。そういえば私に腕を引っ張られてみたいとか言っていた気がする。

 この様子ならお願いしても大丈夫そうだ、と、姉様の顔とマリーさんを交互に見る。姉様ならきっと察してくれるだろう。


「あ、トイレ?」


「違うよ!!?」


 全然駄目だった! 掠りもしない!! 姉様もっと空気読んで空気!!


「わ、ちょ、冗談よ冗談。ごめんねシラユキ、怒らないで落ち着いて? ちょっとからかい過ぎちゃったかしら? ごめんねー?」


 怒りが有頂天になりかけた私を、頬をグニグニとしながら宥める姉様。うにうに……、まったくこの姉様は……、許すます!


「シア、何となくだけどその子、大丈夫だと思うわ。貴女も本当はそう思ってるんでしょ? 何を聞こうとしたのか知らないけど、あんまりからかってないでさっと終わらせてあげて」


 頬グニを続けながらのフォロー、姉様は完全に自然体だね。兄様はちょっとだけ機嫌が悪くなっちゃってるけど、そこは何か、感じ方の違いがあるんだろう。……うん? シアさんもからかってただけなの? なんだ、安心して見ててよさそうだねこれは。


「はい、申し訳ありません。では早速本題に……」


「はあああぁぁぁ、シラユキ様可愛らしい……。ユーフェネリア様もお綺麗、お優しい、素敵な姉妹愛ですわー……」


「やはりこのまま拘束してしまいましょう」


「お嬢様!? 正気に戻ってくださいお嬢様!! す、すみません!! いつもはこんな頭の悪そうな行動を取られるなんてないんですが!! 本当です!! 嘘じゃないんです!!!」


「アンタは私のフォローがしたいのか貶したいのかどっちなのよ!!?」


「おお? 面白おもしれえな、もっとやれ」


「ルー兄様も実は楽しんでるでしょ……」


「あはは。フェアフィールド家の方みたいですし警戒するのも仕方のない事ですよ。でも、私が聞いていたよりはずっと……、何て言いますか、人間味のある方だと思います」


 フェアフィールド家の方? ミランさんも何か知ってる……?




「例えばの話ですよ? ここにおられるお三方のどなたかに、今すぐこの場で命を絶て、と命じられた場合、貴女はどうされますか? どうお思いになられますか? まず一つ目の質問です……、? 二つかもしれませんね。まあ、どうでもいいでしょう」


 やっと出された質問の内容はこうだった。何やら物騒な質問だけど、どんな意図が隠されているんだろう。


「考えるまでもありません。即座に、喜んでこの命、差し出させて頂きますわ。……ですけど、その……、本音を言えば、やっぱり納得できる理由ならば、と思いますわ……。申し訳ありません」


 どうしてそこで謝罪が出てしまうのかは分からないけど、シュンとして謝ってしまうマリーさん。

 シアさんはそんなマリーさんの答え、前半部分を聞いて一瞬だけ眉をひそめ、本音を聞くと満足げな表情で先を続ける。


「では二つ目、もう必要ないとは思いますが一応、念の為質問させて頂きますね。内容はほぼ同じです。その対象がそちらの……、キャンディスさんの命を差し出せ、となったならば」


「私ですか!!? ややややっぱり私が何かしちゃってたんですね!?」


「ひゃぁう!! お、驚かせるんじゃないわよ!! 例えばの話って言ってたじゃないの! アンタはまったくもう……!!」


「え? あ、例え話でしたね、あはは……、し、失礼しました……」


 乾いた笑いで誤魔化しながら、すすすっと後ろに下がっていくキャンキャンさん。


 私もビックリしました。……ん? あ、シアさんも驚いてたっぽいね、珍しい事もあるもんだ。ふふふ、キャンキャンさんもさすがメイドさんなだけはあるね! 意味不明だけど。


「むう、幾分か気が抜けたところを狙ってなのか素での行動なのか……、そちらのメイドの方も中々やるようですね。……まったく、お恥ずかしい」


「ご、ごめんなさい……、あ! も、申し訳ありません!」


 おや? マリーさんのお嬢様モードが崩れかけた? ふふ、本当にメイドさんっていうのは凄い人たちばかりなんだね! 凄いなー、憧れちゃうなー。

 兄様と姉様もニヤニヤにこにこいい笑顔。シアさんをからかえそうないい話題ができたぞー、と大喜びしてる顔だねあれは……。


「ふう……。答えは変わりません、この子が何を言おうと喜んで差し出させて頂きますわ! と、申し上げたいところなのですけど、できるのならば……、従者の罪は私の罪、私の命を持って償わせて頂きたいと願い出ると思います。……なんて格好を付けて申してみたのですが本音はただ……、キャンキャンは大切な家族なんです、この子が死んでしまうなんて私には耐えられませんわ……」


