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その197

 さあ、楽しいシアさんの尋問タイムの始まりだ。楽しいのはシアさんだけなんだけど……。

 兄様とシアさんが例の二人を正座させて前に立ち、私と姉様は椅子に座ったまま。ミランさんには念のため? 私の右隣で待機してもらっている。


「まずは貴方方の素性をはっきりとさせましょう。名前、所属、目的、と、こんなところでしょうか。大体の見当はついているのですが、ね。ああ、余計な事は口に出さないよう先にお願いをしておきます。私としましても姫さ……、こほん、こんな大勢の前で事を荒立てたくはありませんからね」


 これ見よがしにナイフを弄りながら、感情を感じさせない冷たい声色で話すシアさん。しかし目線はナイフに向け、相手の方には一瞥もくれない。


 一瞬姫様って言いそうになったところを見ると、私の前じゃなかったら誰が見ていても平気で血祭りに? マジ震えてきやがった……、怖いです。でもこのお嬢様とメイドさん、どこからどう見ても悪い人には見えないし、怖いと思う以上にどんな人たちなのか楽しみなんだけどね。さてさて? 二人は一体何者なのかな? 何の目的があって私たちに会いに来たのかな?


「あ、あのー……、その前に一つだけ、いいでしょうか?」


 お嬢様が控えめに、恐る恐る手を上げて質問、のお願いをする。メイドさんはそんなお嬢様の行動に目を見開いて驚いてはいるが、シアさんが怖いのかワタワタと慌てるだけで咎める事はできないみたいだ。


 なんという命知らずな事を……。大丈夫かな、いきなり50点取ったりしないかなシアさん。目の前でスプラッタな殺人事件は正直勘弁してもらいたいんだけど……。


「ふむ……、まあ、いいでしょう、どうぞ」


 ふう、よかった……。さすがのシアさんも私の前で行動を起こす事はないみたいだね。私がいてよかったな、今私がいなかったらお前はもう死んでるぞ。と、ほっとして胸を撫で下ろす。


「ど、どうして私たちは正座させられているんでしょうか? 正座とか本当に久しぶりなんですけど……」


 今更だけど、言われてみればそうだよね。二人ともシアさんの、正座! の一喝に反論する余裕もなく座っちゃってたからね。キャロルさんが今でもたまに正座させられているのを見るけど、あの一喝には反抗する気さえ起こせない程の強制力があるんだろう、うんうん。

 別に悪い事した訳じゃないのにねー、と思ってても口には出さない。今のシアさん怖いもん。


「特に理由はありません。強いて言うなれば……、気分、でしょうか? 何となくそれらしく見えませんか?」


 気分!?


「気分で!? 何となく!? ……くぅ、色々とツッコミたいけどこのメイドさん怖い……」


 む……? むむむ? え? まさか……。


「はあ、そんな事どうでもいいではありませんか、細かい事です。さあさあ、時間も押して、いる訳ではありませんが、さくさくと話してください」


「細かい事だけどどうでもよくはないです! あー、足痛い、なんで大人しく言う事聞いてるんだろ私。でもハイエルフの方々のメイドさんだし……、ううう」


 お、おお……、間違い無さそうだ。


「大丈夫ですかお嬢様? 私はこれくらいでしたらなんとも……。正座はし慣れていますから!!」


「胸を張って言う事!? アンタはただ単に失敗が多いだけでしょ!!」


 このお嬢様……、ツッコミだ!!






 お嬢様の元気のいいツッコミが功を奏したのかは分からないが、シアさんから立ってもいいですよ、と許可が出た。気持ち柔らかい対応に変わったように感じる。

 そんなシアさんの横暴さ、理不尽さに納得いかない面持ちで、でも怖さは完全に拭い去れていないのか特に何も文句も言わず立ち上がるお嬢様。すぐにメイドさんがスカートに付いた汚れをササッと払い、身なりを整える。



 ふむ、お嬢様の身長は150ちょっとかな? メアさんくらいだね、成人はしていると思う。腰の辺りまで伸びた銀色の綺麗な髪。あの前髪パッツン、何て言うんだったかな……、ああ、姫カットだ。ツッコミを入れてたりするところを見るに、結構勝気な性格なのかもしれない。真っ赤な瞳がそれをさらに感じさせるね。今はまだ可愛いっていう見た目だけど、将来はきっとクレアさんくらいの美人になるだろうと思う。言い過ぎかな?