「おじょっ、お嬢様!!」


 少し顔を赤くして答え切るマリーさん。キャンキャンさんはその答えに感動したのか、マリーさんに飛び付く様にして強く抱き締める。


「ちょっ、苦しっ! やめ、やめなさいったらこの!!」


「お嬢様立派ですお嬢様嬉しいですお嬢様可愛いです!!」


「はーなーれーなーさーいー!!!」


 無理矢理、力尽くで押し剥がそうとするマリーさん。放してなるものかとさらに力を強めるキャンキャンさん。


 なにこれ超楽しそう。……なんかシアさんに似てるねキャンキャンさん……。



「合格です」


「え?」「は?」


 まだほんの少し不安は残りますが、ね。と優しい笑顔で言うシアさん。

 マリーさんとキャンキャンさんは急な合格発言に、傍から見たら抱き合った体勢のまま固まってしまった。




「取り越し苦労か。悪かったな、マリーベル、キャンディス。許してくれるか?」


「ははははははい! とんでもありませ、あ! その! え?」


「今ひとつ理解が追いつかないんですけど、お嬢様は許されたんですよね? ありがとうございます!!」


「確かに少しだけ不安は残るわね……。ふふ、キャンキャンはまた別の意味で不安と言うか……、面白いわ」


「ひどい事言っちゃ駄目だよユー姉様……。あ、二人とも座って座って、ミランさんもね。いいんだよね? シアさん」


「ええ、今日のところはこれでよしと致しましょう。今日のところは……ね」


「は、はい!! やっぱりこのメイドさん怖……、ってこら! 先に座るな!! 私の椅子を引い……、メイドが座ってるんじゃないわよ!!!」


「すみませんすみません!! クッキーの美味しそうな匂いに誘われてつい……。あ、これは貴女が?」


「ええ。どうぞご遠慮なく。マリーベルさんも如何ですか?」


「あ、ホントに美味しそう。頂きますわ、ありがとうございます。……じゃなくて!! ごめんなさい! 家のメイドが図々しくて……!! キャンキャン……、自重してよ……、さっきの例え話が本当になっちゃうううぅぅ」


「ふふふ。す、少し前の自分を思い出しちゃいますね……」



 さーて、気を取り直してお茶会の再会だ! いや、新たな仲間を加えての始まりだ!!




 同席を許されたマリーさんだが、やはりどうしても緊張してしまうみたいでシアさんの顔色を窺いながらビクビクしてしまっている。緊張と言うよりは訳の分からない恐怖心に囚われてしまった感じか。シアさんに害ありと判断されて睨まれた経験のある人はみんなこうなってしまうらしい。お友達になってもらいたいし、どうにか緊張を解いてもらいたいのだけれど……。ちなみにキャンキャンさんからはあまり、と言うか全く緊張を感じられない。椅子から立たされてしまったけれど、何も気にした風もなくシアさん特製クッキーに何度も手を伸ばし、幸せそうな笑顔でオレンジジュースを飲んでいる。



 ふむふむふむむ……、キャンキャンさんはもう大丈夫。……最初からかもしれない。でもマリーさんはまだまだ時間が必要な感じかな?

 敬語抜きでお話したり、私と二人で仲良くシアさんにツッコミを入れられるくらいのお友達になりたい。どのくらい町に滞在するのかは分からないけど難しそうだね……。


 それもこれも兄様とシアさんのせいだよ! 銀色の髪と赤い瞳っていうだけで変に警戒して脅したりして!! 帰ったらちょっとお話しないといけないね。



 そんな私の思いを感じ取ったのか、シアさんは苦笑気味に話し出す。


「少しやりすぎてしまいましたね……。姫様、どうしてルーディン様と私があそこまで過剰に警戒していたのか、お知りになりたいですか?」


「う? うん。私が聞いてもいいお話だったらだけど……。ミランさんも知ってるんだよね?」


「はい、結構有名な話なので……。でもこの町では、その……、ええと、どうしましょうバレンシアさん」


 何やら説明しかけたミランさんだが、やっぱり私には話し難い内容なのか、シアさんに助けを求めてしまった。


「ルーディン様」


 ミランさんには答えず、兄様の名前を呼ぶだけで何かの質問をするシアさん。


「ん……。まあ、いいか。バレンシア、頼んだ」


「はい、畏まりました」


 シアさんは何やら嬉しそうに、ちょっとウキウキとした空気を纏いながらお辞儀をする。


 む、久しぶりに長い説明ができるぞって顔だねあれは。シアさんは本当に説明大好きなんだから……。


「今からお話ししますのは、よくある昔話の様な物です。主にエルフの間で語られている、と頭に付きますが、ね。地域によっての解釈の違いからか、色々と内容が付け加えられたり改変されていたりもしますが……、ここは極一般的な物にしておきましょう。皆様仰りたい事は多々あると思いますが、とりあえずは聞きに徹して頂けると大変助かります」