 それに対してメイドさんは反面、背が高めだね、完全に大人に見える。160以上はあるんじゃないかな。カイナさんと同じで、後頭部で軽く縛って纏めている髪、瞳の色、どちらも茶色。ちょっと失礼かもしれないけれど、平々凡々な一般大人エルフにしか見えない。特徴的なのは大きめの丸い眼鏡くらい……、メイドさんっていうのが最大の特徴だった。メイドさんが身近な存在の私にはそこまで特別には見えないからしょうがないね。


 何が、とはあえて言わないが……、お嬢様は小さめ、メイドさんは普通サイズだ。



 お嬢様は自分の服を軽く見下ろして確認し、こほんと一つ、やや緊張気味に咳払い。気を取り直してシアさんに、ではなく、椅子に座り直した兄様を含む私たち三人に向かって話し出した。


「お騒がせして申し訳ありませんわ。ええと、お初にお目にかかります、わたくし、マリーベル・フェアフィールドと申します。どうか気安くマリーとお呼び捨てくださいませ」


 スカートを軽く持ち上げてぺこり。ツッコミを入れていた勢いはどこへやら、しずしずと名乗るお嬢様、改めマリーさん。


 わ、わたくし? おお、お嬢様っぽい! でも私としてはさっきみたいに元気に、と言うか、ツッコミを入れるくらい気を抜いてもらいたいね。……って、フェアフィールド? クレアさんと同じ苗字だね……。髪の色と瞳の色も同じだし、まさか、親戚の人なのかな? でもそうなると警戒する理由はなくなるよね……。うーむ、兄様の反応が謎だ。


「やっぱりか……。あー、うん、まあ、それはまだいいか。俺たちの紹介は別にいらないよな?」


「は、はい。ルーディン様、ユーフェネリア様……、世界一愛らしいシラユキ様!」


 と、何故かとても嬉しそうな笑顔で私たちの名前を呼ぶマリーさん。……って!


「またそれ!? あ、ごめんなさい……」


 つい突っ込んじゃった! もういい加減やめてほしいよそれ。言われる私は恥ずかしいどころじゃないんだよ? まったくー。


「い、いいえそんな! ですが、その、シラユキ様の愛らしさは実際のところ、比喩ではなく世界一、なのだと思いますわ!」


「ええ、今や世界における共通認識となっております」


「だよな? だから何も問題はないぞー、シラユキー」


「なかなか分かってるじゃない。可愛いでしょ? この子。ふふふ」


 私が褒められた事が嬉しいのか、さっきまでとは打って変わって上機嫌になる三人。ミランさんとメイドさんは空気を読んで黙っている……が、にこにこ笑顔なので同意見なのかもしれない。


 ぐぬぬ……。褒められてるっていうのは分かるし、嬉しいんだけど、言い方が大袈裟すぎるよ! もっと、こう、なんだ……、そう! 控えめに! 控えめに褒めて!

 しかし、このままでは兄様姉様シアさんの妹自慢、姫様自慢が始まってしまいそうだ……、変な事を考えていないで、ここは私が軌道の修正をしなければいけないね。


「えっと、マリーさん? そっちのメイドさんは……」


 誰? とか名前は? とまで聞けなかった。初めて話す人だからちょっと緊張してしまう。早く自己紹介を終えて、素性をはっきりとさせてもらおう。


「し、シラユキ様が私の名前をお呼びくださるなんて……!! は、はい! ほら、キャンキャン、あなたも自己紹介させてもらいなさいな」


「キャンキャン?」「キャンキャン?」「キャンキャンさん?」


 盛大にハモってしまった! 仲良し兄妹だよね私たち。あはは……。

 ハモってしまったのは私たち三人以外にも、ミランさんと周りの冒険者さんたちの何人かも。今のはつい聞き返してしまっても無理はないと思う。


 しかし、キャンキャンさんか……。まさか、キャンキャン騒ぐから? いやいやそんなまさか……。


 キャンキャンさんは勢いよく頭を下げ、戻し、にっこり笑顔で自己紹介を始める。


「キャンキャンです! よろしくお願いします!! あ、本名じゃありませんよ? あだ名です、愛称です。皆様もお気軽にキャンキャンと呼んでくださいね! ……ひゃっ!? お、お嬢様、突っつかないでください、くすぐったいですよ」


「あだ名だけで済まそうとするんじゃないわよ! 私に恥をかかせる気!? ……ううん、違うわ。ねえ、キャンキャン? 私、ハイエルフの方々に失礼の無いようにってここに来るまで毎日何回も言ってたわよね? 私が恥をかく分なら何も問題は無いわ、……あるけど、この方々に対する失礼だけは絶対に許さないから!!」


「ええ!? 今何か失礼を!? すすすすみません!! 申し訳ありません!!」


 お、おおう、お怒りだ……。これくらい失礼でもなんでもないのにね。キャンキャンさんもビックリしてまたペコペコしだしちゃったよ……。まあ、確かに名前はちゃんと知りたいけど、それはゆっくり話していけばいい事なんじゃないのかな。


(マリーさんは、ええと、厳しく躾けられて育ってきたのかな? お嬢様みたいだし。王族に対する礼儀? っていう感じ)