「はは」


「ふふふ」


 何故か軽く笑ってしまった兄様と姉様。

 え? 今のどこに笑う要素が……? と、みんなの顔を見回してみると、マリーさんもやや苦笑い、早速シアさんのお話効果が出てきたのか!? と驚いてしまった。




 シアさんのお話はかなり長かったので、私なりにできるだけ分かり易く纏めてみようと思う。多分三十分は語り続けていたよ……。



 『昔々ある所に、住んでいる人種がほぼエルフ、という特殊な国があった。その国の名前は、フェアフィールド』



 実際エルフばかりだったのは王都だけで、他の町は人間種族が多かったみたいですよ、とシアさんの注釈があったけど、リーフエンドの他にもそんな国があったんだね……。過去形なのがちょっと怖い。今はもう国じゃなくて、一つの大きな町だけがフェアフィールドって呼ばれているだけだからね、そういう事なんだろうと思う。


 フェアフィールドの王家は、エルフこそがこの世界で一番優れた種、その中で我が王家こそが最も優れた一族なのだ、と声を大にして演説しちゃう様な人たちだったらしい。

 まあ、実際にエルフが大勢集まったら敵無しだろうとは思う。でも、強いからと言って全てが他種族より優れてるっていう訳じゃないからね。自信過剰と言うか、変な話だよ。



 『ある日、フェアフィールド王家にとある旅人二人の噂が舞い込んでくる。二人は容姿こそエルフのそれだが、内面は全く違う。自分達エルフより明らかに、しかも全ての面でおいて勝っているという。

 それを聞いた王家の反応は、そんな馬鹿な事があるかと大激怒だった。すぐに自分達の下へ連行して来るようにと指示を飛ばす。後日連れられて来た二人は、自分達はハイエルフだと名乗った。


 ハイエルフの二人を目の前で見た王家の人々は、たった一目見ただけで悟る。

 何という素晴らしい方々だ、この方々こそ我々エルフを統べるのに相応しい。……いや、世界を、全ての存在を統べるのに相応しい。そうだ、世界はこの方々のために在ったのだ』



 なにそれこわい。

 それって確定的明らかにお爺様とお婆様だよね!? と突っ込んではみたけどシアさんにはニコニコ笑顔でスルーされてしまった。兄様姉様の笑いも、マリーさんの苦笑いも加速する。この辺りで何となくだけど話の筋は読めてきちゃったね。



 『王家の人々は自分達の愚かさ傲慢さを悔い、恥じ、座っていた王座を二人に明け渡し絶対の服従を誓う。

 ハイエルフの二人は急すぎる展開に驚きながらも、エルフは皆友人であり兄弟家族、それもまたいいかと受け入れる。


 だがその直後、さらに驚くべき展開が二人を待っていた。元王家の人々が、すぐに世界を献上致します、と全世界に対し宣戦布告をしようとしたのだ。軍の編成も着々と進んでいるらしい』



 わーい世界征服だー、とこの辺りからやや現実逃避をしながら聞いていたので、後はもう端折っていこう。



 『そんな馬鹿な行動に二人は待ったをかける。

 馬鹿な事は考えるな、世界なんて要らない。そんな事より祭りをしよう、宴会を開こう。ただ毎日皆で、面白おかしく過ごせればそれでいいじゃないか。


 絶対服従を誓った元王家の人たちは即座に取りやめるが、諦めはしなかった。二人の説得に入る。

 世界は元々貴方方の物なのです、取り戻しましょう。これは聖戦です。それを成さずして楽しむなど我らには到底無理な話。宴は勝利の暁に。


 エルフ全てを友人家族と思っている二人も、これにはさすがについていけない。回を重ねるごとに過激になっていく願いを却下し続けるのに疲れ、つい……、本心からの言葉ではないが、こう呟いてしまった。


 うぜえ、お前らみんな死ねよ。と』



 それ多分本心からの言葉だよ!! と言うかシアさんが改変してない!? 一般的なお話だって自分で言ってたよね!? 優しいお爺様お婆様がそんな事言う訳無いじゃない!! 会った事無いけど!!


 マリーさんが見ている事も忘れてガンガン突っ込んでしまった……、恥ずかしい。


 シアさんは満面の笑顔で、大満足です、といった表情。最近シアさんへのツッコミは放棄してスルーしちゃってたからね、ここぞとばかりに回収しようとしたんだろう……。



 『そのついの一言に元王家の人々もやっと諦める、なんていう事はなかった、事態は思わぬ方へと転ぶ。なんと、何を思ったのか編成した軍隊を自国領土へ向けて動かしたのだ。

 二人に絶対の服従を誓った身、死ねと命ぜられれば喜んで従いましょう。という考えだったんだろう。お前らみんなの言葉の範囲を国民全てと解釈しての行動だった。


 全てが終わり、残されたのは荒れ果てた大地と、積み重なる死体の山。それを見て二人はこう呟いたそうだ。


 どうしてこうなった……。


 めでたしめでたし』



 なにそれ超こわい。……シアさんいい加減にしようね!? めでたくないよ!! 最後のセリフは私がよく言ってたのだよね!?







ここで一旦区切ります。中途半端な所ですが……

続きはまた数日以内に。

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