 まだまだ怒り冷めやらぬマリーさんが落ち着くまで、とりあえず一番近くに座っている姉様に小声で聞いてみた。


「うん? どうしたのシラユキ? そんなに小さな声で。ふふふ、可愛いわね、もう。ほーら、こっち来なさい」


 空気を全く読もうとしてくれない姉様にひょいと抱え上げられ、膝の上に乗せられてしまった。


 姉様はもうちょっと空気を読んでください……。初対面の人の前でこの体勢は恥ずかしいよう……。


「うーん、まあ、気にすんな。おい、マリーベル、だったか? もうお前が纏めてくれ、簡単にな」


「はい! 承りましたわ!! キャンキャン、あなたはもう黙って下がってなさい」


 またも嬉しそうに、大喜びで返事をするマリーさん。でもキャンキャンさんに対しては、しっしっと邪魔者を追い払うかのような扱いだ。

 キャンキャンさんは全く気にした風もなくぺこりと頭を下げて、数歩後ろに下がって行ってしまった。


「チッ、爺さんの言ってた通りの奴だな……」


 舌打ち!? 兄様が何故か一気に不機嫌に! お爺様から一体何を聞いてるんだろう……。



「まずはメイドが失礼を致しました、後できつく叱っておきますのでどうかお許しください。ええと、この子、キャンキャンは、キャンディス・キャンベルといいます。ただのメイドですのでいないものとして扱ってくださって構いませんわ」


 キャンディス・キャンベルさんね、なるほど納得キャンキャンさん。しかし、メイドさんをいないものとして? ただのメイド、ですって……? こんなに私とマリーさんで意識の差があるとは思わなかった……! これじゃ、私……、マリーさんをフォローしたくなくなっちゃうよ……。


「分かった。所属、っつーか出身はフェアフィールドで間違いないな? 俺たちを探してたみたいだが……、目的は何だ」


 フェアフィールドは、リーフエンドの管理圏内にある最大の町の名前。クレアさんのお母さんがその町出身の筈だから、もしかしたらそこではよくある苗字なのかもしれないね。


「勿論シラユキ様にお会いするためですわ! 一目拝見させて頂ければ充分に満足でしたのに、こうしてお話までさせて頂けるなんて……、感激です、感動ですわ!!」


 顔を少し上に向け目を瞑り、祈る様に指を組んで、まさに感動に打ち震えるかの様に話すマリーさん。


 お、大袈裟! 大袈裟すぎるよ!! マリーさんテンション高いわー。


「私に会うためだけにフェアフィールドからここまで?」


「はい! 本日シラユキ様がリーフサイドにご訪問されるという噂を聞きまして……、もう矢も盾もたまらずこうして、あ! 私、つい先日成人したばかりなんですの! 遠出を許される年齢になってすぐの事でしたから、もうこれは運命としか感じ様がなく……。はあ……、すみません、本当に感激してしまって言葉が出て来ませんわ……」


 う、うーん……、なんだろう。私なんかと会うくらいで感激してくれるのは嬉しいけど……、凄い違和感を感じるねマリーさん。

 今までも王族だっていう事でもの凄く畏まられちゃったりした事もあるにはあるんだけどね。うーん……? この感覚にしっくりくる言葉が出てこない。違和感、としか言い様がないねこれは。



「ルーディン様、一つ確認を取りたいのですが、少しお時間を頂いても宜しいでしょうか。姫様がこの方とこれ以上お話になられるには必要な事かと存じます」


「ん? あ、ああ、任せた。俺が対応するとイラつきそうだし、ユーネにはちょっと難しいか」


「お兄様ったら……。でも私はシラユキを可愛がる事に忙しいからお願いね、シア」


「はい、ありがとうございます。お任せください」


 うぬぬ、と考え込む私を見ての行動なのか、シアさんが兄様に提案を持ちかける。


 私がマリーさんとこれ以上話すのに必要な事? シアさんは何の確認を取るつもりなんだろう……。


「マリーベルさん、これから二つ簡単な質問をします。王族の方の手前だからと建前を並べる必要はありませんよ、貴女の本心そのまま、素直にお答えください。ですが、返答によってはこの場で拘束もあり得ますので、それだけは一応気に留めておいてくださいね」


「拘束!?」「拘束!?」


 マリーさんとハモッちゃった!!

 私と気が合いそうな人なんだけどなー。でもこの胸に感じるちょっとした違和感、これを解消してからお友達になりたいね。ここは黙ってシアさんにお任せしちゃおう。







話が全く進んでいない……。続きます。


その198が書き上がったら同時に投稿しようと思っていたのですが、まだまだ時間が掛かりそうなので、一先ずこちらだけ投稿する事にしました。

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